1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:26:46.64 ID:wqLiQeGn0
「待ち人来たらず、と言った所かな」
彼女は笑った。
それはある梅雨の一幕。雨音のワルツ、通り雨のダンス。
それから――
( ^ω^)ブーンが通り雨にやり込められたようです。 前編
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:29:03.27 ID:wqLiQeGn0
( ^ω^)「……傘持ってくんの忘れたお」
おおおぉお、口からか細く出るため息と落胆。
( ´ω`) 「そりゃねーお、お天気お姉さん……」
続けて小さく呪詛を吐く。
お天気お姉さんは「本日はさっぱりとした陽気になるでしょう」と
爽やかな笑顔と一緒に僕へ教えたのに、これは一体どう言う仕打ちなのだろう。
お姉さんの「さっぱり」とは「さっぱり〜ない」の略なのだろうか。
自然に寄っていた眉に水滴がぴちゃんとついた。制服の袖で乱暴に拭う。
この雨もそれで拭えれば越した事はないんだけど、なあ。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:30:44.25 ID:wqLiQeGn0
自分を横切る生徒の手には傘。自分の手には鞄が1つ。のみ。
放課後、帰宅生徒で賑わう中央玄関。立ち往生する僕一名。
濡れそぼった子犬ほどの覇気の無さと運の無さだ。
ただ違うのは、手を差し伸べてくれる親切な人が僕には一生現れないって事。
( ^ω^) 「しゃーねお、これはしゃーねお!」
頬を叩き気合を入れなおし、隣りにいた後輩の一年生に異質な目で見られ、
(*^ω^) 「むっほぉぉぉぉおおぉぉ!」
その視線に追い立てられるように雨の中へ飛び出していく。
水溜りを踏めば、ぱしゃんと僕のズボンへ報復が返る。
弱まることのない雨の中を、ただ突き進む。
/
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:33:03.22 ID:wqLiQeGn0
( ´ω`) 「しゃーねお、これはしゃーねお……」
ため息と僕自身への呪詛を吐く。
べったりと肌に張り付いて仕方がないカッターシャツを脱ぎ捨てる。
中に着込んだTシャツも脱ぎたい気分だけど最後の砦ばかりは陥落させる訳にもいかず、
( ´ω`) 「どーすんだお、コレ……」
出てくるのはため息と雨への呪詛。
不況の波に飲み込まれ先月閉店したベーカリーの軒先を借りながら眉間にシワを寄せ肩を寄せた。
所々ほつれ掛けた塩化ビニルの軒先を雨粒が打つ。
ボボボ、
それは軽快な雨音のワルツ。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:34:34.88 ID:wqLiQeGn0
( ´ω`) 「てーんき、よほうがあたらーないよー……」
爽快なメロディとは裏腹に沈んでいく自尊心。10分前の僕の馬鹿野郎。
ボボボボ、
それは通り雨のダンス。
「雨宿りか?」
隣りからの声。
ボボボボボ、
それはある梅雨の一幕。
洞洞とした雲を見上げていた僕にかけられた、楽しげな笑い。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:36:56.72 ID:wqLiQeGn0
(^ω^ )「お――?」
ボボボボボボ、
それから――――
首を傾け声のした方を見る。
( ^ω^)「お…………」
意図にそぐわず声が出た。
視線の先に居たのはセーラー服の女子。
印象的だったのは腰までの、しかし手入れが整った黒髪だった。
川 ゚ -゚) 「どうした?」
涼しげな雰囲気と、落ち着きを払った声。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:40:27.87 ID:wqLiQeGn0
簡潔に言うと綺麗な顔つきの女の人だった。
それが今僕の隣りにいて、しかも声まで掛けてきたと。
うわ、なにその絵空事。
( ^ω^)「まっ、まあそんな所ですお!」
だからこそドギマギした。まあまあいいから落ち着けよ心の臓。
キョドる僕のその様子を見ながら、彼女は口元に手をやって軽く笑った。
細められた両の目が僕を捕らえる。 首もとの襟章が見えた。
( ^ω^)「お……もしかして、ニュー速高校の方ですかお?」
彼女のそれから、近くの私立高校だと言う事が解った。
たしか女子高。んでもって県内屈指の進学校。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:43:39.77 ID:wqLiQeGn0
川 ゚ -゚) 「そうだが、どうかしたか?」
『一人っ子?』そう聞かれて応答するような自然さで彼女が小首をかしげる。
ここらの界隈では天然記念物扱いなんだけどなぁ、と無言で思ったりする僕。
( ^ω^)「いや、別になんでもないですお」
川 ゚ -゚) 「そうか」
( ^ω^)「はい」
そうして訪れる無言の間。
痛々しくは無いけど何処か気まずい空気が残る。
その間にも雨は強さを増してきていた。
1m先も捕らえられない、滝が目の前にある。
おぼろげな影法師たちは、皆傘のシルエットを持ち合わせていて、
もしかするとそれを持たないから、僕はここにいるのかも知れないお。
追い出された雨の蚊帳、僕はそんなことをぼんやりと思う。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:45:27.39 ID:wqLiQeGn0
『………………』
ボボボボボボボボ、
塩化ビニルの悲鳴。感じるのは無言の圧力。
( ^ω^)「雨宿り、ですかお?」
それに負けて僕は口を開いた。
川 ゚ -゚) 「いや――――」
被りを振る。その拍子に頬にかかる繊細な黒糸。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:47:19.48 ID:wqLiQeGn0
川 ゚ -゚) 「待ち人来たらず、と言った所かな」
彼女は笑った。足元にある、色気のない白のビニール傘。
じゃあブラ紐透けてドッキドキ! なんて展開はないな。
凄い俗物な考えが堂々と思考の真中を過ぎった。死ね。
それはある梅雨の一幕。雨音のワルツ、通り雨のダンス。
それから、雨にやり込められた僕らのハナシ。
/
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:48:37.09 ID:wqLiQeGn0
( ^ω^)「待ち人って、貴女みたいな人を待たすとはけしからん奴ですお!」
川 ゚ -゚) 「はは、仕方がないのかも知れないよ。最初に私のほうがすっぽかしたから」
( ^ω^)「僕なら約束の一週間前ぐらいから待ちますお!」
川 ゚ -゚) 「それは、君と約束した人は幸せ者だな――ええっと」
彼女が少し言い澱む。
ああ、行き着いた答えを論理する前に、僕は口を開いた。
( ^ω^)「内藤、内藤ホライゾン、皆はブーンって呼んでますお」
川 ゚ -゚) 「ブーンか……うん、自由な感じがする」
いい名前だ。と彼女。それから続けて言う
川 ゚ -゚) 「私の名前は――」
はじめまして、そう言いたげに差し出された手を僕は掴んだ。
笑い、目を細める彼女に見惚れ、また暴れだした心臓を左手で叩く。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:51:34.24 ID:wqLiQeGn0
川 ゚ -゚) 「砂緒 空。別に砂は食わないが、名前なんだから仕方がないよな。
どうせなら、空と呼ばずにクーと呼んでくれ。それにその方が」
川 ゚ -゚) 「「なんだかとっても素敵なんですもの」」(^ω^ )
ハミング。
少し驚いたように、え? と口を開く彼女、クーさん。
( ^ω^)「赤毛のアンですお?」
川 ;゚ -゚)「……驚いたな。そこまで知ってるなんて」
少しだけ居心地の悪そうにして、クーさんが言う。
ふふふ、と僕。うわきめぇ。
その間にも雨は強さを増し、白く世界を包み込む。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:52:53.47 ID:wqLiQeGn0
( ^ω^)「たまたまですお」
カラカラと笑い、僕は空を見上げる。
曇天が空に蓋をして、ニビ色な空気を充満させる。その空を見上げ、頭を掻く。
家に帰って色々としなくちゃいけないことがあったような気がするんだけどなぁ。
さて、何だっけ。僕があの雨の中を突き進んだ理由は――
(; ^ω^)「…………ぁぉぉああお!!」
拳と手の平をごっちんこ、それから頭を抱え込むようにして座り込んだ。
忘れてたとかそう言うレベルじゃない。ド忘れだ。痴呆だ。
……怨むべしお天気お姉さん。
川 ゚ -゚) 「どうかしたか?」
( ω )「布団……布団干しっ放しだったんですお」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:54:18.50 ID:wqLiQeGn0
クーさんが空と僕を交互にみて、それから小さくうなずいた。
川 ゚ -゚) 「今日は雑魚寝だな」
うわぁ、素敵に不敵に他人事だ。
(; ^ω^)「どうすりゃ……」
いいんだお、と後に続く言葉は途切れた。
視界に入ってきたのは、白いビニール傘だ。
( ^ω^)「へ?」
川 ゚ -゚) 「使え」
(; ^ω^)「でも……初対面の人に、そんな訳には」
川 ゚ ー゚) 「また返してくれれば良いだけのハナシだろう?」
さも簡単なそうな事を言うクーさん。そちらに手を伸ばしかける僕。
川 ゚ -゚) 「それに、雨の日には私はここにいるから」
小さな微笑を目をしばめさせながら見る僕。
クーさんはそう言って笑いを深める。手が、ビニール傘を掴んだ。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/09/23(日) 19:55:57.52 ID:wqLiQeGn0
/
結局。
家についてから空はカラリと晴れ、布団はびっちゃびちゃで、
お天気お姉さんの言った事は半分あってて、
それでも僕は怨まずにいられず、パート帰りのかーちゃんにしことま怒られた。
玄関の前にあるのは一本のビニール傘。
それはある梅雨の一幕。雨音のワルツ、通り雨のダンス。
それから――
後編
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