31 名前:ξ--)ξ白い部屋のようです 1/10:2008/01/31(木) 00:23:48.93 ID:Q7XQsinUO

金髪に巻き毛の少女が白い部屋の白いベッドに寝かされている。
彼女は安らかに、というよりは無表情に眠っている。

まるで呼吸すらしていないような静かさだ。

腕からは数本の管が伸びており、その内の何本かは傍らの機械に繋がっている。
窓の外では雨がしとしとと降っている。

ξ--)ξ

まるで少女は死んでいるようだった。



33 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 2/10:2008/01/31(木) 00:25:29.89 ID:Q7XQsinUO

――――――――――――――――――


爪'ー`)y‐「まだ目覚めねえのか」

フォックスはいい加減苛立っていた。
手術は完璧だった筈。
術後の経過も良好。

なのに何故ツンは目を覚まさないのだ。

( ´_ゝ`)「分からん原因は今のところ不明だ」

(´<_` )「目覚めてもいい筈なんだ。だが人の体は機械では無いからな」

爪'ー`)y‐「ほお。お前はアレを人だと言うのか」

フォックスが馬鹿にしたような笑みを浮かべて灰皿に煙草を押し付ける。
窓を叩く雨音が強くなってきた。

(´<_`♯)「人でなければなんだと言うんだ」

爪'ー`)y‐「アレは。ツンはもう人じゃないね」

険悪な空気が漂う。



37 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 3/10:2008/01/31(木) 00:27:01.00 ID:Q7XQsinUO

人か、人ではないか。
彼らが手にかけた、手術を施した少女はもう人ではないのか。

その答えはいまだに明確には出されていなかった。
その答えを出すことを皆が出来る限り避けていた。

爪'ー`)y‐「ツンはもう兵器だよ」

( ´_ゝ`)「フォックス、流石にそれを言ってはまずい。
       いくら俺らしかいないとはいえ――」

爪'ー`)y‐「兵器だろ。人工臓器に強化皮膚、
      ナノマシン内蔵で腕はマシンガンになり
      背中に内蔵されたブースターで空を舞う。
      兵器じゃねえか」

(´<_`♯)「黙れフォックス」



39 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 4/10:2008/01/31(木) 00:28:07.56 ID:Q7XQsinUO

怒気をはらんだ沈黙が辺りを支配する。

やり場の無い怒り。

自分たちのやったことに対するもの。
仕組んだ上の者達に対するもの。
――――ツンがなぜか目覚めないことに対するもの。

( ´_ゝ`)「俺らが言い合っても仕方ない。ツンを目覚めさせる方法を考えろ」

そうは言っても昏睡状態の人間を無理やり目覚めさせる方法などそうある筈も無く。
今度は無力感の漂う沈黙が辺りを支配した。

爪'ー`)y‐「恋人に呼びかけさせれば奇跡が起きて目覚めんじゃねえの」

(´<_` )「方法論としては刺激になるから有効だが部外者を呼ぶ訳には行かないだろう」

爪'ー`)y‐「声紋合成とかでなんとか似せろよ。記憶とか前頭葉いじってねえんだろ。聞こえんだろ」

( ´_ゝ`)「聞こえるさ。ツンは兵器じゃないからな」

結局精神論的な解決策しか出ないまま会議はお開きとなった。



41 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 5/10:2008/01/31(木) 00:29:25.85 ID:Q7XQsinUO

――――――――――――――――――


ξ--)ξ

相変わらずツンは目を覚まさない。
夜も更けたが雨は一向に止まない。

ツンに繋がれた機械から聞こえる微細な作動音だけが部屋の中の空気を震わせていた。


その白い部屋の中だけは時が止まったようだった。


――――――――――――――――――



43 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 6/10:2008/01/31(木) 00:30:19.66 ID:Q7XQsinUO

爪'ー`)y‐「出来たのか」

翌日になっても雨は降り続いていた。

フォックスの苛立ちを募らせるように。
兄者の憂鬱を募らせるように。
弟者の自責を募らせるように。

( ´_ゝ`)「ああ。一晩で綺麗に合成してくれるとは流石だな」

(´<_` )「軍の科学者どもなんだから当たり前だろう」

"ツンの恋人の声"が出来上がっていた。

効果があるのか無いのか分からない対策。

それでも軍の予算を大量につぎ込んで手術をしたツンを
一刻も早く目覚めさせるためになんでもしなければならなかった。

本来はもう既に目覚めている筈なのだから。
一刻も早く。

( ´_ゝ`)「一時間おきに流せ」



45 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 7/10:2008/01/31(木) 00:31:37.11 ID:Q7XQsinUO

――――――――――――――――――


白い部屋に1日24回だけ男の声が流れる。
晴れの日も、雨の日も。

「ツン、目を覚まして欲しいお。ツン、起きてくれお」

眠る少女の恋人の声。
少女の耳に届くことを願って流される声。

ξ--)ξ

だが少女は目を開けない。
晴れの日は静かな部屋。
雨の日は雨音だけが響く部屋。

白い部屋は静かなままだった。



46 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 8/10:2008/01/31(木) 00:32:35.71 ID:Q7XQsinUO

――――――――――――――――――


爪'ー`)y‐「……で、ツンは失敗に分類された訳だ」

白い部屋の中にフォックスと弟者がいた。
今日は雨。窓の外は雨。

(´<_` )「ああ。そうだな。それで俺達が殺すんだ」

交通事故で重傷を負った人間に強化戦闘用の改造を施す。
軍の実験だった。人間を、兵士をいかに強くするかという名目の。

ツンはその第一号被験者だった。



48 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 9/10:2008/01/31(木) 00:34:11.09 ID:Q7XQsinUO

実験結果;
被験者が昏睡状態から覚醒せず
失敗に終わる
早急に解剖に回して原因の究明を―――

爪'ー`)y‐「殺すんじゃねえ。この子はとうに死んでた」

(´<_` )「しかし……」

爪'ー`)y‐「死んでたんだよ。理論的に生きてようとなんだろうと死んでた」

フォックスも弟者も疲れたような無表情でツンを見つめている。
兄者は今査問委員会に吊し上げられている最中だった。

爪'ー`)y‐「この子は事故の時に死んでたんだ。その証拠に事故の時はたくさんの人が泣いた。悲しんだ。恋人は棺にすがった」

実は空だったんだがな、と言いながら注射器を出す。
雨の音が強くなった。



50 名前:
ξ--)ξ白い部屋のようです 10/10:2008/01/31(木) 00:35:16.54 ID:Q7XQsinUO

爪'ー`)y‐「この部屋ではこの子は死んでた。目は覚まさない。
      恋人の声も聞こえない。厳密には恋人の声じゃないけどな」

アンプルの中身を注射器に移す。

爪'ー`)y‐「そして今は誰も泣かない。私も泣かない。
      お前も泣かない。兄者も泣かない。
      恋人の男は何も知らない」

(´<_` )「そうだな。俺は泣かない。お前も泣かない。
       兄者も泣かない。でもこの子は人形じゃない」

弟者はフォックスから目をそらして窓を見た。

(´<_` )「この子は生きていたよ。それで俺達が勝手にいじって殺すんだ」

弟者の声は穏やかだった。
雨の音だけが響く。憂鬱な雨。

かすかな衣擦れの音を立ててフォックスが動いた。
少女の腕に注射器の針が刺さる。

爪'ー`)y‐「そうだな。私らが殺したんだ」

白い部屋の中で2人は無言で立ち尽くす。
空だけが泣いていた。



戻る

inserted by FC2 system