547 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:28:16.22 ID:r77K0P2DO
ζ(゚ー゚*ζ「おとうさん、はやくはやくー」
(;^ω^)「ちょ、待つお……ヒィヒィ」
八月半ば。娘のデレを連れ、神社でのお祭りに来ていた。
運動不足の僕は、元気に走るデレを追いかけるのがやっとだ。
まだ五歳の娘に追い付けない…、ジムに通う必要があるのかも。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、お面かってー!」
前を行っていたデレが振り向き、大きな声でねだる。
人ごみの間をぬい、ようやくデレの元に辿り着いた。
( ^ω^)「ふぅ…どれだお?」
( ゚д゚ )「へい、らっしゃい!」
目を見開いた厳つい兄ちゃんが呼び掛ける。
デレは数秒間首を傾げて考えた後、可愛い狐のお面を指差した。
548 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:30:19.74 ID:r77K0P2DO
( ゚д゚ )「あいよ! 三百円ね!」
財布から三百円を取り出して店番の兄ちゃんへと手渡す。
狐のお面を受け取ったデレは、はしゃぎながらお面を頭にかけた。
そう言えばここはお稲荷様を祀った神社だったなぁ。
( ^ω^)「可愛いお」
ζ(^ー^*ζ「えへへー」
頭の横側にお面を付けたデレは笑顔で、その場でくるりと回った。
揺らぐ浴衣の裾。なびく茶色の髪の毛。
性格こそ全く違えど、確かに面影がある。
二年前に亡くなってしまった妻、ツンの面影が。
( ^ω^)(ツン、僕達の娘は元気に育ってるお)
君に届いてるかな。僕達のこの声は。
君は見ているかな。この幸せな光景を。
出来るなら、一緒に見ていたい…。まぁ、無理な話だ──。
「見ているよ」
549 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:31:43.94 ID:r77K0P2DO
(;^ω^)「!?」
喧騒を斬り裂き、ハッキリと僕の耳に声が届いた。
それはツンにとても似た声で…。
速くなる胸の鼓動を抑えつつ、ゆっくりと振り向いた。
川 ゚ -゚)「見ているよ。ドクオ、君だけを」
('A`)「ふっ…。クー、俺もさ」
川 ゚ -゚)「ふふふ、愛してるよ」
('A`)「ミートゥ」
(;^ω^)「…………………」
振り向いた先には一組の若いカップルが立っていた。
男の子の方は冴えない顔付き、女の子の方は聡明そうな顔をしている。
…先程のは女の子の方の声だったのか。姿はツンに全く似ていない。
屋台の陰で抱き合う二人を見て、別の意味で鼓動が激しくなる。
(;^ω^)(どういう経緯があって、あんな美人と付き合ってるんだお……)
550 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:34:15.11 ID:r77K0P2DO
( ^ω^)「変なモノ見ちゃったお…デレ行くお」
気分を落ち着け、視線をデレが居る方向に戻した。
しかし、そこにデレの姿は見当たらなかった。
ぐるりと周りを見渡してもデレは居なかった。
(;^ω^)「デレ! デレ!? どこ行ったお!!」
( ゚д゚ )「お嬢ちゃんなら、あっちに走って行ったよ」
冷や汗を流して焦る僕に、兄ちゃんが声をかけて来た。
見るとうちわを扇ぎながら、兄ちゃんは指を差している。
指し示す先に顔を向けると、本殿へと続く階段が目に映った。
( ゚д゚ )「一応、止めたんだけどねぇ…」
(;^ω^)「っ!!」
礼を言うのも忘れ、おっとり刀の如く駆け出す。
人ごみを強引にかき分け、遠くに見える階段を目指した。
551 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:36:12.89 ID:r77K0P2DO
遠くから聞こえて来る太鼓や笛の音色。
普段なら安らぐだろう音が、僕の心をざわつかせる。
(;^ω^)「どいてくれお!」
叫び、両手で人を押し退ける。
背後から『いてえな』『何すんだよ』などの罵声が聞こえる。
僕はそれらの声を無視して全力で走る。
(;^ω^)「はぁはぁ……」
僕の体力はこんなに衰えていたのか。
せめて、邪魔な人ごみさえなければ…。
祈っていたその時、参拝客の動きがピタリと止まった。
地響きが起こる程の轟音。
不鮮明だった景色を、色鮮やかに照らす光。
花火。
参拝客は花火を見上げて緩慢になり、些か走りやすくなった。
552 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:37:22.21 ID:r77K0P2DO
(; ω )「ひぃ、ふぅ…………」
長い階段を登りきり、やっと本殿の境内へと辿り着いた。
暗い境内を照らす花火の光を頼りに、デレの姿を探す。
(;^ω^)「デレーーー!!」
人の姿は無い。皆、お参りよりも屋台巡りの方が良いのだろうか。
境内の丁度真ん中に来た時、賽銭箱の前に座っているデレの姿を見つけた。
僕はデレの元へと急いで駆け寄る。
服に汗が染み渡り、両足はもうがくがくだ。
(;^ω^)「デレ、勝手に行っちゃ駄目だお」
ζ( ― *ζ「…………………」
返事は無かった。いつも無邪気なデレが俯いてふさぎ込んでいる。
僕に怒られて落ち込んでいるのだろうか?
それにしても何故、こんな事をしたんだろう。
ζ( ― *ζ「…おかあさんの声に似てたね」
554 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:38:56.42 ID:r77K0P2DO
息を飲んだ。あの時、思った事は僕と同じだったのだ。
一時ではあるけれど、大人の僕でさえ心が乱された。
ならば、デレの小さな心に、どんなに重くのし掛かったのだろう。
ζ( ― *ζ「みんな、おとうさん、おかあさんと一緒で…それで……」
参拝客の中には親子連れの姿が沢山あった。
父親と母親に手を繋いで貰っている姿を見たんだ。
肩を震わせてしゃくり上げるデレに、僕は何も出来ないでいる。
(; ω )「………………………」
僕は父親失格だ。
こんな時、どんな言葉を掛ければ良いか分からない。
花火の音が激しくなっている。祭りは終わりに向かっていた。
ζ( ― *ζ「おかあさんに……会いたくて……」
ああ、それで、デレはここにお参りに来たんだ。
555 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:40:25.96 ID:r77K0P2DO
( ^ω^)「デレ」
ζ( ― *ζ「……?」
僕はしゃがんで、泣いている可愛い狐に囁く。
良い言葉を何度探しても見つかりやしなかった。
だから僕は、ありふれた話をしてあげる事に決めた。
( ^ω^)「お母さんはもう戻って来ないお」
ζ( ― *ζ「………………うん」
長い沈黙の後にデレは弱々しく頷いた。
きっと、子供ながらに分かっていて、諦めているのだろう。
( ^ω^)「でも、お母さんは僕達を見守ってくれてるお」
ζ( ― *ζ「えっ?」
僕は隣に座り、デレを膝の上へと乗せてあげた。
そして、登って来た階段の遥か向こうを眺める。
556 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:41:50.76 ID:r77K0P2DO
( ^ω^)「人はいなくなると、お星様になるんだお」
ζ(゚、゚*ζ「おほしさま……」
( ^ω^)「だから、お母さんはお星様になって僕達を見守ってるお」
ζ(゚、゚*ζ「ほんと? …どれがおかあさんなのかなぁ?」
泣き止んだデレは僕の腕の中で、夜空を見上げた。
僕も続いて夜空を望む。
雲一つ無く、星々が燦然と輝いている。
( ^ω^)「えーっと……」
此処に来て再び悩む。
どの星をツンにしよう…。
僕達にとって大切な存在だ。
微妙な星をツンにしたくはない。
探す僕達の目に、夜空を切る火玉が映った。
557 名前:( ^ω^)ζ(゚ー゚*ζ星に名前を付けるようです:2008/02/28(木) 02:43:10.59 ID:r77K0P2DO
大きい。
きっと、最後の一発だ。
心臓を響かせる程の爆音。
ビリビリと空気が揺れる。
夜空に花が咲いた。
色とりどりの花弁が舞い散る。
──見つけた。
──その遥か彼方に。
花火の光にすら負けない、輝きを放つ星。
あれだ!
名前は知らない。
ただ、ただ、凄く綺麗だ。
( ^ω^)「あの、お星様だお」
ζ(゚ー゚*ζ「あれが……」
『おかあさん』
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