31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:14:25.86 ID:p2Vg95Yk0
りん、と風鈴の鳴る音がしたので、私は窓の方へと目をやりました。
するとそこには案の定、幼馴染が平和そうな顔で手を振っているではありませんか。
すでにそのことに慣れてしまっている私は、近付いてその窓を開けました。
( ><)「こんばんはなんです!」
( <●><●>)「こんばんは」
暢気な顔で挨拶を交わすこの幼馴染、名をビロードと言います。
淡いグリーンのタンクトップに膝丈のズボン、夏休みの虫取り少年を絵に描いたようなその姿に
私は僅かに口元を緩めました。
足を窓にかけ、彼もまたいつものように私の部屋へと入ってきます。
外から聞こえる鈴虫のりぃりぃとした声が夏の蒸し暑さを緩和している気がするのは私だけなのでしょうか。
( ><)「ワカッテマスくん、また宿題していたんです?相変わらずワカッテマスくんは勉強好きなんです!」
( <●><●>)「知識を得るというのは素晴らしいことです。ビロードは夏休みの宿題、終わったのですか?」
私がそう聞くと、彼は視線を泳がせるようにして笑いました。
(;><)「そ…それよりも僕は今を楽しむんです!」
( <●><●>)「ダメ人間のセリフですね」
32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:17:03.34 ID:p2Vg95Yk0
(;><)「どうしてそういうこと言うんですかー!それに今日は絶好の冒険日和なんですよ!?」
( <●><●>)「また学校の裏山、ですか?ドラえもんじゃないんだから…第一そのセリフは昨日も聞きました」
そういうと、彼は少し怒ったように頬を膨らませました、子供っぽい表情がさらに子供っぽくなったので
私は少しだけ申し訳ない気分になってしまいます。
それは学校で噂になった、小さなお話です。
最初は一つの手紙から始まったのが、いつしか学校全体に広まっていました。
学校の裏山には、秘密のお宝が埋まっている、と。
誰がどう考えてもデマでしかない陳腐なものですが、小学生の冒険心を煽るには十分だったのでしょう。
誰が言い出したのかわからないその噂目当てで、毎日のように生徒が裏山へと押しかけました。
そして、その度に何処かしら奇妙な怪我をしていくのです。
まるで何かに掴まれたように、奇妙な痕が残るのでした。
( <●><●>)「あそこは危険なんですよ。昔廃工場になった建物もあるって先生が言っていたでしょう」
33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:17:41.91 ID:p2Vg95Yk0
( ><)「でも、行ってみなくちゃ何があるかわかんないんです!それに皆行ってるんです!」
( <●><●>)「ダメですよ、危険なものが沢山あるんです。たまに行った子たちも、
何処かしら怪我をしているでしょう?」
私がそういうと、彼は残念そうにうな垂れました。
可哀相なことを言ったかもしれませんが、これも彼のためなのです。
( ><)「つれないんです、今日こそは一緒に行ってくれると思ったんですのに…」
( <●><●>)「なんと言われようとも、一緒には行きません」
( ><)「どうしても?」
( <●><●>)「どうしても、です」
ビロードはしばらく私を見つめた後、諦めたように再び部屋の窓へと向かいました。
リン、と風鈴が綺麗な音を鳴らします。
( ><)「また明日来るんです」
( <●><●>)「私は行きませんよ」
( ><)「それでも来ますよ、一緒にきてくれるまで、来るんです」
34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:18:48.09 ID:p2Vg95Yk0
にっこりと笑うと、それじゃあ、とだけ手を振ってビロードは窓から姿を消しました。
夜空に浮かぶ星だけがそれをじっと見ていましたが、私は早々に視線を外し、再び机へと向かいました。
やりかけのレポートがあるからです。
しかし、シャープペンシンルを手に持ったところで、部屋のドアが控えめな音を立てました。
「ワカッテマス、入るっぽ?」
( <●><●>)「…どうぞ」
(*‘ω‘ *) 「大学のレポート、終わったっぽ?今ジョルジュたちから花火でもしないかって
誘いがあったんだっぽ。よかったら一緒に行こうっぽ」
扉が開くと、私の友人であるちんぽっぽが、浴衣姿でそこに立っていました。
そういえば今日はどこかでお祭りがあるのだと何回も聞かされてました、
もしかしたら彼女は二人きりで行きたかったのかもしれません。
しかし、私にはやらなければならないことがあるので、彼女の望みは聞き入れることはできませんでした。
( <●><●>)「いいえ、未だ終わる目処が立っていませんので、遠慮します。
それに、またビロードが来るかもしれませんから」
私がそういうと、ちんぽっぽは悲しそうな表情で私を見てきます。
35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:19:21.51 ID:p2Vg95Yk0
(*‘ω‘ *) 「またその話っぽか。 ビロードはもういないっぽ」
( <●><●>)「いいえ、います」
(*‘ω‘ *) 「10年前にはいたっぽけど」
( <●><●>)「いるんですよ。毎晩私を誘いに来ます」
(*‘ω‘ *) 「ハッ、その言い方だとなんだか卑猥ぽね」
どこかあてつけるようなその言葉に、私は笑みを向けました。
( <●><●>)「貴女の名前ほどではありません」
(*‘ω‘ *) 「…本当、嫌な男だっぽ」
( <●><●>)「ありがとうございます」
それだけ言うと視線を外し、再びレポートに向かいました。
タイトルは、今も直残る廃工場の危険性とその対策
(*‘ω‘ *) 「…お前バカだっぽ、そんなにあいつが大事なら一緒にいっちゃえばいいっぽ」
( <●><●>)「そうもいきません」
言葉だけを向け、手はそのまま文字を紡ぎます。
10年前、彼は私が止めるのも聞かずして、結局あの森へ入っていきました。
36 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:20:27.90 ID:p2Vg95Yk0
(*‘ω‘ *) 「何がそうもいきません、だっぽ。どんなに飲み会があっても、
こなさなくちゃいけないレポートがあっても、終電を逃しても、必ず夜にはこのマンションに帰ってくるくせに
そんなに気になるならいっそ、その窓から飛べば楽になるっぽ、一緒になれるっぽよ!」
自嘲気味に笑って、彼女は6階に位置するこの部屋の窓を指差しました。
私は何も答えることはしません。
(*‘ω‘ *) 「何とか言えっぽ!」
森に入っていった彼は、残されていた廃工場の近くで、足を滑らせて死に至りました。
世間的には、そういうことになっています。
(*‘ω‘ *) 「ワカッテマス、お前は…」
しかし、私は知っています。
あの時あの森にいたのは、彼は一人だったということになっていますが、私はその時見ていたからです。
彼が死ぬのを、見ていたからです。
見ていて、逃げたのです。
(*;ω;*) 「お前は、私を一体どう思っているんだっぽ?いつまでいなくなった奴を追い続けるっぽ!?」
37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:21:05.59 ID:p2Vg95Yk0
あの廃工場にいた何かに、彼が足を引っ張られていくのを。
苦悶の表情、驚き、戸惑い、恐怖、悲鳴、そのすべてを私はただ見ていました。
恐ろしくて、解らないことが怖くて、子供時代の私にはどうすることも出来なくて、ただ逃げたのです。
親友を置いて、逃げたのです。
( <●><●>)「…ちんぽっぽ」
(*うω‘ *) 「なんだっぽ…」
( <●><●>)「煩くてレポートが進みやしません、出て行ってくれませんか」
(*‘ω‘ *) 「!!」
( <●><●>)「貴女と一緒にはいけませんから」
(* ω *) 「っ…………死ね!」
彼女は頬に強烈なビンタを私に浴びせると、そのまま勢い良く走って部屋を出て行きました。
ヒリヒリと痛む頬をさすりながらも、私はペンシルを走らせます。
これは償いなのです。
あの日逃げた私の、せめてもの償いです。
38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:21:47.00 ID:p2Vg95Yk0
それで許されることはないでしょうが、やらないと気がおかしくなってしまいそうで。
( <●><●>)「…………」
しかし、調べても調べてもあの廃工場が何なのか解ることはなく、また、壊されることもありませんでした。
すでに気味悪がられて、皆から忘却されてしまったのかもしれません。
「待ってください!行かないで、ワカッテマスくん!!」
頭の中の彼の声が、再生されます。
もう少しだけ待ってくださいビロード。
あの廃工場で何があったのか、どうして君が連れて行かれたのか。
その謎を解き明かすまで、私は君と一緒には行けないのです。
しかし、もしもその謎が解けたらその時は……
リン、と風鈴が鳴りました。
そこには誰もいません。いるはずがないのです。
解っています、そんなことは解っているのです。だって
あの夏の日に、彼は死んでしまったから。
39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/01(金) 00:22:12.09 ID:p2Vg95Yk0
( ><)「こんばんは、なんですワカッテマスくん!」
しかし、それでも彼は毎日やってきます。
一緒に行こうと、誘いに来るのです。
( <●><●>)「こんばんはビロード」
そして私は、いつかそれを甘んじて受け入れるのでしょう。
こうやって行かないと突っぱねていてもいずれは。
いなくなったときそのままの姿である彼に手を引かれて
あの裏山の廃工場へと。
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