613 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:40:12.91 ID:rZvGcXHM0
法廷には、まばらな人影しかいなかった。
俺の姉さんは、傍聴席の後ろの方で、不安げな瞳を俺に向けている。
隣には、二人のかけがえの無い親友の姿もあった。
彼らの不安を和らげようと、必死に笑おうとしたけれど。
筋肉が固まったかのように、引きつった顔しか出来なかった。
(´・ω・`) 被告人。前へ
裁判官にせき立てられ、壇上へ上がる。
検察官が俺を品定めするように見てくるのがわかった。
聞かせてやるよ。俺の声を。
見せてやるよ。俺の生き様を。
614 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:41:42.06 ID:rZvGcXHM0
('A`)童貞は愛を護るようです
615 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:44:05.60 ID:rZvGcXHM0
−1−
童貞法。これは略称だ。厳密にはもっと長いんだが、どうでも良いので省略する。
重要なのは、この馬鹿げた法律のせいで、俺の命があと僅かになってしまったという事だ。
内容はこうだ。20歳の誕生日までに、童貞を捨てられなかった男子は、処刑される。
病気や何らかの障害で性行為が出来ない者を除いて、全国民の男子に課せられるものだ。
少子化対策の最終手段として施行されている法律。結果的にはうまくいっているらしい。
で、俺の話だ。
自慢じゃないが、俺は女にもてる要素を何一つ持っていない。
例えばルックス。最低だと罵られる程じゃ無いが、お世辞を言おうと思ったら苦労するレベルだ。
性格。ひねくれ者で、口を突いて出るのは否定的な言葉ばかり。わかってはいるが、簡単に直るもんじゃない。
学歴。両親が他界して、生きていくには高校を辞めざるを得なかった俺の最終学歴は、中卒。
家柄。前述した通りの貧乏暮らしだ。金目当ての女は俺と視線を合わせる事すら嫌がるだろうな。
618 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:46:34.36 ID:rZvGcXHM0
そんな訳で、俺はもてない。
それでも、女にもてる事を第一として、生きる事の全てのベクトルをそれに向ければ、何とかなったかもしれない。
でも俺はそれをしなかった。そこまでしてもてたくも無かった。
暗い性格の割には、少女漫画のような恋愛に憧れている節があった。
こんな事を言えば鼻で笑われるだろうが、運命的な出会いとやらを期待して、自分から求める事はしなかった。
ちなみに、風営法が極端に厳しくなった今でも、政府管轄下で行われている風俗店だけは営業している。
18歳以上20歳未満の童貞に限り、本番も有りという店だ。これは政府の救済措置である。
ただし莫大な金がかかる。税金やら手数料やら保険料やらを全て足すと、100万を超える大金が必要になる。
姉さんと二人きりで暮らしている俺に、そんな金を払える余裕なんて無かった。
そして俺は、もうすぐ、20歳の誕生日を迎えようとしていた。
620 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:48:40.72 ID:rZvGcXHM0
−2−
工場の仕事を終えた時、もう10時を過ぎていた。
油まみれの作業服のまま、家路を目指す。俺の家は古い木造アパートの一階だ。
共同便所。風呂無し。そして、二階にギターの音が五月蠅い大学生がいる事以外はそこそこ良い。
('A`) ただいま
ドアを開けると、濃い料理の香りが鼻をついた。
一つしか無いコンロの上に、薄汚れた鍋がぐつぐつと音を立てていた。
从 ゚∀从 おかえり。今日は早かったね
('A`) もう10時過ぎてるけど
从 ゚∀从 あ……そうなんだ
俺の家に時計は無い。
621 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:50:26.55 ID:rZvGcXHM0
('A`) 今日のご飯、何?
从 ゚∀从 聞いて驚くなよ
('A`) うん
从 ゚∀从 ビーフシチュー
(;'A`) マジで!
驚嘆の声は、アパートの薄い壁を突き抜けたらしい。
隣の部屋と上の部屋から、抗議のノック音が一回ずつ聞こえた。
('A`) どうしたの? 盗んだ?
从 ゚∀从 馬鹿。パート先の店長が、賞味期限が切れた肉をくれたんだよ
(*'A`) そうかあ……そうかあ
622 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:52:24.05 ID:rZvGcXHM0
久々の牛肉を前に、涎が垂れそうになる。
親のいた4年前なら、頼めば次の日には食べられたものだったが。
从 ゚∀从 他にも廃棄たくさんくれたんだ。日持ちしないから、今日食べようよ
('A`) わかった。腹減ってるから、死ぬほど食べる
从 ゚∀从 あ、うん
姉さんの顔色が、一瞬だけ変わったのがわかった。
从 ゚∀从 大盛りにしといてやるよ
鍋からシチューをすくっているエプロン姿の背中が、いつもより小さく見える。
このところ、姉さんは‘死’という言葉に敏感に反応する。
俺の死期が、近いからだろう。
623 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:54:09.45 ID:rZvGcXHM0
从 ゚∀从 いただきます
('A`) いただきます
食卓に並べられた、菓子パンとビーフシチューは、きっと一生忘れない。
きっと、死んでも、忘れない。
625 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/06(日) 23:55:49.68 ID:rZvGcXHM0
−3−
公園のベンチに、木漏れ日を受けてそいつは座っていた。
俺は真っ直ぐ近づいていく。俺に気がつくと、そいつは顔を上げた。
( ^ω^) 久しぶりだお
('A`) 久しぶり。一ヶ月ぶりくらいかな
久々にあった友達は、いつもと変わらない笑顔で笑っていた。
小中一緒だったからわかる。こいつのマイペースぶりは一生続くんだろう。
( ^ω^) ドクオは忙しそうだから、遊びに誘うのは気が引けて、中々誘えなかったお
('A`) 悪いな。週休零日制なもんで
今日は久々の休みを貰えた。
というのも、工場に新しい機械が届いて、それを整備する為に設備が使えなくなるから、仕事が出来なくなったんだ。
仕事が出来ない状態で社員を呼んでも仕方がないという事で、社長が全社員に休暇を出したのだ。
気前の良い社長で、働けなくなった分の給料も出すと言った。
もしその分の給料が引かれたら、一日夜勤をしてでも取り返そうと思っていたので安心した。
631 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:05:06.59 ID:skeZx9Ox0
( ^ω^) ちゃんとツンもいるんだお
('A`) どこに?
( ^ω^) ……
('A`) ……?
「どーん!」
後ろから押された俺は、つんのめってブーンの体に飛び込んだ。
胸元に思いっきり頭をぶつける。俺は痛くなかったが、ブーンは痛みにもだえている。
(;'A`) ……久しぶり
ξ゚ー゚)ξ ……
634 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:07:43.01 ID:skeZx9Ox0
『元気してたー?』気色悪い程の笑顔で聞いてきた。
俺も負けじと気色悪く笑い、『ああ』と返した。
ξ゚听)ξ 公園で良かったの?
俺は数日前、姉さん伝いに『公園で会おう。そこで遊ぼう』と約束した。
('A`) 公園は無料だからな。入る時も。遊ぶ時も出る時も
( ^ω^) ブーンは公園大好きだお。テンション上がりまくり
('A`) ツンは?
ξ゚ー゚)ξ 私もテンションうなぎ上り
('A`) じゃあいいじゃん
637 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:09:49.54 ID:skeZx9Ox0
金を使う遊びを提案してたら、こいつらは絶対俺に金を使わせない。
いや元々遊ぶ金なんて一円たりとも無い。
この前両親が遺した借金をようやく返し終えたばかりだった。
('A`) 何する?
( ^ω^) 缶蹴り。缶蹴りを提案しますお
ξ゚听)ξ 懐かしいね。負けないわよ
この年になって缶蹴りで燃えられるこいつらは大好きだ。
( ^ω^) いくお!
ξ;゚听)ξ ちょ、ちょっと、まっ、まず鬼を決めてかっ……
( ^ω^) うりゃ!
638 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:11:23.23 ID:skeZx9Ox0
ツンの制止の声もどこへやら。
ブーンは地面に置いたコーヒーの缶を力一杯蹴飛ばした。
ξ(゚听;ξ 逃げるわよドクオ!
('A`) よっしゃ!
( ;^ω^) え、ブーンが鬼!? 蹴った人は鬼じゃないんだお!?
今度はツンがブーンの声を無視して、駆けだしていく。
呆然とするブーンを横目に、俺も走り出した。風が気持ちよかった。
『ちくしょー!』慌てて飛んでいった缶を追いかける、間抜けな鬼の声がした。
643 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:14:36.98 ID:skeZx9Ox0
−4−
ξ゚听)ξ はい
ぜいぜいと息を吐く俺に手渡してきたのは、ペットボトルのスポーツ飲料だ。
中身が半分減っている。ツンが飲んだんだろう。
丸々一本奢るより、飲み残しをあげた方が遠慮されない、と考えたに違いない。
長い付き合いから、俺の事がよくわかってるみたいだ。気遣いに感謝しながら、ペットボトルを傾ける。
( ^ω^) ツン。僕も欲しいお
ξ゚听)ξ 一本しかないからドクオの後ね
('A`) 今全部飲んだからもう手遅れね
( ^ω^) 彼氏なのに酷いのね
芝生の上に腰を下ろしている俺たちは、クスクスと笑い合った。
646 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:17:18.32 ID:skeZx9Ox0
('A`) ……なあ、大学ってどういう所なんだ?
ブーンとツンは同じ大学に通っている。
二人とも頭が良いから有名な私立を狙えただろうに、何故か近所の国立に通っていた。
( ^ω^) うーん……とにかく自由な所だお
('A`) 自由……か
ξ゚听)ξ そうね。高校と違って授業が無い時間が多いし、学外の活動も活発だし
('A`) いってみてえなあ、大学
( ^ω^) 三ヶ月もしたら慣れて飽きるお
ξ゚听)ξ よっぽどアグレッシブで、いろんなものに手を出す人じゃない限りね
649 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:19:34.51 ID:skeZx9Ox0
('A`) へえ……そういうもんかね
乾いた風が肌を撫でる。汗の浮いた体にそれは心地よかった。
ξ゚听)ξ ブーン
( ^ω^) 何だお
ξ゚听)ξ トイレ行ってくる
( ^ω^) わかったお
ツンは立ち上がり、ロングスカートについた雑草を手で払った。
捲いた髪を翻し、歩き出していく。
( ^ω^) ドクオ
ツンの姿が見えなくなると、それを待っていたかのようにブーンは喋り出した。
654 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:21:36.39 ID:skeZx9Ox0
( ^ω^) もうすぐ、20歳になるんじゃないかお
('A`) なるよ
( ^ω^) ……大丈夫なのかお?
('A`) いや、全然
( ^ω^) ……
('A`) ……
( ^ω^) お前は
('A`) ブーンは?
( ^ω^) え?
657 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:24:51.78 ID:skeZx9Ox0
('A`) ブーンは大丈夫なんだろうな
( ^ω^) ……うん。ツンが、いてくれたから
('A`) そうか。良かった
( ^ω^) ……
('A`) ……
( ^ω^) ……ドクオ!
意を決したような力強い言葉に、嫌な予感がした。
こいつなら、こいつらなら、きっとそうしてくると思っていた。
( ^ω^) ……ツンと、寝てくれお
659 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:26:36.56 ID:skeZx9Ox0
('A`) ……
俺は黙ってかぶりを振った。
( ^ω^) ドクオ
('A`) お前は良いのかよ
( ^ω^) 良いお。ドクオなら構わないお
('A`) ツンの気持ちはどうなる
( ^ω^) ツンから提案した事だお
('A`) ……そうか。まあ、そうだよな……
( ^ω^) ……
('A`) ……
665 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:30:37.84 ID:skeZx9Ox0
俺は無言を貫いた。
それが拒否を表している事を、ブーンはちゃんと悟ってくれた。
( ^ω^) ……わかったお
('A`) すまん……ごめん。気持ちは嬉しいけど、こればっかりは……
( ^ω^) いや、いいんだお
('A`) ……
『これでいいんだお』ブーンはもう一度、そう呟いた。
乾いた風が芝生の上を踊った。もう汗は乾いていた。
668 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:32:56.15 ID:skeZx9Ox0
−5−
仕事が終わり、アパートに戻ってきた時、黒塗りの外車がアパートの前に停まっているのが見えた。
俺の家の玄関から、スーツの男が一人、手帳に何かメモをしながら出てくる。
( <●><●>) ん
('A`) ……
目が合った。政府の奴だと、直感でわかった。
( <●><●>) ……失礼します
丁寧にお辞儀をして、車に乗り込んで走り去る。
部屋に入るのが億劫だった。きっとそこには、泣いている姉さんがいるから。
669 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:34:45.36 ID:skeZx9Ox0
もう少しだけ、時間を空けよう。
そう思った俺は、部屋のドアに手をかける事無く、アパートの前から離れていった。
どれくらいの時間をかければ、姉さんは泣きやむんだろう。
それとも、これから姉さんが泣きやむ事なんて、無いのだろうか。
673 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:37:50.38 ID:skeZx9Ox0
−6−
結局家に帰ったのは、それから一時間後だった。
从 ゚∀从 おかえり。今日は遅かったでしょ
('A`) うん。残業してたから
姉さんの目は赤く充血していた。笑顔が疲れてしぼんでいる。
せっかく美人に生まれたのに、勿体ない事だ。
从 ゚∀从 ……検査結果、返ってきたよ
('A`) ……
从 ゚∀从 テーブルに置いてあるから、見て……
678 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:40:11.46 ID:skeZx9Ox0
洗い物をしている姉さんの横を通り、テーブルの前に腰を下ろす。
シンプルな通知だった。不適正。赤い文字で真ん中にそう書かれていた。
18歳を越えた男子は、三ヶ月に一回検査を受ける事になる。
童貞を捨てているかどうかの検査だ。合格した者から、検査を受ける義務から解法される。
俺は今まで、7回の検査を受け、全て落ちていた。当然だが。
次の検査は、俺の誕生日の一日後に行われる。
それまでに童貞を捨てていなければ、俺は法律に則った処置をされ、殺される事となる。
从 ゚∀从 ……
('A`) ……
684 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:42:01.37 ID:skeZx9Ox0
俺の誕生日まで、あと二週間しかない。
最終検査を受けた者は、検査結果がわかるまで、施設に送られ隔離されるらしい。
だから、俺が日常生活を送られるのは、あと二週間という事になる。
从 ゚∀从 今日のご飯さ、手巻き寿司なんだよ
('A`) 期限切れのカビカビのやつ?
从 ゚∀从 そう。暖めたら美味しいかな?
('A`) 暖めるのはちょっと……そのままでいいよ
686 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:43:25.12 ID:skeZx9Ox0
姉さんの態度は、いつもと変わらないように思えた。
きっと既に覚悟を決めていたんだ。俺はそう思っていた。
油まみれの作業服を脱いで、部屋着に着替えて、手巻き寿司を食べて、コップの水道水を飲みきるまで。
俺は、そう思っていた。
从 ゚∀从 ドクオ……
(;'A`) !
不意に後ろから抱きつかれた俺は、コップを落としそうになった。
テーブルに丁寧にコップを置いて、肩越しに回された腕に目を落とす。
薄いシャツから伸びているのは、22歳の若く綺麗な女の肌だった。
耳元に息がかかる。雌の臭いがした。
从 ∀从 姉ちゃんと、エッチしようか……
俺は言葉を失った。
693 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:46:07.89 ID:skeZx9Ox0
−7−
(;'A`) ……
从 ∀从 ねえ……ドクオ……
今まで聞いたことの無い猫なで声に、背筋が冷たくなる。
背中に当たる確かな胸の感触が、思考を乱す。
从 ∀从 姉ちゃんの事、嫌いじゃないだろ?
(;'A`) ……うん
从 ∀从 私はね、ドクオの事、好き。もちろん家族として。でも失いたくない
(;'A`) ……あ……姉さ
从 ∀从 一回だけだから。ね? 大丈夫。目を瞑ってれば良いの。全部私がしてやるから
694 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:48:10.17 ID:skeZx9Ox0
穏やかな声に、強烈な決心と愛を感じた。
満たされる感覚と同時に、悲しさや、わびしさや、申し訳なさが渦を巻く。
('A`) ……姉さん
从 ∀从 ……何
('A`) 姉さんって、処女でしょ
この人は無理をしている。
そう思わざるを得ない程、挙動が不自然で、ぎこちなかった。
从 ∀从 ……違うよ
('A`) 違わない
从 ∀从 ……だったら何なのよ
697 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:50:14.08 ID:skeZx9Ox0
('A`) 俺、出来ないよ。姉さんとは出来ない
从 ∀从 私の事嫌い?
('A`) 大好きだよ。世界で一番好き。だから出来ない
从 ∀从 ドクオぉ……!
('A`) ……
从 ∀从 ……私、卑怯だよね
姉さんの言う卑怯の意味は、俺にはわかる。
童貞法はその名の通り、男子にのみ適応される法だ。
これは、女の数が減るのを避けてでの事だ。
例えば十人の男と、一人の女が性交しても、子供は一人しか生まれない。
でも十人の女と、一人の男が性交すれば、双子などを除けば最大で十人の子供が生まれる。
そんな理論を、小学生の頃聞いた事がある。だから女が必要らしい。
700 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:52:13.30 ID:skeZx9Ox0
从 ∀从 自分だけ、た、助かっ、て、私っ、ひっ、卑怯、だよね?
( A ) 姉さん……泣くな……泣かないで……姉さん……
从 ∀从 どうして……どうしてなの……ドクオ……!
振り返ると、手で顔を覆った、弱々しい獣がいた。
震える肩を、力一杯抱いた。
姉さんは大声で泣いた。
俺も声を上げて泣いた。二人でずっと泣いた。
その日だけは、抗議のノックはされなかった。
708 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:54:47.23 ID:skeZx9Ox0
−8−
検察官が俺の罪状を読み上げる。俺はほとんど聞いていなかった。
どれだけ言葉を変えても、結局は童貞だから殺します、と言っているだけだ。
(´・ω・`) では被告人、鬱田ドクオ。検察官の言うことに間違いはありませんね
('A`) あるよ。法律自体大間違いだ
(´・ω・`) そのような事は聞いていません。質問に正確に答えて下さい
('A`) 間違い無いです
その時、誰かがわっと泣き出したのが聞こえた。
姉ちゃんか、ツンか、ブーンかわからなかったが、つられて泣きそうになった。
でも、ここで泣いてはいけない。
俺にはまだ、言わなくてはいけない事がある。
710 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:56:07.40 ID:skeZx9Ox0
(´・ω・`) 判決を言い渡します。被告人鬱田ドクオは――――――
長ったらしい前置きの後、『死刑を命ずる』と言われた。心はとても穏やかだった。
気になる事と言えば、傍聴席でくしゃくしゃの顔をしている、三人の男女の事だ。
泣くのはもうやめてくれ。いつになったら泣きやむんだ。
体中の水分がとんじまったら、スポーツドリンクの飲み回しじゃ足りねえぞ。
(´・ω・`) 最後に、何か言いたい事はありますか?
('A`) あります
714 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:57:45.75 ID:skeZx9Ox0
検察官が、俺に鋭い一瞥を向ける。
にらみ返そうとした時には、あさっての方向を向いていた。
いいさ、嫌でもこっちの顔を見たくなるようにしてやる。
('A`) 俺は童貞だ
静かに、しかしはっきりと聞こえるように。
('A`) 一度もセックスをした事が無い
顔を上げて、堂々と胸を張って。
722 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 00:59:05.33 ID:skeZx9Ox0
('A`) でも俺は、愛を知っている。半端な体の関係じゃ、到底得られる事の無い愛だ
検察官の横顔を睨み付け、声を張り上げた。
('A`) 俺たちは動物園の檻の中で生きている訳じゃない! セックスは誰かに強いられるもんじゃない!
_
( ゚∀゚) 裁判官。これ以上法廷を続けるのは無意味です。閉廷して下さい
氷のような検察官の声が、俺の声に重なる。
(´・ω・`) ……構いません。続けて
_
( ゚∀゚) ……
拗ねた顔は、まるで玩具を取り上げられたガキだ。
俺は大きく息を吸い込んだ。
聞かせてやるよ。俺の声を。
見せてやるよ。俺の死に様を。
729 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/07/07(月) 01:01:29.74 ID:skeZx9Ox0
(#'A`) 俺は童貞だ! でも愛を知っている。愛を護る為に、童貞を護った!
(#'A`) 愛を知らずにセックスして、子供が生まれて、何が残る!?
(#'A`) おまえらは一体何を護る為に童貞を殺すんだ!
(#'A`) ……俺はこれから、クソみたいな法律に殺される! でもな!
('A`) ――俺は護りきった。それは永遠に、消えないもんだ
静まりかえった法廷で、誰かのすすり泣く声が聞こえた。
護れなかったものは、非常に大きかった。
終
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