802 名前: 801 投稿日: 2008/07/23(水) 14:50:31.93 ID:PhnQdgyM0

ぱしゃぱしゃと足元で濡れる音。
どうやら水たまりがあるらしい。

('A`)「でも暗くてわからないな……」

誰ともなしに呟くと、ぼう、と横にあったらしい壁に灯りがともった。
どういう原理か知らないが、人魂のような燐光が支えもなしに浮いている。
不思議に思って触れてみても、その燐光は熱くもなく触れる感覚もなく、ただ手を動かすにあわせ、
今にも消えてしまいそうにゆうらりと揺れるのみ。

('A`)(不思議な光だ)

しばらくそうして触れていたけれど、それにも飽きてしまい、また再びこのなぞの道を歩いてゆく。
はたして出口はどこなのか、そもそも出口なんてあるものなのか。
いや、それよりも、自分はいつ、どうやってここに来たのかも知らないのだ。



803 名前: 801 投稿日: 2008/07/23(水) 14:50:56.36 ID:PhnQdgyM0

ほのかな光の照らす道は、トンネルといった方がよさそうな構造だった。
壁にふれると、少し湿っているが温かい。材質も不明なその壁は、つるつるとした表面を
見せながら前方にながくながく伸びている。

('A`)(どれだけ歩いても、変わりのない風景。――壁、光、天井、濡れた地面……出口は、どこだろう)

ふ、と気がつくと、壁の光が何かを訴えるかのようにかすかに震えている。
すうすうとうすく点滅するようにしていた燐光にふれると、誰かの声が聞こえるような気がした。
これは、いったい誰の声だったろうか……

『……×××、×××。一緒に帰るおー……』

思い出そうとする間に、その光は手の中で儚く消えてしまった。
とたんに声も聞こえなくなってしまい、なんだか道がうすらと暗くなったように感じる。
なぜ、さみしいと思うのだろうか。自分は、あの声を知っていたような気がする。



804 名前: 801 投稿日: 2008/07/23(水) 14:51:31.93 ID:PhnQdgyM0

誘われるように、反対の壁の光に手を伸ばしてみる。触れた瞬間に、弾けるような声が響いた。

『……×××!飯一緒に食べ…う……』

元気のいい声が、道いっぱいに広がる。
遠く向こうの方まで残響を残しながら、光はまたも溶けるように消えた。


(;'A`)「……っ」

逃げ出すかのように、唐突に走り出した。
どうしてかなんてわからないが、そうしなければならないような気がしたのだ。
それに、なんにもわからなくなるくらいにめちゃめちゃに走っていないと、郷愁で気が狂ってしまいそうになる。
ぜいぜいと荒い息をつきながら走る周りで、燐光が一斉に震え出し、道じゅうに声が溢れた。

(;'A`)「うるさい!うるさいうるさいうるさい!」

耳をふさぎ、わあわあと叫びながら走る。縺れそうになる足をひたすらに、前へ。
それでもふさぎきれない声が、耳に届いてくる。『×××』、と。自分を呼んでいる。
やめろ、やめてくれ、やめるんだ。だって、だっておれはじぶんのなまえも覚えていないのに、
そんなに懐かしい声で呼ばれてしまったら自分は自分の本当の名前がそうであるかなんてことも
疑わずにただそれを信じ切ってしまうような気がする、そんな優しい声で呼ばれてしまったら
自分は自分が許されたような錯覚に陥ってしまうような気がする、そんな行為はいけないんだ、
そんなぬるま湯につかるような幸福で自分は許されてはいけないはずなんだ、

やめろ、やめてくれ、それは、それは!



805 名前: 801 投稿日: 2008/07/23(水) 14:51:55.54 ID:PhnQdgyM0

(;'A`)「自殺なんてもので一人逃げ出した俺の名前を、そんな優しい声で呼ばないでくれ!」

ついに、走ることに疲れ切ってしまった両足がもつれ、たまらず濡れた地面に倒れ伏す。
ぎゅうぎゅうと耳をふさいでも、自分を呼び戻そうとする声が道じゅうに響く。
いやだ、自分は、自分はもう生まれてきたくはないのに!
こめかみを熱い涙が伝って落ちる。
自分から逃げたくせに、さみしいからまた生まれてこようとするなんて、そんなのはだめだ。
自分は永遠にここにいるべきなんだ。生まれるべきではなかったんだ!

かつ、と静かに誰かの靴の音が響いた。
顔を上げるのも億劫で、自分はただ倒れながらその足音の持ち主が近づいてくるのを聞いていた。
それはすぐ近くでひたりと止んだ。その代わりとでも言うように、低く厳かな声が降りかかる。

( ФωФ)「輪廻の回廊。お前はこの道を歩き続け、そして気がついた」

('A`)「そうだ、俺は気がついた。気がついてしまった。俺はもう生まれてくるべきではないってことにな」

( ФωФ)「そうではない――お前は愛されていたことに気がついたのだ」

気がつけば、壁に掲げられていたはずの燐光はもうすでにすべて消えて失せていた。
それだというのに、照らすもののないはずの道は明るく続いている。
探すように視線をさまよわせていたことに気がついたのか、男が笑いながら自分に語りかける。



807 名前: 801 投稿日: 2008/07/23(水) 14:52:20.05 ID:PhnQdgyM0

( ФωФ)「そら、最後のひとつだ」

男が手を開いて見せると、そこには青白く光る光があった。
ふよふよと揺れるその燐光は、どの光よりも頼りなげに見える。
倒れながらも手をのばすと、おずおずとどこか遠慮がちによってきたようにみえる、
その光がそっと指に触れた。


『……×××、私はあんたを愛しているからね……』


たったそれだけを残して、光はふいっと消えてしまった。
茫然と見上げる俺の視線を受け、男は意図のつかめない笑いをこぼす。

( ФωФ)「本来なら、お前のような魂は炉で溶かされて新品の魂になるはずなのだ」

疲弊し、擦り切れてしまった魂は新しい生になじめないからな、と男が呟く。
いみが、わからない、この男はなにものなんだ?
いや、それよりも、最後の光は一体誰の声を伝えてきたのだろうか?



808 名前: 801 投稿日: 2008/07/23(水) 14:52:59.68 ID:PhnQdgyM0

( ФωФ)「まったくの親不孝者だ、お前は……呆れかえるほどにな。
        それだのに、生まれ変わってもまたその親不孝者の親となりたいとは
        ……不思議としか言いようがない、情の深さよ」

(;'A`)「かー……ちゃん? なのか、あの声は?」

( ФωФ)「さあてな……まぁ、十月と十日たてばわかる」

ごうごうと何かの音が聞こえる。まるで、大量の水が流れ込んでくるかのような。
くるぞ、といった男のいうとおり、自分が今まで走ってきた道のほうからすべてを
押し流してしまうような洪水が溢れい出てきた。

なるほど、これは俺を押し流すための流れらしい。


――おそらくはこの輪廻の出口、新しい命へと。




('A`)はもう一度生まれてくるようです おわり



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