842 名前:( ^ω^)ブーンは道化師のようです:2007/12/08(土) 00:06:17.64 ID:8pFgEqhzO


 普段は閑散としている路地裏の広場に、今、大勢の観客が集まっていた。
 老若男女誰もが微笑み、主役の登場を今か今かと待っている。

 それを見た道化師は、心に歓喜の情が満ちるのを感じながら静かに歩み出た。

( ^ω^)「えー、大変長らくお待たせ致しましたお」

 コホンと一つ、咳払いをする。

( ^ω^)「クラウン・ブーンのラストステージ、開幕ですお!」

 途端、溢れんばかりの拍手と歓声が、道化師の鼓膜を震わせる。

 ――嗚呼、これならもう、思い残すことなど何もない。

 化粧に覆われた目尻から温かい雫を零さぬよう、道化師は天を仰ぎ高らかに言い放った。

( ^ω^)「まずは、パントマイムですお!」



843 名前:( ^ω^)ブーンは道化師のようです:2007/12/08(土) 00:07:08.93 ID:8pFgEqhzO








 持ち得る限りの芸を、拙いながらも一通り披露した道化師は、お辞儀をしながら哀しそうに述べる。

( ^ω^)「……さて、残念なことにそろそろお別れの時間がやってきましたお」

 観客は皆黙り、道化師の話に耳を澄ませる。

( ^ω^)「それでは最後に、クラウン・ブーンの最も得意な十八番、ボールジャグリングをお見せ致しますお!」

 待っていましたとばかりに、再び盛大な拍手が木霊する。
 道化師は何処からか一つのボールを取り出して、観客に見せた。

( ^ω^)「今日のボールは特別製ですお。何と、星影の如く煌めくんですお!」

 僅かに間を置いた後、道化師は手にしたボールを天高く投げ上げた。
 上へ上へと向かうボールが、やがて頂点で静止し、自由落下を始める。
 その途中、ボールは確かに眩い光を纏っていた。

( ^ω^)「さぁどんどん増えますお!」



846 名前:( ^ω^)ブーンは道化師のようです:2007/12/08(土) 00:08:50.50 ID:8pFgEqhzO


 道化師は次々とボールを取り出し、放っては受け止めることを繰り返す。

 三、四、五、六……数が増える度、観客はどんどん減っていく。
 けれど道化師は気にしない、いや気付かない振りをする。

( ^ω^)「今まで散々馬鹿にされたお、幾らボールジャグリングを頑張っても流行らないって」

 七、八、九、十……最前列には誰も残っていない。

( ^ω^)「でもブーンはこれが一番得意なんだお、好きなんだお!」

 二桁を超えた道化師のボールは、空中に美しい光の筋を描いている。

( ^ω^)「だから皆も、最後まで見ていって欲しいお。ブーンの愛したこの芸を」

 数え切れない程のボールが、道化師の手に収まりまた離れていく。
 絢爛な魂の芸術を見る者は、最早誰もいない。

( ^ω^)「……」

( ;ω;)「……うっ、うぅっ」

( ;ω;)「あいぎゃとう、ごじゃいまぢたっ……!」

 道化師の嗚咽以外聞こえなくなったその広場で、彼の操る光だけが拍手のように明滅した。



847 名前:( ^ω^)ブーンは道化師のようです:2007/12/08(土) 00:10:08.07 ID:8pFgEqhzO








 路地裏にある、寂れた広場の石段で。
 一人の男が安らかに眠っていた。

(ヽ´ω`)

 ボロボロの衣服にすっかり痩せ細った身体。
 そして手に握られた汚いボール。
 だが不思議なことに、そのボールは淡い光を放っていた。

 ボールはやがて夜空に浮かび上がり。
 小さな小さな星になった。



 了。



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