- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:04:24.03 ID:4aj2rA9u0
- 僕たちはしおりに書いてある予定通りに勉強を終え、宿舎の敷地内にある野外炊飯場へと向かっていた。
この宿泊施設が山中に建てられているせいか、もう五月だというのに肌寒い。
寒いから、と言われてきたジャージも、生地がスカスカのせいで冷気を通してしまう。
ひやりとした空気を肌で感じながら見上げた空は、夕陽に染められてきれいな朱色だった。
辺りは森に包まれていて、生徒たちの喧騒以外は不思議なほどに静かだ。
耳を澄ますと、ときどき鳥の鳴き声らしきものが聞こえる。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:06:02.92 ID:4aj2rA9u0
- ('A`)「ここらの森、『野生動物に注意』だとよ」
歩きながらしおりを眺めていたドクオが、最後のページに書かれている諸注意を読み上げる。
この鬱蒼と茂っている森林地帯なら、動物の一匹や二匹が飛び出してもおかしくはないな、と僕は思った。
どの地域にはどんな動物が生息しているか、なんて詳しくないけれど。というか全く知らない。
そもそも僕たちが住んでいる町は、付近に自然らしい自然がないから、野生動物と言ってもせいぜい野良猫くらいだ。
狐や狸、はたまた熊が山を下りるなんて、僕にとってはテレビの中の出来事に等しかった。
( ^ω^)「お? 熊とかかお?」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:08:50.42 ID:4aj2rA9u0
- ブーンが昼食の時に元気がなかったのは、本当に勉強疲れだったらしい。
慣れないことはするものじゃないな、と思いつついつも通りのブーンに戻っていて安心した。
よっぽどこの野外炊飯が楽しみだったのか、宿舎を出てから鼻歌なんかを唄っていてご機嫌だ。
なんていうかこう、笑顔のブーンを見ていると癒される。かわいい。ふしぎ!
('A`)「さあな、それよりショボン。調理の方は頼んだ、俺とブーンはノータッチの方向で」
ドクオが手にしているしおりによると、今夜の夕食は定番中の定番、カレーらしい。
カレーならそう失敗するとも思えないし、二人にも、特にブーンにも手伝ってほしいのだけど。
料理の不得手なブーンに手取り足取り教える僕、触れ合う手、近付く二人……とかなんとかは妄想で終わりそうだ。
残念ながら、と言ったら失礼になるけれど、僕らの班にはクーさんとツンさんがいるから、調理に男手は要らないようだ。
僕は男手なのか女手なのか不明だけど、取りあえず料理が出来るということで女手換算らしい。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:11:00.24 ID:4aj2rA9u0
- (´・ω・`)「あ、うん。じゃあ火を起こすのは任せるよ、調理はクーさんとツンさんと一緒にやるから。
ブーン、しっかり頼んだよ。ドクオは頼りにならないと思うから」
( ^ω^)「ドクオの点については全般的に同意するお」
('A`)「……」
ドクオによる無言の抗議が見えたような気がしないでもないけれど、たぶん見えてない。
ドクオが画面の向こう側に執着する人種でなく、アウトドアだとかその類のものに目を向けていればこんな評価は下されないだろう。
たぶん。
もっと外に出て太陽に当たれば、健康的な外見にはなるだろうに。
残念ながら青白い今のドクオは、発芽した豆を思わせる貧弱さしか感じられない。
ごめんドクオ。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:13:03.65 ID:4aj2rA9u0
- 川 ゚ -゚)「野郎ども! 美人が作る飯が食いたいか!」
ξ゚听)ξ「あんたキャラ見失ってない?」
僕たちの後ろを歩いていたクーさんとツンさんが話し掛けてくる。話と言うよりはクーの叫びだけど。
僕の中におけるクーさんの人物像が、斜め上の方向へ歪んできているのは気のせいだろうか。
思うに、ブーンと同じで勉強疲れなんだろう。もしくは、合宿のせいでテンションに変なスイッチが入ってしまったんだ。
僕は無理やりにでもそう思うことにした。
('A`)「食いてえええええええええええええええええええええええええええええええ!」
川 ゚ -゚)「うわ、引くわ」 オーケイ、いつも通りだった。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:15:49.18 ID:4aj2rA9u0
- 度重なる罵倒を受けて遂に心折れたらしいドクオは、地面に膝と手を付けて負のオーラを発し始めた。
周辺に漂うのっぴきならない空気に、逆に僕たちの心が折れてしまいそうだった。
……やっぱり言い過ぎだったかな、と思って謝ろうとした矢先のことだった。
がばっ、と背筋を伸ばして立ちあがったドクオは、
(*'A`)「もっと罵ってくだs」
( ^ω^)「お腹空いたおー、早く食べたいおー」
(´・ω・`)「そうだね、食べる時間も考えると手早く作らないと」
ξ゚听)ξ「四人でやればすぐ終わるでしょ」
(*'A`)「放置プレイも悪くないかもしれんね…………」
新しい境地に至ってしまったドクオを放置して歩きだしてから数分。僕たちは目的の炊飯場へ到着した。
先程までの狭い道とは対照的に、開けた場所だ。ぱっと見た限りでは学校のグラウンドと同じくらいの広さだろうか。
そこに雨よけの屋根が建てられていて、その下には石造りの台所が設置されている。
台所と言っても、小ぶりな流し台とまな板一枚が置けるくらいのスペースしかない。
そのまな板スペースに材料――たぶん野菜と肉なのかな――らしきものがまとめられていた。
いわゆるコンロの役割を果たすものは、台所と少し離れた位置にまとめて設置されていた。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:17:57.05 ID:4aj2rA9u0
- 川 ゚ -゚)「よし、じゃあ男二人は火起こしを頼むぞ。私たちは材料を用意するからな」
( ^ω^)「了解だお!」
(´・ω・`)「頑張ってね、やけどには気を付けてよ?」
( ^ω^)「心配ありがとうだお! じゃ、おいしいカレーを待ってるお!」
片手を上げながらそう言って、ドクオと共に燃料である薪を受け取りに行ったブーン。
やけどをしないように心配しつつ、今僕が置かれている状況をふと思い出す。
完全アウェー。外見的にはホームだけど、メンタル的にアウェー。あるぇー。
同級生の中では比較的付き合いのある女子とはいえ、もともと女子との付き合いは薄かった僕だ。比較的とは言ってもタカが知れている。
ああ、そういえば部屋割りもアウェーだったっけ……。あまり思い出したくなかった事実をここで思い出した。
夜のことを考えると今から気が重い。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:20:57.40 ID:4aj2rA9u0
- ξ゚听)ξ「そんなにカレー楽しみなのかしら」
駆け足とスキップを足して二で割ったような足取りで去って行くブーンを見ながら、ツンさんがそう言った。
そうだと思うよ、と返したものの、実際はお腹が空いていれば何だって嬉しいのがブーンだ。カレーに限った話ではない。
そう言えば、ブーンは具が大きい方が好きだとかなんとか聞いた事がある。初めてそれを聞いた時、らしいなあ、と思った。
三人の中で更に役割を決めて、調理を開始する。ご飯は宿舎の方で用意してくれるらしいので、随分と楽だ。
僕は豚肉とにんにく、ツンさんは人参とじゃが芋。クーさんは溢れ出る涙と死闘を繰り広げながら、玉ねぎを剥いている。
どうやら使う器具ごとに分担したらしい。もたもたと手間取っている他の班と見比べると、クーさんはリーダーシップがあるな、と感じた。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:23:01.04 ID:4aj2rA9u0
- 川 ゚ -゚)「しかし君はあれだな、そこらの女子よりも女子らしいな」
涙を片手で拭いながらクーさんが話し掛けてくる。
(;´・ω・`)「どういう意味……?」
ξ゚听)ξ「包丁の使い方とか慣れ過ぎなのよ。……なんかあらゆる面で負けてるような気がするわ」
川 ゚ -゚)「それはツンがへt」
ξ^竸)ξ「ご め ん 聞 こ え な か っ た もう一度言ってみて?」
川 ゚ -゚)「くう、涙が目にしみるぜちくしょー」
(;´・ω・`)「ま、まあ家でよく料理するしね」
一足早く準備を終えた僕は、切り終えた材料とサラダ油片手にブーンたちのもとへ向かった。
ちらりとツンさんの方を見ると、慣れない手付きでピーラーを扱っていた。
濡れたじゃが芋は滑りやすいから、手元を誤ってピーラーの刃で怪我をしないか心配だ。
まあ、クーさんがいれば大丈夫か。……いや、すこし不安かもしれない。ああ、訂正。かなり不安。
僕はポケットから絆創膏を取り出して、そっと流しの近くに置いた。それが使われない事を祈るばかりだ。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:26:07.30 ID:4aj2rA9u0
- 心なしか早足になっているのは、僕も合宿という環境で興奮しているからだろうか。
材料をこぼさないように慎重に、けれど逸る気持ちは抑え切れずに、ついつい浮足立ってしまう。
空を見上げると陽はほとんど沈んでいて、雲の膜に包まれた月がうっすらと白く光っていた。
(;´・ω・`)「ここら辺だけ暑いなあ……」
火起こし場の近くに来てまず感じた事は、その近くだけ明らかに気温が違う、という事だった。
まあ、一度にこれだけの人数が火を燃やせばこういう事になるのも当たり前だけど。
火災現場の近くもこんな風に熱気が凄まじいのかな、と考えると消防士の強さを改めて思い知る。
きょろきょろ辺りを見回して、ブーンとドクオの姿を探す。――いた、あれだ。ブーンの大きい背中はすぐに分かる。
どうやら火起こしには成功したらしく、二人がいじっている薪は見事に燃え上がっていた。
(´・ω・`)「二人とも無事に火を起こせて良かったね」
( ^ω^)「おっ? ――ショボンかお、材料はもう準備出来たのかお?」
(´・ω・`)「ああ、僕は先に炒めなきゃだからね。ほら、豚肉とにんにく」
('A`)「疲れた……ていうかあちい……死ぬ……」
(;´・ω・`)「大丈夫……? 水飲んできた方がいいんじゃない?」
('A`)「ああ……ちょっと行ってくるわ」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:29:24.89 ID:4aj2rA9u0
- 二人は全身汗まみれで、特にブーンはずっと近くで見ていたのだろう、煤で頬が黒くなっていた。
備え付けの水道でハンカチを濡らして、顔を拭いてあげる。身長が縮んでいるからか、軽くつま先立ちになってしまった。
ブーンの顔が近い。感じる汗のにおい。軽く膨らんだ頬、柔らかそうな唇、今は橙色に照らされている、男子にしては少し色白な肌。
鼓動が激しくなる。無言になる。顔が燃えるように熱いのは、炎のせいだけではないだろう。
今の姿を見て変に思われないかな、なんて少しだけ不安に思った。
(´・ω・`)「……はい、綺麗になったよ」
( ^ω^)「おっ、ありがとうだお……」
(;´・ω・`)「……」
(;^ω^)「……」
無言。僕もブーンも口を開かない。……気まずい、そして恥ずかしい。というか僕はともかく何でブーンまで無言になるのか分からないよ……。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:32:42.97 ID:4aj2rA9u0
- ('∀`)「ぷっはぁー! やっぱ人間は水だね水! 元気百倍僕ドクえもん!」
沈黙を破るドクオの声。先ほどまでの様子はどこへやら、水を飲んだおかげで元気になったらしい。
空気クラッシャーの出現に僕は怒りを感じるなく、むしろ感謝した。ありがとうドクオ、今は君を崇めたい気分だよ。
僕とブーンの間に元の空気が流れ始める。もしドクオが来なかったら、ずっと無言で立ち尽くしていたかもしれないな、と思った。
('∀`)「ん? どうしたの二人とも、早く肉炒めちまおうぜ! 肉! 肉! ひゃっふう!」
( ^ω^)「こいつアッパー系ドラッグでもキメてるのかお?」
(´・ω・`)「脳内麻薬が過剰分泌されてるんだよ、たぶん」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:35:34.49 ID:4aj2rA9u0
- ブーンが持ってきてくれた大きめの鍋を火にかけ、油を熱する。にんにくを入れて香りが立つまで炒める。
香ばしい匂いが鼻腔を刺激して、食欲が湧いてきた。今まで気が付かなかったけれど、随分とお腹が空いていたらしく、ぐうと小さく音が鳴った。
にんにくがきつね色になったら豚肉を投入。程よく炒められた豚肉は、塩か何かで味付けすれば十分なおかずになるだろうなあ。
( ^ω^)「これ、もう食べちゃっていいかお?」
(;´・ω・`)「まあ美味しそうだけど……出来上がりまで待とうよ」
川 ゚ -゚)「野菜とルーを持って来たぞ」
丁度いいところに野菜がやって来た。木べらをクーさんに渡してバトンタッチしてもらう。
炎の前でずっと炒めているのは流石に辛い。数分間鍋を見ていただけで、額から流れ落ちるほど汗をかいてしまった。
ξ゚听)ξ「へえ、火って普通に起こせるものなのね」
僕の後ろにいたツンさんが、感心した風にそう言った。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:39:38.21 ID:4aj2rA9u0
- そう言えば怪我はしなかったのかな、と思って指先に目をやると……案の定絆創膏が巻かれていた。
結構深くまでやってしまったのか、布の部分から染み出している赤色が痛々しい。
(;´・ω・`)「指、大丈夫?」
ξ゚听)ξ「ああこれ? 大した事ないわよ、それより絆創膏置いて行ったのあんたでしょ? 余計なお世話……と思ったけどありがとね」
(;^ω^)「おー、これは痛そうだお……」
('A`)「切り傷を指でなめてもらうイベントとか発生しねえかなー」
( ^ω^)「ドクオちょっと黙ってて」
川 ゚ -゚)「私がなめてやろうと思ったのだが、生憎ツンは照れ屋でな」
(*'A`)「百合……」
振り向きながら衝撃発言をさらりと投げつけてくるクーさん。真顔で言うもんだから、冗談なのか本気なのか全く分からないところが怖い。
更に言えば、クーさんなら何の疑問もなしに傷口をなめてしまいそうな気がする。僕の勝手な想像だけど。
ブーンの傷だったら、僕も疑問を持たずに、ていうか喜んでなめるかもしれないけど。……これは流石に変態だなあ。
健全な思春期としてはいささか激し過ぎる妄想だ。ドクオからすればまだまだレベルが低いんだろうけど。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:41:57.62 ID:4aj2rA9u0
- ξ゚听)ξ「事実を捏造してるんじゃないわよ」 どうやら冗談だったようだ。
( ^ω^)「……? ショボン、ブーンの指に何か付いてるかお?」
(;´・ω・`)「えっ? いや何でもないよ気にしないで」
川 ゚ -゚)「よし、ルーも入れたし後は軽く温めて溶かすだけだ」
ワイワイと盛りあがっている内に、カレーはほとんど完成していたようだ。嗅ぎ慣れた香辛料の匂いが漂ってくる。
ブーンにテーブルへ鍋を運んでもらい、全員分を皿に盛り付けて夕食の開始だった。
学校行事の恒例として、食前のいただきます。五人で手を合わせて、声を揃えた。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:47:01.29 ID:4aj2rA9u0
- ( ^ω^)「おいしいお! ハムッ、ハフハフッ、ハフッ!」
('A`)「ボルシチもあるでよー」
(;´・ω・`)「何それ、ていうかないから」
ξ゚听)ξ「うん、溶ける分も考えて具を大きめにしといて良かったわ」
川 ゚ -゚)「美味だ」
皆で食べると普段より何倍も美味しく感じる、と言うのは本当だと思う。何の変哲もないカレーなのに、普段食べているカレーよりも美味しく感じる。
ブーンはあっという間に平らげて二杯目を盛り付けている。ドクオは何やら歌いながら、ちびちびとスプーンを口に運んでいる。
ツンさんとクーさんは女性らしく、柔らかい動作でカレーをすくっている。皆が皆、違った食べ方をしているけど、共通しているのは笑顔だった。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:49:31.22 ID:4aj2rA9u0
- ( ^ω^)「ショボン、すごくおいしいお! おかわりするといいお!」
(´・ω・`)「本当? ありがとね」
おかわりを勧められたけれど、この身体になってから食が細くなってしまったようだ。カレー一杯を食べるので精一杯だった。
それに、ブーンに美味しいと言ってもらえただけで僕は満足だ。自分が作った料理を人が美味しいと言ってくれるだけで、心が満たされる。
それがブーンなら尚更だ。満面の笑みでそんな事を言われたら、お腹も胸も一杯で、他はもう何もいらない。心からそう思えた。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/25(土) 00:51:23.59 ID:4aj2rA9u0
- ξ゚听)ξ「ねえ見て、空が綺麗」
スプーンを置いたツンさんが、空をぼうと見上げてそう言った。全員が一斉に屋根の外に広がる空を見る。
(´・ω・`)「すごい……」
( ^ω^)「おー……」
('A`)「こりゃすげえ」
川 ゚ -゚)「美しいな」
先ほどまで空を覆っていた雲は消え、黄色く輝く月と、まんべんなく散らされた無数の星が彼方に浮かんでいた。
綺麗だ、と僕は思った。けれど、普段よりも近くにある空が今にも落ちてきそうな気がして、少しだけ怖いな、と感じた。
街灯も家の灯りもない中で輝くのは、僕たちがいる調理場だけ。蛍光灯の白色と炎の橙色が混じった光が、空に映っているような気がした。
第十話 おわり
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