3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 22:45:58.96 ID:2rzvdYcB0
 ジップ部分にレースの装飾が施されている、白いパーカー。
 白黒ボーダーのタンクトップ。
 黒のバルーンスカートに、薄い紫のニーソックス。
 キャスケットとアクセサリー。
 そして足元はパンプス。

 ――待ちに待った土曜日。今日はブーンとの初デートだ。
 僕は今、待ち合わせ場所である自宅近くの公園に佇んでいた。

(;´・ω・`)「まだかなあ……」

 とは言っても、待ち合わせ時間より前に来ている僕が早いだけなんだけど。
 家でじっとして待っている事がどうにも耐えられなくて、つい飛び出してしまった。
 白いトートバッグから携帯電話を取り出し、時間を確認する。
 待ち合わせの時間まで、あと十分。ブーンはまだ来ない。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 22:47:07.38 ID:2rzvdYcB0
 ブーンは待ち合わせ時間丁度にやって来た。
 ジーンズにパーカーという軽装だったので、僕だけ気合入り過ぎかなあ、なんて事を思う。

(´・ω・`)「おはよう、ブーン」

( ;^ω^)「おっ…………」

 僕の姿を見つめたまま、その場に立ち尽くすブーン。
 ……やっぱり気合入り過ぎたかなあ、それとも似合ってないのかな……?
 不安になったので聞いてみる。

(;´・ω・`)「えと、変かな……?」

( ;^ω^)「お……何と言うか……ショボンがショボンじゃ無いと言うか……」

(;´・ω・`)「やっぱり似合ってない……?」

( ;^ω^)「そんな事無いお! すごく可愛くて似合ってるお! ……あうあう」

 僕にとって最高の褒め言葉を頂いた。
 それも一番貰いたかった人から。
 ブーンは今の発言に照れてしまったように、話題を変える。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 22:49:16.18 ID:2rzvdYcB0
( ;^ω^)「ど、ドクオはまだなのかお?」

(´・ω・`)「そうだね、もう待ち合わせの時間過ぎてるのに」

 ドクオが来ない事は分かっているので、適当に話を合わせる。
 そろそろドクオから連絡が来るだろう。
 と思ったところで、ブーンの携帯電話が鳴り出す。

( ^ω^)「おっ、ドクオからメールだお、なになに……?」

('A`)『幼女に会いに行く急用が出来たから、二人で行ってくれ』

( ;^ω^)「幼女の部分は絶対に嘘だお……」

 ドクオらしいメールを合図に作戦開始だ。

(´・ω・`)「ドクオ来れないみたいだし、二人で行こっか」

( ^ω^)「そうするおー」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 22:51:04.58 ID:2rzvdYcB0
 郊外のショッピングモールまで自転車で行くのは辛いので、駅まで行ってバスに乗る。
 二十分ほど揺られて、目的地に到着だ。
 途中、色々な事をブーンと話した。学校の事や、趣味の事、そして僕の事も。
 ブーンは僕の事を「可愛いと思うお」なんて言ってくれた。それだけで僕はお腹いっぱいだ。
 そう言えば、二人きりで話すのは随分久しぶりかも知れない。
 いつも僕とブーンとドクオの三人で行動していたから、誰かがいないというのも珍しい気がする。
 なんだか、ブーンの笑顔を独り占め出来たような気がして、少しだけ嬉しかった。ドクオには悪いと思ったけれど。
 ショッピングモールに着いて、早速買い物を始める。
 大体何を買えばいいのかはリストアップしてきたので、意外とスムーズに終わりそうだ。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 22:53:32.77 ID:2rzvdYcB0
 まずは洋服。
 レディース物の洋服を売っている専門店へ入る。
 ブーンは少しだけ躊躇したけれど、一緒に付いてきてくれた。
 周りの人は僕達をどういう関係だと思っているのだろう。
 友達、親戚、家族。恋人――だったらいいな。

(´・ω・`)「これはどう?」

( ;^ω^)「ブーンにはよく分からないお……」

 やはり、と言っていいのかは分からないけど、ブーンは洋服に詳しくなかった。
 出来ればブーンの好みの服を買いたいんだけど……そうだ。

(´・ω・`)「じゃあさ、ブーンが女の子に着て欲しい服を選んでみてよ」

( ;^ω^)「おっ!? そんな事言われても困るお……」

(´・ω・`)「他の人の意見も参考にしたいし、ね?」

( ;^ω^)「おー……頑張ってみるお」

 自信無さげに店内を物色し始めるブーン。
 どんな服を選ぶのかな、と興味津々に僕は付いて行く。
 並べられている服を手にとっては、首を傾げたり僕に合わせて見てみるブーン。
 マネキンや他の客の服も参考にしているようで、その一生懸命な様子がすごく可愛かった。
 ――やがて決定した、ブーンのコーディネート一式。
 試着室に入り、早速着替えて見る。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 22:55:26.07 ID:2rzvdYcB0
(;´・ω・`)「どうかな?」

 淡いラベンダー色のレースワンピースに、ライトグレーのスカート、それに白黒ボーダーのカーディガン。
 全体的に落ち着いた感じで、可愛らしい服装だった。
 よく分からないと言いつつもしっかり纏まっていて、僕もいいと思う。

( ^ω^)「似合ってるおー」

(´・ω・`)「ブーンはこんな感じが好みなんだ」

( ;^ω^)「否定は出来ないお……」

 似た系統の服を数着買い足し、店を後にする。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 22:57:21.54 ID:2rzvdYcB0
 そろそろお腹が空いてきたな、と思い時計を見ると、お昼時になっていた。
 ブーンもお腹が空いてきたようだったので、レストラン街へ行き、適当にファミレスに入る。
 椅子に座り、大きな溜息をつくブーン。

( ´ω`)「疲れたお……」

(;´・ω・`)「ごめんね、付き合わせちゃって」

 僕は見た目が女だからいいけれど、ブーンにとってはアウェーその物だった事を思い出す。
 でも、後はそこまで気を使う場所は…………あった。

(;´・ω・`)「えーと……その……言いにくいんだけどさ……」

( ;^ω^)「どうしたんだお?」

(;´・ω・`)「下着買わなくちゃ……なんだよね」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 22:59:07.89 ID:2rzvdYcB0
 服よりも何倍、いや何十倍もハードルの高い下着売り場。
 正直、僕だって行きたくない。
 いても不審じゃ無い事は分かっているけれど、抵抗感がある事は確かだ。
 でも姉の下着を借り続けるわけにもいかないので、ここで買うしかないだろう。

( ;^ω^)「それだけはっ! それだけは勘弁して下さいお!」

(´;ω;`)「僕だって行きたくないんだよお!」

 あんな男子禁制のゾーンに足を踏み入れるなんて、想像しただけでも恐ろしい……。
 お願いだブーン!一緒に死にに行こう!

( ;^ω^)「わかったお! だから泣くのは止めてくれお! ブーンが悪者みたいだお!」

 ふと周りを見てみると、こちらを見てひそひそと話しているお客様の姿がちらほら。
 うわ、恥ずかしい……。
 きっと彼氏が彼女を泣かせてしまったと思ったのだろう。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:01:54.97 ID:2rzvdYcB0
(;´・ω・`)「う……ごめん。お詫びにデザート奢るからさ……」

( *^ω^)「ホントかお!? じゃあクリームパフェを頼むお!」

 相変わらず食べる事が好きというか、食い意地が張っているというか。
 デザート一つでそんな簡単に付いて来てくれていいのだろうか。
 そこは特に気にせずに、メニューを選び、注文する。

(;´・ω・`)「量が……」

 運ばれてきた料理を見て、内心驚く。
 僕の頼んだ料理では無く、ブーンの頼んだ料理だ。
 伝票を見てみる。えーと、「ステーキ300g」に「ベーコンピザ」に「チャーハン大盛」……。
 それに加えて飲み物と先ほどのクリームパフェだ。注文の時にウェイトレスさんが驚いていたのが忘れられない。
 僕はと言うと、スパゲティとコーヒーだけで十分だ。
 この体になってから食べる量も少なくなったし。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:04:20.32 ID:2rzvdYcB0
( ^ω^)「ハムッ! ハフハフッ、ハフッ!」

(;´・ω・`)「そんなに急いで食べなくても……」

 一応言うけれど、ブーンが美味しそうに物を食べている時の様子が好きだから、取り立てて注意はしない。
 喉に詰まらせないかは心配だけど。それにしてもよく食べるなあ。
 パーカーの上からでもうっすら膨らんでいるお腹を見ると、またドクオに「太ったな」と言われるんだろうな……。

(´・ω・`)「まあ好きだからいいんだけどね」

( ^ω^)「お? 何か言ったかお?」

(;´・ω・`)「な、なんにも」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:06:05.73 ID:2rzvdYcB0
 最初に運ばれてきた物を食べ終わった頃に、デザートのパフェが運ばれてきた。
 すごく……大きいです。全長三十センチはあろうかという器。
 敷き詰められたバニラアイスに、山盛りのフルーツ、これでもかと乗せられた生クリーム。
 えーと、これを一人で食べ切れるのかな?

( ^ω^)「ショボンも一緒に食べるお」

(;´・ω・`)「僕はそんなに甘い物食べられないけど……」

( ^ω^)「ブーンが食べるから残る心配はいらないお」

 と言って渡されたパフェ用の長いスプーン。
 それを装備して、テーブルの頂上にそびえ立つ雪山に挑む。
 まず一口。

(´・ω・`)「あ、おいしい」

( ^ω^)「クリームがさっぱりしてて食べやすいお」

 量の事を考えてあるのか、頂上の生クリームはあっさりとした味わいだった。
 これなら甘い物が苦手な僕でもおいしく食べられる。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:08:18.51 ID:2rzvdYcB0
 時々カチャカチャと二人のスプーンがぶつかって、僕はある事に気付いた。
 ……これは……ブ、ブーンと間接キス……。
 そうだ!ブーンがすくった所を重点的にすくって……うわ、冷静に考えるとこんな自分が気持ち悪い。

( ;^ω^)「どうしたお? 食べ過ぎて気持ち悪いのかお?」

(;´・ω・`)「なっなんでもないよ!」

 気持ち悪いのは自分です。
 僕の考えを知る由も無く、ブーンはおいしそうに食べていた。
 少しして、ブーンが僕の顔をじっと見ている事に気が付いた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:10:20.64 ID:2rzvdYcB0
( ^ω^)「………………」

(´・ω・`)「どうしたの?」

( ;^ω^)「おっ!? ……口の周りにクリームが付いてるお」

 指で拭ってみると、確かに生クリームが付いてきた。
 勿体無いので舐めておく。うん、おいしい。

( ;^ω^)「お…………」

(´・ω・`)「今度は何?」

( ;^ω^)「なっ、何でもないお」

 どうしたんだろう?
 気持ち悪くなったのかな、と思ったけれど、すぐに同じ勢いで食べ始めたのでそれは違ったようだ。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:12:05.14 ID:2rzvdYcB0
 ――結局、パフェはほとんどブーンが食べてくれた。
 そして、いざ下着売り場へ。

(;´・ω・`)「じゃあ、覚悟を決めて」

( ;^ω^)「色々とお詫びをしたい気分だから大人しく付いていくお……」

(´・ω・`)「お詫び?」

( ;^ω^)「ショボンは分からなくていい事だお」

 よく分からないけれど、ブーンが付いて来てくれるならそれでいいと思う。
 目の前にそびえ立つ、いやそびえ立ってはいないけど、下着売り場にいざ突入。
 下着だけを身につけたマネキンですら見るのが恥ずかしい。
 取りあえず、一般的な価格帯のコーナーを見てみる。
 ああ、ブーンの顔が真っ赤だ……。ごめんね、本当に。でも正直すごく可愛いよ……そういうところが。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:14:05.39 ID:2rzvdYcB0
(;´・ω・`)「えーと……僕のサイズは……」

(*;^ω^)「………………」

 後ろでさり気無く聞き耳を立てているブーン。悪いけど、僕は気付いているよ。
 聞かれて困る事は無いけれど、そういうところはやっぱり男の子なんだねえ……。
 なんて事をしみじみと思いながら、下着を選ぶ。
 さすがに下着の柄まで聞いたら狙い過ぎな気がするので、止めておいた。
 五セットほど選んで、会計へ。これで買い物は終わりだ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:16:03.44 ID:2rzvdYcB0
(´・ω・`)「僕の用はこれで終わりだけど、ブーンはどこか行きたい所ある?」

 時刻は現在三時過ぎ。
 この場所を出て遊ぶには少し遅いし、帰るには少し早くて中途半端な時間だ。

( ^ω^)「そうだおね……映画でも見に行くかお?」

 そういえば昨日そんな事を冗談で言っていたような気がする。
 映画か、それもいいかもしれない。せっかくだし見に行こうかな。

(´・ω・`)「うん、じゃあそうしようか」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:18:01.04 ID:2rzvdYcB0
 そうして僕達は映画館へ足を運び、映画を楽しむのであった。
 選んだのは、呪いが連鎖していくというストーリーの、和製ホラー映画。
 評判によるとかなり怖いらしく、劇場から出て来た客の中には泣いている人もいた。
 僕はホラーに耐性があるのだけど、ブーンはあまり得意な方では無いらしくその光景を見て少し腰が引けていた。
 怖いなら止めておく?、と聞いたけど、ブーンは自らを鼓舞するように、大丈夫だお、と一言。
 怖いもの見たさと言うやつだろうか?

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:20:00.37 ID:2rzvdYcB0
 上映中、ブーンに手を握られた。
 かなりドキッとしたけれど、汗で湿っていて小刻みに震えているその手に、ムードなんかがある訳も無く。
 あまりの怖さに反射的に僕の手を握っただけなんだろう。ホラーに耐性のある僕でも、ぞくぞくするほど怖かったから。
 まあ、それでもブーンの手の温もりを感じられただけで僕は幸せだ。
 このままずっと映画が続けばいいのに、なんて事を思ったりもした。
 そうすれば、このまま手を握っていられるから。ずっと温もりを感じていられるから。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:22:17.26 ID:2rzvdYcB0
 ――その願いはある意味で叶ったのだけれど。
 映画も終わって、不気味な主題歌とともにエンドロールが流れていく頃。
 そろそろ行こうか、とブーンに声をかけてみても反応が無い。

( ´ω`)「ちゃ、ちゃんと立てないお……」

 ブーンは弱々しく消え入るような声でそう言った。
 その少し情けない姿が、面白くて、可愛くて、クスッと僕は笑った。
 それを見てブーンは少し怒ったけれど、やっぱり情けない声で、それが愛おしくて。
 やっぱり僕はブーンの全てが大好きなんだなあ、と何度も思った事を再び確認した。
 ほら行くよ、と言って、自然な風にブーンの手を握って立たせる。
 フラフラと引っ張られるように付いて来てくれるブーン。帰りのバスに乗るまで、僕達は手を繋いでいた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:24:30.99 ID:2rzvdYcB0
 でも、こんな風に手を握っていられるのは、ブーンが僕の事を友達としてしか見ていないから?
 それとも、そういう対象として見ている人に手を握られて嬉しいから?
 バスの窓から射し込む夕日に照らされた、ブーンの横顔を見ながら考える。
 今日の事で、僕はブーンに意識させる事が出来たのだろうか。
 そういえば下着売り場で、ブーンは僕のサイズを知ろうとしていたけど、あれはどうなんだろう。
 僕は女の子に興味が無いから、女性の体のサイズに、一般的な男性がどういう興味を抱いているのか分からない。
 たとえ元の姿は男だったとしても、今の体が女のものであれば、そういう事は気になるのだろうか?
 今度、ドクオに訊いてみようかな。……一般的な趣味の男性とは言い難いけど。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/26(金) 23:27:13.97 ID:2rzvdYcB0
 考え事に耽っている内に、僕達が乗っているバスは駅に到着した。
 家路を二人で歩く。そこに会話は無かったけれど、特別な事では無いから。
 もう付き合いも長くなれば、沈黙だって苦じゃ無い。三人はそういう関係だった。
 カラスの鳴き声と買った物の入った袋の音をBGMに、二人は黙々と歩く。
 辺りの薄暗さと夕陽の逆光でよく見えない、ブーンの表情。
 その表情の内側で、ブーンは今どんな事を考えているのか、僕には全く分からない。
 その内、僕の家に着いた。けれど、今日はいつもよりも、別れるのが寂しかった。
 出来る事なら、二人でずっと一緒にいたい。無理だとは分かっているけれど。

(´・ω・`)「「また学校で」」(^ω^ )

 いつも通りの別れの挨拶。寂しいほどにいつも通りだった。

第七話 おわり


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