4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:08:13.80 ID:+zHlGlBo0
 ピピピッという、連続的な電子音が耳元で鳴っている。手探りで携帯電話を探し当て、耳障りなその音を止めた。
 ディスプレイに表示されている、「18:30」の数字。予定通り起きる事が出来てホッとした。

(´-ω・`)「ふわあ……」

 と欠伸をして、体を伸ばす。関節の所々が小気味よい音を立てた。
 ドクオとの待ち合わせの時刻までは、まだ少し余裕がある。
 ふと、空腹を感じた。そういえば、そろそろ夕食時だな。軽く食べていこうか。
 私服に着替えた後、台所へ行き、夕食の準備が出来ているかどうかを母に聞く。

J( 'ー`)し「おや、ショボンかい。夕飯まではもう少し掛かりそうだよ、ごめんね」

 落とし蓋をしてある鍋と漂ってくる匂いから察するに、今日の夕飯は肉じゃがのようだ。
 というか、既に僕のこの姿に慣れているんですね。順応性が高すぎやしないだろうか。
 夕食までは時間が掛かりそうだったので、ドクオとの待ち合わせを優先する事にした。
 母にもその旨を伝えて、公園へと向かう。春先とはいえ、この時間帯は少し肌寒かった。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:09:58.20 ID:+zHlGlBo0
 待ち合わせ場所である公園に付いたのは、ちょうど午後七時だった。
 目を凝らすと、自動販売機の光に照らされている一人の人間が見える。
 背中しか見えないが、たぶんドクオだろう。僕は、小走りで自販機の元へと向かった。

( ´・ω・`)ノ「ドクオー」

 近付きながら声をかける。こちらを振り向いた人物は予想通りドクオだった。

('A`)「お、時間ちょうどだな。……まあ俺が早く来すぎただけか」

 そう呟き、何かを放り投げて渡された。温かい。ラベルを見ると、缶コーヒーのようだ。
 ありがとう、と礼を言い、早速本題に入る。どうしてここに呼んだのか。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:11:58.56 ID:+zHlGlBo0
(´・ω・`)「さっそくだけどさ、どうしたの? 二人で会いたいなんて」

('A`)「ん、ああ……。長くなるかもだからベンチで話さないか?」

 と言い、入口付近に設置されているベンチを指さす。
 それに頷き、僕とドクオは場所を移す。念のため、母に「遅くなるかもしれない」とメールを送っておいた。

(´・ω・`)「どうしたの? 長くなる話なんて」

('A`)「……ああ。俺はこういうの苦手だから単刀直入に言うわ」

 そこで言葉を区切り、大きく息を吐き出すドクオ。
 一体どんな話だというのだろう。まさか告白?……いやいや、そんな事があってたまるか。
 色々と想像していると、突然ドクオが切り出してきた。

('A`)「お前さあ……ブーンの事好きだろ?」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:13:59.63 ID:+zHlGlBo0
 一瞬、何を言われているのか分からなかった。全く予想外の言葉が飛び出してきたからだ。
 どうしてドクオが知っているんだ?……誰にも言った事はないのに。
 心臓の音がやけに響いている。呼吸が速くなる。眩暈がしてくる。

(;´ ω `)「なっ、何を言ってるんだよいきなり……違うよ。そりゃ友達としては好きだけどさ……」

 動揺しながらも否定する。だが、ドクオは動揺している僕を気にせずに続けた。

('A`)「隠さなくていいさ。小学校からの付き合いだからな……分かるんだよ。なあ、正直にお前の口から教えてくれ」

('A`)「お前はブーンの事が、好きか? 友情としてじゃなく、恋愛感情としてだ」

 もう完全にバレてしまっているようだ。今さら隠しても、無駄な事だろう。
 だけど、自分の口からそれを言うのが怖い。……こういう話題に関しては、誰も信じられない。僕の悪い癖だ。
 でも、気付かれてしまったんだ。ドクオなら、受け入れてくれる。そう信じよう。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:15:55.81 ID:+zHlGlBo0
(´ ω `)「もう……隠す必要もないよね……」

 初めて口に出す、僕の気持ち。

(´・ω・`)「僕は、ブーンの事が大好きだよ」

 声が震えてしまったけれど、僕は言った。
 少しの間の沈黙。そしてドクオが話し始める。

('A`)「……そうか。お前の口から聞けてよかったよ」

 と言い、続ける。

('A`)「実はな、中学に入った頃から薄々と感じてたんだ。お前がブーンに特別な感情を抱いてるって事は。
    もっとも、ブーンは今でも気付いてないけどな。色恋沙汰に関しては本当に鈍いやつだから。
    ブーンに限らず、俺以外で気付いてるやつはいないみたいだから安心しろ。
    ……お前がブーンを好きだって気付いた時は困ったぜ?何しろ男同士だしな。
    そういう指向の人間を差別する気はないが、ブーンは違うだろ?
    応援するか気付かない振りをするか。まあ、今日まで気づかない振りをしてたんだけどな」

(;´・ω・`)「そんな前から気付いてたんだ……」

('A`)「付き合いが長いと分かっちまうんだよ。……で、ここからが本題だ」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:18:13.35 ID:+zHlGlBo0
 本題?まだ何かあるというのだろうか。不思議そうな顔をしている僕に、ドクオが訊く。

('A`)「お前は、どうしたい?」

(;´・ω・`)「……どうって?」

('A`)「その気持ちを抑えて、友達のまま付き合い続けるか。それとも実るかどうかは分からないが想いを伝えるか。どっちだ?」

(;´・ω・`)「それを悩み続けてきたのに……そんなに簡単に決められないよ……」

('A`)「ああ……そうだろうな」

 だが、とドクオは言い、僕の事を指差しながら話した。

('A`)「今のお前は事実上、女だ。今までよりは可能性が格段に上がった、そう思わないか?」

 確かにそうだ。僕の体は女性のものだし、その上恋愛対象という点だけで見るなら僕は女そのものだろう。
 だけど、僕の心は男だ。……それに、ブーンは僕と今まで通りに接しようとしている。
 ブーンもそれを望んでいるのではないだろうか。それならブーンの望んだとおりにした方がいいのではないだろうか?
 伝えたい、でも関係を変えるのが怖い。結局、僕は僕のままだ。何一つ変わっていない。
 思考の無限ループを続けて、何分経っただろうか。ドクオが話しかけてくる。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:20:02.37 ID:+zHlGlBo0
('A`)「一応言っておく。ブーンだって男だ。昼間はああ言ったが、お前をそういう目で見ないなんて事はほとんど有り得ないと思うぞ。
    あいつもあいつなりに悩むんじゃねえか?お前をどういう目で見ればいいのかを。……ああ、昼間の俺は冗談だからな、念のため言っとく。
    友達として付き合い続けるか、ちゃんと思いを伝えるか。お前がその体でいる限り、いつかは選ばなきゃいけないだろうな」

(´ ω `)「……そう、だよね。でも少しだけ、時間をくれる? 考える時間が欲しいんだ」

('A`)「ああ、分かった」

 と、そこで区切る。

('A`)「もし、想いを伝えたいってんなら、協力してやるよ。……友達としてな」

 ドクオは立ち上がり、「また明日な」と言って公園を去っていった。
 ベンチに一人残された僕。飲まなかったコーヒーは、すっかり冷めてしまっていた。せっかく奢ってくれたのに。
 携帯電話を開いて、時間を確認。気付かない内に一時間以上も話し込んでいたようだ。
 コーヒーを一気飲みして、ベンチを立ち上がって、家に戻る。
 
 家路を歩きながら、どうしようか考える。与えられた二つの選択肢、この体でいる限り逃げる事はもう出来ない。
 再び思考の無限ループを続け、気付いたら家の前まで着いていた。無意識の行動に感心しつつ、玄関のドアを開けた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:22:03.02 ID:+zHlGlBo0
(´・ω・`)「ただいまー」

从 ゚∀从「おう、おかえり」

 出迎えてくれたのは、風呂上がりらしき姉だった。

从;゚∀从「お前なあ、見た目は一応女なんだからさ、あんまり夜遅くまで外にいるなよ?」

 まだ濡れている髪をタオルで拭きながら言う。心配させてしまったようだ。

(;´・ω・`)「ご、ごめん……」

 と言ったところで、僕のお腹が声を上げる。そういえば夕食をとっていなかったんだ。
 リビングへ行くと、母が僕の分の夕食を皿に盛ってくれていた。礼を言い、よく味の染みた肉じゃがを頬張る。
 いつもよりすぐお腹が膨れたのは、体が変わったせいだろうか。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:24:12.80 ID:+zHlGlBo0
 風呂に入り、まじまじと自分の体を見てみる。
 全体的に体型が変わっていて、体毛も細く、薄くなっている。それと、どことなく皮膚がきめ細やかになったように感じた。

(;´・ω・`)「……なんか恥ずかしい……」

 いくら自分の身体とはいえ、異性の体だ。興奮する事は無いけれど、どこか気恥ずかしいところがある。
 さっさと上がろうと思い、体を洗い始める。………大事なところを洗う時は、少し抵抗感があった。

 体を拭き、また姉から借りた下着を身に付ける。明日元に戻ってなかったら、下着と服を買わなくちゃな、と僕は思った。
 考えてみれば、僕の持ち物は全て男ものだ。いや、当たり前の事だけど、それだとこれからの生活で困るだろう。
 今週の休みにでも生活用品の買い物に行こう。長い髪をタオルで拭きながら、そんな事を考えていた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/09/19(金) 00:26:01.65 ID:+zHlGlBo0
 部屋に戻ると、僕はすぐに布団にもぐった。昼寝をしたものの、まだ疲れは取れていなかったからだ。
 目を瞑り、公園でドクオが言った言葉を思い浮かべる。二つの選択肢。まだどちらを選べばいいのか分からない。
 正直なところ、僕が選びたい選択肢は決まっていた。だけど、それを選んでいいのか悩むのは、自分一人の問題じゃないから。
 「恋愛とは本来自分勝手なものだ。だが、そのように行動出来ないのは、相手の事が好きだからである」という、前に本で読んだ言葉を思い出す。
 今まで、自分と言うものを極力出さないようにしてきた自分。これからもそうしていこうと思っていた。――昨日までは。
 もしかしたら、変われるチャンスかもしれないな、なんて事を思う。

(´-ω-`)「中身も変わってみようかな……」

 少しだけ考えがまとまったところで、僕の意識は夢の世界へと旅立っていった。

第三話 おわり


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