32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/17(水) 00:03:13.44 ID:6m2s2u7y0
 僕とブーンとドクオが出会ったのは、小学校の時だった。
 元気一杯で明るいブーンと、変わり者のドクオ、そして大人しかった僕。
 それぞれ全く違う三人。その切っ掛けを作ったのは、ブーンだった。
 クラスでは一人でいる事の多かった僕とドクオに
 
( ^ω^)「一緒に遊ぶお!」

 と話し掛けてくれたのだ。
 僕はとても嬉しくて。ドクオはあまり乗り気では無かった気がするが、三人で遊ぶと次第に打ち解けていった。
 そして、小学校を卒業し、同じ中学へ進学し、高校も三人が同じ所へと進学する。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/17(水) 00:05:15.20 ID:6m2s2u7y0
 ブーンへの気持ちに気が付いたのは、いつ頃だっただろうか。小学校の高学年頃だった記憶がある。
 それくらいの年齢になれば、子供たちの間では異性についての話題が出始める。
 はっきり言って、僕には「好き」という気持ちがよく分からなかった。
 周りの男の子に、「好きってどんな気持ち?」と聞いても、その答えはよく分からないもので、僕を混乱させた。
 抽象的なものであったり、具体的なものであったり。大人びた男の子に性的な事を言われて、顔を真っ赤にした事もあった。 
 そして、僕はある日気付いてしまった。その男の子が言っていた「性的な事」の対象がブーンである事に。
 当然、僕は混乱した。ブーンは女の子ではない、男の子で僕の友達だ。そんな事を考えちゃいけないんだ。
 自分は病気なんだ、と思い悩み続けた。だけど、相談出来る人がいなかった。
 同年代の子供に聞いても分からないだろう。かと言って、先生に相談はしたくない。家族に言ったら、僕は捨てられてしまうかもしれない。
 子供ながら、馬鹿な事を考えていたものだ。だけど、当時の僕にとっては大問題だった。
 日に日に悩みは増し、それに伴って元気も無くなり、ブーンの前で上手く笑う事が出来なくなった。
 そしてある日、僕は学校で倒れてしまう。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/17(水) 00:08:16.63 ID:6m2s2u7y0
 気が付いたら、僕は家の布団の中にいた。どうやら母親が連れて帰ってくれたようだ。
 枕元には、「買い物に行ってきます お母さん」のメモと、ラップに包まれたおにぎり。
 心配させちゃったな、と悪い気分になりながら食べたおにぎりは、優しい味がした。
 しばらくしてインターホンが鳴った。家には僕しかいないので、僕が出るしかない。
 そう思い、階段を降りて玄関のドアを開ける。そこにいたのは、ブーンだった。
 とても心配そうな顔で、

( ;^ω^)「大丈夫かお!?」

 と僕に言う。だけどやっぱり上手く話せなくて。
 ブーンは、情けない声で「大丈夫だよ」と言う僕を部屋へ引っ張り、無理やり布団に寝かせた。
 きっと、まだ具合が悪いと思ったのだろう。
 部屋の中には、僕とブーンが二人きり。ブーンは何も話し掛けてこない。とても気まずかった。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/17(水) 00:10:16.18 ID:6m2s2u7y0
 数分経った頃だっただろうか、それとも数十分経った頃だっただろうか。

( ^ω^)「ショボン、最近様子がおかしいお? 何かあるなら話してほしいお」

 体がビクッと震えた。それを隠すように「何もないよ」とすぐに返した。
 だけど、ブーンは納得しなかった。

(#^ω^)「嘘つくなお! 何かある事くらいブーンには分かるんだお!」

 それは、初めて見たブーンの怒り。
 だけど、それはすぐに治まり、心配するような顔に戻った。

( ;^ω^)「怒ってごめんお……。でも、ショボンが心配なんだお、友達なら話してほしいんだお」

 その言葉が切っ掛けだったのかは分からない。僕の目からは涙が溢れていた。

( ;^ω^)「お!? どうしたんだお、ショボン!?」

 泣き顔を見られたくない僕は、ブーンから顔を背ける。
 だけど、ブーンは言う。

( ^ω^)「こっちを向いてほしいお」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/17(水) 00:12:34.49 ID:6m2s2u7y0
 諭すような、優しい口調。僕は、顔を背けるのを止める。その瞬間、柔らかい物に体が包まれた。
 それは、ブーンの体だった。僕の顔を胸に埋めるようにして、ブーンが僕を抱きしめている。
 体温、匂い、柔らかさ。ブーンがすぐ近くにいるという感覚。
 声にならない声で、僕は願った。

(´ ω `)「おね…がい……もうすこし……このままでいて……」

( ^ω^)「ショボンが離れるまではこのままだお」

 色々な物がごちゃ混ぜになって、涙となって溢れている。そう感じた。
 あまりに混ざりすぎて、自分でも何故泣いているのか分からない。
 恥ずかしげも無く声を上げ、僕はブーンの胸でただ泣き続けていた。
 母親が帰ってくるその間まで、ブーンは僕の涙に付き合い続けてくれた。

 結局、僕はブーンに何も言う事が出来なかった。ブーンもあれ以上僕を問いただそうとはしなかった。
 あの涙で全てを吐き出してしまったのか、ブーンの前でも以前と同じ風に笑えるようになったからだろう。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/17(水) 00:14:24.38 ID:6m2s2u7y0
 そして、僕は自分が病気ではない事を知る。同性を好きになる人間だっているという事を知ったからだ。
 だけど、それはかなりの少数派である事も知った。その少数派に対して根強い差別と偏見がある事も。
 そして僕は、「異性を好きな自分」という役を自分の中に作り、必要な時はその役を演じた。
 
 ――もちろん、ブーンの前でも。
 「嘘を付いている」と罪悪感に駆られる事は度々あった。
 だけど、僕の前で笑うブーンを見ると、そんな事も言えなかった。
 彼の笑顔が見られなくなるかもしれなくて、怖かった。彼と一緒にいられなくなるかもしれなくて、怖かった。
 だけど、やっぱりブーンの事が大好きで。
 伝えたい、でも関係を変えたくない。この二つの気持ちに挟まれ続けて、僕は生きている。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/17(水) 00:16:13.68 ID:6m2s2u7y0
(´ ω `)「ん……」

 いつの間にやら寝てしまっていたようだ。気が付けば授業は終わり、周りの生徒は帰り支度を始めている。
 ……夢を見ていたようだ。とても懐かしい夢だった。
 そこで、自分が女子用の制服を着ている事に気付き、思い出した。

(;´・ω・`)「あ……そういえば女になったんだっけ……」

 そして、思い出したくない事も思い出す。屋上でブーンが言った、「今まで通り、友達」の言葉。
 そんなに甘くないよね、と自虐的に呟く。隣の席を見ると、その言葉の主が爆睡していた。
 前の席に座っているドクオも同様。取りあえず、二人を起こす事にする。

(´・ω・`)「ブーン、ドクオ、授業終わったよ」

('A`)「んあ……ああ、もうそんな時間か」

 ドクオはすぐに起きてくれたが、ブーンがなかなか起きない。
 仕方ないので体を揺さぶって無理やり起こす。

(;´・ω・`)「ブーン、授業終わったよー!」

 ゆっさゆっさと揺れる大きな体。僕の体が小さくなったせいか、大きく見える。

('A`)「ああ、こいつ一層ピザになったな」

 なるほど。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/17(水) 00:18:09.68 ID:6m2s2u7y0
 しばらく揺すっていると、ドクオが「俺に任せろ」と言い、ブーンの耳元で何かを囁き始める。
 何と言っているのだろう、と思った瞬間、ブーンが飛び起きた。

( ^ω^)「肉だお! 肉がブーンを呼んでいるお!」

 ブーンが奇声を発しながら、急いで帰り支度を始める。
 何と言ったのかドクオに聞いたら、「焼き肉喰いに行くぞ、俺の奢りだ」と言ったらしい。
 なるほど、次からはその手を使ってみよう、と僕は思った。

('A`)「嘘に決まってんだろ、お前が起きないのが悪いんだよピザ」

( ;ω;)「おーん……肉……焼き肉食べたいお……」

('A`)「だいたいこの腹は何だ。重量三桁突破するんじゃねーか?」

 と言いながらブーンのお腹を掴むドクオ。確かにそれくらいはあるかもしれない。
 十枚くらいのオブラートに包んで形容しても「ぽっちゃり系」だろう。
 まあそこが好きなわけでもあるけど、ブーンの健康に害が無いか心配だ。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/17(水) 00:20:03.94 ID:6m2s2u7y0
(;´・ω・`)「ま、まあ二人とも。取りあえず帰ろう?」

('A`)「そうだな」

( ;ω;)「おー……分かったお……」

 叶わなかった焼肉への願望を呟くブーンを慰めながらの下校。
 三人での帰り道はいつも通りで、まるで僕の体が女のものになってしまった事が嘘のようだった。

 僕の携帯が震えている事に気付いた。どうやらメールが届いたらしい。
 送信者は……ドクオ?横を歩いているドクオを見てみるが、メールについて触れようとする気配はない。
 とりあえず、内容を見てみる。

('A`)『この後二人で会えるか? 会えるならお前の家の近くの公園で七時な 無理ならメールくれ』

 この後に二人で?何かあるというのだろうか。ブーンを誘わない事も気になった。
 ふと、昼間の事を思い出す。……いくらドクオでも、強姦紛いの事はしないだろう。
 変わり者だが、一般常識と人並みの理性は持ち合わせてるし、何より長い付き合いだから分かる。
 僕も何か用事があるわけでもないし、行ってみるか。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/17(水) 00:22:07.85 ID:6m2s2u7y0
( ^ω^)ノ「ばいぶー」

('A`)「んじゃまた明日」

(´・ω・`)「じゃあね、また明日」

 あっという間に僕の家だ。二人と別れ、自室へ戻る。
 朝から色々な事がありすぎて、疲れてしまった。制服を脱ぎ捨てて横になる。
 考えるのは、ドクオからのメールについて。
 別れる時にも、わざわざ「また明日」なんて付け足して、どうしたというのだろう。
 ブーンがいると困る事でもあるのだろうか。

(´・ω・`)「行けば分かる事か……」

 考えても無駄だな、と結論付け、携帯のアラームを午後6時半にセットして眠りに就く。
 うつ伏せになると、今までは無かった膨らみが潰れて、少し痛かった。


第二話 おわり


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