1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/16(火) 23:25:27.23 ID:/lJRzwL+0
 ずっと叶わない恋を続けていた。
 仕方ない、と無理矢理にでも納得するように努めた。
 ブーンには「そういう対象」としてすら、見てもらえなかったから。
 でも、心のどこかでは諦め切れない僕がいた。
 ブーンへの気持ちを無くす事が出来るほど、器用な人間ではなかった。

 だけど、実際の僕はとても臆病で、行動なんか何一つとして起こせない。
 たった一息で伝えられる言葉さえ、口に出せない。
 伝えたい、でも関係を変えるのが怖い。その二律背反。

 ずっと、それが続いていくと思っていた。
 ――あの日までは。


(´・ω・`)ショボンが女体化したようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:26:58.67 ID:/lJRzwL+0
 あ…ありのまま今気付いた事を話すぜ!
 『朝起きたら、女になっていた』
 な…何を言ってるのか分からないと思うけど、僕も何をされたのか分からなかった…。
 頭がどうにかなりそうだった…。

(;´・ω・`)「うわあああああっ!?」

 改めて驚愕した。起きてすぐの絶叫は頭に響いたけれど、今はそんな事を気にしている場合ではない。
 上半身には、控えめながら今までなかった膨らみがあるし、逆に下半身には、今まであった物の感触がない。
 取りあえず、着ていたTシャツを脱いでみる。たぷん、と揺れる二つの山。

(´・ω・`)「どう見ても女です、本当にありがとうございました」

 なんて冷静になっている場合ではない。これはあれだろうか。巷でブームの女体化というやつだろうか。
 まさか自分の身にそれが起こるとは。というか何故この身にそれが。

(;´・ω・`)「顔は!? 顔は!?」

 慌てて洗面所へと駆け出す。鏡に写っていたのは、僕の知らない女の顔だった。
 肩まで伸びたストレートの黒髪、少したれ気味の眉、くりっとした目、形のいい唇。

 現状を確認したところで、気を落ち着かせる。よし、考えよう。
 僕はもともと女だったか?いや、違う。少なくとも昨日の風呂の時点では男だった。
 寝ている間に性転換手術?そんな馬鹿な。傷跡も縫合の跡も残っていない。
 呪文を唱えれば姿の変わる魔法のコンパクトを使った記憶はないし、そんな物が存在するとは思いたくない。
 ああ……どんどん考えがおかしな方向に……。女になる事自体がおかしなことだけど。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:28:52.49 ID:/lJRzwL+0
(;´・ω・`)「……どうしよう」

 とりあえず呟いてみる。現状は変わらず、鏡に映る僕の姿は女のままだった。
 元に戻る方法も分からないので、取りあえずはこれからの事だろう。冷静に考えて、まずは家族に事情を説明しなければ。
 そして今日は平日。学校に行かなければいけない。暫くすれば、友人達が迎えに来るだろうし、彼らにも説明しなければいけない。
 覚悟を決めて、家族の待つリビングへ。信じてもらえなかったらどうしよう。
 「知らない女が我が家に!」とか通報されないだろうか。身元不明人として警察に厄介になるのはごめんだ。

J( 'ー`)し「ああ、ショボンかい? ずいぶん可愛らしくなったねえ」

(;´・ω・`)「えええええっ!? それだけえええっ!?」

 説明に要した時間、僅か30秒。母曰く、「母親なら分かる」らしい。正直、全く分からない。
 何故か父と姉も理解が早かった。何で落ち着いて朝食を食べているんだ。
 もしかしたら僕の家族は異常なのではないだろうか。もっとも、今の僕にとってはありがたい事だが。

 家族への説明はあっさりと済んだ。次は学校関係の事だろう。
 いつ戻るかも分からないのに、休み続けるのはまずいし、やはり登校して事情を説明するべきだ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:30:55.00 ID:/lJRzwL+0
(;´・ω・`)「あ……制服はどうしよう」

 出来る事なら自分の制服がいいのだが、身長が縮んでしまったので、男子用の制服を着るのは難しい。
 そういえば、と僕は思い出し、同じ高校に通っていた姉を頼る事にした。身長も同じくらいだったな、と思い出しながら姉の部屋へ。

(´・ω・`)「姉さーん、高校の制服まだ家にある?」

 扉をノックしながら尋ねる。

从 ゚∀从「あるぞー。取りあえず部屋入れ」

 と姉が返した。よかった、捨てていなかったようだ。母親に限らず女性と言うものは物持ちがいいのだろうか。

从 ゚∀从「ほれ、見たところサイズは合ってるだろう」

 部屋に入るや否や、ひょい、と僕の方へ放り投げられた女子用のブレザーを受け取る。
 体に合わせると、確かにサイズはピッタリのようだった。う……だけどスカートが短い……。

从 ゚∀从「それと」

(´・ω・`)「まだ何かあるの?」

 と僕は尋ねる。もう受け取る物はないと思っていたが、まだ何かあるのだろうか。
 不思議そうな顔をして首を傾げた僕に、姉が言った。

从 ゚∀从「お前下着付けてないだろ」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:31:59.92 ID:/lJRzwL+0
 何を唐突に。僕にはノーパンで登校するような趣味は断じてない。

(;´・ω・`)「パンツくらい穿いt」

从 ゚∀从「ブラだブラ。まさかノーブラが趣味か? 俺ので悪いが、まあ緊急事態だし気にすんな」

 ああ、そういえば女はブラジャーがいるんだっけ……。迂闊だった。
 姉から渡されたのは薄い水色の女性物下着。ご丁寧に同系色のパンツまで付いている。
 ていうか、性格に似合わず清楚な感じの下着ですね。それを言ったら殴られそうなので胸に留めておいたが。

从 ゚∀从「変な想像したり変な事に使ったら殺す」

(;´・ω・`)「そんな事しないから!」

从 ゚∀从「冗談だ馬鹿。付けてやるからTシャツ脱げ」

(;´・ω・`)「いいよ……自分でするから」

 と言ったものの、付けられない。大体の方法は分かるのだが、背中で小さい金具を嵌めるのは難しそうだ。
 悩んだ末、大人しく姉に頼む事にした。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:33:53.64 ID:/lJRzwL+0
 ――色々とよろしくない事が起こったが、身支度は終わった。
 「よろしくない事」とは、主に姉のセクハラだったり姉のセクハラだったり姉のセクハラだったり。
 玄関の全身鏡に写った僕を見る。どこからどう見ても女の子だ。自分で言うのもなんだけど、それなりに可愛いのではないだろうか。
 少しポーズを取って見る。その姿を姉に見られた。鏡で自分の頭をかち割りたい衝動に駆られたが、我慢する。

(;´・ω・`)「そろそろ時間か……」

 携帯電話の時計を見ると、迎えが来る時間までもう少し。この姿を見て何と言われるか、かなり不安だ。
 そもそも信じてもらえるのだろうか。僕の家族のようにはいかないと思う。どうにかして信じてもらうための策を考えている内に、チャイムが鳴った。
 外から聞こえてくる、聞きなれた談笑の声。どうやら時間切れのようだ。ゆっくりと玄関のドアを開き、顔を覗かせる。

( ^ω^)「おいすーショボンー」

('A`)「うぃーっす」

 僕の姿が見えた瞬間、二人の顔色が少しだけ変わった。
 当然だろう。友人を迎えに行ったら見知らぬ女が出てきたのだから。

(;´・ω・`)「えーと……何て言えばいいのか……」

 言葉に詰まる。見た目で分かってもらえるはずがないので、説明しなければ始まらないのだが。
 無言のまま立ち尽くしている僕に、ブーンが声をかける。

( ^ω^)「お? ショボンの親戚さんかお?」

 予想通り、見た目だけでは分かってくれないようだ。自分で見ても別人としか思えないので、当然と言えば当然か。

('A`)「うちの制服着てるし、転校して来たんじゃね?」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:35:00.59 ID:/lJRzwL+0
 ドクオも気付いてくれないようだ。取りあえず、事情を説明してみた。

(;´・ω・`)「えーと……信じてもらえないかもだけど……僕だよ、ショボンだよ」

( ^ω^)「おっおっおっ、面白い子だお」

('A`)「ハイハイワロスワロス」

 冗談だったらどれほどいい事か。むしろ別人として生きた方が楽かもしれないな。
 なんて事を考えつつ、僕は二人に事情を話し始める。

(;´・ω・`)「それが本当の話なんだよ……、ブーン、ドクオ」

 名前が僕の口から出た事で、顔色を変えた二人。数秒間の沈黙後、二人が口を開く。

( ;^ω^);'A`)「……マジ(かお)?」

(;´・ω・`)「うん」

 どうやら信じる方向で話は聞いてもらえるようだ。さっそく説明を開始する。
 説明と言っても、事実を話すしか方法がないのだけど。

(;´・ω・`)「あ…ありのまま今朝気付いた事を話すぜ!(以下省略」

( ;^ω^)「なんというポルナレフ」

 僕は粗方の事情を二人に説明し、持ち物などを見せて確認する。
 携帯電話に、生徒手帳、勉強道具の類、その他私物を色々。
 駄目押しで、この三人しか知り得ない事などを話す。それが決定打のようだった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:37:01.22 ID:/lJRzwL+0
(;'A`)「ま、まあそう言うんならそうなんだろうな」

( ;^ω^)「ショボンが他人に秘密を漏らすとは考えられないお」

 一応のところは分かってもらえたようだ。学校でもこれが繰り返される事を考えると、今から憂鬱になる。
 ドクオが携帯電話を開き、ディスプレイに表示されている時間を見て慌て始めた。
 どうやら、説明に手間取ってかなり時間が経っていたようだ。

(;'A`)「やべっ! 早く行かないと遅刻するぞ!」

( ;^ω^)「おっ!? じゃあ走るお! ショボン、行くお!」

(;´・ω・`)「あ、うん!」

 ブーンが両手を広げて走り出す。昔からの癖だ。ドクオと僕も、それを追いかける。
 走りながら考えるのは、これからの事。……そして、前を走るブーンの事。
 僕は、ブーンに恋をしている。ブーンの事が大好きだ。その気持ちに気が付いたのは、だいぶ前の事だった。
 だけど、同性という壁はとても高くて、その気持ちをアピールする事も伝える事も出来なかった。
 この悩みを相談できる相手もいなくて、一人で悩み続けていた。
 そして今、肉体的にだがその壁は打ち破られている。これは、チャンスなのだろうか。
 「自分が女だったら」なんて想像をした事もあった。それが今、現実に起こっている。
 僅かな希望を胸に感じながら、僕は学校へと駆けて行くのだった。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:39:07.20 ID:/lJRzwL+0
 ――結局、学校には遅刻してしまった。
 体が変わったせいで、身体能力も変わってしまったのか、上手く走れなかったのだ。
 慣れないスカートと、ブラで抑えているとはいえ、上半身の揺れのせいもあった。
 そして現在、教室のドアの前。今はホームルームの時間だろうか。静寂に包まれているので、かなり入り辛い。

( ;^ω^)「遅刻しちゃったお……。それよりショボン、どうするんだお?」

(;'A`)「そういやそうだな……」

(;´・ω・`)「まあ、説明はしてみるよ」

 信じてもらえるか、というか、信じてもらわなければいけない。
 取りあえず、二人にも説明してもらう事にした。僕以外の証言があれば信憑性も増すだろう。ブーンが教室前方の立て付けの悪いドアを開け、教室へ入る。

( ;^ω^)「お、おはようございますおー」

(;'A`)「遅刻してすんません」

( ´∀`)「モナ? ブーンとドクオかモナ、遅刻には気を付けるモナ。おや……後ろの君は誰モナ?」

 担任が僕に気付いたが、やはり僕だとは分からないようだ。一目で僕だと分かってしまうと逆に怖いけれど。
 クラスメート達が一斉に僕を見る。なんだか物凄いアウェー感。二人とアイコンタクトをし、事情を説明する。

(;´・ω・`)「あの……信じられないかと思いますが、ショボンです」

( ;^ω^)「ブーン達も驚いたけど、ショボンなんだお」

(;'A`)「信じてやってください……」

 理由が本人である僕にすら分からないので、二人が出来る説明もこれ位のものだろう。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:41:04.98 ID:/lJRzwL+0
( ;´∀`)「…………」

 にこやかな顔を崩さずに、困ったような顔をする担任。クラスメートは唖然とした顔をこちらに向けている。
 ブーンとドクオの時と同じように、持ち物を見せてみる事にした。鞄を広げ、教卓の上に広げていく。

(´・ω・`)「取りあえず、生徒手帳です。これは体操着、これが教科書の類」

 最終的に、携帯電話の個人情報の画面まで見せた。
 ここまでくると流石に信じるしかないのか、普段はにこやかな担任も真面目な顔付きになった。

( ´∀`)「……職員室に行くモナ。ショボンの家に電話してみるモナ」

(´・ω・`)「分かりました」

( ´∀`)「先生が戻ってくるまでは自習しておくモナー」

 そう言って、担任は職員室へと僕を連れていくのであった。僕と担任が廊下に出た途端、騒がしくなる教室。
 きっと二人は質問責めに遭っているのだろう。後で謝らないといけないな、と思いながら職員室へと向かった。
 その間、僕と担任の間には会話無し。廊下には二人の足音だけが響いていた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:43:06.50 ID:/lJRzwL+0
 ――そして、確認終了。
 所要時間、なんと一分足らず。最後の方は世間話になっていたが、これでいいのだろうか。
 長々と職員室にいるのも心地が悪いので、いいと言えばいいのだが、少し不安だ。

( ´∀`)「まあ、本人である事は確認したモナ。」

(;´・ω・`)「ありがとうございます」

( ´∀`)「それで、性別的にはどちらの扱いにした方がいいんだモナ?」

 と、担任が聞いてきた。今まで思わなかったが、そんな問題があったなあ……。
 今の僕は、身体的には女だが精神的には男のままだ。少し時間をもらい、考える。
 その結果、制服は女子だが取りあえずは男子の扱いで、着替えの時などは教師用の更衣室を使わせてもらう事になった。
 ちなみにトイレは女子の物を使う事にしたが、極力我慢した方がいいだろう。
 いくら見た目が女といえ、女子トイレに男子がいるのは僕が気まずい。

( ´∀`)「教室に戻るモナ。皆には先生から説明するモナ」

 と担任は言い、職員室を出た。僕はそれに付いて行く。
 教室の前まで戻ると、教室内の騒がしさは一段と増していた。
 周りの教室が授業中で静かなのも相俟って、階段を上った時点でそれに気付いたのだが。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:45:02.16 ID:/lJRzwL+0
( ´∀`)「教室に戻るモナ。皆には先生から説明するモナ」

 と担任は言い、職員室を出た。僕はそれに付いて行く。
 教室の前まで戻ると、教室内の騒がしさは一段と増していた。
 周りの教室が授業中で静かなのも相俟って、階段を上った時点でそれに気付いたのだが。

( ´∀`)「静かにするモナー! みんなに話があるモナ!」

 ドアを開け、担任が声を上げる。と同時に、騒がしさがピタリと収まった。
 担任が手招きをしているので、意を決して教室に足を踏み入れる。
 その瞬間、突き刺さる視線、所々で聞こえる囁き声。正直、逃げ出したい。

( ´∀`)「理由は分からないけど、ショボンの体がこんな風になったモナ」

 何とも適当な言い方だが、まさにその通りなので何も言えない。説明の間にも、僕への視線が止む事はない。
 人の前に立っている人はすごいなあ、なんて呑気な事を考えながら、なんとか気を紛らわせた。

( ´∀`)「以上だモナ。授業を始めるから席に戻るモナ、ショボン」

 考え事をしている内に、説明は終わったようだ。担任の指示に従い、大人しく自分の席へと戻る。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:47:09.29 ID:/lJRzwL+0
( ;^ω^)「大丈夫だったかお?」

 隣の席に座っているブーンが話しかけてきた。
 登校中に考えていた事を思い出してしまい、少しドキッとしながら返す。

(;´・ω・`)「な、何とかね……。授業の後が恐ろしいけど……」

(;'A`)「質問責めに遭うのは間違いなさそうだな、まあ俺達がそうだったんだが」

 と、前の席に座っているドクオが振り向いて言った。やはり想像通りだったか。

(;´・ω・`)「う……ごめんね二人とも」

( ^ω^)「大丈夫だお! 何かあったらブーン達を頼ればいいお!」

(*´・ω・`)「あ、ありがとう……」

 ブーンの笑顔が近い。鼓動が激しくなって、顔が紅潮していくのを感じた。
 危ない、変な風に思われる前に早く前を向かなくちゃ……。

( ´∀`)「そこー、静かにするモナ」

 いいタイミングで担任に注意されて、僕達は慌てて姿勢を戻した。
 だけど、今の僕が授業に集中できるはずもなく。授業の内容など上の空のままで、鳴り響いた授業終了のチャイム。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県)[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 23:49:12.55 ID:/lJRzwL+0
 ――そして恐れていた時間がやって来た。

( ・∀・)「マジでショボンなの!?」

(;´・ω・`)「マジだよ」

(*゚ー゚)「背中にファスナー付いてない?」

(;´・ω・`)「付いてません!」

ミ,,゚Д゚彡「下半身に息子さんは!?」

(#´・ω・`)「付いてません!」

ζ(゚ー゚*ζ「精神的に変わった事は?」

(;´・ω・`)「今の所、特には……」

( ゚∀゚)「おっぱい揉まs(*゚∀゚)「お前ちょっと体育館裏まで来い」

 あれ、誰かの質問の声が途中で切れたような……?
 まあ卑猥な単語と要求が聞こえた気がしたので、その質問は無視する事にした。

 止まない質問、突き刺さる視線。どさくさに紛れて触ってくる奴とかいる……。
 質問責め。なんと恐ろしい質問責め。軽く対人恐怖症になりそうなレベルだ。
 ブーンとドクオの方を見ると、困ったような何とも言えない顔をしていた。
 心なしか同情の色が入っているような……。ああ、二人も受けたんだっけ……この激しい質問責め。
 そんなこんなで、午前中の休み時間は、一息付く間もなくほぼそれによって潰れてしまった。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/16(火) 23:51:15.72 ID:/lJRzwL+0
 ――そして昼休み。

(;´・ω・`)「つ……疲れたあ……」

 盛大な溜息を付いた僕。

( ;^ω^)「お疲れ様だおー」

(;'A`)「しかしすごい騒ぎだったな……」

 僕達は屋上でパンをかじっていた。ドクオが購買で買ってきてくれたものだ。
 屋上は特別な行事の時以外は立ち入り禁止で、普段は入り口のドアに錠が掛けられている。
 だけど、この学校に入学してすぐにドクオは鍵を持っていた。出所は未だに不明だ。
 何度聞いても、「禁則事項です」と口に人差し指を当てながら言い、はぐらかしていた。
 ここは教師も生徒も普通は立ち寄らない場所なので、見つかる事はないだろう。

(;´・ω・`)「他のクラスにも広まってると思うと……」

 僕は増え続ける懸念事項を考えてみた。その内の一つが、噂。
 他のクラスの人間からも質問責めに遭う事を想像してみると、食欲が失せてきた。
 既に軽いトラウマ状態なのだろうか。先ほどの場面を想像するだけで、耳を塞ぎたくなる。

('A`)「ああ、その心配は無用だと思う」

 と、ドクオが思い出したようにそう言った。何かあったのだろうか。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/16(火) 23:53:10.49 ID:/lJRzwL+0
(´・ω・`)「何かあったの?」

('A`)「お前が職員室に行ってる間に、ちょっとな」

( ^ω^)「ギコが、『他のクラスの奴らに言ったら殺す』って言ってたお」

(;'A`)「なんでも、『ショボンには借りがある』らしいぞ。お前何か接点あったのか?」

 ギコとはクラスメートの一人だ。よく分からないのだが、世間的に言えば「不良」の扱いを受けている。
 だけど、学校にはちゃんと登校しているし、授業も受けている。
 ただ、どこから流れたのかは分からないが、色々と悪い噂が漂っていたのだ。
 更に、彼の体格の良さとその無口さも相俟って、自分から近付いていく人間は皆無だった。
 学校で問題を起こした事もないし、何故「不良」というイメージが付いたのか、僕は不思議に思っていたものだ。
 僕と彼の接点を考えてみる。記憶の中に、思い当たる点が一つだけあった。

(´・ω・`)「あっ、あの時の事か」

('A`)「何かあったのか?」

( ^ω^)「ブーンも気になるお」

(´・ω・`)「ちょっとね。彼の無実を証明しただけだよ」

('A`)「何だそりゃ」

 ドクオが僕の言葉に不思議そうな顔をする。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/16(火) 23:55:16.93 ID:/lJRzwL+0
(´・ω・`)「今年入ってすぐに、教室のドアが壊れた事故があったでしょ?」

( ^ω^)「そういえば、立て付けが悪いのはそのせいだったおね」

(´・ω・`)「うん。その事故が起こった時、近くにいたのがギコと僕だったんだ」

('A`)「それで真っ先に疑われたギコの弁護をしたって訳か」

(´・ω・`)「そういう事になるね。犯人は他のクラスの人間だったから」

 これで心配事は一つ消えた。午前中の様子を見るに、クラスメートの質問責めもその内に無くなるだろう。
 しばしの静寂。だけど、午前中だけで色々と慌ただしかった今の僕には、とても心地良いものだった。
 ふと二人の方を見ると、ドクオが僕を見つめているのに気が付いた。パン屑でも口に付いているのかな?
 人差し指で唇を拭うが、何も付いていない。と同時に、ドクオが呟き始めた。

('A`)「慌てていて気付かなかったが……」

(´・ω・`)「どうしたの?」

(*'A`)「すげえ可愛い」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/16(火) 23:57:10.07 ID:/lJRzwL+0
 ……ちょっと待ってくれ。何で顔を赤くしてにやけているんだ、ドクオ?
 しかも、その今朝の姉のように怪しく動いている手は何?なんだか近づいて来てるし……。
 朝のあれとはまた違う空気に身の危険を感じ、ドクオに制止の言葉をかける。

(;´・ω・`)「ちょ……ちょっとストップ!」

(*'∀`)「触らせてくれ!」

 餌を前に我慢が出来なくなった犬のように、こちらへ飛びかかってくるドクオ。
 僕は後ずさり、身をひねってそれを避けようとするが、反応が少し遅れてしまった。目前に迫るドクオ。

( ;^ω^)「ドクオ! それはマズイおっ!」

 ブーンが叫びながら僕とドクオの間に入り、間一髪で貞操を守る事が出来た。
 ていうか、ドクオの目がマジだった。怖い、怖すぎるよ。

( ;^ω^)「今のはヤバイお、セクハラなんてもんじゃないお」

(*'A`)「だって可愛いんだもん!」

 とんでもない事を抜かすドクオ。

( ;^ω^)「中身はショボンだお、ドクオは女の体をしていれば誰でもいいのかお……」

('A`)「ついムラッとしてやった。今は反省している」

 しれっとした顔で、反省のような言葉を口にするドクオ。
 たぶん、反省していない。いや、あの顔は確実に反省していない。
 次に来たら容赦なく殴ってやろう、と思ったところでブーンが話しかけてくる。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟県) 投稿日:2008/09/16(火) 23:59:24.73 ID:/lJRzwL+0
( ^ω^)「ショボン、大丈夫だお」

 と、ブーンが言い、続けた。

( ^ω^)「見た目が変わっても、ショボンはショボンだお! 今まで通り、友達だお! 安心するお!」

 ブーンの言葉が胸に突き刺さる。「今まで通り、友達」。「今まで通り、友達」。
 今朝、少しでも夢を見た自分が馬鹿だったのだろうか。
 それとも、自分が気付いてないだけで、ほんの少しでも壁は低くなったのだろうか。

(´ ω `)「ありがとう……ブーン」

 内面を悟られないように、礼を言う。演技をする事は、昔から続けて来た。
 そうしなければ、上手く生きる事が出来なかった。

('A`)「じゃあ友達のように三人で風呂に入ろうか」

( ;^ω^)「却下するお。ドクオのおっきした息子さんは見たくないお」

 「今まで通り、友達」、その言葉は僕の胸の内で繰り返され、重くのしかかっていた。


第一話 おわり


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