87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:34:14.62 ID:HUw1SpsO0




          (´・ω・`)ショボン編




89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:37:16.40 ID:HUw1SpsO0

静まり返った店内で、僕は一人すすり泣いていた。
かつての旧友の現状を知りながらも、なにもできなかったことに不甲斐なさを感じていた。

(´;ω;`) 「……」

彼がなぜ、ここへ来たのか。
彼はなぜ、過去話を始めたのだろう。
彼はなぜ、例のノートを僕に見せたのだろう。



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:39:03.52 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「……あ」

そのノートが、カウンターテーブルの上にあった。
ブーンは忘れていってしまったのか。それとも、意図的に置いていったのだろうか。
そのノートが語ることはない。

(´・ω・`) 「……ふぅ」

僕はノートをカウンターの下にしまい、一人酒をあおることにした。
他人の過去話を聞くと、不思議と自分も懐かしい気持ちになる。

「バーボン・ハウス」を始めてそろそろ五年の歳月が経過しようとしていた。
その間、色々なことがあった。
ブーン、ツン、ドクオが開店祝いに店の棚卸しを手伝ってくれたこと。
そしてそのままドンチャン騒ぎして、店を滅茶苦茶にしていったこと。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:40:43.58 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) (……ふふ)

そういえば、一度有名人が訪れたこともあった。
そのときは訳ありのようで変装していたが、生で見る芸能人のオーラにはどこか神々しいものがあった。

(´・ω・`) (あとは……)

今思うと、その時期がピークだったかもしれない。
もちろんその後もブーンなどは訪ねてきてくれたし、僕も静かに過ごせることを楽しんだ。
でも、「バーボン・ハウス」は確実に廃れていった。

そろそろ潮時だろうか、僕はグラスを握っていた手を止める。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:42:15.86 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「おいおい、俺だってここは大好きなんだぜ」

(;´・ω・`) 「――ドクオ、なんでいるんだい?」

('A`) 「普通に入ったんだけどよぉ、存在が薄いから気づかれなかったわ」

ドクオは半ば楽しげに、半ば自嘲気味に笑い声をあげる。
彼はいつだってそうだ。自分の存在を蔑むことをよしとしている。

僕はドクオのために、一杯のウイスキーを作ってやる。
手際よくお湯で割り、「どうぞ」とドクオに液体が流し込まれたグラスを差し出す。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:44:15.88 ID:HUw1SpsO0

ドクオがウイスキーをちびちびと口に運んでいくのを見て、僕の口元はつい綻んでしまう。
ブーンも言っていたが、変わらないということは素晴らしいことなのだ。

('A`) 「……この店閉めるのか?」

(´・ω・`) 「……」

('A`) 「出てたぞ、独り言」

(´・ω・`) 「……参ったな」

ブーンに注意を促した癖に、自分が同じ行為をしてしまうとは。
まだ30代に差し掛かったばかりだというのに、心は老けてしまっているようだ。



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:45:45.66 ID:HUw1SpsO0

長い沈黙。
店内に響くのは、空のグラスでじりじりと液体に変っていき、カランと落ちる氷の音だけ。
その沈黙を先に破ったのは、ドクオだった。

('A`) 「なあ」

(´・ω・`) 「なんだい?」

('A`) 「ブーン、ここに来たろ」

(´・ω・`) 「……すれ違ったのか」

('A`) 「まあ、そんな感じ」

ドクオはグラスを乱暴に掴むと、ガブガブと液体を体に流し込んだ。
一拍おいて、ドクオが苦しそうに咽たのは当然の結果といえよう。

ブーンの話題が出たせいか、僕の疑念に再び火がついた。
そして、それをドクオにぶつける。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:47:32.86 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「ねえ、ドクオ」

('A`) 「……ん?」

(´・ω・`) 「なんで君たちは、ここへ悩みを打ち明けにくるのかな?」

('A`) 「そりゃあ、ショボンが聞き上手だからさ」

(´・ω・`) 「聞き上手……」

ドクオに言われ、ハッとする。
いつからだろう、僕が「聞き上手」と周囲から認められるようになったのは。
なぜなんだろう、僕が「バーボン・ハウス」を開いたのは。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:49:04.00 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「ねえ、ドクオ」

('A`) 「ん?」

(´・ω・`) 「今から、僕は自分を探るために過去を振り返ろう」

('A`) 「……」

(´・ω・`) 「少しの間、僕の話を酒の肴にしてくれ」

('A`) 「……わかった」

ドクオが空になったグラスを差し出して、「おかわり」と言った。
そうだな。肴があっても肝心の酒が無ければ、飲むことはできない。

僕は目元を緩ませながら、ゆっくりと自分の過去を探り始めた。



100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:50:37.70 ID:HUw1SpsO0

僕は小さい頃から内気な少年だったといえよう。
それは歳を経ても変らない、周りの環境が変ろうと周りの人間が変ろうと。

その長い年月が、僕にあるものを染み付かせた。
「保守的に生きろ」、と。

自分の意見は無理に通さない、他人の意見を尊重しよう。
自己アピールもろくにせず、相手の話をただ聞き続け、最後に相手を肯定する。
そんな僕の保守的な態度は、いつしか「聞き上手」と捉えられるようになっていた。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:52:37.75 ID:HUw1SpsO0

そして僕は大学生となった。
そこにあるのは今までとは違う、華やかな大学生活。
友達もたくさん出来たし、サークル活動に積極的であったせいか異性との交流も増えた。
そこでもやっぱり僕は変らなかった。そして周りの人間も、僕を「聞き上手」というポジションに置くようになった。

入学してからしばらくして、僕は素敵な女性と出会う。
初めて見た瞬間、体中に電撃が走ったかのような衝撃を受けた。こんな出会いは初めてだった。
その女性の名は――「ツン」と言った。



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:54:12.17 ID:HUw1SpsO0

静まり返る「バーボン・ハウス」。
それも致しかたないことだろう。ドクオにこのことを話すのは初めてだ。

('A`) 「酒の肴にしては、ちょいとばかり味が濃すぎないかい?」

フゥ、とドクオが浅い溜め息をつく。
僕は苦笑いをして、「少しだけ我慢しておくれよ」と言った。

('A`) 「その時期にはまだ俺らは出会ってなかったからなぁ」

(´・ω・`) 「そうだね。本当は、君に話すべきことじゃないかもしれない」

でも聞いてほしいんだ。
伝えるべき人に伝えることができなかった、その代わりに。

(´・ω・`) 「今夜くらい、保守的じゃなくてもいいだろう?」

('A`) 「……そうだな」

僕は自分のグラスに、ウイスキーを注ぐ。
そして一口含み、ゆっくりと口内を、喉を潤した。



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:55:46.13 ID:HUw1SpsO0

僕はいつだって、遠めでツンを眺めていることしかできなかった。
僕程度の人間があんな素敵な女性と付き合えるわけがない、と半ば諦めの気持ちを抱えながら。

しかし、チャンスは突然やってきた。
ご存知の通り、僕はテニスサークルに属していた。そのサークルに、一月遅れで加入者が現れたのだ。
それがツンだった。

(´・ω・`) 「……君、初心者なの?」

ξ*゚听)ξ 「そ、そうよ! 悪いかしら?」

(´・ω・`) 「最初は誰だって下手さ。僕で良ければ、練習相手になるよ」

ξ゚听)ξ 「あ、ありがとう……」

彼女を目の前にしても、不思議と冷静に話すことができた。
「いつも通り」の自分を出せる。それだけで、とても誇らしい気分になれた。



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:57:17.00 ID:HUw1SpsO0

それからというもの、僕とツンは色々と行動を共にするようになった。

ツンから色々と相談を受けたことを覚えている。小さいものから、深刻なものまで。
高校卒業まで彼女がイジメにあっていたことを告げられたときは、僕も一緒になって涙を流した記憶がある。

そして僕とツンは、小雨滴る陰鬱な季節より、みなに隠れて付き合うようになったんだ。



108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:58:47.78 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「……そんな仲までいってたのか」

(´・ω・`) 「ああ、結局キスさえしなかったけどね」

('A`) 「待てよ。ブーンがツンと付き合いだしたのは、大学一年の夏だよな?」

(´・ω・`) 「ああ、二ヶ月ともたなかったよ」

('A`) 「なんでだよ?」

(´・ω・`) 「まあ、落ち着きなよ。それを今から話すんだから」

僕は残りのウイスキーを、ゆっくりと時間をかけて飲み干す。
ドクオは焦らされてイライラしているのか、指先でトントンとカウンターテーブルを叩いている。



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:00:23.31 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) (ドクオは聞き手の心得をわかってないなぁ)

その瞬間、つい声をだして笑ってしまった。
自分の体質に驚いたのだ。自然と「聞き手」として構えようとしている、どうしようもない体質に。

(´・ω・`) (こんなんだから、僕はダメなんだな)

こんな性格だから、ツンに振られたのだろう。
だけど自分の深い根に染み付いた性格は、そうそう変えることはできないのだ。

もう酒はいらないな。
そう判断し、僕は話を再開することにした。



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:02:00.84 ID:HUw1SpsO0

季節は夏になった。
その頃、僕たちは付き合いはじめて一ヶ月。
一般的には、お互いそろそろ慣れてきて甘い生活を過ごす時期だろう。
しかし、僕らは違った。

ξ゚听)ξ 「ねえ、ショボン」

(´・ω・`) 「なんだい?」

ξ゚听)ξ 「来週、サークルの合宿あるじゃない? すごく楽しみね」

(´・ω・`) 「そうだね。夜とか楽しいだろうなぁ」

ξ゚听)ξ 「そうね……。ねぇ、ショボン」

(´・ω・`) 「そうだ! みんなで花火でもしようよ!」

ξ゚听)ξ 「……」

ここでも僕は保守的であった。
いや、保守的といっては語弊がある。
恋愛童貞の僕は、漠然と恐れていたのだ。ツンと一線を越えることに。
そのお陰か、僕とツンの関係は、ほんの一部の人間にしか知られることはなかった。



113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:03:45.10 ID:HUw1SpsO0

そしてとうとう合宿の日を迎えた。
テニスサークルの合宿とはいえ、ほとんどが旅行を目的にしたようなものだ。
初日は、みんなでワイワイ楽しく観光することになっていた。

ξ゚听)ξ 「こんな自然、都会じゃ見られないわね」

(´・ω・`) 「ああ、来てよかった」

真っ白なワンピース。ピンクのリボンがついた白い帽子。肌を控えめに露出する、白いサンダル。
全てを白で着飾った彼女のその姿はその場にいる誰よりも美しく、まるで女神のようだった。

初日の観光はとても楽しく過ごしていた。
ツンと笑い、何かを見つけ、二人ではしゃいだり。

( ^ω^) 「ツンさん! 見てほしいお! 大きな向日葵だお!!」

ξ゚ー゚)ξ 「あら、とても綺麗じゃない」

( *^ω^) 「き、きききききっと君に似合うお!!」

ξ゚ー゚)ξ 「ありがとう」

(´・ω・`) 「……」

ときに胸を痛めながら。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:05:15.02 ID:HUw1SpsO0

それでも僕とツンにとっては、素晴らしい一日となるはずだった。
いつもは保守的な僕でさえ、今日こそは一線を越えようと考えていた。

日差しも弱まり、だいぶ風も強くなってきたころ、僕らはホテルに向かうことにした。
僕は一日の疲れをやっと休めることができる、と少し安心していた。

その時だ。
僕らの間を裂くように、一陣の突風が吹きぬけていった。

ξ;゚听)ξ 「きゃあっ」

(´・ω・`) 「うわっ。……あ、ツンの帽子」

そのイタズラな風は、ツンの真っ白な帽子を運んでいく。
そして、これでもかと言わんばかりの大きな木の枝の先に落としていった。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:07:10.48 ID:HUw1SpsO0

ξ゚听)ξ 「……ああ」

ツンがうな垂れたその瞬間、彼女の周りからは大きな笑いが巻き起こった。
その一連の流れのせいか、はたまた彼女の気合をいれた服装が崩されたせいか。
何故だかわからないが、その笑いはしばらく止みそうにはなかった。

僕はそのときなにをしたと思う?
みんなの笑いの的になり、目を潤ませて僕のほうを見る彼女に対して。
僕は……その輪に加わった。

やはり、そのときも怖かった。
僕一人だけが彼女を庇ったら、僕と彼女が付き合っていることがばれるんじゃないかと思って。
保守的であるがゆえに、周りから離されたくないがためにとった、その行動。

僕が輪に加わった瞬間、彼女はかつてないほどに悲しそうな顔をした。
しかしそれも一瞬のことで、「まったくもー」と言いながら、彼女の表情は笑顔に変った。



118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:08:40.67 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「……」

その時だ。その輪の中から、一人の男が木に向かって駆け出した。
彼はツンの帽子をとるために、その高い木に登り始める。
何度も何度もずり落ちながら、一生懸命に帽子に向かって木に登り続ける。

予想だにしなかった彼の行動に、みなの笑いはより一層ボリュームを増した。
それでも彼は決して登るのをやめない。彼の目はツンの帽子しか見ていない。

そして三十分後、ほとんどの人は興味を無くしホテルへ向かっていってしまった。
しかし、彼は諦めなかった。そしてとうとう彼はそれを掴み取ることに成功した。

傷だらけとなった彼は、ツンの元へと駆け寄ってきた。
その手に、ツンの白い帽子を持ちながら。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:10:11.66 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「……」

ξ゚听)ξ 「……あ」

彼はツンに帽子を差し出す。
そして一言。

( *^ω^) 「ツンには笑顔が似合うお。だから、この帽子を被ってもう一度笑うお」

彼はそう言うと、ツンに帽子を押し付け走っていってしまった。
残された僕とツンは、遠のいていく彼の後姿を呆然と眺めていた。



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:11:44.25 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「……僕らも行こうか」

ξ゚听)ξ 「……ええ」

ツンはそう言うと、その白い帽子をもう一度深く被りなおした。
僕はそんな彼女の行動に不安を覚えながらも、周りに誰もいないことを確認して手を握った。

ホテルへ向かう道中、それまで黙っていたツンが口を開いた。

ξ゚听)ξ 「ショボン」

(´・ω・`) 「なんだい?」

ξ゚听)ξ 「あのとき、ちょっとだけ助けてほしいと思ったの」

(´・ω・`) 「……ごめん」

ξ゚听)ξ 「いつも黙って私の話を聞いてくれて、すごい嬉しい。……でもたまには積極的に動いてほしいの。自分を変えてほしいの」

(´・ω・`) 「性格じゃないんだよ」

ξ゚听)ξ 「さっきのブーン……少し格好良かったわ」

そこで僕らの会話は止まった。
僕はそのとき感じた。おぼろげながら、ツンの気持ちが僕から離れていってしまったことを。
いや、今思うと……。ツンの気持ちは初めから僕に向いていなかったのかもしれない。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:13:15.06 ID:HUw1SpsO0

時計を見ると、すでに日付が変っていた。
随分と長く話していたらしい。ドクオも良く飽きずに聞いていてくれたものだ。

('A`) 「……淡い恋の物語だねぇ」

(´・ω・`) 「茶化さないでくれ」

('A`) 「それでお前らは別れたのか」

(´・ω・`) 「まさか、そんなわけないさ」

('A`) 「え? まだ続きがあるのか?」

(´・ω・`) 「もちろんさ」

「まじかよ」と呟きながら、空になったグラスを差し出すドクオ。
「もう少しだから」と宥めながら、そのグラスにウイスキーを注ぐ僕。

僕の過去話は、あと少しで終わる。



125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:15:09.31 ID:HUw1SpsO0

その夜、サクールメンバーは海岸までいき花火を楽しんでいた。

(´・ω・`) (やっぱり花火持ってきておいて良かったな)

自己満足に浸りながら、僕はみんなのはしゃぎまわる姿を見て悦に入る。
僕は意外と世話好きなのかもしれない。

僕は一人、物陰に佇む。
今日のひと悶着以来、僕はツンと距離を置くようにしていた。

(´・ω・`) (……どうすればいいのかな?)

( ^ω^) 「どうすればいいと思うお?」

(;´・ω・`) 「わっ!」

いつの間にか、彼が僕の隣にいた。
僕がツンと距離を置く原因となった、彼が。



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:16:52.92 ID:HUw1SpsO0

僕は動揺しながらも、疑問系で終わった彼の言葉に返答する。

(´・ω・`) 「なにを、どうすればいいんだい?」

( ^ω^) 「好きな人に、思いを伝えるべきか、だお」

僕の体は急速に冷え切っていった。
彼は、今夜一世一代の賭けをしようとしている。
いつもの僕なら、優しく彼の背中を押してあげたことだろう。
だが、彼の思う人など僕はとうに気づいている。

(´・ω・`) (ツン……)

僕は、さきほどのツンとのやり取りを思い出す。
保守的な僕に不満を漏らしたツン。今でも徐々に僕から気持ちが離れていっていることだろう。
ブーンはツンのことが好き。こう言ってはなんだが、きっと僕よりツンのことが好きに違いない。



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:19:00.86 ID:HUw1SpsO0

保守的な男は、こう呟いた。

(´・ω・`) 「より多くの人が幸せになれるなら、それでいいじゃない」

( ^ω^) 「お?」

(´・ω・`) 「伝えてごらんよ。君の思いを」

( ^ω^) 「……でも怖いお」

(´・ω・`) 「大丈夫、君ならきっといけるさ。昼間、あれだけ頑張っていたんだもの」

(;^ω^) 「ばれとるのかお。……頑張ってみるお」



131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:20:40.81 ID:HUw1SpsO0

僕の愛しいツン。
君は何故、僕と付き合ったのだろうか?
独りが寂しかったかい? 再びイジメを受けるのが怖かったのかな?
僕はきっと、その君の傷は癒すことは出来たと思う。
でも、でも……それ以上のことはできない。

君を明るくさせることも、君に楽しい時間を与えることも、君をワクワクさせることも。
きっと僕には、できない。だから、彼に託そう。
君をより笑顔にさせる可能性のある、彼に。

今にもツンの元へ駆け寄らんとしている彼に、僕は問いかける。
長年の疑問を。

(´・ω・`) 「ねえ」

( ^ω^) 「なんだお?」



132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:22:10.06 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「どうして君は、僕に相談をもちかけたんだい? ほとんど付き合いもない僕に」

( ^ω^) 「最初は、友達に薦められたんだお。相談事なら、君のところだって」

(´・ω・`) 「聞き上手、とかなんとか言われたんだろう」

( ^ω^) 「そんなところだお。実際、そうだったけど」

(´・ω・`) 「……」

( ^ω^) 「でも、今話してみて違うことに気がついたお」

(´・ω・`) 「え?」



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:37:36.81 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「君に相談を打ち明けると、不思議と安心するお。きっと君は――」

( ^ω^) 「人を安心させる、そんな才能があるんだお」

(´・ω・`) 「才能――」

初めて言われたその言葉は、僕に衝撃を与えると共に不思議な安心感を与えた。
僕がみんなに「聞き上手」と言われるのは、保守的だからではないんだ。
僕がみんなを安心させる才能があるからなんだ、と。

その晩、僕はツンに別れを告げた。



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:39:06.20 ID:HUw1SpsO0

「バーボン・ハウス」に、しばらくぶりの沈黙が戻ってきた。
僕の過去話を聞き終えたドクオは、空になったグラスの中で氷を遊ばせている。

(´・ω・`) 「ツンのことは苦い経験だったけどね。僕は二人から教わったんだよ」

('A`) 「……」

(´・ω・`) 「あまり深い関係に持ち込まない限り、僕は人を安心させられる才能があるんだ」

(´・ω・`) 「自分の心を丸出しにしないように接すれば、僕には相談役が向いてるんだってね」

('A`) 「……ふん」

ドクオが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
それはそうだろう。ドクオもブーンと同様、今まで僕の「聞き上手」に助けられてきたんだから。
そういった意味で、今回の話を暴露するのは辛いことであった。



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:40:36.43 ID:HUw1SpsO0

だが、今の気持ちは不思議と安らかだ。
自分が本当の「聞き上手」であったこと。こんな寂れたバーを始めたかつての理由。
それらを確認できたのだから。

(´・ω・`) (だけど……)

それを教えてくれた二人は、既にもういない。
僕の人生の恩人ともいえる二人に、もう出会うことはできない。
だからこそ、さっきブーンがいたときに伝えたかった。
自分の過去と……ブーンへの感謝の気持ちを。

(´・ω・`) (それを伝えたとき、ブーンとの関係が崩れるのが怖かったんだ)



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:42:06.17 ID:HUw1SpsO0

僕はいつまでたっても保守的な性格なんだろう。
現状が変らないことを望み、過去にしがみつく。

ブーンも同じだ。すべてが変らないままであることを望み、過去を振り返った。
その結果、今という現実に絶望した。

だが、僕はブーンように行動に移すことはしない。
だって僕は……保守的だから。

「バーボン・ハウス」の時計が、夜中の1時であることを示す。
今日は一日、閑散御礼セールとして店を開放しよう。

そのセールに乗じたのは、独りのバーテンと、カウンター席に腰掛ける一人の男だけであった。



ドクオ編


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