149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:48:04.35 ID:HUw1SpsO0




          ('A`)ドクオ編




152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:50:04.13 ID:HUw1SpsO0

気づけば、既に夜中の一時を回っていた。
だからといって、別に誰かが俺の帰りを待っているわけではない。

('A`) 「今夜は飲み明かすか」

(´・ω・`) 「ふふ。なにを今更」

ショボンは元からそのつもりでいたのだろう。
小声で歌なんて口ずさみながら、そこそこ上等なボトルを開けていた。



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:52:06.10 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「はい、どうぞ」

('A`) 「……サンキュー」

俺のグラスには、黄金色の液体ゆらゆらと揺れている。
そこに映る俺の顔。……見なければ良かった、と後悔した。

('A`) (……そーいえば明日も早番だったな)

医者になってからとうものの、一気に睡眠時間が削られた。
そのせいか、自分でもわかるほどに頬はこけ、院内で患者に間違われることはざらではない。



156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:54:33.51 ID:HUw1SpsO0

それはきっと、睡眠時間だけのせいではない。精神的なものも大きいだろう。
医者になってからというものの、人生において一気に辛い経験が増えた。
人の死はもちろん、不条理な運命に苦悩する人々の姿を見ることで、自分もたくさんの苦悩を抱えてきた。

(´・ω・`) 「どうしたんだい?」

('A`) 「……」

酒のせいか、はたまた過去を振り返ったせいか、ショボンはやや饒舌になっていた。
自分の苦しみを解放させることは、そんなにすっきりするのだろうか。

('A`) (かつての友。それぞれの過去を明かす、か)



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:56:42.47 ID:HUw1SpsO0

ブーンにしろショボンにしろ、彼らの過去は決して明るいものではない。
だが現在の自分に比べたら、過去の自分の人生は華やかに見えるに違いない。
そしてその現実を知り、彼らはどうしたのだろうか。

('A`) (ロクなことにはなりやしないぜ……)

自分の中で否定的な意見を出しつつも、自分も過去を曝け出したいという衝動に駆られる。
「バーボン・ハウス」の雰囲気がそうさせるのだろうか。それとも、ショボンの存在がそうさせるのか。

俺は自分を情けなく思う。
自分との関係を否定されてなお、この男に依存しようとしているのだから。



158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 16:58:54.36 ID:HUw1SpsO0

酒はゆっくり味わうのが最高に決まっている。上等ならなお更だ。
だが、今日の俺はそんな気分になれなかった。
グラスを乱暴に掴むと、一気に液体を喉に流し込む。
そして一拍、間を保つ。大きな深呼吸。

('A`) 「ショボン、きっと今夜が最後だ」

(´・ω・`) 「……」

('A`) 「お前の聞き上手を心行くまで堪能するのはな」

(´・ω・`) 「……わかった」

きっと俺が「バーボン・ハウス」の最後の客となるだろう。
俺の話が締めにふさわしいとは思わない。だが、語ろう。
いつしか辿り着き、俺の不安を吸い取ってくれた。今まで沢山の人々の苦悩を解消してきた。
そんな「バーボン・ハウス」への、餞として。



159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 17:02:51.30 ID:HUw1SpsO0

医者の父、医者の母のもとで育った俺が、医者を目指さない理由などなかった。
小さい頃から一生懸命勉強し、中学・高校・大学とそれぞれ一流と呼ばれるところへ進学した。

俺が医者になるのは当然のことだった。決められた道だった。
もちろんその道の上には、数え切れないほどの苦難が待っていた。
しかし、俺は持ち前の努力と才能で、あらゆる苦難を乗り越えていった。
そんな全てが、俺の自信となっていた。

もちろんここまでは栄光の過去である。
このときまで、俺の歩みは決してぶれることなく、栄光の道を進んでいた。
しかし、ある時――俺の歩みは止まった。



162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 17:06:07.62 ID:HUw1SpsO0

きっかけとなったのは、ある年の春に俺が大学病院に転勤となったことであった。
もちろん、それは「昇進」を意味するところ。
そのときの俺は、仕事が楽しくてたまらなかった。

そんなとき、俺は一人の少女と出会った。




163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 17:08:41.59 ID:HUw1SpsO0

ある晴れた日の午後、俺は珍しくお昼休憩をとることができた。
久しぶりのお昼休憩だ。白い壁に囲まれるのもあれなので、俺は中庭で昼食をとることにした。

白い建物に囲まれた、緑のオアシスこと中庭。
そこには開放感とリラックスを求めて、たくさんの患者さんで溢れている。

(*‘ω‘ *) 「ちんぽっぽ!」

('A`) 「どうも、ちんぽっぽさん。今日は旦那さんがご一緒ですか」

( ><) 「いつもお世話になっているんです」

('A`) 「いえいえ。それにしても、二人とも仲良くて羨ましいです。良かったですね、ちんぽっぽさん」

(*‘ω‘ *) 「ちんぽっぽ!」



165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 17:10:47.32 ID:HUw1SpsO0

俺は二人に会釈をすると、小さな木陰へと移動した。
今朝、コンビニで購入したパンを頬張る。全く医者だというのに不健康なもんだ。

('A`) 「ん……?」

そのとき、俺は不思議な光景を見つけた。
一人の少女、恐らく五、六歳くらいだろうか。その少女が、白い建物を見つめながら一生懸命ノートになにか書いているのだ。
全くノートを見ないところを見ると、絵を描いているには不自然な光景である。

俺はそんな少女に興味をそそられ、声をかけてみることにした。

('A`) 「こんにちわ。お嬢ちゃん」

「え……?」



168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 17:13:25.18 ID:HUw1SpsO0

俺の挨拶に、彼女の瞳は空を彷徨った。
なるほど、この子は目が見えないのだ。

俺は彼女の頭にポンと手を置き、優しく声をかける。

('A`) 「無理しなくていいよ。あ、僕は外科担当のドクオだ」

「お医者さんの先生?」

('A`) 「そう、お医者さんの先生」

それを聞いて安心したのか、彼女は笑顔になった。とても可愛らしい。
そこで俺は本来の目的を思い出す。そうだ、彼女のノートだ。



170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 17:16:56.20 ID:HUw1SpsO0

相手に気づかれないとはわかっていながらも、俺はノートをチラッと盗み見る。

('A`) (……)

そこには文字、ひらがながあった。
いや、文字と呼ぶには足りてないかもしれない。
崩れた形、間違った文字。羅列されたそれは、行としての形を保っていない。



191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 18:46:42.24 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「ねえ」

「なあに?」

('A`) 「なにを書いているのかな?」

「あのね、「し」を書いているの」

('A`) 「し?」

「そう、「し」よ」

恐らく「詩」のことだろう。
よくよく解読してみれば、それらは意味を為した文となっていた。



194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 18:48:44.80 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「今年で小学生になったんだ?」

「うん!!」

('A`) 「早く、小学校行きたい?」

「行きたい!!」

この子を少し不憫に思いながらも、子供の純粋な気持ちにどこか温かいものを感じた。
少しでも、この子を支えることができたらいいな。
俺はそう思い、女の子に一つの提案をした。



196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 18:50:49.12 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「ねえ、お約束しないかい?」

「なにを?」

('A`) 「君が早く小学校に行けるようになるために、これからも詩を書こうよ」

「……でも、自分じゃちゃんと書けてるかわからないの」

('A`) 「大丈夫。僕がちゃんと書けているかみてあげるよ」

「お医者さんの先生が見てくれるの?」



197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 18:52:51.12 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「うん、約束するよ。だから、君も一緒に約束しない?」

「……うん!あとね、あとね。「め」っていう字が上手に書けないの……」

そして俺らは指きりげんまんをした。
どうやら最近のは、嘘をついたら尻の穴から針千本入れられるそうだ。

('A`) (これが回復につながるとは思わないけれど)

先輩たちの体験談を聞くと、患者は生きがいや楽しみを作ることによって、生きようと考えるそうだ。
詩が、彼女にとってそんな存在となればいいな。そのときは、その程度の考えだった。



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 18:54:55.77 ID:HUw1SpsO0

俺は一旦、話を止めた。
ゆっくりとはいえ、語り続けると喉の渇きが辛くなる。

('A`) 「もう一杯くれないか」

(´・ω・`) 「……ああ」

ショボンが慣れた手つきでグラスを扱い、さきほどの酒を注ぐ。
それが俺の前に出されると、俺は少しだけ液体を含み、喉を潤した。



200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 18:56:55.12 ID:HUw1SpsO0

次にその少女のもとを訪ねたのは、季節が変ってからのことであった。
照りつける太陽の中、二ヶ月ぶりの昼飯休憩をとれた俺は中庭を訪れる。
少女は、以前と同じ場所で座っていた。例のノートを持ちながら。

('A`) 「ひさしぶり」

「ドクオ先生?」

('A`) 「そう、ドクオ先生」

その途端、彼女は満面の笑みを浮かべた。
急いでノートを捲りながら、「今日くる気がしてたんだ!」なんて言っている。
それから数十分ほど、俺は丁寧に字を教えながら、少女と楽しいひと時を過ごした。



203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 18:59:12.72 ID:HUw1SpsO0

「できた!!」

('A`) 「偉い! ……ところで、俺はあかるいのかい?」

「うん、あかるいの!」

('∀`) 「……はは」

少女のそんな一言に、自然と笑みがこぼれる。
子供の純粋な言葉は、この荒んだ社会ではオアシスとなっていた。



206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:03:32.91 ID:HUw1SpsO0

気がつけば、休憩時間も終わりに近づいていた。
次の患者さんが待っているから、と俺は少女を看護婦さんに任せることにした。
別れ際、少女は俺に聞いた。

「ねえ、ドクオ先生」

('A`) 「なんだい?」

「‘し‘を書いてれば、小学生になれるんだよね?」

('A`) 「……ああ」

「早く小学生になる! だからまた‘し‘を書くね!」

('A`) 「うん、頑張ろうか……」

少女の瞳は空を彷徨っているが、その振られた手は確かに俺にあてたものだった。
俺は少女の温かさと、少女に対する後ろめたさで複雑な気持ちになっていた。



208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:06:12.24 ID:HUw1SpsO0

そして季節は変った。
秋。読書の秋、食べ物の秋。
などと言われるように、世間一般では秋は落ち着きのあるイメージを定着させている。
だが、ここは違った。

('A`;) 「また患者ですか?」

「はい、急いで準備をしてください!」

昼夜問わず、病院は患者でごった返しとなっていた。
俺たちの苦労を無視して、日々の多忙ぶりは勢いを増すばかりであった。

結局、秋は少女のもとへ向かうことは出来なかった。



211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:08:14.50 ID:HUw1SpsO0

俺はチビリと酒に口をつけた。
酒無しにはこれ以上語れない、耐えられないのだ。

(´・ω・`) 「君は悪くないよ」

('A`) 「……」

(´・ω・`) 「しかし、少女はそれでも書き続けたんだね」

('A`) 「……」

そう、それでも少女は書き続けた。
俺が来ると信じて。俺と会うのを楽しみにして。
それを知ったのは、全て手遅れになってからであった。



213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:10:25.49 ID:HUw1SpsO0

節は冬になっていた。
冷たい風が体をいじめ、患者の気持ちを沈ませる。

('A`) 「あー嫌だねー」

「ドクオ先生、お客さんです」

('A`) 「あ、はい」

俺を訪ねてきたのは、かつての友だった。
俺はそいつと今夜落ち合う約束をし、それを楽しみにしつつ仕事に精を出した。



216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:12:45.17 ID:HUw1SpsO0

そして夜。
俺は待ち合わせ場所の居酒屋に向かった。

('A`) 「よお、今日は「バーボン・ハウス」じゃないのな」

( ^ω^) 「だお。ひさしぶりだお」

この男と出会ったのが「バーボン・ハウス」であった。
俺らはそこで意気投合し、それ以来友人として付き合っていた。



219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:14:49.74 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「何のようだ? 金なら貸さないぞ。はは」

( ^ω^) 「……人を探しているお」

('A`) 「……」

そいつは珍しく真剣な表情をした。
これは真剣に聞くしかない、そう思った。



222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:16:57.88 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「実は、僕の娘が数年前に交通事故にあったんだお」

('A`) 「おいおい、まさか犯人を捜せっていうんじゃないだろうな?」

( ^ω^) 「違うお。相手はすでにお縄になってるお」

('A`) 「……それで?」

( ^ω^) 「実はそのときのショックで、娘は目が見えなくなっていたんだお」

('A`) 「……」



226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:19:00.17 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「精神的なものだからいつか治るかもしれない、と医者には言われたお」

確かに、稀にそういう例はある。しかし、ほとんどの場合はそのままということが多い。
俺は友人とその娘を不憫に思った。

( ^ω^) 「娘はひどく落ち込んでいたお。いくら励ましても、涙を流さない日はなかったお」

('A`) 「……」

( ^ω^) 「ところがある日、娘が笑顔で僕に話しかけてきたんだお」

('A`) 「ほぅ」



230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:21:59.81 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「私ね、「し」を書くことにしたんだ。って言いながら」

('A`) 「……え?」

俺の心臓は、ドクンと波をうった。
まさか、そんなことがあるだろうか。いや、あっていいのだろうか。
俺の動揺に気づきもせず、友人は話を続ける。

( ^ω^) 「それ以来、娘は元気を取り戻していったお」

('A`) 「そうか」



236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:24:38.15 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「字も段々と綺麗になっていったお。誰に字を教えてもらってるのか聞いたら、‘せんせい‘と答えたお」

('A`) 「……そうか」

( ^ω^) 「娘が元気になっていくのを見るのは、僕も嬉しかったお。でも……秋になってから‘せんせい‘が娘のところへ来ることはなかったお」

('A`) 「……」

( ^ω^) 「今日は来る気がする、今日は来るがする。娘はいつも言っていたお。「し」も書き続けたお」

('A`) 「……」

もはや確定的であった。
友人の娘が、その少女であったこと。
俺は動揺を紛らわすために、酒に手をつける。
しかし、その直後。友人の一言で俺の手は止まった。



239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:26:40.85 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「先週――その娘が死んだお」

('A`) 「えっ……?」

( ^ω^) 「事故が奪っていったのは、娘の目だけじゃなかったお。後遺症を残して、娘の命まで……」

そこで友人の肩がわなわなと震え始めた。
小料理の並べられたテーブルの上に、一滴、また一滴と涙が落ちる。
それでも友人は歯をくいしばり、話し続けた。



242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:28:43.20 ID:HUw1SpsO0

( ;ω;) 「幼い子の命が失われることは、すごく悲しいことだお。僕も、すごく悲しいお」

( ;ω;) 「でも……娘が死ぬ前に、娘の希望となってくれた‘せんせい‘には感謝してるお」

( ;ω;) 「きっと、病院の先生の誰かだお。その人にあって、ノートを渡してお礼を言いたいんだお」

ブーンは机の上にノートを置いた。
「見てもいいか?」とブーンに了解を取り、俺はノートを捲った。



261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:55:30.25 ID:HUw1SpsO0

秋の詩を見つけたときには、思わず涙が出そうになった。
それでもなんとか我慢した。自分には彼女のために涙を流す権利なんて無いから。

しかし――もう一ページ捲ったら……俺の我慢は限界を超えた。
たった三行、たった三行だけなのに。おそらく彼女一人で書ききった、その汚い文章によって。

(;A;) (――よく頑張ったな)

俺はノートをブーンに返すと、涙をぬぐった。



264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 19:59:23.47 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「本当に悲しいことだ。だけど、ブーンごめんな。俺には心当たりがないんだ」

俺には名乗り出る勇気がなかった。
俺が秋以降、少女のもとを訪れなかったから。少女の支えになってあげられなかったから。
そう思うと、とてもじゃないがブーンから感謝を受けることは俺にふさわしくないと思った。

( ^ω^) 「……そうかお」

('A`) 「ああ……」

( ^ω^) 「……」

ブーンは一つお辞儀をすると、その場から姿を消した。
俺は全く手をつけていない小料理を見つめながら、その場に立ち尽くすことしかできなかった。



266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 20:03:39.22 ID:HUw1SpsO0

空になったグラスを見つめる。
そこに映った自分の顔は、相変わらず歪んでいた――涙で。

(;A;) 「信じられるか? 来る日も来る日も、俺を中庭で待っていたんだ」

(´・ω・`) 「……」

(;A;) 「二度目あったとき、「今日会える気がしてた!」なんて言ってさ。本当は毎日待っていたんだぜ」

(´・ω・`) 「……」



269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 20:06:17.44 ID:HUw1SpsO0

(;A;) 「純粋に俺の言葉を信じて、俺のことを待っていてくれて」

(;A;) 「そのくせ俺はなにもすることができなくて、医者として助けることもできなくて……」

話しているうちに、段々と視界が霞んでいくのがわかった。
この話は果たしてショボンに話すべきことだったのだろうか? いや、ショボンだからこそ話せたのだ。
ありがとう、ショボン。

(´・ω・`) 「そういえば……」

('A`) 「ん?」



272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 20:09:18.49 ID:HUw1SpsO0

ショボンがカウンターの下にもぐりこみ、もぞもぞと動く。
そして取り出したのは―― 一冊のノートだった。

(´・ω・`) 「僕も読んだんだけどね。君のお陰でこの詩の違和感が解けたよ」

(´・ω・`) 「子供はまっさきに、見たものの形や色を文章にする。しかし、この子の詩には、それらが一切無かった」

('A`) 「どうしてこれを……」



275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 20:11:18.72 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「ブーンが置いていったんだ。それより、一番後ろのページを見てみなよ」

('A`) 「……?」

ショボンに言われたとおり、俺は裏表紙を捲って中をみた。
そこにはたった二行、綺麗な字で文が書かれていた。



277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 20:12:48.20 ID:HUw1SpsO0

にせんななねん ふゆ


せんせい、ありがとうだお



282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 20:16:07.72 ID:HUw1SpsO0

('A`) 「……」

(;A;) 「……ばかやろう」

ブーンはわかっていた。
俺が‘せんせい‘であることを。俺がなにをしてしまったかを。

(;A;) (俺が謝らないうちに、いい逃げしやがって――)

ノートを見つめながら、えんえんと涙を流し続ける俺を見て、ショボンは不安げな表情を見せた。



286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 20:20:06.41 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「ドクオ。君も向こうへ行こうとしたりしないよね」

('A`) 「馬鹿いえ、俺にはこれから救わなければいけない沢山の命があるんだ」

(´・ω・`) 「……そうだね」

俺とショボンはグラスを持ち、それを近づけていく。
その晩、初めて「バーボン・ハウス」に明るい笑い声が響き渡った。



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