3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 13:59:48.37 ID:HUw1SpsO0




( ^ω^)ブーン編




4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:00:54.91 ID:HUw1SpsO0

ふぅ、と溜め息をつく。すると、それは白い吐息に変わる。
ニ〇〇七年も残り僅かになり、最近ではコート無しには出歩くことはできない。
全く、冬なんて無くなればいいのに。

人々は自然と家に篭るようになる季節。僕は一人繁華街を歩いていた。
色とりどりのネオンが光を放ち、夜の繁華街は本来の活動を始める。
僕はそんな煌びやかな光を好まない。夜の世界と冬という季節は、僕の性に合わないのだ。

僕はそれらから逃げるように、野良猫の巣窟である暗い路地裏へと逃げ込む。
そして見つけた。「バーボン・ハウス」の看板を。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:03:16.66 ID:HUw1SpsO0

「バーボン・ハウス」の看板はネオン装飾されているのだが、全くその機能を果たしていない。
この暗く陰湿とした通りに構えるこの店。一体、どこの物好きが入るというのだろうか。

そのとき、ザッという足音が聞こえた。
人の気配を感じてか、店の周りでうろついていた野良猫たちも散り散りになる。

(´・ω・`) 「……きっと君くらいだろうね」

(;^ω^) 「おっ!?」

(´・ω・`) 「気づかないうちに独り言として出てるようじゃ、危ないね」

( ^ω^) 「……」



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:06:10.38 ID:HUw1SpsO0

「バーボン・ハウス」の店主、ショボン。
彼は大学からの付き合いで、今でもたまに一緒に飲んだりする。もちろんこの「バーボン・ハウス」で。
愚痴をこぼしたり、互いの近況報告をしたり、喜びを肴に盃をかわしたり。
いつだって、「バーボン・ハウス」は僕を温かく迎えてくれるんだ。

ショボンに促され、僕は店内へと足を踏み入れる。
そこにはかつてと変わらない「バーボン・ハウス」があった。
僕はそんな些細な嬉しさを噛み締め、カウンター席へと腰を落ち着ける。

( ^ω^) 「変わらないって、素晴らしいことだおね」

(´・ω・`) 「……注文は?」

( ^ω^) 「チューハイを一つ」

(´・ω・`) 「ここはバーなんだけどね」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:08:14.49 ID:HUw1SpsO0

いつの間にか、カウンター越しにショボンがいた。
彼は食器棚からグラスを取り出し、準備に取り掛かる。

(´・ω・`) 「最近はどうだい?」

( ^ω^) 「まあ、ボチボチってところだお」

(´・ω・`) 「嫁さんが亡くなってからもう二年だもんね。そろそろ育児にも慣れたかな?」

( ^ω^) 「……ボチボチだお」



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:10:28.92 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「そういえばさ、ドクオが大学病院の勤務に移ったらしいよ」

( ^ω^) 「そんなの前から知ってるお」

(´・ω・`) 「そうか。今度娘さんの顔を見たいな。そういえば、一度も娘さんの話を聞いたことはなかったね」

( ^ω^) 「そうだったけかお? じゃあ、今日は恥ずかしながら娘の話でもするかお」

一通りの雑談を終えて、ショボンがカウンターテーブルにチューハイを置く。
僕はそれを口のところへ持っていき、軽く流し込む。深い、溜め息。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:13:04.02 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「……」

(´・ω・`) 「……」

ショボンはバーを経営してるだけあって、聞き手の極意を心得ている。
僕に先を促したりはしない。僕はそれを知っているから、しばらく過去の思い出を振り返っていた。

( ^ω^) (ツンと出会ったのは十年前だったかお……)



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:15:10.83 ID:HUw1SpsO0

今でも思い出せる。初めて見たツンの顔を。
衝撃的だった。それほどツンは美しかった。

それからというもの、僕の懸命なアピールもあってツンとの交際が始まった。
今思うと奇跡かもしれない。こんな優柔不断で頼りない僕に、ツンがついてきてくれたことが。

僕らは二年の付き合いを経て、結婚した。
ウエディングドレスを着たツンは、この世のものとは思えないほど美しかった。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:19:06.35 ID:HUw1SpsO0

翌年、ツンとの間に女の子を授かった。
すごく嬉しかった。初めて見たわが子の顔は、本当に可愛らしかった。
「かわいい子には、旅させろ」という諺もあるが、僕は決してこの子を手放さないと誓った。

そしてその四年後、ツンが死んだ。
突然の交通事故だった。一緒に乗っていた娘を守って、ツンは死んだ。
今でも印象に残っている娘の言葉。

「ママは、笑ってたよ」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:22:09.83 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) (あれから二年……本当に長かったお)

(´・ω・`) 「……おかわりはいるかい?」

気づけば、グラスの中は空になっていた。
僕はショボンの気遣いを丁重に断る。今夜はあまり飲む気分ではない。

( ^ω^) 「娘は……ツンと一緒で色んなことが出来る子だお」

(´・ω・`) 「やっぱ女の子かな。たとえば、どんなことをするんだい?」

( ^ω^) 「今年の春小学生になってからは、詩を書いたりするんだお!」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:24:10.57 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「へぇ……」

( ^ω^) 「丁度持ってきたんだお! 見るかお?」

僕はショボンの返事など待たず、腰のポーチから一冊のノートを取り出す。
表紙にはこう書いてある。丁寧な字で「2007年」と。僕が書いたものだ。

(´・ω・`) 「……読ませてもらおうかな」

ショボンはそう言い、表紙をめくる。
僕は中身を見ずとも、復唱することができる。何度読み返したことか。
僕は今一度、その内容を思い出す。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:26:52.34 ID:HUw1SpsO0

にせんななねん はる

わたしはしょうがくせいになった。

はるはあたたかいです。

はるは、とてもふんわりしています。

はるは、ゆめがいっぱいでてきます。

わたしは、め、というじがあまりうまくかけません。

いまはせんせいにかいてもらいました。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:28:54.80 ID:HUw1SpsO0

ショボンがノートから顔をあげる。
そして、僕の顔を見やり、口元だけ微笑ませる。

(´・ω・`) 「字はあまり綺麗じゃないけどね。なかなか詩の才能あるんじゃないか?」

( ^ω^) 「だお!? ひらがなを書けるようになるまでに、二年間も頑張ったんだお!」

(´・ω・`) 「……長いよ」

そこでショボンは、「トイレ」と言って席を外した。
一人取り残された僕は、空になったグラスを見つめながら感傷に浸ることにした。

( ^ω^) (春……ツンと出会った季節だお)



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:30:23.58 ID:HUw1SpsO0

一九九七年の春、僕は地元の三流大学へと進学した。
地元の大学ながら、ここへ進学した地元民は僕だけで、僕はこの大学生活に不安を抱えていた。

( ^ω^) (あー……。誰か知ってる人いないかお?)

( ^ω^) (……お?)

ξ゚听)ξ 「……」

( *゚ω゚) 「……!!」

そんなとき、出会ったのがツンだった。
透き通るような白い肌。クルクルとパーマのかかった栗色の髪。
そしてその可憐で美しい顔立ちに、僕は一瞬でノックアウトされたのだった。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:32:26.53 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「ツーン!!今、暇かおー??」

ξ゚听)ξ 「……」

(*゚ー゚) 「また来たわよ、あいつ」

それからというものの、僕は必死にアピールを続けた。
彼女はいつも迷惑そうな表情をしていたが、必ず挨拶だけは返してくれた。
それが、ツンと出会った春。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:34:27.58 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) (今思うと、やっぱり嫌われてたんだお)

(´・ω・`) 「やあ、待たせたね」

気がつくと、目の前でショボンがハンカチで手を拭いていた。
いつ現れるか気づかないから、なかなか油断はできない。

僕は空のグラスに指を突っ込みながら、ショボンに疑問をぶつける。

( ^ω^) 「ショボン、僕って最初のころツンに嫌われたかお?」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:36:32.51 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「うん、そうだね」

はっきり言われると傷つく。
だが、自分も薄々感づいていただけに、ある種懐かしい感情も湧いてきた。

( ^ω^) 「今思えば、ツンと結婚までできたのはショボンのお陰だお!」

(´・ω・`) 「そう言ってくれるとありがたいよ」

( ^ω^) 「感謝してますおー」

(´・ω・`) 「ねえ、ブーン」

( ^ω^) 「お?」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:38:35.29 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「なんでツンが君の事好きになったか知ってるかい?」

( ^ω^) 「……知らないお」

今まで「バーボン・ハウス」で色んな話をしてきたが、ショボンから話を切り出すのは初めてだった。
そのせいもあってか、僕はその話にすごく興味をそそられた。
ショボンも僕の様子からそれを感じ取ったんだろう、ゆっくりと語りはじめた。

(´・ω・`) 「僕たちとツンがテニスサークルに所属してたころ、一度だけ合宿があったのを覚えてるかい?」

( ^ω^) 「うん」



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:40:40.34 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「そのときツンがお洒落して、ピンクのリボンがついた白い帽子を被ってきたんだ」

( ^ω^) 「そうだったかお?」

(´・ω・`) 「うん。そして、それが風で飛ばされて木に引っかかってね。みんな大笑いしたんだ」

( ^ω^) 「……」

(´・ω・`) 「ツンの顔はすごく赤かったなぁ。……そしたらさ、みんな大笑いしてる中、一人の男が帽子をとろうと木に登り始めたんだ」

( ^ω^) 「ば、馬鹿な男だお」



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:42:45.94 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「そしたらその男、何度も木からずり落ちてねぇ。みんな大笑いだったよ」

(* ^ω^) 「ほ、本当に馬鹿な男だお」

(´・ω・`) 「それから三十分ほどかな、その男はやっと帽子をとることができてね。そして、ツンに向かってこう言ったんだ」

(* ^ω^) 「……ツンには笑顔が似合うお。だから、この帽子を被ってもう一度笑うお」

(´・ω・`) 「……よく覚えてるね」

(* ^ω^) 「……お互いさまだお」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:44:16.95 ID:HUw1SpsO0

自分でも顔が赤くなっているのがわかり、僕はそれを見られたくないから下を向いた。
ショボンは「ふふ」と笑い、再びノートを手に取る。

(´・ω・`) 「そういえば、まだ読んでる途中だったね」

( ^ω^) 「……」

ショボンはさきほど見ていたページから一枚めくり、黙々と読み始めた。
それほど長くない文にも関わらず、ショボンはしっかりと時間をかけて目を通している。

( ^ω^) (そのページは……夏かお)



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:45:52.68 ID:HUw1SpsO0

にせんななねん なつ

なつは、あつい。

どのくらいあついかというと、もわっとあつい。

だけど、なつはあかるい。

なにがあかるいかというと、まわりのみんながあかるい。

おとうさんも、せんせいも、みんなあかるい。

わたしもあかるいのかな?



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:47:56.20 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「字が少し綺麗になっているね。それにしても……ある意味深いね」

( ^ω^) 「……僕でもなかなか読解できないお」

僕がグラスを右手で持て余していると、ショボンがウイスキーのボトルを取り出した。
少しだけならいいか、と僕はグラスを差し出しついでもらう。
グラスを持ち上げ、勢いよく体内に流し込む。体が暖かくなってきた。

(´・ω・`) 「君らが結婚したのも夏だったね」

( ^ω^) 「だお」

(´・ω・`) 「あのときの君は、本当に幸せそうだったよ」

( ^ω^) 「実際、有頂天だったお。裸で踊りだそうかと思ってたくらいだお」

(´・ω・`) 「……」

( ^ω^) 「……」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:49:30.76 ID:HUw1SpsO0

ニ〇〇〇年の夏、僕は人生最大の正念場を迎えていた。

大学の近所にある喫茶店で、僕はツンと向かい合っていた。
ポケットの中に、あまり高価ではない指輪を握り締めながら。

ξ゚听)ξ 「……」

(;^ω^) 「……」

ξ゚听)ξ 「さっきから黙ってて、どうしたのよ?」

(;^ω^) 「い、いや……」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:51:02.36 ID:HUw1SpsO0

僕はこのとき、早くも企業への内定が決まっていた。
周りの自堕落な大学生活につられず、真面目に講義などを受けていたからだろう。
だからこそ、これから始まる新生活をツンと共に過ごしたい。僕は焦っていた。

ξ゚听)ξ 「今日のブーン、変よ?」

( ^ω^) 「……ツン」

このときの胸の高鳴りようは、今ではもう体験できないことだろう。
プロポーズの場所を喫茶店に選んだこと、結婚指輪を箱に入れなかったこと。
それらのことを考えると、僕がどれだけ緊張していたかわかるだろう。

僕は玉砕覚悟で突っ込んだ。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:53:11.11 ID:HUw1SpsO0

(;^ω^) 「ぼ、僕と結婚してくださいお!!」

ξ゚听)ξ 「……」

(;^ω^) 「……」

ξ*゚ー゚)ξ 「……よろしくお願いします」



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:54:42.40 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「ブーン?」

( ^ω^) 「……お」

いつのまにか自分の世界に入っていたらしい。ショボンが怪訝な表情で、ブーンの顔を覗き込んでいる。
最近、こうやって自分の世界に入り込むことが多い。歳をとったせいだろうか。

(´・ω・`) 「続きを読んでもいいかい?」

( ^ω^) 「もちろんだお」

ショボンが再びノートに目を落とす。
次のページには、秋の詩が待ち構えている。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:56:17.23 ID:HUw1SpsO0

にせんななねん あき

あきはわたしがうまれたきせつです。

だから、すきです。
おとうさん、おかあさんとおなじくらいすきです。

あきは、ほわわんとしたきぶんになります。

でも、もうすこしでさむいさむいふゆになります。

そうしたら、あきはいなくなってしまいます。

だからあきはかわいそうです。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:58:09.33 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「へえ、君の娘って秋に生まれたんだ」

( ^ω^) 「……そうだお」

僕は残りのウイスキーを飲み干す。
そう、秋は娘が生まれた季節だ。
今でもありありと覚えている。娘が生まれた、その瞬間を。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 14:59:40.50 ID:HUw1SpsO0

ニ〇〇一年、秋。
入社一年目にも関わらず、僕は一生懸命に仕事にとりかかって周りからの信頼を得ていた。
仕事も順調。ツンもお腹に赤ん坊を抱えていて、いつ生まれるかと待ち望む日々。
僕をとりまく全てが、僕を幸せにしてくれていた。

( ^ω^) (……)

その日、僕はパソコンに向かってデスクワークをしていた。
今度あるプレゼンに向けて、大事な資料作りをしなければならなかったのだ。

( ^ω^) (……)

カタカタとキーボードを叩く作業に集中する。
パソコンをいじるのはけっこう得意だったので、進みは軽快だった。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:01:19.62 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) (入社して初めての一事……。ぜったい、成功させるお)

所詮、先輩が考えた内容を文字にするだけの仕事だったが、僕にとっては大事な仕事だった。
自分がプレゼンをするわけではないが、資料作りがいかに大事かを先輩に力説されていた。
だから、一瞬たりとも手を抜くわけにはいかなかった。

( ^ω^) (……明日が締め切りかお。今日は残業だお)

時計の針が六時を指したとき、それはやってきた。
僕の上司であるモナー課長が、血相を変えて僕のところにやってきた。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:03:20.24 ID:HUw1SpsO0

(;´∀`) 「ブーン君! 大変だモナ!!」

( ^ω^) 「どうしたんですかお?」

(;´∀`) 「君の奥さんが!! 破水が始まったモナ!!」

(;^ω^) 「えっ!?」

突然の出来事に、僕は焦った。
ここは絶対ツンのもとへ向かいたい。だが、ここで早退してしまうと大事な資料が間に合わなくなる。
僕がその場で右往左往していると、普段温厚なモナー課長がいきなり大声をあげた。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:04:52.32 ID:HUw1SpsO0

(#´∀`) 「資料作りなんて放っておけモナ!!早く奥さんのところへ向かってあげろモナ!!」

(;^ω^) 「え、でも……」

(#´∀`) 「資料作りなんて任せておくモナ!!だから早く行ってあげなさいモナ!!」

( ^ω^) 「……ありがとうございますお!!」

僕は荷物をまとめ、一目散に病院に向かった。

あとで聞いたところによると、モナー課長は昔出産に立ち会えなかったらしい。
しかも奥さんの体は出産に耐えられず、そのとき死に目に励ましてやれなかったことで心に傷をおっていたとか。
もちろん、今でもモナー課長には感謝している。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:06:31.03 ID:HUw1SpsO0

結局出産には立ち会えなかった。
しかし、ガラス越しに自分の子供を見たとき、なぜだが自然に涙が出てきたのを覚えている。
すやすやと寝息をたて、幸せそうに眠る我が子。

( ^ω^) 「ツン、すごく可愛かったお」

ξ゚听)ξ 「……そうね」

( ^ω^) 「あの子は、僕らの宝物だお」

ξ゚听)ξ 「……ええ」

そのとき、僕は誓った。
僕は決してこの子を手放さない、と。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:08:29.17 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) 「……ハンカチ貸そうか?」

( ;ω;) 「……お?」

気づけば、自然と涙が出ていた。
情けない姿を見られたな、と思いながらも、僕はショボンからハンカチを拝借する。
涙を拭いたあとで気づいた。このハンカチ、さっきトイレのあとに使っていたやつだと。

(;^ω^) 「……」

(´・ω・`) 「う〜ん」

ショボンが首を捻っていた。
春、夏、秋の詩が書かれた頁を何度も捲っては、再び首を捻る。



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:10:00.73 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「……どうかしたのかお?」

(´・ω・`) 「いや、なんかこの詩、変だと思ってさ」

( ^ω^) 「……」

(´・ω・`) 「別に悪いといってるわけじゃないよ。ただ、なんかこう……子供らしからぬものというか」

( ^ω^) 「……」

僕は再び空になったグラスを見つめる。
自分の顔が歪んで映っている。それを見つめていると、段々と不思議な気持ちになっていく。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:11:32.79 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「もう冬だおね」

(´・ω・`) 「ん……ああ」

( ^ω^) 「ツンが死んだのも……冬だったお」

(´・ω・`) 「……そうだね」

「バーボン・ハウス」内の温度が、急激に下がる。
冬ということを意識しただけで、これほど肌寒く感じるものだろうか。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:13:03.76 ID:HUw1SpsO0

僕とショボンの間に、気まずい沈黙が流れる。
それでいい。それでこそ、ツンへの哀悼の意を送ることができる。

( ^ω^) (ツン……)

あの悲しい出来事があったのは、師走も間近で忙しい時期だった。
あのときのことは、いつ思い出しても胸が痛む。
僕は全ての思いを吐き出すように、ショボンに語り始めた。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:14:43.62 ID:HUw1SpsO0

ニ○○五年、冬。
娘ももう四歳になり、ひらがな程度の読み書きならできるようになっていた。
そして僕はより一層、仕事に家庭にと精を出していた。

( ^ω^) 「ふー……。お、珍しく定刻だお」

その日の分の仕事を終え、時計を見てみるとまだ五時だった。
ひさしぶりに早く帰ってやれる、と僕は嬉しくなる。
そんな気持ちのせいか、僕は珍しく帰りに、家の近所の商店街に寄った。
ツンの好きなメロンを買っていって驚かしてやろう、と子供じみた心が働いたのである。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:16:14.90 ID:HUw1SpsO0

僕は青果店で、季節はずれのメロンを購入した。
そしてウキウキ気分で帰路についていると、自分の家の近所で人だかりができているのに気づいた。

( ^ω^) 「……お?」

段々と近づいていく。
人だかりの近くにバンパーが滅茶苦茶になったトラックがあるのを見ると、恐らく交通事故だろう。
僕はあまり野次馬のような行為が好きではなかったので、そのまま素通りしようとした。
しかし自分の家の近所ということもあり、なにか言い知れぬ不安に襲われ、その群集の輪に入ることにした。

「お気の毒にねぇ」 「……さんの奥さんでしょ?」
そんな傍観者たちの言葉を聞きながら、僕は人ごみを掻き分けていく。
本当なら、この後僕も傍観者として哀悼の意を送っていたことだろう。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:17:50.67 ID:HUw1SpsO0

前に進むにつれ、段々とその事故現場が見えてくる。
バンバーの滅茶苦茶になったトラックとは別に、半分ペシャンコになっている真っ赤な軽自動車が見えた。
そこで僕は再び不安を覚える。
つい最近免許をとったツンが、つい最近購入した軽自動車とそのスクラップが酷似していたからである。

(;^ω^) (……ツン)

そうであってほしくない。いや、そうであるはずがない。
そう思ってるはずなのに、僕の心臓の鼓動はどんどん速度をあげていく。
そのときだ、聞き覚えのある子供の泣き声が聞こえた。

( ^ω^) (……!!)

群集をかきわけて確認したのは、数人の大人に囲まれながらスクラップの近くで泣き叫ぶ我が子だった。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:19:32.62 ID:HUw1SpsO0

(;^ω^) 「すいません!!」

「……パパ!?」

娘も僕に気づいた。だが、決してその場を動こうとはしない。
僕は急いで娘に駆け寄り、頭をなでてあげる。
そして、急いで状況整理を整理をする。

自分の家の車に酷似したスクラップ。
そしてその側で泣いていた我が子。
そしていつも娘と離れることはなかったツン。
……信じられなかった。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:21:06.07 ID:HUw1SpsO0

(;^ω^) 「ママは! ママはどーしたお!!」

「赤いお車のなか……」

メロンを入れた袋が、手から滑り落ちるのを感じた。
僕の頭はグラッと揺れた。現実逃避するかのように。
薄れ行く意識の中、僕が最後に聞いたのは娘の言葉だった。

「ママは、笑ってたよ」



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:22:42.46 ID:HUw1SpsO0

すっかり冷え切った店内。
ブーンがそれを切り裂くように、言葉を発した。

( ^ω^) 「ツンはなにかを抱きかかえるようにしながら、息絶えていたらしいお」

(´・ω・`) 「……身を挺して、娘さんを守ったんだね」

( ^ω^) 「遺体は、悲惨な姿だったお。あちこちが潰れていたお。でも、顔だけは無事だったんだお」

(´・ω・`) 「……そう」

( ^ω^) 「ツンの顔は歪んでいたお。あの美しいツンの顔が……」

(´・ω・`) (――え?)

再び静まり返る「バーボン・ハウス」。
僕は静かに、冷静に頭の中のもやもやを整理する。



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:24:15.56 ID:HUw1SpsO0

(´・ω・`) (考えろ、考えるんだ……)

さきほどまで読んでいたノートの違和感、そして今のブーンの発言。
それらが鍵なのだ。なにかがおかしいのだ。

(´・ω・`) (そうだ……)

僕は再びノートを手に取る。
冬だ。冬の詩を見れば、なにかがわかるかもしれない。
頁を捲った。そこには短い詩が、震えた線で書かれていた。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:26:17.64 ID:HUw1SpsO0

め。

やっとかけた。

でもわたしにはわからない。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:27:53.07 ID:HUw1SpsO0

その瞬間、寒気が走った。
僕は急いで次の頁をめくる。――ない。

(´・ω・`) (冬の詩……。今年の冬の詩が、無い)

それを認識した途端、僕の寒気は一瞬にして鳥肌となり、全身を駆け巡った。
なぜ冬の詩がない。そしてなぜこれほど違和感のある詩なんだ。
僕はその疑問を答えに変える。そして……ブーンを見た。

(´・ω・`) 「ブーン」

( ^ω^) 「……お?」

(´・ω・`) 「君は、光と冬が嫌いだったね?」



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:29:32.42 ID:HUw1SpsO0

( ^ω^) 「……そんなのよく憶えてるおね」

(´・ω・`) 「僕の考えが間違っていなければ……。その理由、やっとわかったよ」

( ^ω^) 「……そうかお」

ブーンはそれを聞くと、「ごちそうさま」と言い席を立った。
僕はブーンを止めなければいけない。そうわかっていながらも、僕の体は動かない。
ブーンが扉に手をかけたとき、やっと出た言葉は本当に伝えたいものではなかった。

(´・ω・`) 「……この詩、さっきから違和感を感じていたんだ」

( ^ω^) 「……」

(´・ω・`) 「でもきっと、君の娘さんは、いい詩人になれる才能を持っているよ」

( ^ω^) 「……ありがとうだお。」



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/03(土) 15:31:37.55 ID:HUw1SpsO0

ブーンは例のノートの裏表紙を捲ると、なにかを書き込んだ。
そして「バーボン・ハウス」から出て行った。

きっとブーンの姿は、もう見ることがないだろう。
僕は、さきほどまでブーンが使っていたグラスを叩き割った。

「バーボン・ハウス」に乾いた音が響いた。



ショボン編


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