4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 18:51:52.68 ID:D/z8dv5b0
 
月が頂点を通り越し、少しだけ斜めに見え始めた時。
ずっと黙っていたシャキンが、突然立ち上がり、口を開いた。


(`・ω・´)「ホテルの中に入ろう」


呆気にとられた僕たちは、彼の顔をぽかんと見つめていた。
僕たちを見下ろしている彼は、返事を待っているようだ。


(;゚ー゚)「……どうして。中にはあいつらがいるのに……」


あいつら、とは例の軍人たちの事だろう。
そうだ。今ホテルの中には、あの殺人集団がいるはずだ。


( ;・∀・)「わざわざ殺されに行くっていうのか?」

(`・ω・´)「……」


シャキンはじっと僕の目を見つめている。



6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 18:58:40.80 ID:D/z8dv5b0
 
( ;・∀・)「今僕たちがどんな状況にあるか、わかっているのかい?」

(;゚ー゚)「……」

(`・ω・´)「……わかっているさ」

( ;・∀・)「じゃあどうして」

(`・ω・´)「武器がいる」


僕の言葉に、シャキンの声が被さった。
その声は、怒りと決意に満ちていた。


(`・ω・´)「奴らはこの山を囲んでいるだろう。
      それを突破するには、奴らが持っているレベルの武器が必要なんだ」


突破する、とシャキンは言った。
いつの間にか、彼の中で隠れるという選択肢は消えていたらしい。

突飛な案に思えるが、よくよく考えればそれしか無いという気もしてくる。
このまま隠れ続けて、逃げられるかといえば、そんな確証は何一つ無い。
むしろ夜が明ければ、余計に見つかりやすくなり、殺されてしまうだろう。

逃げるなら、今。彼の判断は理に適っているように思える。



7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:05:44.67 ID:D/z8dv5b0
 
(;゚ー゚)「……嫌」

(`・ω・´)「しぃさん」

(*;ー;)「……」


しぃさんは声を殺して泣き始めた。
そうだ……彼女は奴らに恋人を殺されているんだ。
しぃさんを連れて中に行くのは無理だろう。


(`・ω・´)「……いいんす。しぃさんは外で隠れていて下さい」

( ;・∀・)「お前……」

(`・ω・´)「あの時と同じようになっちまいそうだな」


中庭で、ホテルに残るか、助けを呼びに行くかという時、シャキンは迷わず残る事を選んだ。
化け物がいるかもしれないホテルに、たった一人で残るつもりだったんだ。

怖いもの知らず。そう思っていた。
でも今は違う。彼はとても勇知ある人間なんだ。
今は、そう思える。



8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:12:11.80 ID:D/z8dv5b0
 
(*;ー;)「嫌……嫌……行かないで……」

(`・ω・´)「……生き残る事を考えましょう。生きて、この事実を世間に知らせるんです。
      このまま奴らに殺されるのを待つなんて、俺には出来ない」

(*;ー;)「……」

(`・ω・´)「……ギコさんの、敵討ちをしなきゃ」


しぃさんは自分の肩を抱きかかえるようにして、泣き続けた。
彼女の肩を、デレがそっと支える。


(`・ω・´)「デレは、しぃさんについていてくれ。それと、モララー……」


みなまで言わなくても、彼が何を聞きたいかわかった。


1:僕はデレたちと残る事を選んだ
2:僕は彼についていく事を決断した
3:何とか他の方法が無いか話し合おうと提案した
>>10



10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:14:28.87 ID:/n2KSRoiO
2



11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:20:34.83 ID:D/z8dv5b0
 
( ;・∀・)「行くよ。もちろん」

(`・ω・´)「今度こそは無理しなくていいぞ。正直な話、自分の考えに自信が無い」

( ;・∀・)「いや、少なくとも僕は正しいと思う。
      全員が助かるには、もうそれしか方法が無いさ」


シャキンは握った拳を胸の前に突き出した。
それに応えるように、僕は握り拳をつくり、彼の拳にぶつけた。


(`・ω・´)「お前、割と格好いい奴だな」


シャキンが僕を褒めたのは、これが初めてな気がする。
デレたちに一声かけてから、彼はそろりそろりと茂みから出て行った。


( ;・∀・)「すぐに戻ってくるから」

ζ(゚、゚;ζ「……わかった」


不安そうな彼女の顔を見ていると、その場から離れたく無くなってくる。
その感情をぐっと飲み込んで、僕は立ち上がり、シャキンの後を追い始めた。



13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:26:54.41 ID:D/z8dv5b0
 
シャキンの後ろ姿を追いながら、はたと気がついた。
いつの間にか、月明かりだけで十分周りが確認出来るほど、僕の目は闇に慣れていた。
これなら懐中電灯無しでも、問題なく行動出来る。

軍人たちは、ライトをつけてホテルの中を探索しているはずだ。
彼らを発見する事は容易いし、それ故に逃げる事も、隠れる事も可能になるだろう。
ひょっとすると、この作戦は思っている以上に成功するかもしれない。


(`・ω・´)「モララー」


後ろを振り返る事無く、シャキンが言った。


( ・∀・)「何?」


声が漏れないように、彼にぎりぎり届く声で聞き返す。


(`・ω・´)「……格好つけて飛び出したはいいけどよ、どうやって奴らから武器を奪えばいいんだ?」

( ・∀・)「あ」


ああああ……全く考えてなかった……。
何という……浅はかな行動だったんだろう……。



15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:34:49.48 ID:D/z8dv5b0
 
シャキンは無言でホテルの角を曲がった。
もう一度角を曲がれば、ホテルの正面玄関の方へ出る。


(;`・ω・)「……どうしよう」


振り返った彼の顔は、月明かりで死人のように青白い。
でもたぶん、明るい場所だったとしても、彼の顔は青白かったろう。


( ;・∀・)「……!」


突然、僕の頭はある素晴らしいアイディアを思いついた。
危機的状況下に置かれている分、生存本能が思考能力を上げているのだろうか。
いや、慌てていなかったら、逆にすぐに思いついていたのかもしれないが……。


( ・∀・)「シャキン。良い事思いついたよ」


1:「ゲリラ戦法だ」
2:「漁夫の利作戦だ」
3:「全裸突撃戦法だ」
4:「狂おしい程ルナティック戦法だ」
>>18



18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [sage] 投稿日: 2008/05/02(金) 19:39:29.15 ID:/n2KSRoiO
3だな、うん



19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:43:17.36 ID:D/z8dv5b0
 
( ・∀・)「全裸突撃戦法だ」

(`・ω・´)「そうか……その手があったか!」


僕たちは頷きあうと、即座に服を脱いでいった。
月夜に浮かび上がるは、二人の男の裸体。

シャキンの体は筋肉質で、彫刻のように美しかった。
それに比べて、僕の体は何て貧相なんだろう。
でも大丈夫だ。この作戦に体つきは関係無い。


( ・∀・)「行こう!」

(`・ω・´)「ああ! ショータイムだぜ!」


僕たちは隠れながら進むのをやめて、走り出した。



20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:46:41.06 ID:D/z8dv5b0
 
ホテルの角を曲がると、3人の軍人が周りを見張っているのが見えた。
両手でマシンガンを持っているのが確認出来る。でも僕たちは臆さない。
服を脱ぎ捨てた人間が、マシンガンごときに恐怖するはずが無い。


「だ、誰だ!?」

「裸族……!?」

(`・ω・´)「うおおおおおお!!!」

(#・∀・)「そーらどうだああ!!!」


走る度に、ぴたぴたとアレが揺れる。
太ももに当たる感触が、何とも心地が良い。

僕たちはソレを振り回しながら、軍人達に駆け寄った。
彼らは困惑していて、僕たちを攻撃出来ないでいる。
今がチャンスだ。



22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:50:14.31 ID:D/z8dv5b0
 
(`・ω・´)「せい! せいせいせい!」


シャキンのチョップが、軍人達に炸裂した。
一瞬にして二人を倒してのける。残りは一人。


「く、来るなああ!!」

(#・∀・)「来ちゃうよおお!!!」


勢いを殺さぬまま、下半身を突き出したポーズでタックルをかました。
僕の体の一番敏感な部分が、軍人の顔に激突する。
彼は昏倒し、動かなくなった。


(`・ω・´)「マシンガンを奪うぞ」

( ・∀・)「中にいる奴らもやっちまおう」

(`・ω・´)「OK兄貴。ついていくぜ」



24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:54:41.30 ID:D/z8dv5b0
 
マシンガンを背負い、僕らはホテルの中に突入した。
全裸にマシンガン。ああ、何て美しい姿なんだろうか。
世界中のどの戦場を見渡しても、ここまで美を追究した戦士はいないだろう。


「む……誰だ!」

(`・ω・´)「シャキンさんがせい!」

「ぐほぅ!」

「こいつ……ミミックか!?」

「でも二人いるぞ!?」

「そして裸だぞ!?」

(#・∀・)「ほーらエッチなものだよおおお!!!」

「ぎゃああああ!!!!」


絶え間ない断末魔の響きが、ホテルに残響を残し続ける。
僕たちはそうやって、何十人もの軍人たちを倒していった。



27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 19:59:25.10 ID:D/z8dv5b0
 
(`・ω・´)「流石に重いな」

( ・∀・)「ああ。マシンガンっていうか、鉄の塊だな」


倒した軍人の数だけ集めたマシンガンは、体中に巻き付けている。
これは戦利品だ。勝利の証として、我が家に飾るんだ。


(`・ω・´)「!」

( ;・∀・)「!」


意気揚々とホテルの廊下を歩く僕たちの前で、緑色の何かが光った。
その光は見覚えがある。トカゲ男だ。


「カァァァ……クェア……コァハァァァァ……」


一歩一歩、こちらに近づいてきている。
まずい。これは想定外だ。こいつと戦おうなんて考えてなかった。



30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 20:04:13.53 ID:D/z8dv5b0
 
「ヒュゥゥゥゥゥゥゥ……」

( ;・∀・)「くそ……!」


僕らは体を拘束するマシンガンを降ろし、一丁だけ構えた姿で、奴を待ち受けた。
流石にトカゲ男相手に全裸戦法はきつい。


(;`・ω・)「……」

( ;・∀・)「……」


顔が見えるまで、奴は近づいた。
緑色の肌、黒い斑点、無数にある小さなイボが、暗闇に浮かび上がる。


(;`・ω・)「撃て!!!」


シャキンの声を合図に、全ての力を込めてトリガーを引いた。
サイレンサーがついているのだろうか。ガスが抜けるような音と共に、銃口から火花が散る。



31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 20:09:00.49 ID:D/z8dv5b0
 
発砲の反動で、一瞬だけ目を瞑った。
そのほんの一瞬の間に、トカゲ男の姿は消えていた。

横を見ると、シャキンが天井に向かって銃を撃っている姿が見えた。
即座に天井を見上げると、まるで重力を無視した動きで、天井をはい回るトカゲ男が見えた。
銃口を合わせ、一緒になって撃つ。


「シャァァァ!!! シャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


それは信じられないような動きだった。
天井、左右の壁、床をピンボールのようにはね回り、銃弾を避けている。
さらに奴は、徐々に僕達に近づいているようだった。


(#`・ω・)「くそったれええええ!!!」


狂ったように、撃つ。打ち続ける。
奴は全て躱す。躱す。躱す。

カチャ。

( ;・∀・)「!」



33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日: 2008/05/02(金) 20:13:21.28 ID:D/z8dv5b0
 
弾が切れた。ちょうど同じタイミングで、シャキンのマシンガンも弾切れを起こしたらしい。
地面に転がるマシンガンの一つに、手をつけようとした、その時。


「げぇお」


うめき声ともつかない、妙な声が隣から聞こえた。
シャキンが見える。
シャキンの顔が真横に傾いている。
シャキンの首がねじれている。
シャキンの首が一回転して真横にねじれている。


( ;・∀・)「ああ……あああ……」


その後ろに、奴の姿があった。
恐ろしいスピードで伸びてきた、緑色の腕が、僕の人生の、最後の視界となった。


糸冬「死する姿は生まれ落ちた姿で」



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