24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 14:39:29.56 ID:OvFhthRj0
四日目
25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 14:41:43.88 ID:OvFhthRj0
( ,,゚Д゚)「じゃ、ま、今月も何もなく無事平和に迎えることが出来て、」
( ,,゚Д゚)「かんぱーい!!!」
<ヽ`∀´>(`・ω・´)/ ,' 3「ういー!!!」(´∀` )( ゚д゚ )(‘_L’)
/ ゚、。 /「…………」
<ヽ`∀´>「いやいや、今月もありがたいですお」
(`・ω・´)「全くですお。これも、水霊男爵のおかげ?なーんつって、な!」
/ ,' 3「ぶひゃひゃひゃ」
( ´∀`)「毎月こうやって酒を呑むのが楽しみですおー」
( ,,゚Д゚)「おいおい、そういう名目じゃないおwww」
28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 14:44:44.17 ID:OvFhthRj0
/ ゚、。 /「…………」
( ^ω^)「ビールに日本酒、それにおつまみ置いときますおー」
( ゚д゚ )「すまんお。嬢ちゃーん、コップもうちょい持ってきてくれー」
ξ ゚听)ξ「はーい」
( ,,゚Д゚)「酒だおー酒だおー!!」
/ ゚、。 /「…………」
なんだこれ。
なんだこれ、おい。なんだこれ。
なにがなんで、なんでだ、なにがどうなって、なにがこれ。
これがなんでなんだこれ。これってつまり、なんででしょう。
なんでってなんだろう。なんでもかんでもなんでもかんでる。
かんでもなんで、なんでってなんだだだ関係者出て来い!
29 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 14:48:46.40 ID:OvFhthRj0
三十分ほど前に到着したじーじたちは、石碑の前で祈るやいなや、集会所で飲み会を始めた。
酒の宴だ。
昼間だというのに、大学生のような超ペースで飲みに飲んで、飲みまくっている。
忙しそうにツンと内藤が酒を持ってきたり、空になったのを持っていったり。
おおよそ、二十強の男女交えた老人たちは楽しそうにはしゃいでいる。
あるグループではご近所の悪口を言い合い、
あるグループでは義理の息子、娘を罵り、
あるグループでは孫自慢。
なんだ、これ。
/ ゚、。 /「…………」
31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 14:53:29.09 ID:OvFhthRj0
一応渡された紙コップには一口もつけていないビールがもりもりと。
検尿のようだ。生ぬるくて、炭酸が抜け始めている。最悪の喩えだ。
一人どう考えても浮いているだろう。
先輩は体調不良とかなんとかで出ないし。
流石に私がここにいないと怪しいだろう。遭難した鳥類研究会として。
/ ,' 3「飲まんの?飲まんの?」
一人の老人がそう声をかけてきた。
古今東西、酔った人間ほどめんどくさいものはない。
/ ゚、。 /「……いえ」
/ ,' 3「なんじゃなんじゃ。飲んどくほうがいいお。おぬし何歳なんだお?」
/ ゚、。 /「にじゅう……いちです」
/ ,' 3「ほぉ」
流石に六歳さばを読んだのはまずいか?
33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 14:57:38.66 ID:OvFhthRj0
/ ,' 3「若いのぉ、若いのぉ。うらやましいお」
/ ゚、。 /「はぁ」
/ ,' 3「なんじゃー、彼氏とかおらんのかおー」
/ ゚、。 /「…………」
/ ,' 3「おっと、これはうっかりかおwwww」
うぜぇ。
/ ,' 3「どうじゃ、わしの孫の嫁にでもならんかお!」
これじゃあ。と写真を取り出した。
,. -ー冖'⌒'ー-、
,ノ \
/ ,r‐へへく⌒'¬、 ヽ
{ノ へ.._、 ,,/~` 〉 } ,r=-、
/プ ̄`y'¨Y´ ̄ヽ―}j=く /,ミ=/
ノ /レ'>-〈_ュ`ー‐' リ,イ} 〃 /
/ _勺 イ;;∵r;==、、∴'∵; シ 〃 /
,/ └' ノ \ こ¨` ノ{ー--、〃__/
人__/ー┬ 个-、__,,.. ‐'´ 〃`ァーァー\
. / |/ |::::::|、 〃 /:::::/ ヽ
/ | |::::::|\、_________/' /:::::/〃
34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:03:22.47 ID:OvFhthRj0
/ ゚、。 /「…………」
/ ,' 3「どうじゃ、なかなかの男前じゃろwwww」
うち、どんなリアクションとったらええねん。
/ ゚、。 /「お断りします」
/ ,' 3「なんじゃのー。ちょっと理屈っぽいけど中々ええやつだお」
理屈っぽいとか、そういうレベルじゃねぇだろ。
なんだ、背中から出てる、それ。それ。
,. -ー冖'⌒'ー-、
,ノ \
/ ,r‐へへく⌒'¬、 ヽ
{ノ へ.._、 ,,/~` 〉 } ,r=-、
/プ ̄`y'¨Y´ ̄ヽ―}j=く /,ミ=/
ノ /レ'>-〈_ュ`ー‐' リ,イ} 〃 / ←これ
/ _勺 イ;;∵r;==、、∴'∵; シ 〃 /
,/ └' ノ \ こ¨` ノ{ー--、〃__/
人__/ー┬ 个-、__,,.. ‐'´ 〃`ァーァー\
. / |/ |::::::|、 〃 /:::::/ ヽ
/ | |::::::|\、_________/' /:::::/〃
なんだよお前。
ほんと、どっか戦いに行く途中なのかよ。
36 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:05:10.99 ID:OvFhthRj0
今時、メガネそうやってあげる奴もいないだろうに。
どないしたらええねん、こいつの写真見て。
/ ,' 3「趣味はのー」
続けるな。
/ ,' 3「よく戦いに行くとか言っとったのー」
戦ってたよ。
/ ,' 3「コミケ?とかいう場所で」
/ ゚、。 /「…………」
/ ゚、。 /「ちなみにお孫さんの年齢は」
/ ,' 3「31だお」
年、上……だと………。
37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:06:45.26 ID:OvFhthRj0
/ ,' 3「なんなら今度デートにで」
/ ゚、。 /「絶対にお断りします」
/ ゚、。 /「何があろうとお断りにします」
/ ゚、。 /「世界で彼と二人残ったら自害します」
/ ,' 3「…………」
/ ゚、。 /「…………」
( ^ω^)(初対面とは思えぬ高圧的なもの言い)ヒソ
ξ ゚听)ξ(絶対に友達出来にくいタイプね)ヒソ
( ^ω^)(そういや僕らのときもあんな感じで理不尽なこと言ってたお)ヒソヒッソ
ξ ゚听)ξ(話したらいい人なのにもったいない)ヒッソリーニ
38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:08:28.99 ID:OvFhthRj0
/ ,' 3「なんでだろう、とっても悲しい気分」
老人は小さな背中をさらに小さくして酒の席に戻っていった。
少し、罪の意識を感じたが、ちゃんと写真だけが置いてあり、なんだか全部どうでもよくなった。
あの短時間でどうやったのか、裏にはアドレスと番号まであった。
げに、おそろしきは元水栄の住人。
そういえば全員語尾に「お」がついている。
内藤がふざけているのかと思ったが、そうではなくこの地域の方言らしい。
( ,,゚Д゚)「嬢ちゃんかお?大学の、えーっと」
/ ゚、。 /「鳥類研究会です」
( ,,゚Д゚)「そうそう、ご苦労なことだお。こんな山奥まで」
/ ゚、。 /「すいません、ご迷惑をおかけした上、お酒の席にまでお邪魔して」
一歩下がれ。
一歩下がった位置で話を進めるんだ私。
40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:15:13.65 ID:OvFhthRj0
( ,,゚Д゚)「構わないお。まあ、色々古い廃村だお。あんま歩きまわらねぇでくれお。この形で残しときてぇんだお」
/ ゚、。 /「…………」
え?
( ,,゚Д゚)「自然も中々多くて、水もきれいだお」
待て、少し待て。
( ,,゚Д゚)「特に、村の端のほうにある山だお。こっからも見える山。
あっこらへんには熊がでるお。だからあまり行くのをお勧めしないお」
/ ゚、。 /「それは危ないですね。石階段から見て正反対に位置している山のことですか?」
( ,,゚Д゚)「そうだお」
/ ゚、。 /「…………」
41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:19:31.14 ID:OvFhthRj0
この感覚はなんだ。
あからさまに何かを隠すこの感覚。
そこが危険だと自ら教えるような言い方だ。
試しているのか?
私がそこに行くか、どうかを。
水霊男爵について調べに来たかどうかを。
たかだか都市伝説にすらならぬものを?
だが……。
/ ゚、。 /「分かりました」
( ,,゚Д゚)「ありがとうだお。とりあえず飲みに飲んでくださいお。たくさんあるんで」
(`・ω・´)「ういー!」
( ´∀`)「ういー!!」
43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:24:41.49 ID:OvFhthRj0
矛盾だ。
神格化するほどの存在のために開かれた会合の姿がこれか。
矛盾を感じずにはいられない。
ただ、そういう名目で酒をあおっているようにしか見えない。
おかしすぎる。
誰も水霊男爵のことを口に出さない。
ありがたみの一つも感じない。
それなのに隠したがる。
煙たがっているのか?違うな。
なんだ。
そう、見ない振りをしている、というか。
45 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:28:47.21 ID:OvFhthRj0
<ヽ`∀´>「飲んでるー???」
=≡<ヽ`∀´>)゚、。 /メハァ
/(#)、。 /「とんがりが……」
<ヽ`∀´>「…………」
/(#)、。 /「…………」
<ヽ`∀´>「スイマセンデシタ」
/(#)、。 /「……イエ」
先輩はいない。
プレハブにいるのか、もしくはどこに行ったのか、それも知らない。
私はしぶしぶここにいなければならない。
47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:34:44.59 ID:OvFhthRj0
(`・ω・´)「かわいいお」
/ ゚、。 /「……どうも」
(`・ω・´)「うちの息子の嫁に」
/ ゚、。 /「お断りします」
(´・Д・`)「…………」
暇だ。
ξ ゚听)ξ「リキュールです。氷持ってきたんで飲みましょう」
/ ゚、。 /「んー、いいのかな?」
ξ ゚听)ξ「いいんですよ。それにブーンは向こう行っちゃったし、暇なんです。構ってください」
まあ、それもいいかもしれない。
48 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:37:30.36 ID:OvFhthRj0
よいしょ、とおっさんのように自分用の座布団を私の横に放ると、でん、と腰をおとした。
胡坐をかいて焼酎代わりに杏の酒を片手に持っていた。
ξ ゚听)ξ「乾杯しましょう、乾杯」
ほらー、と渡されたロックの先をツンのそれと軽くぶつける。
コン、と澄んだ音が骨の先に響いて少しだけ口をつけた。
/ ゚、。 /「甘い」
ξ ゚听)ξ「そういうお酒ですから」
やんややんやと隣の席では老人どもがはしゃいでいる。
ツンと私の二人だけが隔離されたように、見えない壁に四方を囲まれ空気が冷えていく。
アルコールが喉にひっかかり、少しずつ頭の奥のほうから熱くなる。
50 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:39:53.83 ID:OvFhthRj0
ツンがゆっくり口を開いた。
ξ ゚听)ξ「ブーンって、可愛いんですよね」
氷が溶ける。
カランと言う。
ξ ゚听)ξ「なんか動物的なんです。私がそばにいてあげようと思うんです。おっきい犬みたいな感じ」
ぬへへ、と少しだけ自分が言ったことに対して恥ずかしそうに笑った。
ξ ゚听)ξ「だから、ちょっと強くあたっちゃうときもあるけど、その、やっぱり」
ξ*゚听)ξ「かわいいんですよね」
ξ*゚听)ξ「あー、何言ってんだろ」
/ ゚、。 /「…………」
ほんと、鬱になるわ。
51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:42:54.49 ID:OvFhthRj0
いや、いいんだよ。付き合ってんだしさ。女私しかいないし、デレるんならデレればいいと思う。
でもよ、こちとら彼氏なんていたことねぇんだよ。
とっつきにくいとか無愛想とか色んな理由つけて距離置かれてんだよ。
男。
男とは一体なんぞ。
そんなこんなで二十七年間。
尼みたいな生き方でござる。
ほんと、熱心なキリシタンか、っつう話だよ。
/ ゚、。*/「……うん」
ξ*゚听)ξ「酔ってます?」
/ ゚、。*/「まだ……だいじょぶ」
ξ*゚听)ξ(この人も弱いのね)
ξ*゚听)ξ「ぃょぉさんとの思い出みたいなのも教えてくださいよー」
/ ゚、。*/「…………」
思い出、思い出といわれてもぱっとでてくるのは初めて会った日のことだ。
52 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:47:46.54 ID:OvFhthRj0
昔々。
そこには文学に憧れる少女がいました。
彼女は小さい頃から人と付き合うことが苦手で、
せっかく伸ばされた手も自ら切り離して自分の世界に閉じこもっていました。
誰かが楽しそうにしているのに入りたい、と思うのに声をかけようにも勇気が足りません。
喋ったとしても言葉が見つからず、いつも無愛想な態度になってしまいます。
気付けば彼女の周りには誰もおらず、みんな彼女を見てみぬ振りをしました。
彼女は自分がどういう存在か知り、そして現実から逃げるためにあるものを手に取りました。
それが彼女と本の出会いでした。
本を読んでいる間彼女はその世界で唯一存在を見出せ、かつ彼女の方の世界には干渉しなくてすんだのです。
それは彼女が赤いランドセルを背負っていたころから、制服を脱ぎ捨てるまでずっと続きました。
54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:55:54.56 ID:OvFhthRj0
彼女は大学に入ると同時に小説を書き始めました。
相変わらず大学でも孤立していましたが、それは彼女にとって苦痛ではなく、ある種当然としたものでした。
彼女は自分の世界を自分の中だけでつくり、世界は幾十となりました。
彼女は世界に対し、絶対的な自信と己のアイデンティティを見ていました。
必要不可欠であり、それだけが彼女を形成するようになっていたのです。
当然の流れとしてその世界を広げて、自分のような存在のために配信しようといくつもの賞に応募しました。
一度目は最終選考まで残りました。
二度目は二次選考。
三度目は作品のタイトルすらあがりませんでした。
しかし彼女はそれでも負けずにどんどん応募していきました。
気付けば彼女の存在はとり付かれたようにそれに向かっていました。
55 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 15:59:11.25 ID:OvFhthRj0
気付けば大学も四回目の春。
大手の出版社に彼女は呼ばれました。
それは受賞の報告でありませんでしたが、おもしろいので本を出さないか、ということでした。
彼女は舞い上がり、二つ返事で返しました。
「ありがとうございます」
彼女は言いました。
「頑張りましょう」
担当者は笑いました。
二人が連絡先を交換したとき、その部屋に一人の小さな男が入ってきました。
ポッキーを煙草のようにくわえ、楽しそうに入ってきました。
身長175を越す彼女の頭一つ小さく、子供のような顔をしていました。
57 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:03:19.52 ID:OvFhthRj0
「やめとくんだよぅ」
男は言いました。
言うと同時に彼女の小説を手に取り、ゴミ箱に投げ捨てたのです。
数瞬何が起こったのか理解できませんでしたが、彼女は激怒しました。
「何をする!!」
殴りかからんとする剣幕で小さな男に攻め寄ると、男はチョコの溶けたポッキーを口から離し、冷たく言い放ちました。
「お前に小説の才能はない」
彼女は今度こそ本当にその言葉が理解できませんでした。
それは、その言葉は、彼女のアイデンティティを否定し、つまるところ、
/ ゚、。 /「彼女の存在を否定していたのです」
ξ ゚听)ξ「…………」
58 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:06:01.45 ID:OvFhthRj0
こんなもん売り出しても売れない。
売れたところでこいつはそれで終わる。
なおも男は言い放ち、内ポケットから煙草ならぬまたもポッキーを取り出しました。
担当者は眉間に皺を寄せながら言いました。
「雑誌担当の君に何がわかる?」
そうだ!と彼女は思いました。
雑誌の担当なんかに何が分かる。
彼女は担当者の声を背に勇気を振り絞りました。
「何がわかるって言うんだ!」
しかし、男は冷静に言い放ちました。
「小説を読んでいるから何がわかる?」
それに対して彼女も担当者も言葉を失いました。
続けて男は担当者にむけて言葉を放ちました。
59 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:08:32.15 ID:OvFhthRj0
「どうせ、適当なカモを見つけたから食おうと思っただけだろう?
お前、出版する気ないくせに女だけを食おうとしやがって」
弾かれたように彼女は担当者を見ると、担当はなんともばつの悪そうな顔をしていたのです。
「な、何を言っている。失礼にもほどがある!出て行け」
自分の不安をかき消すように担当者は空で手を振りました。
しかし男はひるむ様子も見せずに言葉を続けます。
「失礼?出版という言葉を餌に青臭いガキを食う男のどの口がその言葉を使う」
もはや男は小さいに関わらず、鬼の大将のような落ち着いた口調で、しかし同時に担当を追い詰めていきます。
「おい、鈴木」
現場にどうしていいかわからない彼女は名前を呼ばれた目線を下げました。
「本当に自信があるなら出版してやる。
ただし担当は僕が選んだ人間だ。こいつはクズだからお前の貞操概念をいじくって終わるだけだ」
男は今度はぷっちょを取り出して口に含みました。
60 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:14:10.74 ID:OvFhthRj0
ξ ゚听)ξ(甘いもん捨てろよ……)
「お、おい勝手に話をすすめるなよ」
担当は焦りましたが、それにトドメを射すように男は言いました。
「そういえば、お前編集長に呼ばれていたよぅ。どうしたのかな?」
男の言葉に担当の頬に一滴の汗が流れました。
じりじりと後退を始め、
「いけよ」
男の一言で脱兎の如く部屋を逃げ出しました。
その背中に強く負け犬の文字が刻み込まれていました。
「左遷か、まあリストラ。1対9でリストラだけど。前にいた『そういう』女の子たちが訴えてきたんだよぅ」
疲れたー、と男はそのままソファに座り込み、鞄からカルピスソーダを取り出すと口をつけて飲み始めました。
62 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:19:27.33 ID:OvFhthRj0
「キレモードは体力を使うからあんまり使いたくないよぅ。最後にぼろでてたし」
そこにいたのは先ほどの恐ろしいまでの剣幕のもちぬしではなく、子犬のようなコロコロとした少年でした。
彼女は訳がわからず、促されるまままたソファに座りました。
代わりはこの男か?と思っていると再び男は言いました。
「まあ言ったけど、お前に小説の才能ないよ?でも、どう出版する?担当紹介するけど」
甘い言い方でしたがそれは先ほどよりも突き放した言葉でした。
出版、させてもらえるなら……。
彼女はこのときまだ自分のアイデンティティを信じていたのです。
「あーするんだ。別に僕はいいけど。ただし条件がある」
「条件?」
「うん。売れなかったら僕のとこの部署を手伝うこと。つまりここに就職すること。その際は僕の下で働くこと。最後に」
それが彼女にとって一番辛いことでした。
「もう小説家の夢は諦めること」
63 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:22:27.87 ID:OvFhthRj0
ξ ゚听)ξ「で、どうなったんですか?」
ずいぶんと長いこと喋ったせいで酔いが醒め始めていた。
ツンもそうらしい。
ありがたいことに私のつまらない話に興味をもってくれている。
夜が、世界を包んでいた。
山の夜は来るのが早いな。
/ ゚、。 /「小説は全く売れず、元の担当は訴えられ、彼女は就職活動に悩まずすみました、とさ」
ξ ゚听)ξ「最後w」
とツンは笑った。
確かに今考えるとラッキーだ。
ξ ゚听)ξ「でもぃょぉさんって意外に怖いんですねぇ。ってかよく働く気になりましたねぇ」
/ ゚、。 /「まあ、それも色々とあってだな」
65 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:24:53.78 ID:OvFhthRj0
結局卒業まで彼女の小説が売れることはなく、大きな赤字を出しました。
だが彼女がその事実を知ったのは入社半年後。
なんと損害は小さな男が全て負担していたのです。
彼女は男にその時初めて本気で感謝をしました。
しかしそれがなくとも彼女は多分男の元で今も働いていたのだろうと思います。
「お前に小説の才能はないよぅ。でも僕はお前の書く『文』が好きだよぅ。
嘘偽りの無い硬い平たい言葉。それは十分武器になるよぅ」
/ ゚、。 /「…………」
ξ ゚听)ξ「えー、言ってくださいよー」
/ ゚、。 /「つまらぬ、話じゃて」
ξ ゚听)ξ「なんですかそれww」
66 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:26:28.27 ID:OvFhthRj0
彼女は今まで出会った様々な人とは違い、不器用な自分も、自分が書いた文も認めてくれる不思議な存在でした。
それは、彼女にとって初めての、自己を認めてくれた存在であり、この世界にいてもいいと言ってくれた存在でした。
その存在は彼女の中でとても大切なものになりました。
それは今でも。
/ ゚、。 /(……とさ)
/ ゚、。*/「……フフ」
ξ ゚听)ξ?
/ ゚、。 /「ツン」
ξ ゚听)ξ「はい?」
/ ゚、。 /「呑むか」
70 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:38:30.85 ID:OvFhthRj0
と私は今でも元気な老人の中から日本酒を奪うとツンと私の中間地点にドンと置いた。
何が自分をこうさせているのかはわからない。
それでもとりあえず、呑んどけ。呑んどけ呑んどけ。
それからのことはよく覚えていない。
とにかく日本酒をあおり、初めてとろけそうなほど酔った。
途中、絡んでくる妙な男がいた。
あまりにも変なアプローチをしてくるので、
一度ボスに教えてもらった一本足四の字固めをかけてやると泡を吹いて倒れてしまった。
よく見ると例の孫だった。
,. -ー冖'⌒'ー-、
,ノ \
/ ,r‐へへく⌒'¬、 ヽ
{ノ へ.._、 ,,/~` 〉 } ,r=-、 <ギブ!ギブ!!
/プ ̄`y'¨Y´ ̄ヽ―}j=く /,ミ=/
ノ /レ'>-〈_ュ`ー‐' リ,イ} 〃 /
/ _勺 イ;;∵r;==、、∴'∵; シ 〃 /
,/ └' ノ \ こ¨` ノ{ー--、〃__/
人__/ー┬ 个-、__,,.. ‐'´ 〃`ァーァー\
. / |/ |::::::|、 〃 /:::::/ ヽ
/ | |::::::|\、_________/' /:::::/〃
75 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 16:58:32.65 ID:OvFhthRj0
そのままつぶれて寝てしまった老人たちにならい、ツンと一緒に畳の上で寝ている時だった。
何時間経ったのかわからない。
それでもその声が聞こえたということは、酔いは醒め始め意識が戻っていたのだろう。
だから、すぐ起き上がることが出来た。
/ 。゚ 3「た、助けてくれお!!で、でたんじゃ!!」
/ 。゚ 3「水霊男爵がでたんだおおおおおお!!!!!!」
78 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/08/19(火) 17:13:53.33 ID:OvFhthRj0
四日目 おわり
戻る