1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 00:59:51.22 ID:4ta+NkZs0





一日目






2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:01:29.13 ID:4ta+NkZs0

今時ホラー特集なんて流行らないと思うのだが、先輩は是非行こうとしつこい。
単に自分がオカルト好きだから、その村に行きたいのだと言えばいい。
私はごねる先輩につられたのもあるが、最近デスクワークばかりだったので外に出たいという気持ちもあった。
理由をつけるならそんなところだが、まあ、なんとなく先輩についていくことにした。

編集長からは案外あっさり許可がおり、私と先輩は今はもう廃村になったその村に行くことになったのである。



/ ゚、。 /と(=゚ω゚)ノと謎の洋館のようです


ブロロロロと先輩の車の助手席から山を眺めてもう何時間。
山以外にここには何もないのだ。
車道というよりも獣道。
以前ここを車が走ったのは何年前だろう。
パンクしないのが奇跡に思える。いや、奇跡か。



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:04:00.83 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「村、見えないですね」

(=゚ω゚)ノ「サボりも入ってんだから見つからなきゃ見つからないでいいんだよぉ!」

と先輩は楽しそうにハンドルをぺちぺち叩く。

私が記者として仕事を始めるきっかけをくれたのがこの先輩である。
見た目は学生そのものだが、なかなかの腕を持っているらしく、彼が携わった記事が載った号は馬鹿みたいに売れる。

/ ゚、。 /「いい加減ですね」

(=゚ω゚)ノ「前バス子供料金で乗れたよぉ!」

もうすぐ四十のはずだ。不老の秘密を知りたい。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:06:14.88 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「それにしても、村は見えない、か」

(=゚ω゚)ノ「おかしいよぉ。そろそろのはずなんだけど」

/ ゚、。 /「地図、貸してください」

(=゚ω゚)ノ「後部座席見てくれよぉ」

私は振り返り、無人の後部座席を見る。

/ ゚、。 /「ないですよ」

(=゚ω゚)ノ「よぉ!?」

/ ゚、。 /「どうやって運転してたんですか?」

(=゚ω゚)ノ「お前も僕の記憶力のよさは知っているだろう?」

確かに、この人だったら一週間分の食事を一つも欠けることなく小皿まで言い当てることが出来るだろう。
学生時代は何でも円周率の3,14以下を覚える全国チャンピョンをだったらしい。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:08:49.29 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「でもせめて地図ぐらいは」

(=゚ω゚)ノ「もってきたつもりだったのにぃ」

/ ゚、。 /「甘い声だしてもだめですよ」

(=゚ω゚)ノ「ちぇ。まあもう少しだけ僕の記憶に付き合ってくれよぉ!」

はいはい、と私は視線を外に移す。
彼のことだ、多分村はもうすぐ見えるはず。

/ ゚、。 /「廃村なんて行って意味ありますかね?」

(=゚ω゚)ノ「イオはアニメとか見る?」

/ ゚、。 /「その呼び方やめてくださいよ。魔法みたいじゃないですか」

(=゚ω゚)ノ「ダイオードって長いんだよぉ!」

/ ゚、。 /「鈴木でいいじゃないですか」

(=゚ω゚)ノ「距離感があるだろ!いいから質問に答えるんだよぉ」

いつかイオナズンだなんて呼び出すかもしれない。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:11:29.77 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「ドラえもん、ぐらいですかね」

あとしんちゃん。ひろしは好きです。

(=゚ω゚)ノ「ひろしは僕も好きだよ。でも今言いたいのはひろしじゃなくて、『ひぐらしの鳴く頃に』っていうやつだよ」

/ ゚、。 /「蝉の話ですか」

(=゚ω゚)ノ「ち、違うよぉ」

同じ登場人物でいくつものストーリーがあるらしい。
推理要素も多く、大人が見ても楽しめる、とのこと。

(=゚ω゚)ノ「僕も出来がよくて驚くよぉ。ホラーかと思えば意外にトリックがあるんだよぉ」

ほら、これ、と携帯を渡され、のぞいてみると巫女姿の目の大きな女の子が「にぱー」って言ってる。

(=゚ω゚)ノ「僕の一番のお気に入り、梨花ちゃんだよぉ」

/ ゚、。 /「先輩、こういうのはあまり人に見せないほうがいいですよ」

だから結婚できないんです、というとすごく怒られた。
虹はすごいとか、なんとか。七色は不思議です、というとさらに怒られた。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:14:17.51 ID:4ta+NkZs0

(=゚ω゚)ノ「と、とりあえず、僕の話を聞きなさい」

/ ゚、。 /「話の腰を折りまくってるのは先輩です」

(=゚ω゚)ノ「そのひぐらしの話の一つに廃村となった雛見沢に取材に来る話があるんだよ」

/ ゚、。 /「あら」

(=゚ω゚)ノ「それはホラー要素ほとんどないんだけど。なんか今の僕らとかぶってるよ」

/ ゚、。 /「話はどんなもんです」

(=゚ω゚)ノ「893の抗争に巻き込まれたり、集団自殺にあったり、彼氏を殺す彼女にあったりするよぉ」

/ ゚、。 /「……なんで、そんな話するんですか」

(=゚ω゚)ノ「一度くらいイオの怖がる顔が、見て、みたい!!!」

/ ゚、。 /「…………」

楽しそうに言う先輩が阿呆らしく映る。
私はリクライニングを倒して、寝る体勢に入る。

/ ゚、。 /「着いたら起こしてください」

うつらうつらし始めると同時に先輩の声が聞こえた。

(=゚ω゚)ノ「僕らが今から行く、『水栄村』には、何があるのでしょう?」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:15:27.07 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「格好つけた割りに、迷子ですか」

(=゚ω。)ノ「けけけけけ、携帯が通じない。がががあがが、がそりんがきれとる!」

/ ゚、。 /「落ち着きなさい」

あれから進んでも全く村は見えなかった。
それどころか、ガス欠の末タイヤはパンク、連絡をつけようにも県外で電波は程遠い。

食料はあるだろうか、とトランクを開くといろいろな機材と共におかしがたくさん出てきた。

/ ゚、。 /「…………」

/ ゚、。 /「ジャンクなものばっかり」

(=゚ω゚)ノ「ああ!ばれたよぉ!!」

お酒が飲めない先輩はお菓子とジュースが大好きである。

/ ゚、。 /「まあ、ある程度持つでしょう。ジュースばかりで喉が渇くかもしれないですけど」

(=゚ω゚)ノ「全く。お茶ぐらいもってくるんだよぉ」

/ ゚、。 /「先輩、もう、あなたという人は」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:19:08.37 ID:4ta+NkZs0

山の夜は早い。
外灯なんてあるわけもなく、あっという間に暗闇が辺りを包み込む。
ほぉほぉ、と鳥の鳴く声が響き、風のたてるガサガサという音にいちいち先輩は驚く。

/ ゚、。 /「困りましたね」

(=゚ω゚)ノ「あ、あそこ見るよぉ!」

と先輩が指差した方向にはぽつんと明かりが点いている。
鈍い、ぼんやりとした明かりだ。

山の中腹だろうか。
歩けばそこそこの距離だろう。

/ ゚、。 /「行くしかないですね」

(=゚ω゚)ノ「歩きたくないのにぃ」

文句を言う先輩を放置して、お菓子とジュースをかばんに詰める。
一応のカメラなども。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:20:18.34 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「もしかしてあれが水栄村ですかね?」

(=゚ω゚)ノ「三十年以上前に廃村になってるはずだよぉ。まさか人がいるなんて」

/ ゚、。 /「じゃあ……幽霊?」

(=゚ω゚)ノ「!!!!」

/ ゚、。 /「動揺しないでください。行きますよ」

これでオカルト好きだというのだからおもしろい。

(=゚ω゚)ノ「あ、ちょっと待つよ」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:21:20.41 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「?」

(=゚ω゚)ノ「よいしょ、行くよぉ」

先輩はジャラジャラとキーホルダの多く付いた鍵をポケットにしまう。

/ ゚、。 /「車のキー?」

(=゚ω゚)ノ「ひぐらしじゃ車がなくなるんだよぉ」

/ ゚、。 /「私が幽霊ならパンクとガス欠の車なんていりませんけどね」

(=゚ω゚)ノ「…………」

じゃ、行きますよ。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:23:48.47 ID:4ta+NkZs0

ろくに道なんてものはなく、枝に裂かれ、木に塞がれ、鳥の声に怯えて。
足は慣れない道に一瞬でくたくたになり、一時間ほどなのに、全身運動を何時間もしたような疲労を纏いながら。

なんとかそこについた。

(=゚ω゚)ノ「おお、光だよぉ」

/ ゚、。 /「集…会所……?」

荒れた集会所の中から光が漏れていた。
何十年も使われていないようなのに、電気が通っているのか?

/ ゚、。 /「入りますか?」

(=゚ω゚)ノ「入るよぉ?なんで」

/ ゚、。 /「いや、おかしくないですか。こんなボロボロなのに電気が通っているなんて」

壁は傷だらけ、ガラス戸は跡形もなく、集会所という文字だって読むのがこんなんなほど禿げている。
屋根だって、これ雨しのげる?



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:26:25.56 ID:4ta+NkZs0

(=゚ω゚)ノ「入ってみるよぉ!」

恐れ知らずなのか、先輩は正面から堂々突っ切る。
しょうがないので私もそれに続く。

(=゚ω゚)ノ「しっ、なんか声がするよぉ」

確かに、奥から声がする。
というか人がいるのだ。むしろ声をかけるべきでは?

(*^ω^)「おっおっおっ。ツン、いいお!いいお!!」

ξ*///)ξ「だめ…ブーン……いっちゃぅ………っ」

アダルトビデオなどはずいぶんエロく見せる工夫があるのだとよく分かった。
畳の一室。
男女が全裸で絡まりあっていた。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:29:41.14 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「…………」

(*^ω^)「おーっ。ブーンもイきそうだお!!!」

ξ*///)ξ「だ、だめ、しんじゃう……!」

/ ゚、。 /「せんぱ」

(=゚ω゚)ノ「死ねリア充!!!!」

( ^ω^)「おっ!!?」

ξ ゚听)ξ「へっ??」

先輩の喝とともに男が女の性器から自分の性器を引き抜いた。
白濁のそれが宙を舞い、女の柔肌に落ちる。
えらい、気持ち悪いもんだな。

( ゚ω゚)「おおおおおお、人ぉぉおおおおお????」

ξiii゚听)ξ「キャー、服服!!!」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:32:30.68 ID:4ta+NkZs0

体についた精液を拭くこともせずに女は慌てて毛布で自分の体をくるむ。
男は余った肉を揺らしながらその場で慌てふためく。

見ていてもよかったのだが、射精後の男性の性器ほどみっともないものはない。
私は無言で彼らの向こうにあるタンスから毛布を一枚引き出して、彼に放り投げてやる。

( ^ω^)「ありがとうございますだお」

/ ゚、。 /「先輩?」

(= ω )ノ「俺だって、もうずっと彼女いなくて、お店に行ったら、デリケートな病気もらって、一人でも出来なくなるし」

/ ゚、。 /「君たちはここで何をしている?」

( ^ω^)「お、そりゃこちらのセリフだお」

/ ゚、。 /「質問しているのは私だ。君たちがここであられもなくセックスしているだなんて至極どうでもいいことだ。
       何故、ここにいる?ということを訊きたい」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:37:44.29 ID:4ta+NkZs0

(;^ω^)「おっ……」

/ ゚、。 /「いや、質問が悪いな。ここはどこだ?」

ξ ゚听)ξ「ブーン」

/ ゚、。 /「何、とって食おうなんてつもりじゃない。質問に答えてくれると助かる」

(=´д`)ノ「我々は記者だよぉ。オカルト特集のため廃村になった水栄村を探してたんだけど重なる不幸により、
       遭難して、光を求めてここに来たんだよぉ」

/ ゚、。 /(誰だ?)

ξ ゚听)ξ「あ、そういうことですか?」

( ^ω^)「おっ。今見たことを秘密にしてもらえるなら、なんなりと」

/ ゚、。 /「言っても誰の得にもならんさ」

(=゚ω゚)ノ「だよぉ!」

(=゚ω゚)ノニヤニヤ

/ ゚、。 /(あとでちゃんと釘を刺さねば)



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:41:06.40 ID:4ta+NkZs0

( ^ω^)「お、それでは」

と太った方の男が口を開いた。

( ^ω^)「僕の名前は内藤ホライゾン。元、水栄村の住人ですお。そしてここは水栄村ですお。元」

/ ゚、。 /(水栄村に着いていたのか)

/ ゚、。 /「……元?」

( ^ω^)「水栄村が無くなった理由はご存知ですかお?」

/ ゚、。 /「先輩」

(=゚ω゚)ノ「かそかー」

( ^ω^)「そうですお。年々人口村民は都会に行き、人口は目に見えて減っていきました。
       村民が千人をきった頃、市のほうから提案がありました」

(=゚ω゚)ノ「ダム計画」

( ^ω^)「ですお」

(=゚ω゚)ノ「まんまひぐらしですよね」

( ^ω^)「お、少年、ひぐらしをご存知か」

/ ゚、。 /「続けなさい」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:48:28.34 ID:4ta+NkZs0

( ^ω^)「おっ。ダム計画に反対するものは一人もいませんでした。“村人”では。名残惜しいと思うよりも、
       愛する土地が誰かの役にたつのがうれしかったんだと思いますお」

/ ゚、。 /「でも、ここダムなんてない?」

( ^ω^)「一人、反対する人がいました」

(=゚ω゚)ノ「水霊男爵」

( ^ω^)「さすがに詳しいですお」

/ ゚、。 /「誰なの、それ」

( ^ω^)「ここは。集会所で、東のほうに降りれば村がありますお。
       さらに東へ行けばこんな辺鄙な村に似合わない洋館がありますお」

水霊洋館ですお。

( ^ω^)「彼はいつからかこの村に住み着き、
       村の寄り合いに参加することなく、怪しげな立ち位置をずっとキープしてましたお。
       家から外に出たのを見た人はもちろん、その姿を見た人もいませんでしたお」



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:52:00.45 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「そんな曖昧な」

( ^ω^)「村人もそう思っていましたお。でも使用人と名乗る男が寄り合いに参加したりしていたので、
       男爵の存在はうっすらと村人の中で存在していましたお」

/ ゚、。 /「なるほどね」

( ^ω^)「使用人は男爵と違い、村人たちにすぐ溶け込みましたお。
       不信感に溢れていた水霊洋館は使用人のおかげで一気にいいイメージになりましたお」

( ^ω^)「そんな中のダム計画ですお。何故男爵が反対したのかは未だに理由が分かりませんお。
       けれど多くの賛成派はダム推進派の進めもあり、どんどん村人は去っていきましたお。
       そして強制撤去まで話は進みましたお」

/ ゚、。 /「…………」

( ^ω^)「あ、もちろんひぐらしみたいに殺人なんかは起こりません。もっと現代的ですお」

/ ゚、。 /「とは?」

( ^ω^)「水栄村を全て買い取ったんですお」



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:55:11.93 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「……また、それは、大きく出たな」

( ^ω^)「はい。結果。ダム工事は全て取り払われ、今も水栄村としてこの土地に残っています」

/ ゚、。 /「だが、廃村だと」

( ^ω^)「水霊男爵のミスですお。村が元通りであれば村民は必ず戻ってくる。
       そう考えていたんですが、一度『便利』を知ってしまった村民は村に戻ってきませんでしたお。
       村には水霊洋館と水霊男爵だけが残り、事実上の廃村となりましたお」

/ ゚、。 /「…………」

( ^ω^)「時々集まる村民たちは今でも言いますお。
       もしかして、あの時の使用人が水霊男爵じゃなかったのか、と」

/ ゚、。 /「悲しいな」

( ^ω^)「それだけなら多分話題にも上がらない村ですお。多分ここまで来たのは噂をお聞きになったからだと思いますお」

/ ゚、。 /「噂?」

(=゚ω゚)ノ「水霊男爵の徘徊、だよぉ」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 01:59:27.76 ID:4ta+NkZs0

( ^ω^)「おっおっおっ。本当によくお調べになっていますお」

/ ゚、。 /「先輩私には何も話さないんですね」

(=゚ω゚)ノ「だってイオの怯えるすがたが」

/ ゚、。 /「内藤さん、続きを」

( ^ω^)「ブーンでいいですお。あだ名ですお。
       誰もいない村の中で、見たことも無い男が歩いている、と。
       そういう噂が流れるようになりました。
       村人たちの頭には一人しか浮かびませんでしたお」

水霊男爵ですお。

( ^ω^)「莫大な金をかけてまで残したかった水栄村に、今も彼は留まっているんだと。
       村人の帰りを待っているんだと」

( ^ω^)「噂はじわじわと広がり、少数のオカルト好きの耳に入ったようですお。
       時々村に人が来ている形跡があるんですお」

(=゚ω゚)ノ「僕もそれを聞いたんだよぉ」

( ^ω^)「おっ。そうですかお。でもここじゃ水霊男爵はいませんお。今まで見た人もいないんですお」

/ ゚、。 /「所詮噂は噂は噂か」



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:03:22.42 ID:4ta+NkZs0

(=゚ω゚)ノ「それをおもしろくするのが僕らの仕事だよぉ」

( ^ω^)「本来よそ者の水霊男爵のそこまでの思いに村人たちは感銘を受け、
       月に一度、寄り合いも開かれていますお。石碑だって近くにありますお」

/ ゚、。 /「なるほどな」

( ^ω^)「寄り合いを開くまでに集会所をきれいにしなければいけませんお。
       当番制で、本来、ブーンのトーチャンなんですが、歳なもんでちょっとぎっくり腰が。それでブーンが任されましたお」

/ ゚、。 /「つまり君は人もいないこんな中それを理由に彼女とくんずほぐれつ、か」

(*^ω^)「申し訳ない」

/ ゚、。 /「ふむ、君はでもずいぶん若い」

( ^ω^)「ブーンはこの村を知りませんお。この話も全部トーチャンとカーチャンから聞きました。
       トーチャンとカーチャンはじーじたちから聞いたそうですお。
       二人を含め、元住人はみんな水霊男爵のことを英雄のように話しますお。
       だから、あまり水霊男爵のことをネタにするのは勧めませんお」

/ ゚、。 /「……だろうなぁ」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:09:03.88 ID:4ta+NkZs0

元住人。
水霊男爵。
ダム計画。

/ ゚、。 /「でも、何故こんな集会所はボロボロなんだ?」

( ^ω^)「去年の台風だと思いますお。多分この有様を見たら建て直しになるんじゃないですかお」

水霊洋館。
使用人。

/ ゚、。 /「でも、男爵は死んだんだろう?何故土地は国にかえらない」

孤独。

( ^ω^)「よくは分かりませんが、息子に相続したのだ、そういう話を聞きましたお。
       三日後に来るじーじたちに聞けばもっと詳しく分かると思いますお」

じーじ。元村民だな。
今さらの水霊男爵の崇拝。

/ ゚、。 /「男爵はずいぶん悲しかっただろうな。愛した村人に裏切られたんだ」

( ´ω`)「それはみんな承知ですお。後悔しているから今こうしているんですお。英雄、いや神様ですお」

――神。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:12:56.81 ID:4ta+NkZs0

ずいぶんお喋りしましたお。と内藤は言う。

( ^ω^)「そろそろそちらのことを話してもらえますかお」

/ ゚、。 /「自己紹介から始めよう」

/ ゚、。 /「私の名前は鈴木ダイオード。記者だ」

(=゚ω゚)ノ「ぃょぉ。こいつの先輩だよぉ」

(;^ω^)「てっきり子供か何かだと」

/ ゚、。 /「私はまだ27だぞ」

(=゚ω゚)ノ「こう見えても39です」

(;^ω^)「な、なんと」

ξ ゚听)ξ「あのー、そろそろ会話に混じってもいい?」

ああ、女のことを忘れていた。
ちゃっかり服着てやがる。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:19:24.62 ID:4ta+NkZs0

ξ ゚听)ξ「私はツンデレ。内藤の彼女です」

/ ゚、。 /「二人は何歳だ?」

ξ ゚听)ξ「20です(お)」(^ω^ )

/ ゚、。 /「同い年かな?」

( ^ω^)「はい。同じ大学ですお」

ふむ。
何はともあれ運が良かったと思うしかないようだ。

何も言わず、何知らぬ顔でここまで来た先輩を後でお仕置きしなければならないが。

/ ゚、。 /「…………」

(=゚ω゚)ノ(なんだか寒気が)



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:26:25.72 ID:4ta+NkZs0

内藤のおかげで知りたかったことは全てわかった。
ただ、連絡をとれないのが不便だな。

/ ゚、。 /「内藤。有事の際、連絡はどうしていた?」

( ^ω^)「村の端に通信所がありますお。
       何か緊急の用があれば、ブーンが取り次ぎますお」

/ ゚、。 /「ありがとう」

(=゚ω゚)ノ「申し訳ないのを承知でいうんだよぉ」

( ^ω^)「?」

(=゚ω゚)ノ「先ほども言ったように我々は遭難状態にあるんだよぉ。
     出来ればその“じーじ”たちが来るまでここに泊めさせてもらえないかよぉ?」

(;^ω^)「お。構いませんが……」

構いませんという割にどこかよそよそしかった。
泳ぐ彼の目を追うと、悲しそうなツンデレの顔にぶつかった。
なるほど、そうか。そうだろうな。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:29:14.90 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「集会所以外に泊まれそうなところはあるか?」

(;^ω^)「泊まれそうなところですかお……。
       寒いかもしれませんが、酔っ払い用のプレハブがありますお」

/ ゚、。 /「雨風さえしのげればそれでいい。私たちはそちらで寝よう」

(=゚ω゚)ノΣ

(=゚ω゚)ノ「ま、まさか、イオ。ぼ、ぼぼぼ僕とセ――」

/ ゚、。 /「君たちにとってそのほうがいいだろう?」

(=゚ω゚)ノ「…………」

( ^ω^)Σ

(*^ω^)「そ、それは助かりますお」

ξ*゚听)ξ「ぶ、ブーン!!」

あうあう。ち、違うんですお。じ、実は彼女も僕も寝相が悪くて。
なんて言い訳しているが、二人ともラッキー、という表情を隠しきれていない。
若いうちは思う存分楽しめばいいさ。
夫婦漫才のようにボケとツッコミを繰り返す二人を見て、自然にクスリと笑ってしまった。



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:34:44.32 ID:4ta+NkZs0

(=*゚ω゚)ノ「…………」

問題は、こいつか。

/ ゚、。 /「先輩は外で寝袋ですから」

(=゚ω゚)ノ「いょ!?」

/ ゚、。 /「デリケートな病気が空気感染するといけないので。
      一応、お嫁には行きたいので」

(=´Д`)ノ「空気感染はしないよぉ。……す、好きでなったわけじゃないのにぃ」


布団と毛布を片手に、すぐそばに建つプレハブに足を踏み入れた。
じゃらじゃらと輪にいくつもの鍵を通したものから、プレハブ専用のそれをいそいそと探す。
ネームプレートらしきものは一つも無く、
これか、これか、なんて感じで必死に一つ一つ試していた。

プレハブと聞いて、ある程度のものを想像していたのだが、
畳がないだけで案外集会所と変わらない気がした。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:38:35.95 ID:4ta+NkZs0

( ^ω^)「申し訳ないですけど、トイレとか洗面所はこちらですお。
       このプレハブ水道ひいてないもんで」

/ ゚、。 /「いやいや、十分助かる」

( ^ω^)「じゃ、何かあれば呼んでくださいお」

/ ゚、。 /「ありがとう」

まるで旅館のようだ。
失礼しますお、とお辞儀をして引き戸を閉める彼の腰の低さよ。

(=゚ω゚)ノ「お・お・お・お・おやつ、食べるんDAYO!」

こいつに見習わしてやりたい。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:44:30.12 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「先輩、さっそく何してるんですか」

(=゚ω゚)ノ「イオはお腹すかないのかよぉ? 時計を見てみるんだよぉ。もう八時だよぉ?」

携帯を開くと確かにそこには20時の文字。
うまうまと堅揚げポテトを食べる先輩の手元から、袋を奪う。

/ ゚、。 /「彼らは、ごはんどうしているんでしょう?」

ぼりぼりと噛み砕く。
ブラックペッパーにしやがったか、私は無難に塩味が好きなのに。

先輩が返してー、返してーと飛び跳ねている。
私は思い切り天井に向けて腕を伸ばして、それを避ける。
私は176センチある。先輩は159センチだ。
小さい、と馬鹿にすると某ハイドよりも3センチも高いと怒る。

ぼりぼりと噛み砕きながら先輩の返事を待つ。

(=´Д`)ノ「どうなんだろうねぇ。訊いてみたらいいと思うんだよぉ」

分かりました。
と残った堅揚げを全て口に流し込んで引き戸を引いた。

(=´Д`)ノ「ああ」

先輩の悲しそうな顔が可愛くて仕方が無い。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:49:39.62 ID:4ta+NkZs0

/ ゚、。 /「ちょっと出てきますよ」

外は、夏だというのに涼しくて、思い切り背を伸ばしたりなんかしちゃって。
仕事で来ているのを忘れるほど美しい星空。
墨を溶かしたような世界に目を凝らせばポツポツと廃屋のようなものが見えた。
そうか、ここは山の中腹。下らなければ村にぶつからないのか。
水霊洋館は見えるだろうか、としばらくそちらに目をやるも、灯りの一つもないもんだから見えないのは全然だ。
諦めて、明日見に行くことにしよう。

/ ゚、。 /「ん?」

風の舞う、ガサガサという音に紛れて、何か聞こえた。
耳の中を掠めた程度の音量だが、確かに拾うことが出来た。

目を瞑り、耳に意識を向ける。

/ -、- /「…………」

……う
っ………あ……
………つ……ん……

「ツン、ツン、ツン、いいお!!いいお!!!」

/ ゚、。 /「…………」

ああ、耳なんて澄まさなければよかった。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:52:17.14 ID:4ta+NkZs0

破裂するようにして内藤の喘ぎ声が夜にこだました。
壁はそうとう薄いと思える。

私は、集会所に向いていた足を九十度その場で回転させ、プレハブに戻った。

(= ω )ノ「マジ死ねマジ死ねマジ死ねマジ死ねマジ死ねマジ死ねマジ死ねマジ死ね」

プレハブ内でも、彼らの喘ぎはよく聞こえた。
それだけここは静かなのだ。

先輩、これもらいますよ、と500ミリのサイダー片手に再び外に出た。

暗闇の中、懐中電灯一本で歩くのも悪くない。
徐々に消えていく内藤たちの絡まりあう声。
ある一点で全く聞こえなくなったのは、私の意識が夜に向いたからか、内藤が早漏だからか。

しばらく歩くと境内のような場所に出た。
神社か、と思うがそれらしいものはない。むしろ子供用の広場だ。
石階段がずっと続いている。これを下れば村だろうか。

私は汚れに注意して、二段下りてそこに座る。

ひんやりとした石の感触が心地よかった。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:56:04.88 ID:4ta+NkZs0

煙草に火を灯して、空を見上げる。
これだけでも十分煙草の美味い夜空だ。
目を瞑れば、感じ取れるのは、風の音と夜の冷たさ、それに不注意な紫煙の匂い。
君は邪魔ではないよ、と呟いてみる。
ちりちりと灰になるのを止めさせるみたいに時々口をつける。
ゆっくり、もわわわと煙を吐き出して、目を開ければそこに夜空。

最高の贅沢じゃないか。

ぷしゅりと開くサイダーが酒であれば最高だった。
いや、最高だから、もっと最高か。

(=゚ω゚)ノ「隣、空いてるかな?」

/ ゚、。 /「満員です」

(=゚ω゚)ノ「そう言うなよぉ」

よいしょ、と先輩がスルメ片手に腰掛ける。

(=゚ω゚)ノ「イオ、怒ったかよぉ?」

/ ゚、。 /「慣れっこです」

私はスルメにしてもなんにしても口を開けてご飯を食べる人間が大嫌いだ。
つまるところ先輩は好きだ。スルメをこんなにも上品に食べる。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 02:59:36.55 ID:4ta+NkZs0

(=゚ω゚)ノ「助かってよかったよぉ。
     あのままだと笑えない事態になってたよぉ」

くすくす笑って、私の指先に挟まれていた煙草を奪う。
奪うと同時に静かに口をつけた。

/ ゚、。 /「…………」

(=゚ω゚)ノ「僕も驚きだよぉ。こんなことになるなんて」

ああ、こういうところじゃこの人にはかなわないな。

私は何も言ってないのに。僕『も』なんて言って、ああ、もう、バカ。

(=゚ω゚)ノ「明日は朝から水霊洋館に行くよぉ」

/ ゚、。 /「はい」



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 03:01:30.84 ID:4ta+NkZs0

(=゚ω゚)ノ「それから内藤たちと話を合わせる。僕らは大学の野鳥研究会とでもしとくよぉ。
     そのほうが仕事しやすそうだしね」

/ ゚、。 /「じーじ、たちはやっぱりオカルト特集を組みたい、なんて言ったらマズイですかね」

(=゚ω゚)ノ「概して、伝統を重んずる者は伝統を汚されるのを嫌うよぉ」

/ ゚、。 /「慨しなくてもです。嘘ついて、号としてまとめたとき発刊してバレたらどうします?」

(=゚ω゚)ノ「んー、どうしよう。僕あんまり先を考えるの好きじゃないんだよぉ。
     過去を幾層に重ねてこその人生でしょう。と僕は思うんだよぉ」

/ ゚、。 /「塗り、重ねですか」

(=゚ω゚)ノ「うん。イタリアの詩人でチェーザレ・パヴェーゼという人は、
     自分の過去日記を何度も何度も追加したり、結果を書き加えたりしているよぉ。
     僕はそんな生き方をしたいんだよぉ。
     毎日毎日に発見を見つけて、ずっとそれを考えて、結論に辿り着きたいんだよぉ。
     そうしたら、結論だらけの人生になるよぉ。答えや結論は一つ、なんて言いかたされてるけど、
     結論や答えのいっぱいある厚い人生もいいと思うんだよぉ」

/ ゚、。 /「……夢を恥ずかしげもなく語って許されるのは高校生までですよ」



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 03:03:08.60 ID:4ta+NkZs0

(=゚ω゚)ノΣ

(=`ω´)ノ「もう、イオには言わないからいいんだよぉ!」

/ ゚、。 /「……ごめんなさい」

ふふふ、と笑い声が漏れてしまう。

(=゚ω゚)ノ「イオは夢なんてないのかよぉ?」

/ ゚、。 /「そうですね」

強いてあげるならば、

/ ゚、。 /「お嫁さんですかね」

ぶほはぁあ、と先輩が噛んでいたスルメを吐き出した。

(=゚ω゚)ノ「おおおおおおおお、お嫁さん? イオのほうが恥ずかしいよぉ」

/ ゚、。 /「夢を語るのに年齢が必要ですか?」

(=゚ω゚)ノ「お前……フリーダムすぎるよぉ」

内藤たちの喘ぎ声は十一時過ぎまで続いた。
寝るのに困らなかったが、鬱状態の先輩を構うのがめんどうだった。



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/03/27(木) 03:03:44.57 ID:4ta+NkZs0




一日目 終わり




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