(´・ω・`)紺色の記憶のようです

2 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:29:23.880 ID:0cY01KXl0
学校の行事もすべて終わり、3月。
また春が近づいてきた。
大会まで、そして引退まであと5ヶ月しか残っていない。
まだ引退まで長いはずなのに、こうしてみるととても短いように思えてしまう。

さて、春が近づいてきたといってもまだまだ外では泳ぐことの出来ない時期。
相変わらずの筋トレ地獄である。

気分はがた落ちし、嫌々部活に向かう。
頑張るとは意気込んだし今もまあいつもに比べればやる気はあるもののやはり僕は僕。
そう簡単に変われるものではない。

3 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:31:05.665 ID:0cY01KXl0
寒空の下。
都会の屋上で今日も練習が始まった。
相変わらず見ただけでイヤになるようなメニューのラインナップがホワイトボードに書き出されていた。
今日はどうやら各自でメニューをやるようで皆でまとまって、と言うわけではないようだ。

となると、いつもなら適当にメニューを流すのだがそうもいかない。
決意して少ししか経っていないに辞めるのは流石に気が引ける。
まあそれに、やる気が有るときくらい頑張ってみようかなとも思う。

そんなこんなで誰に聞かせるわけでもなく変な言い訳を自分にしながら練習を始める。
まあどうせ途中で辛くなっていつも通りに戻るだろうと思っていた。

4 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:32:46.671 ID:0cY01KXl0
(´・ω・`)(......?)


だが去年までの辛さはどこにもない。
メニューの量は変わってないどころか上級生向けになったはずなのに。

昔できなかったメニューを、普通にこなすことができている。
あれだけ無理だとか、辞めたいとか思っていたのに。
この2年で成長していたことを改めて実感する。

練習を全て終え、時間が余ったのでフォームの確認のために鏡の前に立ってみる。
そこに写っていたのは僕の知らない僕。
細かった腕には筋肉がつき、やる気のなかった顔はほんの少しだけ引き締まっている。

僕は、僕がこんなにも変わっているなんて知らなかった。
そしてそんな姿を見てか、鏡の中の僕は少しだけ嬉しそうに笑っていた。

5 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:35:57.120 ID:0cY01KXl0
( ´∀`)「はい、ということで新入生が入ってくる前に皆さんの力試しと言うことで記録会に参加することになりました」


そんなある日、年度の締めとして小さな記録会に参加することになった。
特に名前がある大会でもないし、上に繋がるものでもない。
本当に小さな記録会である。

参加するのは一人二種目とのことだが、とりあえず僕のメイン種目である200m個人メドレーは確定だとしてもうひとつは何にしようか。
やはり、監督にも言われたことだし自由形を泳ごうか。
そんなことを考えていると監督が近づき話しかけてきた。


( ´∀`)「ショボンくん、ショボンくん」


(´・ω・`)「あ、はい」

6 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:37:41.506 ID:0cY01KXl0
( ´∀`)「記録会の種目なんだけどね、君、個人メドレーとバタフライね」


(´・ω・`)「えっ」


( ´∀`)「苦手なんだからちゃんと練習しないと。じゃ、頑張ってね」


(´・ω・`)


まあどうせ自由形であろうと考えていたところにまさかの死刑宣告。
よりによって苦手種目をやらされると思ってなかった。
この前のミーティングのこともあるし自由形だと思ってただけにダメージがでかい。

7 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:39:40.341 ID:0cY01KXl0
(-_-)「お、ショボンもバタフライなんだ」


(´・ω・`)「聞いてたのか......ヒッキーは、まぁ聞くまでもないか」


(-_-)「おう、バッタだよ。俺のstyle 1だからな、負けねーからな!というか勝つ!」


(´・ω・`)「うひぃ」


暑い、なんとも暑すぎる。
僕なんか相手にこんなに燃えられても困る。
そもそも僕がヒッキーに現時点で勝てるかどうか分からない、というか危ない気もする。

8 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:41:42.710 ID:0cY01KXl0
(´・ω・`)「はぁ」


(-_-)「頑張ろうなっ!」


(´・ω・`)「......おう」


小さな記録会で頑張っても意味ないとかstyle 1 でもない種目で勝負しても意味ないとか勝てる気がしないとか。
思うことは沢山ある。

けれど、そんなことをいっても仕方ない。
そんなことを考えるのも面倒である。
嫌でも、もう最後なんだし頑張ってみようか。
そう思うと、心が一気に軽くなる。
心が軽くなりそして。


(´・ω・`)(......僕らしくないな)


不思議なことに記録会が待ち遠しく感じられた。

9 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:43:46.664 ID:0cY01KXl0
それから記録会までの数日間。
僕の練習はバタフライが中心のメニューとなった。


(;´・ω・`)(つら......)


苦手な種目を中心にやるのはやはり辛い。
それに加えバタフライは疲れやすい種目である。
この相乗効果でさらに辛さは加速していく。

でも、やめようとは思わない。
いや、やめるわけにはいかないと言うべきだろうか。


(-_-)


同じメニューを、ヒッキーがこなしているのだ。

10 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:46:14.728 ID:0cY01KXl0
そんななか僕が離脱するわけにはいかない。
だけど。


(;´・ω・`)(......すげぇ)


改めてそう感じた。
バタフライ中心のメニューに慣れていないとはいえ今やっている練習はかなり辛い。
だからバタフライを数時間、数百、数千メートル泳ぐのはかなり難しいはずである。

しかし、ヒッキーの泳ぎの速度は落ちない。
どんどんと進んでいく。
一年の頃のあいつの面影はどこにもない。
そこにいるのは一人の水泳選手。

11 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:48:15.967 ID:0cY01KXl0
(´・ω・`)「......」


泳げば泳ぐほどに差は開いていく。
力の差を感じてしまうほどに。

だがこれは当たり前のこと。
ヒッキーはバタフライがstyle 1 でずっと泳いできたのだ。
そして僕はバタフライが苦手でさらにstyle 1 でもない。
だから、負けても仕方ない。
仕方ないことなんだ。

そう思う。
思うけれど。
それと同時に胸の奥から何かが沸き上がってくる。

だけどそれがなんなのかを考える暇はない。
今はただ、練習に集中しなければ。

12 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:50:34.792 ID:0cY01KXl0
( ´∀`)「モナ、ショボンくん遅れてるよ!」


(;´・ω・`)「うへぇ」


余計なことを考えすぎたようだ。
気がつくと練習から遅れていた。
ただでさえ辛いのに速度を上げなくてはいけなくなってしまった。


( ´∀`)「はい、ゴー」


(;´・ω・`)「......はあ」


もう文句を考える余裕もない。
やるしかないのだ。


(;´・ω・`)(......頑張ろう)


記録会まであと数日。
別に気合いをいれるような大きな大会ではない。
それでも、僕に出来ることはやっておこう。

13 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:52:47.434 ID:0cY01KXl0
.........
......
...

記録会当日。
会場につくとあることに気がついた。
小さな記録会のためか、参加者はかなり少ないようだ。
そのためそれぞれの種目の参加者も少なく、かなりレース数が少ない。

だから、想像できなかったことではなかった。
こうなる可能性を考えてなかったわけではなかった。


(-_-)「まっさか本当に勝負になっちまうなんてな」


(´・ω・`)「だな」


ヒッキーとの直接対決。
しかもコースもご丁寧に隣。
もはや仕組まれてたのかと思うほどである。

14 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:54:55.307 ID:0cY01KXl0
(-_-)「へへっ」


(´・ω・`)「ん?」


(-_-)「負けねぇからな?」


(´・ω・`)「......」


不得意な種目での勝負。
だから負けても仕方ない。
だってヒッキーはすごいやつだから。
僕にはできないことを出来る。
そして、僕より短い時間でここまで成長してきた。
才能、なんだろう。
僕にはないものを持ってる。

だから、しょうがない。
そう思う。
それで納得する。
いつものように、いいわけをする。
そうやって僕を納得させようとする。

15 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:56:58.919 ID:0cY01KXl0
でも。

でも、納得しきれない。
これでもずっと水泳を続けてきたのだ。
これでも僕もこの2年で成長していたのだ。
負けるわけにはいかない。
そんな感情が沸き上がってくる。

ヒッキーが頑張ってきたのは知っている。
でも、僕だって。
僕だってやってきたんだ。
逃げることもあったけど。
それでも、僕はやってきたんだ。
だから、負けたくない。

そう、負けたくない。
僕は、負けたくないんだ。
心の奥から声が聞こえる。
負けたくない、負けたくないと。
それはつまり、どう言うことなのか。

16 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 18:59:14.496 ID:0cY01KXl0
去年の都高対抗戦記録会。
僕はレースで一位をとった。
嬉しかった。
心の底から。
ただひたすらに、嬉しかった。


(-_-)「ぜってぇ負けねぇ」


(´・ω・`)「おぅ」


ヒッキーと小さく笑いあい、そしてコースへと向かう。
ドクンドクンと、心臓の音が聞こえる。
でも、緊張してるわけではない。
体は軽いし、やる気も十分。
体が熱い。
だけどそれは不快ではなく、むしろ心地いい。

17 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:01:17.165 ID:0cY01KXl0
ドクンドクン。
心臓の音が止まらない。
寒いわけでも、怖いわけでもないのに体が震える。

今まで感じたことのない感覚。
これは、何だろう。

スタート台に立ち、合図を待つ。
とても短い時間のはずなのに。
とても、とても長く感じる。

あんだけ嫌だと思っていたのに。
早く、水の中へ飛び込みたい。

泳ぎたいんだ。
ただ、ひたすらに泳ぎたい。
泳ぎなんて好きじゃなかったはずなのに。
水に飛び込むそのときが、待ち遠しかった。

18 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:03:22.067 ID:0cY01KXl0
短く笛が3回吹かれた。
ついに、このときが来た。
息を大きく吸い、そして吐き出す。
緊張はしてない。
体もリラックスしている。
そして、早く泳ぎたいと思うこの気持ち。
スタート台に立ち、そして小さく笑う。

最高の気分だった。


『よーい』


その声にシンと静まり返る。
とても短い、空白の時間。
この時間すら長く感じる。

ただ、水面を見つめる。
キラキラと光る、水面。
何も考えずに。
飛び込むその一点を見つめる。

とてつもなく長く感じられたその時間。
はやく、はやく、はやく。
笛よ、鳴ってくれ。

19 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:05:41.810 ID:0cY01KXl0
......

......

ピッ!

笛の音がプールに響いた。
その音が僕の耳に届くと同時に水の中へと飛び込む。
僕とヒッキーの小さな勝負が始まった。

ひとつ、ふたつ、みっつとドロフィンキックをうち、水の中を進んでいく。
バタフライは疲れる泳ぎだ。
こういう、水中での動作が勝負を分けると言える。

そしてこういう細かい動作は練習の有無がものを言う。


(´・ω・`)(......まぁそうなるよな)


序盤、飛び込みから浮き上がりまででヒッキーにほんの少しだがリードされる。
やはり苦手だからとやらなかった僕より練習を続けてきたヒッキーの方がこういうところは速い。

20 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:07:53.758 ID:0cY01KXl0
まあ、分かっていたことだ。
ここまでは予想通り。
むしろ少ししか離されてないのだから上出来だ。

勝負はここから。


(´・ω・`)(一気にいく!)


練習の時の様子からヒッキーが後半、バテて落ちることはないだろう。
確実にヒッキーは後半に強いタイプだ。
対し僕はどう頑張ってもバテる。
体が固いからか泳法が悪いのかなんなのか、理由は分からないけどバテるのは確実だ。

ならどうするか。
簡単だ。

序盤で引き離すしかない。


(´・ω・`)(......っ)


普段の個人メドレーの時のバタフライとは比べ物にならないほどペースを上げる。
後のことは考えない。
とにかく今、今だけでも速く。
腕を回し、腰を動かす。

21 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:09:57.805 ID:0cY01KXl0
ヒッキーとの差はみるみる縮まりそして。


(´・ω・`)(......っしゃ)


最初のターンを行うときには追い越していた。

だがまだ勝負は序盤。
問題はここから。
いかにこのペースを、このリードを守れるか。

はっきりいってオーバーペースだ。
早ければ次のターン、レースの半分が終わった辺りにはバテる。
そのくらいの、無茶なペース。

バテて抜かれてしまえばそれまで。
もう勝ち目はないしその後泳ぎきるのすら地獄だ。
疲れきったときに泳ぐバタフライほど嫌なものはない。

22 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:10:21.586 ID:zdIQmzF/0
待ってた

23 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:12:07.631 ID:0cY01KXl0
(´・ω・`)(......)


だが、ペースは落とさない。
落とせない。

驚いたことにヒッキーが食らいついてきていた。
このペースなら引き離せると思っていたのに。
ヒッキーは、こんなにも速くなっていたのか。


(´・ω・`)(まだだ......)


でも、そう簡単に抜かれるわけにもいかない。
ここで抜かれたら、もう体力的にも精神的にも勝ち目はなくなる。
そして、出来るならもっと、もっと距離を離したい。
この程度のリードでは、後半に強いヒッキーの射程圏内。

24 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:14:10.154 ID:0cY01KXl0
ならば。


(´・ω・`)(っ!)


さらに水を強くかく。
今まで感じたことのないほどの水の重みを感じる。
疲労感が一気に高まっていく。
完全に、無理をしている。

だが、速度は上がった。
勢いに乗れている。
ここだ。
ここしかない。
ここで、ここで離すしかない。

最初で最後のチャンス。


(´・ω・`)(いっけ!)


二回目のターンをし、引き離しにかかる。
ターンで勢いは死んでいない。
ターンがうまくいった証拠だ。

25 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:15:50.103 ID:0cY01KXl0
いける。
上手くいっている。
上手くいきすぎている。


(´・ω・`)(......離れたな)


ヒッキーとの差ははっきりわかる程度には大きくなっていた。
勝負は中盤。
ここでリードできているのは大きい。

後は僕の体力とヒッキーの追い上げ次第。
やれることはやった。
後はもう、運任せだ。

26 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:17:50.767 ID:0cY01KXl0
(;´・ω・`)(......ぐ)


最後のターンの手前。
遂に限界を迎えた。
予想よりは持った方ではあるがそれでもまだゴールまでには距離はある。
そしてヒッキーとの差は、小さい。


(;´・ω・`)(あー、もう)


勢いを失い、泳ぎが雑になっていく。
体から力が抜けていく。
タイミングが悪い。
このタイミングでターンは不味い。
ただでさえ勢いを失っているのに。


(;´・ω・`)(......やべぇ)


予想通り、勢いを無くしすぎた泳ぎではターンなんか上手くいかない。
さらに勢いが奪われ、泳ぎが遅くなる。

対しヒッキーは落ちない。
確実に、そして丁寧に泳いでいく。
バタフライ一筋に打ち込んできた、そして練習で後半まで耐えられるようにしてきたヒッキーだから出来る泳ぎ。

初心者で、遅くて。
ブーンのことを遠い存在だといっていたヒッキー。
でも、今は違う。
ヒッキーはすぐそこまで迫ってきていた。

27 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:19:52.399 ID:0cY01KXl0
だが、負けられない。
負けたくない。
力が入らなくなった腕を無理矢理回す。

スピードは上がらない。
でも、落ちもしない。
これでいい。
あとはゴールするだけなのだから。
このリードを守り、ゴールするだけ。
たった、それだけ。

残り、15m。
ヒッキーはもうすぐそこにいる。
じわりじわりと詰めてくる。
そしてこちらは限界ギリギリ。
もう、最後まで持つことを祈るしかない。

残り10m。
まだ、まだいけるはず。
体はもう、ボロボロだけど。
それでもまだ、泳げる。
リードはもう、ほぼない。

残り5m。
赤いラインが見えた。
ラストの合図。
がむしゃらに泳ぐ。
コンマ一秒でも速くゴールするために。

28 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:21:53.470 ID:0cY01KXl0
体に残された力を全て使いきる位の勢い。
自分でもどこにこんな力が残っていたのかと思う。
こんなに自分の体は動けたのかと驚いてしまう。

動けるのならあとはもう、突っ込むしかない。
ゴールへと。

今までで一番重い、水をかく。
その水を最後の力を振り絞り、強くかく。
これが、最後の一かき。

その一瞬、視界がヒッキーをとらえた。

その姿は、僕と同時に壁に、ゴールに辿り着いた姿。

29 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:23:57.673 ID:0cY01KXl0
(;´・ω・`)「......ぶはっ!」


水から顔をあげ、空気を取り込む。
そして直ぐに電光掲示板を見る。
苦しいとか疲れたとかそんなことは忘れた。
そんなことはどうでもいい。

それよりも大切なことが、そこには表示されていた。


(;´・ω・`)「......ぜっ......ぜっ......」


(;-_-)「......はぁ......はぁ」


(;´・ω・`)「......」


(;-_-)「......」

30 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:26:13.236 ID:0cY01KXl0
(;-_-)「......なーにが苦手だよ、くっそはえーじゃん」


(;´・ω・`)「るせーよ、これでもマジで苦手なんだからいいだろ」


(;-_-)「ちぇっ......ぶち抜いて圧勝するつもりだったんだけどなぁ」


(;´・ω・`)「なめんな」


(;-_-)


(;´・ω・`)「......」


(;-_-)「......」


チラリと、もう一度電光掲示板を見る。
そこにはレースの順位とタイムが表示されていた。

31 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:28:15.695 ID:0cY01KXl0
(;´・ω・`)「......」


(;-_-)「......」


そこに表示された僕とヒッキーのタイム。
コンマ一秒、ただそれだけしか違わない記録。

まさにタッチの差。
本当に僅かで、でも決して覆ることのないその小さな差。


(;-_-)「......」


(´・ω・`)「......負けたよ、ヒッキー」


僕が負けたことがそこに映し出されていた。

32 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:30:24.936 ID:0cY01KXl0
負けてしまった。
あれほど意気込んでいたのに。
それもタッチの差で。


(´・ω・`)「......ヒッキー」


(-_-)「ん?」


だが、不思議と嫌な気分ではない。
確かに悔しいには悔しい。
だがそれ以上に、清々しいのだ。


(´・ω・`)「おめでと、速かったぜ」


だから自然とこんな言葉が出た。
お世辞ではなく本心。
心からそう思った。


(-_-)


(*-_-)「ショボンもな、速かったぜ」


二人で笑い合う。
確かに負けてしまった。
けど、出たタイムはベストタイム。
やりきってこの結果なんだ。
悔しいけど、悔いはない。

33 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:32:27.561 ID:0cY01KXl0
(´・ω・`)「よし、今度は個人メドレーで勝負な。負けた方がなんか奢りで」


(;-_-)「ちょ、大人げねぇな!」


泳ぐのは辛かった。
あんなにバテバテだったんだから当然である。
負けたのは悔しかった。
あれだけ意気込んでいたのだから当然である。

だけど、それ以上に。
楽しかった。
楽しかったんだ。
負けてしまったのに、嫌いな泳ぎのはずなのにおかしな話だ。
だけど、本当に楽しかったんだ。

34 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:34:28.930 ID:0cY01KXl0
.........
......
...

ヒッキーとの勝負からかなり経った。
あの勝負が終わってから特に変わったことはない。
ただこれまでのように練習しただけ。

これまでのように泳いで、筋トレをして。
そんな毎日を何回も繰り返す。
嫌になることもあったがそれでも続ける。
今さら辞める方がなんとなく嫌な感じがしたから。

そして気がつけば7月。
今年も夏を迎えていた。

都校対抗戦記録会まであと、一月。
選考会が迫ってきていた。

35 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:36:31.227 ID:0cY01KXl0
(;-_-)「あー」


(´・ω・`)「どうしたのよ」


(;-_-)「どうしたって......お前、明日の選考会不安じゃないの?」


(´・ω・`)「個人メドレーstyle1のやつ僕以外ほとんどいないし」


(-_-)「そうだった......お前ボッチだったもんな。ごめん、本当にごめん」


(´・ω・`)「おう、やめろや」


(-_-)「ははっ」


(´・ω・`)「......正選手枠、微妙な感じなのか?」


(;-_-)「んー、多分いける気はするんだけど今年の一年の速いやつがstyle1がバタフライでさぁ」


(´・ω・`)「あー、一枠取られるの確実なのか」


(-_-)「そうなんだよ......」

36 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:38:33.351 ID:0cY01KXl0
(´・ω・`)「でも他にバタフライで速いやつって誰いたっけ?」


(-_-)「とりあえずドクオくんは今年バタフライで出るみたいだからそれも確定」


(´・ω・`)「マジで?あと一枠しかないじゃん」


(;-_-)「だから不安になってるんだよぉ!」


(´・ω・`)「それで他に誰かいたっけ?」


(-_-)「......いる」


(´・ω・`)「?」


(-_-)「あいつ」


(´・ω・`)「......ああ」

38 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:40:10.520 ID:0cY01KXl0
ヒッキーが忌々しそうに言う。
あいつとしか言っていないが誰か直ぐにわかった。
バタフライが速くてそして、名前を呼ぶのすら嫌がられるやつなんてあいつしかいない。


(-_-)「......」


(´・ω・`)「......勝てよ」


(-_-)「おう」


一年前も同じような会話をしたことを思い出す。
あのヒッキーがあいつに惨敗した時のこと。
だが、あのときとは違う。
ヒッキーがあいつなんかに負けるわけがない。

39 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:41:52.885 ID:0cY01KXl0
嘘偽りなく、そう思う。
だがそれでもどこか、心の奥で突っかかる。
それが何でなのかは知っている。
あいつは天才なんだ。
僕が一度も勝ったことのない、天才。

確かに前の練習のとき、あいつはボロボロのように見えた。
それでもあいつがレースで負ける姿が想像できない。
僕の目に映るあいつはいつも勝者だったから。


(-_-)「ま、見てろよ。俺がぶちのめしてやるからよ」


(´・ω・`)「......ん」


ヒッキーならあいつに勝てる。
間違いなく、勝てると思う。
だけど、それはヒッキーの勝利なんだ。
僕の勝利じゃない。

それがとてももどかしい。
僕はあいつに勝てないんだ。

40 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:43:42.608 ID:0cY01KXl0
(´・ω・`)「ちぇ」


(-_-)「?」


別にあいつに勝つためにやって来たわけではない。
それでも、あいつに負けっぱなしと言うのはなんとも腹立たしい。


(´・ω・`)「ヒッキー」


(-_-)「ん?」


(´・ω・`)「ぶっとばしてやれよ。もうボッコボッコにさ。負けたら許さねーぞ」


(;-_-)「お、おう?」


まあこの苛立ちはヒッキーに何とかしてもらうことにしよう。
応援なんて意味ないと言い続けてきた僕だけど。
このときは心の中でヒッキーを応援していた。

41 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:45:49.597 ID:0cY01KXl0
選考会当日。
今日で都校対抗戦記録会の正選手が決まるとあってか皆、少し緊張しているようである。
何だかんだで僕も少し、緊張しているのか何となく落ち着かない。

文句をいいながらも三年間泳いできたのだ。
これで最後の年に正選手になれませんでしたとなってしまったら悲惨としかいいようがない。
そんなことにはならないと思いつつもどこか不安になってしまう。

ああ、早く泳いでこんな不安を無くしたい。
そう思いつつ僕の出番を待つ。
選考会は人の多いクロールやら平泳ぎやらを最初に行い、人の少ない個人メドレーの選考はどうやら最後の方にやるようだ。
早く終わりたいのにこれはキツイ。

42 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:47:47.078 ID:0cY01KXl0
小さくため息をつきつつ、選考レースを眺める。
特にみたい選手もいるわけではないので一人、ストレッチなどをして時間を潰す。

一通りストレッチが終わった頃にようやく選考会も半分が終わった。
ちらりとプールの方を見てみるとどうやらそろそろバタフライの選考が始まるようでヒッキーがプールへと向かおうとしていた。


(´・ω・`)「よ、頑張れよ」


(-_-)「お、サンキュ」


軽くヒッキーに声をかけ、見送る。
見た感じ、かなりリラックスしてるようだ。
調子は万全、なのだろう。
これなら、絶対に勝てる。
そう感じさせられる。

43 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:49:43.387 ID:0cY01KXl0
一方のあいつはどうなのか気になり少し辺りを見渡す。
するとプールから離れたところに一人で体を動かしていた。
水着の上からジャージを着ておりあまりアップも終わっていないように見える。


(´・ω・`)(あれ?)


もう一度プールへと視線を戻す。
どうやらレースが始まるようで皆がスタート台に立ち、準備している。

だが、あいつは来ない。
ただ、体を動かしている。

(´・ω・`)「......」


ピッと笛の音が聞こえた。
バタフライの選考が始まった合図だ。
だけど、あいつは泳いでいない。


(´・ω・`)(今日は泳がないのか?)


そんな風にも考えたがすぐに違うと気づく。
泳ぐ気がないならいつもなら水着に着替えすらしないあいつがきがえているのだ。
つまり、何かで泳ぐ。
その何かとはなんなのか。

44 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:51:50.985 ID:0cY01KXl0
今日の選考で残された種目。
もう種目は少ない。
つまり、あいつが泳ぐのは。


( ´∀`)「次、個人メドレーの選考を行います。選手の人はプールへ」


(´・ω・`)


( ^ω^)


個人メドレー。
僕のstyle1。

45 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:52:17.529 ID:0cY01KXl0
負けるわけにはいかない。
負けたくない。
そして。

あいつに。
この男に。
ブーンに。

勝ちたい。
絶対に、勝つんだ。

46 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 19:53:17.179 ID:0cY01KXl0
今日はおしまい
相変わらずの短さ
読んでくれた人はありがとう
次ももしよければ読んでください

49 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 20:09:56.106 ID:MjKq6HcC0
おっつー

50 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 20:11:39.081 ID:vow+o9NtM
おつ!
次も期待してるぞ

51 :以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/26(日) 20:25:58.643 ID:IRjNyqFC0
とうとうブーンとか。おつ

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