4 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:05:06.99 ID:+L8W2OQuO

 さあさ、とくとご覧あれ

 これが花魁、“しゅう”の最後だ



 lw´‐ _‐ノv春の日々、のようです

  『 “終” 』



 女は笑うか
 女は泣くか


 煌めく銀は赤く濡れ。

 すべての終わりは始まりか。



6 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:07:10.51 ID:+L8W2OQuO

 みぃん、みぃん、蝉が鳴く。
 空はからりと晴れ渡り、雨の姿はどこへやら。

 花魁“しゅう”はぼんやり窓から外を見下ろして、下ろした髪を大きな一つの三つ編みにしていた。
 緩く編んだ髪を紫色をした絞りの端切れで、きゅう、と結び。
 無地の浴衣、その袂を銜えて、首を傾ぐ。

 何だか、胸がざわつく。

 頭の芯が痺れる様な感覚に、しゅうは不思議そうな顔をして窓を閉めた。


lw´‐ _‐ノv「ぬ、ぬ? 何やら何や、ざわざわひりり……胸がぐるぐるする……」


 豊満な胸を押し退ける様にして左の胸を手で押さえると、心の臓の病でも患ったか? と、また首を傾げて。


(*゚∀゚)「あひゃ! しゅう、今はお暇かィ?」

lw´‐ _‐ノv「おやおやおつう、如何にした?」

(*゚∀゚)「別に、ただ今日は何だか暇でねェ……何か楽しい事ァないかと」

lw´‐ _‐ノv「んなもんわっちが聞きたいわい」

(*゚∀゚)「しゅうに正論ぽく返されたら困るゥ……」


9 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:09:05.75 ID:+L8W2OQuO

 てっとてと、とやって来たるは花魁“おつう”その女。
 黒髪をばさ、と掻き上げて、おつうは頭を傾けて困り顔。

 緋色の浴衣は白い花の模様が描かれていて、地の色に反して意外にも涼しげな印象であった。
 おつうがその浴衣の袂を噛んでいると、ふと、何かを思い出した様に顔をあげた。


(*゚∀゚)「あ、そだ」

lw´‐ _‐ノv「む?」

(*゚∀゚)「しぃに友達が出来たみたいなのさァ、でぃって子ォ知ってるかィ?」

lw´‐ _‐ノv「ああ、眉の下がった」

(*゚∀゚)「それは米屋の倅」

lw´‐ _‐ノv「うん知ってる」

(*゚∀゚)「めんどくせェ女。で、そのでぃって子なァ」

lw´‐ _‐ノv「神社の赤い振り袖のお稚児である」

(*゚∀゚)「知ってンじゃねェかィ」


10 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:11:04.06 ID:+L8W2OQuO

(*゚∀゚)「あの子、はいんの禿(かむろ)っ子らしいねェ」

lw´‐ _‐ノv「え」

(*゚∀゚)「知らなかった?」

lw´‐ _‐ノv「おはずかちい」

(*゚∀゚)「もう良いや。でだ、でぃちャんってのは……ほら、傷をいっぱいこさえてるじゃないかィ?」

lw´‐ _‐ノv「あー……あーあー、そう言えば」

(*゚∀゚)「ンで、気になっちまってさァ……つい聞いちまったのさァ、はいんに」

lw´‐ _‐ノv「でりかしぃないね」

(*゚∀゚)「分かってるよォ……で、な? あの傷は、前に居た店でつけられた物なんだと」

lw´‐ _‐ノv「……むか」

(*゚∀゚)「天神様の生け贄に出された幼子がある店の店主に拾われて、さんざっぱら虐待を受けて育ったそうナ」

lw´‐ _‐ノv「……むかむか」


13 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:13:06.82 ID:+L8W2OQuO

(*゚∀゚)「そしてある日、傷だらけの幼子は店から抜け出し、ある女に拾われる」

lw´‐ _‐ノv「……“はいん”、かや?」

(*゚∀゚)「そう、情けか何かは知らないが、はいんはでぃちャんを自分の禿にしたのさァ」

lw´‐ _‐ノv「天神様の、生け贄……口減らしか……」

(*゚∀゚)「行きはよいよい帰りは怖い、てなァ……捨てる奴も捨てる奴だが、ううん……何とも、ねェ」

lw´‐ _‐ノv「ところで、ある店とは? わっちらの知る店か?」

(*゚∀゚)「おーそうそう、有名な見世物小屋さァ!
    “徐留寿屋”って、知ってるかィ?」

lw´‐ _‐ノv「良い噂は聞かなんだ……はて、ずいぶん前に潰れたと聞いた様な……」

(*゚∀゚)「ああ、長岡屋の阿呆息子がやってた店だが、でぃちャんが逃げ出してすぐに潰れッちまったそうさァ」


lw´‐ _‐ノv(*゚∀゚)「良い気味だ」


lw´‐ _‐ノv「わっはっはっ」

(*゚∀゚)「あひゃひゃひゃひゃ!」


15 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:15:11.70 ID:+L8W2OQuO

(*゚∀゚)「でな、でぃちャんの背中、店の名前の焼き印があるンだってよォ」

lw´‐ _‐ノv「……むかむかむか、はらがたつ」

(*゚∀゚)「長岡って野郎は最低さァ……何人もの女を泣かせてきたってェじゃないか」

lw´‐ _‐ノv「わっちも聞いた事がある、長岡に食い潰され、自害した女も居るそうな……むかむかむかむか」

(*゚∀゚)「もし見掛けたらぶっ飛ばしてやらァ!」


 二人が団扇を片手に憤り、口々に長岡を罵倒していると、しゅうの部屋の戸を誰かが叩いた。
 蛍の描かれた団扇を握ったまましゅうが外に出ると、そこにはどくおが立っていて。


lw´‐ _‐ノv「はて、如何にした?」

('A`)「ぶーんの旦那が呼んでやすぜ」

lw´‐ _‐ノv「自分で来いと言いなされ、じゃ」

(;'A`)「いやいやいや、大事な話らしいですからぁ……」

lw´‐ _‐ノv 、 チッ

(;'A`)「舌打ちこえぇ……」


16 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:17:03.61 ID:+L8W2OQuO

(*゚∀゚)「行ってきなァ、あたしゃ部屋に戻るよォ!」

lw´‐ _‐ノv「すまぬすまぬな、おつうよ……全く空気を読まぬ内藤め、成敗してくれる」

(;'A`)「成敗しないで……」


 しゅうを呼びに来たどくおの言葉に、舌打ちをしながらも渋々頷くしゅう。
 おつうはてとてと自室に戻って行き、どくおはしゅうを連れて、一階の楼主ぶーんが待つ部屋へと向かった。

 みぃんみぃん、蝉はけたたましく泣き叫ぶ。
 子を残そうと必死になって泣き叫ぶ。
 七日だけのその命は、あまりにも儚く悲しくて、しゅうは歩きながら外を見やりて息を吐く。

 短い命は女も同じか。

 米が食いたいな、などと考える横でその様な事を思い、階段を降りて行く。


 ざわりざわり、ひりり、ずくずく。

 胸のざわめきは強くなる一方だった。


17 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:19:04.78 ID:+L8W2OQuO

lw´‐ ◇‐ノv

( ^ω^)「何だおその顔」

lw´‐ _‐ノv「失礼、で、なんだって?」

( ^ω^)「だから、しゅうが太夫になるんだお」

lw´‐ ◇‐ノv

( ^ω^)「なんつー顔だお」

lw´‐ _‐ノv「失礼、で、なんだって?」

( ^ω^)「しゅうの位が太夫になるって話だお」

lw´‐ ◇‐ノv

( ^ω^)「もう突っ込まないお」

lw´‐ _‐ノv「ノリ悪いのう」

( ^ω^)「で、藤花太夫」

lw´‐ _‐ノv「え、もう名前も決まってるの?」


20 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:21:18.19 ID:+L8W2OQuO

( ^ω^)「今この遊廓には太夫が一人も居ないお」

lw´‐ _‐ノv「ねぇ、ねぇちょいと」

( ^ω^)「流石に一人も居ないとなると遊廓全体の緊張感がなくなっちまうんだお」

lw´‐ _‐ノv「ねー、ねーったら小太り」

( ^ω^)「だから此度、番付に載る花魁の中から太夫を出そうと言う話になったんだお」

lw´‐ _‐ノv「こらぴざー、ぴざくってねてろー」

( ^ω^)「そして抜擢されたのが、しゅう、君だお」

lw´‐ _‐ノv「ほう」

( ^ω^)「聞いてたかお?」

lw´‐ _‐ノv「ぜんぜん」

( ^ω^)「しばきたおすお」

lw´‐ _‐ノv「やだこわぁい」

( ^ω^)「おー、ちょっとハリセン持ってこいおー」


21 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:23:10.46 ID:+L8W2OQuO

ガラッ
('A`)っ▽⊂(^ω^ )ども


スパァン!!


( ^ω^)「で、分かったかお?」

lw´#) _‐ノv「ええ、はい、まあ」

( ^ω^)「太夫……なりたくない、かお?」

lw´#) _‐ノv「……おつうのが売れてるのに……何でわっちが……」

( ^ω^)「おつうは近々身請けられるんだお」

lw´#)◇‐ノv

( ^ω^)「知らなかったのかお……」

lw´‐ _‐ノv「それはそうと」

( ^ω^)「お?」

lw´‐ _‐ノv「……やだ」


22 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:25:05.60 ID:+L8W2OQuO

( ^ω^)「こればっかりは、我が儘、言わないでくれお……」

lw´‐ _‐ノv「わっちが居なかったら、誰になっていた?」

( ^ω^)「九羽屋のはいんだお」

lw´‐ _‐ノv「う」

( ^ω^)「断りにくくなったお?」

lw´‐ _‐ノv「うう」

( ^ω^)「しゅう、頼むお……僕も皆にしゅうが適任と言われては、断る事も出来ないんだお……」

lw´‐ _‐ノv「ううう」

( ^ω^)「もし断れば、良からぬ噂でも立てられ、武雲屋も危なくなるかも知れないんだお」

lw´‐ _‐ノv「うううう」

( ^ω^)「しゅう、後生だお……この武雲屋を救ってやってくれお」

lw´‐ _‐ノv「ううううう」


lw´‐ □‐ノv んば。


24 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:27:15.24 ID:+L8W2OQuO
( ^ω^)「何だおその反応」

lw´‐ _‐ノv「暫く時間を寄越しゃんせ、悩ませよ」

( ^ω^)「……分かったお、頼むお、しゅう」


 がらぴしゃん、と後ろ手に襖を閉める。
 がっくり項垂れるしゅうは、とぼとぼ眉を寄せて自室へと戻って行くのであった。


 ここで断れば角が立つ。
 そして断れば太夫の座ははいんへと。
 しかしそれは、はいんにとって腹立たしい結果。
 たとえ太夫になったとて、飽くまでも“しゅうの代わり”と言う言葉がついて回るのだ。

 そうなってしまえば、もうはいんに合わせる顔が無くなる。
 はいんは太夫になるだろうか。
 わっちの代わりに、太夫になるのだろうか。

 太夫となったはいんは、わっちをどう思うだろうか。

 わっちを、恨むだろうか。


 堂々巡りのその思考。
 とどまるところを知らぬ暗い物。
 しゅうは部屋の隅で、膝を抱いて涙した。

26 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:29:12.03 ID:+L8W2OQuO

lw´‐ _‐ノv「……はふ」

 部屋の隅、寝台の影に隠れながらため息を吐くしゅうは、膝に出来た暗い涙の染みを見て。再び溜め息。
 何度目かも分からぬ溜め息をころころころころ転がして、ぱたんと横に倒れてしまわれた。

 外では子供がはしゃぐ声や商いの声がする。
 それに覆い被さる様に、そこらじゅうで蝉が泣き叫ぶのだ。
 それを聞いているだけで、どこか、悲しくなってしまう。


ぱたたたた。


ζ(゚ー゚*ζ「おいらぁん、お客さーん」

lw´‐ _‐ノv「む? ……ああ、すぐに、行くよ……」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、部屋に来るって言ってましたぁ!」

lw´‐ _‐ノv「そう、かえ……」

ζ(゚ー゚*ζ「んじゃー!」


28 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:31:18.04 ID:+L8W2OQuO

 元気一杯のでれを見送り、甲高い声を聞いた所為か、少しだけ疲れた耳を撫でながら身を起こす。
 浴衣をぐしゃりと着崩れているが気にする風でもなく、ただ、だらしなく足を投げ出して寝台の側面に背中を預けた。

 ぼけ、と高い位置にある窓を見上げていれば、近付いてくる足音。
 その足音は重くも軽くもない、けれど男の様な音で。


从 ゚∀从「おい、しゅう」

lw´‐ _‐ノv「!」

从 ゚∀从「ンだァ? 鳩が豆鉄砲食らったみてェなアホ面アしてよォ」

lw´‐ _‐ノv「あ、あうあう」

从 ゚∀从「……なア、しゅう?」

lw´‐ _‐ノv「あうあう」

从 ゚∀从「手前、俺様に言う事ォねェか?」

lw´‐ _‐ノv「あう…………はいんの下駄の歯を折ったの、わっち」

从;゚∀从「何しやがんだ手前……いや、よく折ったなアおい…」

lw´‐ _‐ノv「あうあうあう」


31 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:33:03.55 ID:+L8W2OQuO

从 ゚∀从「じゃなくて、な? 」

lw´‐ _‐ノv「き、きこえなーい」

从 ゚∀从「単刀直入に言うとだな」

lw´‐ _‐ノv「きこえなーい」

从 ゚∀从「手前、太夫になるのか?」

lw´‐ _‐ノv「きこ、え、な……あうあう……」

从 ゚∀从「……なりたくないん、だな?」

lw´‐ _‐ノv「…………」

从 ゚∀从「どうして、なりたくない? 太夫ッてェなア悪いモンじゃアねェだろ」

lw´‐ _‐ノv「……わっちは、怖い」

从 ゚∀从「怖い……?」

lw´‐ _‐ノv「太夫は妓楼だけでなく、遊廓すべてを支える、存在」

从 ゚∀从「ああ、そうだな」


32 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:35:04.46 ID:+L8W2OQuO

lw´‐ _‐ノv「だからこそ、おそろしい」

从 ゚∀从「……重い、……か」

lw´‐ _‐ノv「そう、重い……怖い、怖い……太夫が怖い……っ!」

从 ゚∀从「しゅう……」

lw´  _ ノv「わっちは、わっちは太夫に相応しいのか……本当にわっちが太夫になれるのかっ!」

从 ゚∀从「しゅう、なア……しゅう」

lw´  _ ノv「はいん、はいん、助けてくりゃれ……わっちは怖い、遊女の己が恐ろしい……っ!!」


 しゅうは己の隣に座り込んだはいんの膝に突っ伏して、譫言の様に繰り返す。
 恐ろしい、恐ろしい。
 そう繰り返すしゅうの口からは、また、嗚咽が溢れ出した。

 背中を震わせて膝を濡らすしゅうの頭を、そっと優しく撫でるはいんは、酷く困った顔をしていて。


从 ゚∀从(なのに、俺様が居るから、断れない)


35 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:38:35.21 ID:+L8W2OQuO

 太陽の位置が高くなり、暑さが際立ってきた頃に、しゅうはやっと泣き止んだ。
 背中の震えがおさまったのを見計らい、はいんはそっと口を開く。


从 ゚∀从「なア、しゅう」

lw´‐ _‐ノv「ぐずっ、……なん……?」

从 ゚∀从「俺様には間夫(まぶ)が居ねェからよく分からねンだけどよォ……手前の間夫は、手前にとってェどんな奴なんだ?」

lw´‐ _‐ノv「杉浦殿、?」

从 ゚∀从「ああ、あの目に傷のある大男。手前は随分、あいつが好きなんだろ?」

lw´‐ _‐ノv「ん……杉浦殿は、わっちの親代わり」

从 ゚∀从「あ、そうなの? ……いや、親代わりが間夫ってェのも、うん……」

lw´‐ _‐ノv「杉浦殿はわっちの所に来ても、わっちを抱く事はせぬ」

从 ゚∀从「あ、そうなの……」

lw´‐ _‐ノv「……わっちの親が病で死に、杉浦殿はわっちを引き取ってくれた。
       始めこそは親代わりだった、けど、何時しかわっちは、杉浦殿に想いを寄せる様になった」

从 ゚∀从「あー……何かキュンとすらァ……」


36 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:40:32.37 ID:+L8W2OQuO

lw´‐ _‐ノv「わっちはむかあし癇癪持ちで、理由もなく暴れる事があった」

从 ゚∀从「手前がァ? ……今じゃあ欠片もねェなア」

lw´‐ _‐ノv「杉浦殿の傷は、わっちが癇癪を起こした時に……杉浦殿の懐刀でつけた物」

从 ゚∀从「……」

lw´‐ _‐ノv「今は酷く、悔いている……それから暫くし、わっちはここに連れてこられた」

从 ゚∀从「なア、しゅう」

lw´‐ _‐ノv「杉浦殿は、わっちを嫌っているのだろうか……目を傷付けたから、怒っているのだろうか……」

从 ゚∀从「ンな事ァねェと思うがなア……」

lw*‐ _‐ノv「だってぇ……店に来ても、そのぅ……」

从 ゚∀从「変に照れるな気持ち悪い」

lw#‐ _‐ノv

从 ゚∀从「阿呆」

lw´‐ _‐ノv

从 ゚∀从「怒らねェのかよ」


37 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:42:06.73 ID:+L8W2OQuO

lw´‐ _‐ノv「はいんは……わっちが太夫を断ったら、怒る、かえ?」

从 ゚∀从「何で」

lw´‐ _‐ノv「あう、その、あうあう」

从 ゚∀从「“しゅうの代わりになった太夫”だからか?」

lw´‐ _‐ノv「あうあうあう」

从 ゚∀从「俺様はそンなに狭ェ心は持っちゃアいねェよ」

lw´‐ _‐ノv「……はいん」

从 ゚∀从「しゅうや武雲屋を悪く言いやがるクソッタレが居やがったらアよ、俺様はブチのめしてやらァよ」

lw´‐ _‐ノv「はいん、はいん」

从 ゚∀从「だから手前は、断ッちまえやア。俺様が遊郭を背負って、威風堂々と立ち続けてやる」

lw´; _‐ノv「自分で……言うない……」

从 ゚∀从「うっせェ阿呆……、だから、泣いてンじゃアねェよ……」

lw´; _;ノv「あり、と……ありがと、う……はいん……はいん…………」

从 ゚∀从「……泣くなやァ、しゅう、なア、泣くなァ」


39 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:44:12.86 ID:+L8W2OQuO

 重さに耐えられない己の弱さを呪いながら、しゅうは頬を涙で濡らして唇を噛み締める。
 その唇の隙間から洩れ出すか細い悲鳴の様な嗚咽を聞いて、はいんの手のひらはしゅうの頭をよしよし、撫でてやるばかり。

 いつかきっと、返してみせよう、この恩を。

 しゅうは袖で目元をごしごし擦って、精一杯に笑って見せた。


lw´‐ _‐ノv「はいん、わっち、……わっち、いつか」

だだだだだ! ばぁん!!

ζ(゚ー゚;ζ「おいらぁん!!」

lw´‐ _‐ノv「でれ……?」

从 ゚∀从「ンだァ? チビガキィ」

ζ(゚ー゚;ζ「外! 外で変な人が刀をふりまわして暴れてるのぉ!!」


lw´‐ ◇‐ノv 从 ゚◇从


ζ(゚ー゚;ζ「あほづらしてるばあいかぁあ!!」


40 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:46:56.91 ID:+L8W2OQuO


ちゃら、ちゃら。

 雪駄を鳴らして歩く男は片手で長い筒状の何かを持ち、片手を懐に突っ込んで渋い顔をしていた。
 はっきりした眉を寄せて奥歯をかちかち噛み合わせ、男は懐の寒さに舌を打つ。
  _
( ゚∀゚)「チッ……もう銭がねェよ……ッたく」


 軽い財布を懐から取り出して、その軽さに更に渋い顔をして。
 男、長岡は親の脛をかじる事も出来ず、食い物にする女も居らず貧乏生活を強いられていた。
 数年前にはあった店も潰れてしまい、今の収入源は親か女、もしくは恐喝だけである。

  _
( ゚∀゚)「あークソ、腹は減るし銭はねェ……あるのは奪ったこいつだけ、と」


 先程金を強請ろうと男に脅しをかけた所、金は無いから代わりにと差し出された筒状の長い袋。

 それは、花街に持ち入る事を許されぬ物。
 一本の、刀であった。


 どこかで売るつもりだったらしいそれを肩に掛けて歩く長岡の正面からは、愛らしい二人のお稚児が歩いてきていた。


41 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:48:19.97 ID:+L8W2OQuO
  _
( ゚∀゚)「あ゙ー畜生……店があった時ゃあ未だ財布にも余裕があったのによォ……」


(*゚ー゚)「それでね、でれちゃんったら起きられなくなって……」

(#゚;;-゚)「ふぇ……でれはん、大丈夫やろぉか……」

  _
(# ゚∀゚)「店が潰れたのも親父に見放されたのも、みんなあのガキの所為だ……ああ畜生ッ!!」



(*゚ー゚)「もう大丈夫だと思うよ、今日は元気に駆け回ってたし」

(#゚;;-゚)「せやったら、えぇんやけど……」


  _
( #゚∀゚)「クッソ! “でぃ”がッ!!」


どんっ。


(#゚;;-゚)「ふぁっ」


44 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:50:06.97 ID:+L8W2OQuO

  _
(# ゚∀゚)「ッてェなぶつかってンじゃねェぞ!!」

(#゚;;-゚)「す、すんまへんっ……」
  _
( ゚∀゚)「あ、」

(#゚;;-゚)「ぁ……」


 長岡が己にぶつかったお稚児を見下ろし、その見覚えのある顔に少しだけ目を見張る。
 そんな長岡の眼差しに、でぃはさっと顔色を無くして後退り、怯えた顔で目尻に涙を浮かべた。


 脳裏に駆け巡る、過去の記憶は。
 この男に振るわれた拳と、罵声と、破瓜の痛み。

 ようやく抜け出した筈の地獄が、目の前に立っていた。


(# ;;- )「ァ────あ、あぁぁぁぁぁ……!!」
  _
( ゚∀゚)「おい、お前、まさか……」

(# ;;- )「ヤ……ぃ、や、やぁぁぁ!」
  _
( ゚∀゚)「待てクソガキがッ! 背中見せろオラァッ!」


45 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:52:08.30 ID:+L8W2OQuO

 逃げ出そうと踵を返したその首根っこをぐうわと掴んだ長岡は、
 でぃの首を押さえながら、着物の背中をずり下ろした。

 着物を下ろされた、白い傷だらけの背中。
 狭く小さな背中には傷以外の物が刻み込まれていて。

 その焼き印は、“徐留寿屋”と。


  _
(  ∀ )「見付けた……」


 ぞわりとした声に、でぃが目を見開いて涙を溢した。
 ふつふつ沸き上がる感情は、でぃに対する怒りに似たそれで。
 着物から手を離した長岡は、そ、と落とした刀に手を伸ばし

ひゅ、かいん!!

   _
=□#)∀)「いでぇ!!」

(#*゚ー゚)「で……でぃちゃんから離れろ変態! 天下の往来で着物を脱がせるなんて言語道断だぁっ!!」

(#゚;;-゚)「しぃ、はん……」

(#*゚ー゚)「でぃちゃん大丈夫!?」


46 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:54:09.94 ID:+L8W2OQuO

 しぃの手によって投げられた小さな下駄が、長岡の額に当たって軽やか音をさせる。
 額を押さえてでぃから手を離した長岡は、舌を打ちつつ小さなしぃをねめつけた。

 大の大人、それも男に睨まれるも、しぃは毅然とした表情で。
 き、とでぃを己の後ろに庇うように立ち、長岡を睨み上げていた。

  _
(# ゚∀゚)「クッソガキ……おいコラァ! そいつ渡せェ!!」

(#*゚ー゚)「触らないで! 誰かー! 変態ですー!!」
  _
(# ゚∀゚)「なっ……!!」

(#*゚ー゚)「子供相手に本気になる変態です!! 誰かー!!」
  _
(# ゚∀゚)「黙れこらクソガキがァッ!!」


48 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:56:03.90 ID:+L8W2OQuO

 しぃが口に手を添え、大声で叫ぶと周囲には少しずつ人が集まり出す。
 人は口々に「子供相手に」や「女の子に」等と長岡を蔑む言葉。
 顔を真っ赤にして奥歯を噛み締める長岡は、刀を拾い上げて袋の口を解いた。

 そして

  _
(# ゚∀゚)「お前ら

ζ(゚□゚*ζ「へんたいだー!! でぃちゃんがぬがされてるぞー!!! へんたいがたいへんだー!!!!」

  _
(# ∀ ) ビキ


 武雲屋二階の窓から降るお稚児の声に、長岡の堪忍袋の尾が切れた。


50 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 20:58:06.44 ID:+L8W2OQuO

  _
(# ∀ )「あ゙ぁああああああどいつもこいつもよォオオッ!! お前ら皆おっ死んじまえぇえっ!!」


 長岡が怒鳴りながら、する、と落ちる袋の口から飛び出した柄を握ると、
 振り回す様にして、鋭利な刃物が鞘から引き抜かれた。

 ぎら、とぬめる様に光を反射させる刀に山ほど居た野次馬達は悲鳴を上げた。
 流石のしぃも刀を見れば、身を固くしてひどく緊張した面持ちになって。


ζ(゚ー゚*;ζ「やっべ」


 怒り狂う長岡が言葉にならない怒声を撒き散らす姿を見て、武雲屋二階の窓から頭を引っ込めたでれは肩をすくめて冷や汗を垂らした。
 ぺ、とでれは舌を出しながら姉女郎しゅうの部屋に飛び込み、そして、叫ぶ。


ζ(゚ー゚;ζ「おいらぁん!!」

ζ(゚ー゚;ζ「外! 外で変な人が刀をふりまわして暴れてるのぉ!!」



54 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:00:04.64 ID:+L8W2OQuO


 眉毛のまっすぐな男が、でぃを襲っている。

 でれの言葉を聞いたはいんは慌ててしゅうの座敷から飛び出して、階段を駆け降りて行った。
 でれは取り敢えず楼主ぶーんの元に走って行き、しゅうは

 しゅうは、飯炊き場に居た。


lw´‐ _‐ノv「眉のはっきりした男、か」


 それはきっと、おつうが言っていた“あの男”。
 そして、はいんに聞いた事のある、渡辺にかかわり合いのある“あの男”。
 流言によると、数多の女を食い物にして殺した極悪非道な“あの男”。

 つまり、しゅうの友人達を傷付け苦しめ死に至らしめた、“あの男”。

 しゅうは目尻に少しだけ残った涙を拭って、薄く目を開き。
 前を、しっかりと見据える。

 そして飯炊き場から掠めた“ある物”を懐に仕舞い込んで、ゆっくりと武雲屋を出ていった。


57 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:02:27.65 ID:+L8W2OQuO


从;゚∀从「でぃ! 無事か!!」

(#゚;;-゚)「ぁ……はいん、姉様……」

从;゚∀从「おいガキ! 良くやった、だから手前は楼主んとこ行ってなア! 流石にコイツァ危ねェよ!!」

(;*゚ー゚)「は、はいっ!」


从 ゚∀从「…………よくまあ、やってくれたなァ長岡よォ」
  _
(# ゚∀゚)「あ? お前は……はいん、か?」

从 ゚∀从「あアそうだ、手前が殺した女の友人よ」
  _
(# ゚∀゚)「はァ? 誰だそりゃあ」

从#゚∀从「ッ、の、野郎……!!」


 でぃの手を強く握るはいんの手が震え、怒りがぞわぞわ沸き上がる。
 この男は、自分が殺した女の事すら覚えていないのか。
 あの女が、小指を切ってまで愛を誓ったと言うのに、この男は。


61 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:04:27.29 ID:+L8W2OQuO

 怒りに任せて怒鳴り付けようと、はいんが口を開いたその時、野次馬達が叫んだ。


『よく言うよ! うちの娘を殺しておいて!』

『そうだそうだ、お前は何人殺したと思ってやがる!』

『お前の所為で自害した女達を返せ!』

『この犬畜生にも劣る野郎め!』

『さっさと死んじまえ!!』


 溜まりに溜まっていた何かが爆発した様に、野次馬達は石と言葉を長岡にぶつけ出した。

 それらを聞いた長岡は、暫くばつの悪そうな顔で黙っていたが、
 ごつ! と頭に石が当たって、刀を握り直し。


  _
(# ゚∀゚)「うるせぇんだよクソがァアッ!! 黙れ黙れ鬱陶しいッ!!」

从;゚∀从「うわァッ!」


 突然、刀を滅茶苦茶に振り回し出した。


64 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:06:20.87 ID:+L8W2OQuO

 刀を振り回して暴れる長岡から逃げる為、群れをなしていた人々が一斉に動き出す。
 その中でもみくちゃにされた二人の繋いでいた手が離れ、みるみる内に二人の間の距離が広がる。


从;゚∀从「でぃ、でぃッ!」

(#゚;;-゚)「ぉ……花魁……っ!」

从;゚∀从「待ってろ! すぐそっちに……ああ退け! 退きやがれ手前らア!!」

(# ;;- )「あうっ!」

从;゚∀从「でぃッ!!」


 慌ててはいんがでぃの元へ走ろうとするが、なかなか前へと進めない。
 それどころか、人の波に弾き飛ばされたでぃが、長岡の前へと倒れ込んでしまった。

 長岡の目がでぃを捉えれば、その刃は躊躇いの欠片も持たず、空気を引き裂きながら真っ直ぐに降り下ろされ。


67 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:08:24.36 ID:+L8W2OQuO

 眼前に迫る銀色に、もう駄目だ、とでぃは双眼を強く瞼に覆わせる。
 が、


ガ、ギッ。


 きつく目を瞑っていたでぃだけれども、その耳に届くは己の身が切り裂かれる音ではなく、金属が強くぶつかった音。
 そろ、と瞼を持ち上げて、顔を上に向ける。
 さすれば其処に広がる物は、

 でぃの後ろから、しゅうが菜切り包丁を差し出していた。

 見事に刀を受け止めた包丁に、ぐ、と力を入れて弾き飛ばし。
 でぃの襟首をぐういと掴めば、はいんの元へと放り投げた。


 右手に握られた包丁の背に、支える様に添えられた左手。
 鮮やかな藤色の浴衣を纏うしゅうは、背筋をしゃんとさせて顎を少しだけ引き、そうっと口を開いた。



lw´‐ _‐ノv「────無作法は其処までぞ、無礼者」



71 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:10:33.62 ID:+L8W2OQuO

 たん、と白い裸足が土を蹴り、軽い動きで長岡の腹へと飛び込んだ。
 長岡は咄嗟に刀を斜めにして、横薙ぎにされた分厚い包丁を受け止める。
 止められた包丁を流して斜め下から上へ、上から下へ、下から横へと縦横無尽に振り回されるしゅうの刃。

 それらを受けて流し、止めては弾く長岡も、次第にしゅうの無表情に秘められた感情に気付いていった。


 今のしゅうは、まるで“あの女”の様だと。


 裸足の足が痛むのか、しゅうの動きがほんの少しだけ鈍る。
 その隙を見て、長岡はど、としゅうの腹を蹴り飛ばした。


lw;‐ _‐ノv「っ!」


74 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:12:17.84 ID:+L8W2OQuO

 そのまま背から地面に倒れるしゅうの、胸を強く踏みつけ。
 長岡は額に浮かんだ汗を拭いて、にやぁり笑んでみせた。

  _
(;゚∀゚)「良い様だなァ、花魁様よ」

lw´‐ _‐ノv「……」
  _
(;゚∀゚)「ンだ? 怖くて悲鳴も出せねェか? どいつもこいつも、女郎ってのは可愛くねェモンだな!! あの女みてェだ!!」

lw´‐ _‐ノv「あの、女?」
  _
(;゚∀゚)「あの頭の足りねェ愚図の事だよ!! 確か、わたな」


ひやり。


  _
(;゚∀゚)「……ぇ」


 女の名を口にしようとした長岡の首筋に、冷たい何かが当てられた。


76 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:14:10.61 ID:+L8W2OQuO

 恐る恐る、ぎこちない動きで振り返る長岡の、視界の端には。


川Д川「それは……私の事、かしらぁ…?」


 誓いの剃刀を片手に微笑む貞子───渡辺の、姿があった。

 首筋に添えられた剃刀を動かさずに、貞子は長岡の耳元に顔を近づける。
 耳に吐息がかかる程近くに寄って、優しい優しい甘ったるい猫撫で声で囁いて。


川Д川「煩いから外に出てみれば……ふふ、安心してぇ……私、もうあなたなんて要らないのよぉ……」
  _
(;゚∀゚)「わた、な、べ……?」

川Д川「だって今の私からしてみれば……あなたなんて、そこらに転がる砂利玉ひとつよりも価値がないのよぉ」
  _
(;゚∀゚)「あ、ぁ」

川Д川「そんな価値のないあなたが……蛙みたいにはいつくばる“愚図”以下のあなたが……価値のある人間に刀を振るうなんて───可笑しい、わよねぇ……?」
  _
(; ∀ )「───っ!」


80 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:16:25.22 ID:+L8W2OQuO

 貞子が髪の隙間から、地面に倒れたままのしゅうに目配せをする。
 それに気付いたしゅうは一つだけ頷いて、包丁を握り直した。


川Д川「長岡、さん……?」
  _
(; ∀ )「は……ひ……」

川Д川「女を甘く見るとねぇ……怖ぁい目にあうのよぉ」


川Д川「一万回殴ってあげましょうか……針を千本飲ませてあげましょうか……?

   ───そして、地獄に落としてあげましょうか…?」


 長岡の身体がびくんと跳ねて、全身から冷や汗を流しながら硬直した。
 ただ何をするでもなく、優しい声音で囁いていた貞子は可笑しそうにくすくすと笑って、剃刀を退け


 長岡の側頭部に、回し蹴りを叩き込んだ。



83 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:18:05.88 ID:+L8W2OQuO

 こめかみに重い一撃を食らった長岡はぐらりと揺れ、しゅうの腹から足を退ける。
 自分を押さえる物が無くなったしゅうは跳ね起きて、その勢いに任せて包丁の柄を長岡の顎に打ち付けて。


lw´‐ _‐ノv「渡辺……いないな貞子、恩に着る」

川Д川「何の事かしらぁ? 私はそこに這いつくばる愚図を地獄に落とさないと、腹の虫が収まらないだけよぉ?」

lw´‐ _‐ノv「貞子や」

川Д川「?」

lw´‐ _‐ノv「大好き」

川* Д川「な! ちょ、場、場の空気を考えなさいよぉ!?」

lw´‐ _‐ノv「あとで考えようかしら」

川* Д川「ばっ……馬鹿女! あなたもさっさとくたばりなさぁいっ!!」

lw´‐ _‐ノv「むひひ。……さ、お下がりやんせ、わっちはこやつに叩き込まねばならぬゆえ」

川Д川「えぇ……その愚図の小指は、残しておいて……っ!!」


86 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:20:09.99 ID:+L8W2OQuO

 貞子が目を見張るその反応に、倒れ伏す長岡に背を向けて居たしゅうが振り返る。
 すぐ後ろに倒れていた筈の長岡の姿はそこには無く、どこに行ったのかと周囲を見回せば

 長岡ははいんとでぃの元へと駆け寄り、刀の柄頭ではいんの頭を殴り付けた。

 突然の事に避けられなかったはいんは額を強か殴り付けられ、ぬめる赤い体液を額から溢しながら倒れ。
 怯えきったでぃの首に腕を回した長岡は、肩で息をしながら幼い首へと刀を当てる。

  _
(;゚∀゚)「はぁ、はぁ……形勢逆転って、分かるかァ?」

川Д川「……その子、離しなさいなぁ?」
  _
(;゚∀゚)「断るな、このガキが逃げ出した所為で、俺の店は潰れちまったンだ」

(# ;;- )「ぁ……や、」

川Д川「知った事じゃないわぁ、良いから手を離しなさい、下衆」
  _
(;゚∀゚)「こいつ目当ての客ばかりだったンだ……なのによォ、こいつが、逃げ出したからッ!!」

(# ;;- )「やぁっ いややぁっ!」
  _
(;゚∀゚)「もう少しで良い玩具になる様に躾るところだったのに、傷まみれの小娘が客共に抱かれる準備が整うところだったのによォッ!!」

(# ;;- )「ぃやああぁぁあああああぁあっ!!」


89 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:22:15.34 ID:+L8W2OQuO


川 Д川「……かげ……に……」
  _
(;゚∀゚)「あァ?」


川#゚Д川「いい加減に黙れ下衆がぁあぁっ!!!!」
  _
(;゚∀゚)「なッ……」


川#゚Д川「さあ汚い手をどけなさい下衆野郎っ!
     これ以上その子を汚すと言うのなら私はあなたを許さない! あなたを八つ裂きにして畜生の餌にでもしてやるわ!!
    さあ手を離せ、目玉を抉られたくなければ、四肢を落とされたくなければ、生きたまま臓物を引きずり出されたくなければ!!
    さあ、さあその子から離れなさいっ!!!!」


(#゚;;-゚)「貞子……姉、様」


 すぐ側まで迫ってきた貞子の剣幕に圧倒されたのか、でぃの首を押さえていた腕が緩まる。
 ごし、と手の甲で涙を拭うでぃは、まっすぐに貞子を見詰めて。


93 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:24:04.40 ID:+L8W2OQuO

『しゃがめぇええええええぇぇぇえッ!!!!』


 長岡の背後から響き渡る声に、でぃと貞子が咄嗟に身を屈めた。

 反応の遅れた長岡の背に


びゅおん。

  _
(; ∀ )「ぐぇっ!!」


 長岡の背に、ずどん!と重い重い何かが叩き付けられ、吹き飛ばされた。



(#´・ω・`)「でぃちゃん!!」


96 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:26:02.87 ID:+L8W2OQuO

(#゚;;-゚)「ぁ……しょぼん、はん……」

(#´・ω・`)「でぃちゃん、お姉さん、怪我はっ?」

川Д川「私は平気よぉ……あなた、は?」

(#゚;;-゚)「ぁ、う、うちは、その……転けた時に擦りむいたくらいやからぁ……」

川Д川「そう、なら……良かった、わ」

(#゚;;-゚)「貞子姉様、しょぼんはん……あの、ぉ、おおきに……」

(#´・ω・`)「良かった……。
      おらそこの眉毛のおっさん!!
      僕みたいな米屋のガキかて誰かを助ける事は出来る! 自分みたいに人様を女やガキやて見下すからえらい目あうんやぁ!!!」

(#゚;;-゚)「……しょぼんはん……」

(#´・ω・`)「でぃちゃん、お姉さん、あっちに避難しとりぃよ!」

(#゚;;-゚)「へ、へぇっ」

川Д川「ほら馬鹿女、いつまで寝てるのぉ?」

从 ゚∀从「あっ、でで……も少し優しくしろよなァ……」


98 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:28:14.06 ID:+L8W2OQuO

(#´・ω・`)「はよ御用になったりぃやおっさん!! こちとら投げる米俵はなんぼでもあるんやよ!!」


(;'A`)「何であの小さい身体で、米俵を投げられるの……? 俺だったら死ぬよ……」

(;´_ゝ`)「言うな……俺も死ぬ……」

(´<_`;)「体力無さすぎないか……?」

(;'A`)「うぇ……弟者、絶倫……?」

(;´_ゝ`)「弟者マカビンビン……?」

(´<_` )「色々と危ないから止めろ」


 大八車に積み上げられた米俵、その前には肩に米俵を担いで仁王立ちをする少年しょぼん。

 先程長岡に叩き付けられた物は、遊廓一番の米屋ご自慢の新米で。
 店からここまで山ほど米の乗せられた大八車を押して来たきたのは、力仕事の苦手そうな武雲屋の男衆であった。


102 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:30:18.38 ID:+L8W2OQuO

lw´‐ _‐ノv「勿体無いから後で貰っても良い物か……」

 足元に転がる美しい米俵を見下ろして、しゅうは人差し指を吸う。
 米俵の隣に転がる長岡には目もくれず、しゃがみ込んではその俵を愛でる様に撫で撫で。
 ちゅ、と米になげきっすをして立ち上がり、にやにやと笑みながら次は長岡を見下ろした。


lw´‐ _‐ノv「これ、眉毛」

(´・ω・`)?

lw´‐ _‐ノv「いや、ぬしでなく、こっちの眉毛」
  _
(;゚∀゚)「俺の、事か……」

lw´‐ _‐ノv「うむ。……女とは恐ろしいと思わぬか? ぬしが幸を吸い取り、首をくくった女も居る……
       その女の無念も手伝って、わっちら遊女はぬしに怒りを持っている」
  _
(;゚∀゚)「は、はんっ……たかが遊び女が、何を」

lw´‐ _‐ノv「その遊び女を敵に回して、痛い目見てるのは誰か?」
  _
(;゚∀゚)「う……」


106 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:32:33.11 ID:+L8W2OQuO

lw´‐ _‐ノv「わっちは、怒っているよ?」
  _
(;゚∀゚)「うう……」

lw´‐ _‐ノv「ゆえにゆえに、わっちはぬしに叩き込む、女の恐ろしさを、ぬしに叩き込んで分からせてやろうと思ったのだ」
  _
(;゚∀゚)「俺は、俺、は」

lw´‐ _‐ノv「わっちは許さぬよ、ぬしを……だって」


 この遊廓の女達は、皆わっちの友達だ。


 立ち上がった長岡に、しゅうの包丁が襲いかかる。
 まるで踊る様な軽い動作で斬り掛かるしゅうに、長岡は避ける位の事しか出来ず。
 腕や胸に小さな切り傷を作りながらも、なんとか大きな怪我はせずに済んでいる。

 しかしこのまま続けば大怪我は免れない。
 現に防戦一方の長岡は、その刀を振るう事すら出来ずに居る。
 それなのに、しゅうは涼しい顔で菜切り包丁を振り回しているのだから。


109 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:34:41.74 ID:+L8W2OQuO
  _
(;゚∀゚)「クッソ……たかが女が一匹死んだくらいで何だってンだ!! 遊び女如きが死んだって、誰も悲しみゃしねェんだよッ!!」

lw´‐ _‐ノv「だまらっしゃい」
  _
(;゚∀゚)「大体お前が死のうが渡辺が死のうが俺はどうでも良いんだよ、もうあのクソガキが死んでも俺の店は戻らねぇしなァ!」

lw´‐ _‐ノv「さもなくば」
  _
(;゚∀゚)「だからもうどうでも良い、お前も女共もみいんな膾にしてやるよ!! 分かったかクソ女共がァッ!!」

lw´‐ _‐ノv


lw´‐ _‐ノv「ころすぞ」
  _
(;゚∀゚)「やってみろオラァアッ!!」

lw´‐ _‐ノv「大概にせよ、そこな阿呆」
  _
(;゚∀゚)「オラッ! お前を刻んだらそこらのガキからばらっばらにしてやる!!」

lw´‐ _‐ノv「わっちも、余計に怒るぞ」
  _
(;゚∀゚)「ああ怒って見せろよッ! たかが雌一匹が怒った所でどうにもならねェって教えてやるッ!!」

lw´‐ _‐ノv「もう、知らぬ」
  _
(;゚∀゚)「上等だクソアマァッ!!」

111 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:36:21.38 ID:+L8W2OQuO

 長岡の挑発めいた叫びを聞いて、しゅうの僅かに寄せられていた眉がとけ、ただ静かな無表情だけを面に飾った。

 そうして、どちらともなく地を蹴り、互いの刃を振り上げる。
 がん、がん、と叩きつけられる厚い刃。
 右の斜め上から降り下ろされる包丁を、刀身で受け止める。

 しかし厚みと重みの差、力のこもった包丁を幾度も受け止めていた刀は、次第に傷つく。
 ぶあ、と高くに掲げた包丁が真っ直ぐ脳天へと叩き下ろされるのも、何とか受け止めて見せた。

 軽く持ち上げられたしゅうの右足が、だん!と長岡の爪先を踏んづけて痛がる姿をねめつけて、動きが鈍くなった隙に包丁を横薙ぎに振るう。
 すんでのところで飛び退いた長岡の腹に、横一文字の傷を浅く付けた。

 着物が切れ、その向こう側の腹、皮膚に赤い線。
 腹の傷を見下ろして目を見開く長岡の肩に、包丁が薄く噛み付く。

  _
(; ∀ )「ぐっ……!」


 ず、と肩に食い込んだ包丁を手前に引かれれば、赤い熱が少しだけ飛び散った。
 斜めに引かれた刃にこつりと鎖骨が当たるのを感じても、しゅうは眉ひとつ動かす事は無く。

 肩を押さえてうめく長岡の右腕を、勢いに任せ、寸毫の躊躇いも持たずに斬り付けた。


115 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:38:36.55 ID:+L8W2OQuO

ずっ、しゅ。

  _
(; ∀ )「あっ、くぅ、がぁあああああッ!!」


 右の二の腕から血を吹き出させて叫ぶ長岡の胸ぐらをぐうと掴んで、地面に引き摺り倒して腹を傷ごと蹴り上げる。
 ぐ、とくぐもった声を洩らして地面を転がり、痛みにのたうつ頭を踏みにじって、蹴り飛ばす。

 血を吐くようにしてふらつきながら立ち上がった長岡は、肩と腕から血を垂れ流して、唇を噛み締め。
 まさか、女一人を相手に、こんな目にあうなんて。
 そう思う頭に後悔する暇を与えず、襲い掛かるはしゅうの刃。

 振り回される包丁が、長岡の頬や腕に傷をつくっては血を嘗める。
 ざし、ざし、と着物と皮膚を同時に切り裂く包丁は、少ォしずつ赤く染まっていって。


  _
(; ∀ )「が、ぁ……あっ……」


 からん、と刀を取り落として倒れるように尻餅をついた長岡。

 その眼前へと迫ってくる、しゅう。


118 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:40:08.28 ID:+L8W2OQuO

 額を切られ、血が顔の半分を赤く染める長岡は、ぼやけた視線をしゅうに向けていた。

 もう、死ぬのだろうか。

 万事休す、と振り上げられる包丁を見つめて、長岡は少しだけ笑う。


と、


「うら退きなァ! この野次馬共がァ!!」

「早く、おじさん早く!」

「ええい急げお! ちんたらするなお!」

「主らは元気な物だな、全く────ふうむふむ、ああ、ほら、見付けたぞ」

「だからさっさと行けお!!」

「騒がしい奴等である、全く」


 喧騒の中、聞こえる会話はまっすぐこちらへと近付いていて。

 しゅうの包丁は、もう降り下ろされていた。


120 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:42:10.66 ID:+L8W2OQuO


ぐい、びぃん。

「あう」



 頭をかち割られる痛みを待っていた長岡に、その激痛はなかなか襲いかからなくて。
 何故か周囲が水を打ったように静かになっていて、長岡は恐る恐る顔を上げて包丁の位置を確認した。

  _
(;゚∀゚)「ヒッ……」


 顔をあげれば先ず目に入ったのが、額に触れんばかりの位置に存在する、停止した包丁。

 少しだけ頭を傾けて包丁の向こうを覗いてみれば

 おさげを引っ張られて動きを止めたしゅうと、おさげを引っ張る大男の姿。



( ΦωΦ)「しゅう」

lw´‐ _‐ノv「……はい」

( ΦωΦ)「これ以上は、我輩もしゅうを助けてはやれぬ」


123 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:44:09.00 ID:+L8W2OQuO

lw´‐ _‐ノv「…………はい」


 何も言わずに包丁を退けたしゅうは、かく、と項垂れて。だらんと腕から力を抜く。
 おさげを引っ張っていた手を退けて、代わりにしゅうの頭を鷲掴みにした大男は、投げる様にしゅうを楼主ぶーんに渡した。


(;^ω^)「おっ……」

( ΦωΦ)「我輩はこの男を連れて行く、しゅうは任せた」

(;^ω^)「分かった、お……」


 男、杉浦は黒羽織を翻して長岡を肩に担ぎ上げ、何事もなかったかの様に医者の元へと歩いていった。
 しゅうはしゅうで、顔を隠す様に深く項垂れ、ぶーんに支えられながら武雲屋へと戻って行くのであった。

 残された包丁と刀に人々。
 野次馬達は見る物を失った事でわらわらとその場から散って行きあっと言う間に居なくなる。


 けれど女は一人そこに残って、刀と包丁を持ち上げ、悲しそうな顔をしていた。


125 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:46:05.38 ID:+L8W2OQuO


 杉浦の手回しのお陰で、何とか罪に問われる事は無かったしゅう。
 そのしゅうが武雲屋地下に叩き込まれて早三日。休み無く“仕置き”を受けている頃、楼主ぶーんの部屋には客が来ていた。

 黒の揃いを着こなす大男が、短い顎髭を撫でながら外を見ている。
 机を挟んだその向かいで、同じ様に外を眺めるぶーんが、ぼんやりと口を開き。


( ´ω`)「あの、長岡の倅は……どうなったんだお?」

( ΦωΦ)「今は、牢の中である」

( ´ω`)「そうかお……個人的には、ぶっとばしたいところだお……」

( ΦωΦ)「まあ堪えるが良い良い楼主よ」

( ´ω`)「分かってるお……無理な事って」

( ΦωΦ)「ふむふむ、ううむ、我輩とて、あの男の所業は許しがたい」

( ´ω`)「わーってるお……“しかし我輩には何も出来ぬ”だろうお……」

( ΦωΦ)「ぶーんも少々聡くなった、うむうむ」

( ´ω`)「馬鹿にされてる気がするお……」


128 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:48:17.49 ID:+L8W2OQuO

ずずず。

 同時に熱うい茶を啜り、ほふぅ、とこれまた同時に気の抜けた息を吐き出す二人。
 杉浦は茶請けの煎餅をボリボリと噛み砕きながら、ポツリ、呟いた。


(( )ΦωΦ))「そろそろ、ボリボリボリ、身を固めるか」

( ^ω^)「お? それは……」

(( )ΦωΦ))「我輩も、ボリボリ、妻を娶ろうかと思う」

( ^ω^)「おっ! そりゃ目出度いお! ……つー事は、もう相手は決まってるんだお?」

(( )ΦωΦ))「うむ、ボリリ、今は地下で、ボリボリ、柱に繋がれて居る」

( ^ω^)「……お?」

(( )ΦωΦ))「身請けには、ボリボリボリ、幾ら掛かるのだったか? ボリボリ、千か五千か一万か?」

(;^ω^)「あ、いや、それはまぁ……え? え、しゅう、かお?」

(( )ΦωΦ))「うむ、ボリ、あれだけの大立ち回りをした後では、ボリボリボリ、最早ここには置いとけまい?」


132 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:50:05.27 ID:+L8W2OQuO

(;^ω^)「う……それは、その……僕も悩んでた所で……」

(( )ΦωΦ))「ならば、ボリボリボリボリ、ならば我輩が、ボリボリボリ、奪って行こう」


( ^ω^)「格好良い事は全部飲み込んでからぬかせお」

(( )ΦωΦ))「ボリボリボリボリボリボリボリボリ」

( ^ω^)「と言うかお前はどれだけ煎餅を食えば気が済むんだお、タダだからって食い放題かお」

(( )ΦωΦ))「ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ」

(#^ω^)「だーボリボリボリボリうっせーお!!」

( ΦωΦ)「ゲフゥ」

( ^ω^)「あー緊張感のない、流石しゅうの親代わりだお」

( ΦωΦ)「そうか?」

( ^ω^)「しゃべり方までよく似てるお、お前のお陰でしゅう二号の様なお稚児まで居る始末だお」

( ΦωΦ)「良かったではないか」

( ^ω^)「不思議とぶっとばしたくなったお」


136 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:52:06.45 ID:+L8W2OQuO

( ^ω^)「それはともかくとし、本気でしゅうを娶るのかお?」

( ΦωΦ)「うむ」

( ^ω^)「今まで散々しゅうから逃げてきたのにかお?」

( ΦωΦ)「うむ」

( ^ω^)「何が杉浦を突き動かしたんだお……」

( ΦωΦ)「しゅうの禿である、あの様な幼子にまで叱られたのでは、もう逃げては居られぬ」

( ^ω^)「格好悪いお」

( ΦωΦ)「黙れ独身」

( ^ω^)「うっせーお腰抜け」

(( )ΦωΦ))「ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ」

( ^ω^)「煎餅禁止だお」

(´ΦωΦ)

( ^ω^)「ボケ同士で大丈夫なのかお、この夫婦……」


141 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:54:30.61 ID:+L8W2OQuO

( ΦωΦ)「失敬な話である、我輩があの場に居なければ騒ぎはもっと酷くなったであろうに」

( ^ω^)「それは確かに感謝してるお、偶然通りかかったのかお?」

( ΦωΦ)「うむ、たまには突然しゅうの元へ行くのも良いと思ってな」

( ^ω^)「しゅうのお陰で騒ぎが収まったって事かお」

( ΦωΦ)「しゅうが騒ぎを大きくしたのだがな、大体、主ももっと早く我輩を呼びにこれば良いものを」

(#^ω^)「僕だって男衆を米屋に連れていったり慌ててたんだお……と言うか、連絡も無しに来たのにすぐ見つかるかお阿呆」

( ΦωΦ)「我輩が詰め所に寄っていて良かったな」

( ^ω^)「なんだか無性にぶっとばしたいお」

( ΦωΦ)「感謝こそされても殴られる理由は無いが」

(#^ω^)「だからぶっとばしたいんだお阿呆」

(( )ΦωΦ))「ボリボリボリボリボリボリボリボリボリ」


( ^ω^)=つ)ΦωΦ)ボリン!


143 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:56:12.20 ID:+L8W2OQuO


 しゅうが身請けられると言う話は、その日の内に遊廓中へ広まった。

 ある人は自分の事の様に喜び、ある人は悔しそうに地団駄を踏む。
 けれども皆が笑って、心からしゅうの幸せを祝っていた。


从 ゚∀从「はー……」

(*゚∀゚)「あー……」

从 ゚∀从「疲れたなァ、おい……」

(*゚∀゚)「だねェ、あたしが身請けられる直前に、何だィ……」

从 ゚∀从「なあ、おつうよォ、相手ってどんな奴だ」

(*゚∀゚)「ンあー、( ´∀`)な顔した奴さァ」

从 ゚∀从「飴屋かよ。……俺様ァ、手前と殴り合って罵り合ったがァ……嫌いじゃア、無かったんだぜ」

(*゚∀゚)「あたしもさァ」

从 ゚∀从「だからよォ……幸せ、なれやァ」

(*゚∀゚)「……あァ、はいんも、ねェ」

从 ゚∀从「おー……」

147 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 21:58:24.60 ID:+L8W2OQuO

 そうして、おつうが惜しまれながら遊廓を出ていった。
 しぃは泣きじゃくりながらおつうを見送り、その頭を優しく撫でるのは、はいんで。
 また、もうじき居なくなるしゅうにすがり付いて泣くでれを、そっと引き剥がすのも、はいんだった。

 大して間を空けずに、しゅうの身請けの日はやってくる。


lw´‐ _‐ノv「あの、あの、あの……」

( ΦωΦ)「む?」

lw´‐ _‐ノv「わ、わわ、わっちで、良い、の?」

( ΦωΦ)「否、しゅうが良いのだ」

lw*‐ _‐ノv

( ΦωΦ)「これから宜しくな、我が妻よ」

lw*‐ _‐ノv「は、ひ……」


 しゅうと杉浦は、静かに静かに、抱き合って。
 しゅうの身請けの日、そして、花魁道中の日。


149 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 22:00:06.81 ID:+L8W2OQuO

 赤と黒の花魁道中。

 その主役である花魁はいんは、人混みの中から見覚えのある二人を見付けた。
 心底しあわせそうな顔で微笑む二人に、はいんは少ォしだけ呆れたように笑って。


从 ゚∀从(やァれやれ……)


 ちらりとだけ、溜め息ころり。
気が付けば、二人の姿は見えなくなっていた。


 ある花街には数多の女が居た

 その中に、とある一人の女が居た

 女は皆に愛され、皆を愛し

 夫と共に、花街を出ていったと言う。



从 ゚∀从(たまにゃァ、顔出してくれよなア……)

 はいんは愛しき友達を思い出して、寂しそうに歩いて行く。
 その背には、一本の刀と菜切り包丁が描かれていた。


151 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 22:02:08.90 ID:+L8W2OQuO


旦那様、旦那様


 ぱたぱた、と暗い紫の着物の上から割烹着を着た女が、杓文字を片手に歩き回る。
 旦那様、と声を掛けられた男はのそりと立ち上がり、縁側から戻ってきて、女の額を軽く叩いた。


( ΦωΦ)「旦那様は止めんか、女中かと思うであろう」

lw´‐ _‐ノv「やー、旦那様は旦那様、わっちの夫は旦那様でありんす」

( ΦωΦ)「また“わっち”と言う、なかなか廓詞が抜けぬな」

lw´‐ _‐ノv「あうあう」

( ΦωΦ)「ふむふむ、ううむ、全く、困った女であるな」

lw´‐ _‐ノv「困った女はお嫌い?」

( ΦωΦ)「否、しゅうに限っては好きだ」

lw*‐ _‐ノv

( ΦωΦ)「しゅうはどうだ、二回り近く上の男は嫌いか?」

lw´‐ _‐ノv「だいすき」


154 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/20(日) 22:04:09.03 ID:+L8W2OQuO
( ΦωΦ)「明け透けに言われれば少々照れてしまうものだな」


 照れた様子を全く見せずに言う大男、杉浦は己の短い顎髭を撫でながら、無表情を笑い声で飾った。
 しゅうはそんな杉浦を見上げ、広い胸板に頬を擦り寄せる。 とくとくざあざあ、生きている音が酷く心地好くて、そっと目蓋を閉ざした。


( ΦωΦ)「しゅう」

lw´‐ _‐ノv「ん」

( ΦωΦ)「主は今、幸せか?」

lw´‐ _‐ノv「幸せ、ひどくひどく……幸せ」

( ΦωΦ)「そうか、良かった───我輩も幸せだ」


 しゅうの背中をとんとん、と叩く杉浦は、珍しくも顔をくしゃくしゃにして笑った。
 それを知ってか知らずか、しゅうは腕をいっぱいに使って、杉浦に抱きついていた。


 ここにはもう、遊女は居ない。

 居るのはただ、少し変わった夫婦だけ。


おわり。

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