3 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:05:03.26 ID:/gnwV7xvO

 本日は七夕

 織姫さんと彦星さんが逢瀬を楽しむ

 特別な一夜だが

 それはお星様に限った事ではありゃしやアせん

 浮き世の男と女とて

 今夜は大事な夜でありんす


 lw´‐ _‐ノv春の日々、のようです

  『幕間・泳げ天の川』


 嗚呼 わっちの愛しいお方

 今夜はあなたに会える、素晴らしい日


4 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:07:05.06 ID:/gnwV7xvO

ざああ ざああ。

 雨とは違うざらざらした音は、水なような水じゃないようなふしぎな音。
 これはいったいなんの音?

ざああ ざああ。

 あたしはこの音をしらない。
 けど、なぜかしってる音。
 ふしぎだけど優しくて、あたたかくて、きもちのいい音。

 ざああ、ざああ。
 この音はなんだろう。
 ざああ、ざああ。

ざああ ざああ。

 ああ、この音は、もしかして。

ざああ ざああ。

ざああ ざああ。

 おいらんの、音だぁ。


5 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:09:55.49 ID:/gnwV7xvO

ζ(-ー⊂ζ「んー……ざあざあいってるぅ……」


ざああ ざああ。

 まぶたを持ち上げたら、広がってるのは天井の木目だけ。
 けれどざらざらの音はいまだに続いてて、身体を起こしたあたしは耳に両手を当ててみた。
 すると音が消えるから、夢の続きでも幻聴ではないんだなぁ。

 くちゃくちゃの布団をほったらかして、立ち上がる。
 音は目の前の襖から聞こえてくるから、あたしはくにゃくにゃの髪の毛をわしゃわしゃさせて首を傾げた。

 自分の長い髪を束にして握ると、ほんとにくにゃくにゃの手触り。
 おとーさんとおかーさんはきれいな黒髪だったらしいけど、あたしは知らない。生まれてすぐに居なくなったらしい。
 あたしを置いて心中したのかな、なんて思いながら、変な色の髪をちからいっぱい引っ張ってみた。

 せめてくにゃくにゃの癖毛がましになるかと思ったけど、ただ頭皮がひきつれて痛いだけだった。


 もう髪の毛とかどうでも良いやぁ。
 ぽい、と髪束を捨てるみたいに手を離して、襖に近づく。


6 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:11:11.54 ID:/gnwV7xvO

ざああ ざああ。

 音はいまだにざらざらしながら部屋にひろがる。
 嫌いじゃない、好きな音だけど、何でこんなとこから音がするのかはきになる。

だから、ためらいなく襖をあけはなった。

すぱん!


lw´‐ _‐ノv

ζ(゚ー゚*ζ

lw´‐ _‐ノv「おはよう」

ζ(゚ー゚*ζ「おはよーございまぁす」

lw´‐ _‐ノv「海の夢は見られたかや?」

ζ(゚ー゚*ζ「うみぃ?」

lw´‐ _‐ノv「ほれ、昨晩」


7 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:13:38.33 ID:/gnwV7xvO


lw´‐ _‐ノv「あぢぃ」

ζ(゚ー゚*ζ「あぢー」

lw´‐ _‐ノv「うぬぬ、こうも暑いと水風呂に入りたくなる……むむぅ」

ζ(゚ー゚*ζ「水風呂せまいから一緒にはいれないですよぉ」

lw´‐ _‐ノv「ふむ、ならば海にでも行って裸で泳ぐか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うみぃ?」

lw´‐ _‐ノv「……でれは、海を知らぬと?」

ζ(゚ー゚*ζ「しらなぁい」

lw´‐ _‐ノv「海は、そう、海は……青くて広くて、しおっからい水がたぁくさんある所、しおっからい大きな大きな水溜まりよ」

ζ(゚ー゚*ζ「楽しいのぉ?」

lw´‐ _‐ノv「水はしょっぱいが、人がおらぬ時に裸で泳ぐのはオツなものよ」

ζ(゚ー゚*ζ「へー……いってみたぁい……」

lw´‐ _‐ノv「ここから海に行くのは一苦労も二苦労もするゆえ、難しいやもしれん」

ζ(゚ー゚*ζ「……ちぇー…………」

10 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:15:16.19 ID:/gnwV7xvO


lw´‐ _‐ノv「と、」

ζ(゚ー゚*ζ「海とざらざらが関係あるのぉ?」

lw´‐ _‐ノv「うむ、海はこんな音がする」


ざああ ざああ。

 柳行李をかたむけると、中に入れられた小豆がころがって音になる。
 ずっと聞こえてたざらざらはこれだったんだぁ。

 ん? もしかして花魁は、ずうっとここで柳行李を動かしてたの、かなぁ?


ζ(゚ー゚*ζ「アホだぁー」

lw´‐ _‐ノv「何をいきなり」

ζ(゚ー゚*ζ「むひひ、おいらぁん、だっこー」

lw´‐ _‐ノv「甘ったれよのう、むひひ」


11 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:17:30.69 ID:/gnwV7xvO

 おんなし笑い方のあたしたち。

 花魁はすごい花魁だから、花魁みたくなりなさい。
 ずうっとそう言われてたから、あたしは花魁の真似をいっぱいする。
 笑い方も振る舞いも、みんな花魁のまねっこだ。

 柳行李をおいて立ち上がった花魁が、あたしを抱き上げる。
 ざらざらの音はやんだけれど、花魁のおっきいおっぱいに顔をうめたら、似た音がきこえる。

 ざああ、ざああ、ことん、ことん。
 一緒に聞こえてくる花魁の音は、すごくすごく落ち着く。


ζ(-ー-*ζ「おいらんの音だぁ……」

lw´‐ _‐ノv「わっちの音……?」

ζ(-ー-*ζ「ざああ、ざああ、ことん、ことん……ざああ、ざああ、ことん、ことん……」

lw´‐ _‐ノv「ああ……わっちの心臓と、血の流れである」

ζ(゚ー゚*ζ「しんぞーと、ちのながれ……」

lw´‐ _‐ノv「そう、誰もが持っている音、わっちだけでない、お稚児も、皆も持っておるのだ」


12 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:19:16.30 ID:/gnwV7xvO

ζ(゚ー゚*ζ「そ、かぁ……」

lw´‐ _‐ノv「わっちの音が、好きかや?」

ζ(゚ー゚*ζ「……ひみつぅ」

lw´‐ _‐ノv「けちんぼ」


 花魁のおっぱいに挟まれながら、あたしはなんだか幸せだった。
 けど、ふと思い出す。

 今日は、花魁の好きな人が来る日。



ζ(゚ー゚*ζ「おいらぁん」

lw´‐ _‐ノv「む?」

ζ(゚ー゚*ζ「今日、ひさしぶりに好きな人にあえるねぇ」


lw*‐ _‐ノv


 あ、照れたぁ。花魁かわいいのぉ。


14 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:21:46.69 ID:/gnwV7xvO

 しばらくして、あたしは花魁のおっぱいから離れて、朝のおしごとにむかった。
 と言っても琴のお稽古や舞のお稽古をするくらいで、あとは花魁の雑用。
 けど花魁のばあいは文をとどける事もあんましないし、お米をとりにいくくらい。

 余裕があるのは嬉しいけど、ちょっと暇。


( ^ω^)「おっおっ、でれー」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、だーんなぁ、なぁにー?」

( ^ω^)「でれに旦那って呼ばれるのは妙な気分だお……。
       あ、折角の七夕だから短冊にお願い事を書いてきなさいお」

ζ(゚ー゚*ζ「おねがいー? そんな、一攫千金くらいしかないよぉ」

( ^ω^)「半端に生々しいお稚児だお……ああそうだ、でれが好きそうな話を仕入れてきたお」

ζ(゚ー゚*ζ「え、どんなのどんなのぉっ?」

( ^ω^)「遊廓七不思議、だお」


16 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:23:44.58 ID:/gnwV7xvO

 ぶーんの旦那に聞いた『七不思議』はなかなかに興味深いもので、ちかぢかしぃちゃんを連れだそう、と心にきめるのに時間はかからなかった。むひひ。

 立ち去るおっきな背中を見送って、あたしは渡された桃色の短冊に目を落とす。
 なにかお願い事っていっても、そんななたいして浮かばない。
 お金はあったら幸せだけど、お金だけあっても幸せじゃない。だからといって、お金がないのが幸せでもないんだ。

 おとなしく健康でも願ってようかなぁ、なんて思いながら花魁の部屋に戻ると
 ふんふん、て機嫌のいい鼻唄がきこえる。


lw*‐ _‐ノv「♪」


 楽しそうにおめかしする花魁は、今夜好きな人な会えるのがうれしくてしょうがないみたい。
 そんな花魁をみてたら、あたしもなんだか嬉しくなって。

 隣の部屋で墨と筆をかりて、さらさらお願い事を書いた。

 一階に降りて、短冊を壁に立て掛けられてる笹に引っかけ、もっかい花魁の部屋へと戻っていった。


17 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:25:10.58 ID:/gnwV7xvO


 太陽がすがたをかくした夜のなか、あたしは行灯片手に花魁の部屋にたつ。
 そわそわ落ち着かない様子の花魁はいつもよりおめかしさんで、太いお下げが揺れていた。

 食事の時も大好きな米すら喉をとおらないのか、お箸を噛んで困ったかおをしてた。

 本当にあの目の大きなおじさんが好きなんだなあ。

がらら。


lw´‐ _‐ノv「!」

( ΦωΦ)「ふむ、今宵は良い夜であるな」

lw´‐ _‐ノv「あ、は、はい」


 どもる花魁が、部屋にはいってきたおじさんを見上げる。
 戸があいた瞬間、飛び付きそうになってたけど、なんとか耐えたみたい。

 本当に、おじさんのことになると花魁は人がかわるんだからぁ。


19 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:27:05.93 ID:/gnwV7xvO

 ちょびちょび、お酒を飲みながらぽつぽつ話す二人の背中は、なんだかじれったい距離がある。
 近づこうとする花魁と、離れようとするおじさん。

 花魁はすごくおじさんが好きみたいだけれど、おじさんはそんな花魁を受け流してばかり。


lw*‐ _‐ノv「あ、ぅ、その」

( ΦωΦ)「どうした、しゅうや。今宵は妙に磨きが掛かっておいでであるぞ」

lw*‐ _‐ノv「あうあう」


 あーじれったい。

 行灯を床において、あたしは部屋を抜け出した。
 外はすこし暑いけど、夜風がきもちいい。

 空にはまんてんのお星さま。天の川もよく見える、まさに七夕日和。

 織姫と彦星も逢瀬を楽しんでいるのかなぁ。


20 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:29:14.49 ID:/gnwV7xvO

 それとも、悲しんでいるのだろーか。

 ちょっとお互いが好きすぎて、仕事ほっぽっちゃってずうっと一緒に居た織姫と彦星。
 かみさまに怒られて離ればなれになった二人は、年に一度だけ会えると言う。
 雨が降ったらそれもなし、会える会えないは運任せ。

 会えたとしてもたったの一夜、あまりにも可哀想な夫婦だよ。


 会えばもっと居たくなる
 会わなければ狂ってしまう
 愛やら恋は、めんどくさい


 どれだけの時間を外で過ごしていたのか、不意に後ろから戸の開く音。
 なにかを振り返ってみたら、そこにはおじさんがたっていた。

 すこしだけ開いてる戸の向こうには、寝台ですやすや眠る花魁のすがた。


 ああまたか、そう思ったら
 よく分からない、もやもやした苛立ちが沸き上がって。
 気が付けば、あたしはおじさんに詰め寄っていた。


21 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:31:29.05 ID:/gnwV7xvO

ζ(゚−゚*ζ「ねぇ、おじさん?」

( ΦωΦ)「む? 主は確か、しゅうの」

ζ(゚−゚*ζ「おじさん花魁が好きじゃないの?」

( ΦωΦ)「何故、そう思うのだ?」

ζ(゚−゚*ζ「おじさんは滅多に来ないし、来ても花魁を寂しがらせてばかり。花魁が可哀想」

( ΦωΦ)「ふむ、ふむふむ……我輩とて、会えるならば会いたい物よ。しかししかし、あの星の様に、滅多と会えはせんのだ」

ζ(゚−゚*ζ「それでも会えば良いじゃない、おじさんが彦星だって言うのなら天の川なんて泳いで渡って、織姫を拐ってしまえば良い」

( ΦωΦ)「ほう───それは斬新な提案である」

ζ(゚−゚*ζ「織姫が本気で好きなら、そんなこと容易いはずだよ、おじさん」

( ΦωΦ)「ふむむ、お稚児は面白い事を言う。けれど誰かを拐うは、ひどく大変な事である」


22 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:33:12.77 ID:/gnwV7xvO

ζ(゚−゚*ζ「……おじさん、織姫を拐って周りから責められるの、怖いんでしょう」

( ΦωΦ)「む」

ζ(゚−゚*ζ「織姫は拐われるのを待ってるのに」

( ΦωΦ)「ふむ────ふふ、ははははは! こうまでお稚児に叱られるとは思わなんだ、そうかそうか、ほう、ほう、ふむむ」

ζ(゚−゚*ζ「笑わないで」

( ΦωΦ)「ふふふ、すまぬすまぬ。はは、だがすぐには拐えぬのだお稚児よ、我輩にも心の準備が山ほどあるのだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……じゃ、拐うの?」

( ΦωΦ)「いずれ、いずれよ、ふふふ、約束しようぞ、可愛いお稚児や」


 腰を屈めたおじさんはおかしそうに笑って小指を差し出す。
 あたしはその小指に自分の小指をからめて、ゆびきりげんまんを歌った。


23 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/07/07(月) 21:35:10.26 ID:/gnwV7xvO

 そうしておじさんは、やっぱり花魁が寝てるあいだにかえってしまうのだった。
 ひどいおじさん。


 寝台に寝転がる花魁のとなりにころがって、あたしは花魁のおっぱいにすりよる。

ざああ ざああ ことん ことん。

 やっぱり花魁の音が好き。

 あたしは短冊にかいたお願い事とおじさんの顔をおもいだして、にんまり笑って目を瞑る。
 空では朝にのみこまれかけた夜空がほんの少しだけ残って、二つの星が別れを惜しんでいた。

 星は一晩しかあえないけれど
 おじさんと花魁は、いつでも会える日がくるんだよ。


 短冊にはただひとこと

  おいらんがしあわせになりますように



おしまい。

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