6 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 19:51:20.27 ID:PyzX3eiJO

 雨はざあざあ瓦を叩き、地面を濡らして世を包む。

 空が泣き出すそんな日は、自然と客足ャ遠退いて。

 遊女達も暇をもてあまし、ちょいと出掛けて仲間と談笑。


 今日は客も来やしねェ


 そう苦く笑ッちゃア、暗いお空を見上げます。



 lw´‐ _‐ノv春の日々、のようです

  『雨々降れ降れ、照る照る坊主』



7 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 19:53:19.79 ID:PyzX3eiJO

(*゚∀゚)「雨、止まないねェ」

lw´‐ _‐ノv「うむ」

从 ゚∀从「客、来ねェなア」

lw´‐ _‐ノv「うむ」

(*゚∀゚)「余所者まで武雲屋に来ちまう始末だねェ」

lw´‐ _‐ノv「うむ」

从 ゚∀从「口の減らねェ莫迦が居やがるなア」

lw´‐ _‐ノv「うむ」


 武雲屋天守閣の見晴台に女が三人、開け放った障子の間で、屋根の下から雨に濡れる下界を見下ろしていた。
 この武雲屋いちのうれっこ“おつう”とにのうれっこ“しゅう”、九羽屋から雨の中遊びに来た“はいん”が熱い茶をちびちびと、湿気にまみれた部屋に溜め息ころり。


8 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 19:55:05.33 ID:PyzX3eiJO

 左からはいん、しゅう、おつうの順で並んでいれば、はいんとおつうの口喧嘩も発展しない。


从 ゚∀从「じめじめしやがンなア」

lw´‐ _‐ノv「うむ」

(*゚∀゚)「夏も近いねェ」

lw´‐ _‐ノv「うむ」

从 ゚∀从「それしか言えねェのか手前」

(*゚∀゚)(しゅうの間夫(まぶ)が今日来るらしいんだヨ)

从 ゚∀从(ああなるほど、心此処に有らずかイ)


 喧嘩どころか、本日は少しばかり仲良しだ。


10 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 19:57:07.33 ID:PyzX3eiJO


('A`)「なァんか暑い……」


 冴えない顔の男が一人、縁側に腰かけて手拭いを頭に巻いていた。
 外は雨で客は来ず、仕事も大して無い為に、この男もまたぼんやり暇をもてあます。
 長めの黒髪を結いもせず、ただだらしなく垂らしていると暑さも増す。 かといって、髷を結うのも嫌がるこの男。


('A`)「ああ……あー……」


 まるで死んだ魚の目とはこの事だ。

 口を半開きにして雨の粒達を見詰めていた男の耳に、客の訪れを知らせる鈴の音が届いた。
 こんな雨降りにご苦労な事で、と腰を上げて、のたのた店へと戻って行く。


13 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 19:59:10.02 ID:PyzX3eiJO

( ΦωΦ)


 店の入り口で、濡れた蛇の目を片手に立つ黒羽織の男。
 人気の少ない妓楼武雲屋でも密かに有名な客、杉浦である。

 あの花魁しゅうの間夫を迎えたのは、この蒸し暑い中きっちりと着物と羽織を着込んだ男。 流石の弟で。


(´<_` )「ようこそ杉浦殿、雨の中御苦労様で御座います」

( ΦωΦ)「うむ、この武雲屋も雨ではなかなか賑わぬか」

(´<_` )「ええ、畑にゃ恵みの雨で御座いますが、店にゃいまいちで」

('A`)「あ、らっしゃいませェ杉浦さん」

(´<_`;)「ちょ、どくお! 作務衣で客の前に出るなっ!」


15 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:01:12.37 ID:PyzX3eiJO

( ΦωΦ)「否、我輩は気にせぬぞ」

(´<_`;)「いや、ですがやっぱりケジメが……」

( ´_ゝ`)「お、客か? 弟者」

(´<_`#)「褌一丁で出て来るなあああああああッ!!」

(;´_ゝ`)「おい何だ! 尻に扇子をねじ込もうとするな!! 客の前で!!」

(´<_`#)「それは俺の台詞セリフだあああああああッ!!」


('A`)「どうぞー、こっちですぜ旦那ァ」

( ΦωΦ)「うむ」


(;´_ゝ`)「尻で扇子を折るのは無理だ弟者あああああああッ!!」

(´<_`#)「黙れえええええええッ!!」


18 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:03:05.17 ID:PyzX3eiJO


('A`)「失礼しまー……あれ、しゅう花魁居ねぇ……ちょっと呼んできますね」

( ΦωΦ)「うむ、まあ焦らずとも良い良い、のんびりして居よう」

('A`)「へい、じゃあちッとお待ち下さいねー」


 杉浦をしゅうの部屋に連れて来たのは良いものの、部屋の主はそこには居らず。
 どくおは客を待たせて、しゅうを探しに妓楼中を駆け回る。


(;'A`)「おいおい何処だよ花魁……」

( ^ω^)「お? 何かあったのかお?」

(;'A`)「ああ旦那、しゅう花魁知りやせん?」

( ^ω^)「二人の時は敬語でなくて良いお、しゅうなら天守閣で雨見してる筈だおー」

('A`)「お、おう……じゃあ行ってくらぁ」


 友人である楼主ぶーんの言葉に従い、言葉を崩して楼閣の天辺を目指して階段をかけ上がる。


19 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:05:08.55 ID:PyzX3eiJO

 全身にびっしょりと汗を纏わせて、笑う膝を叱咤しながら階段を上るどくお。
 手摺にしがみつくようにして上がっていたどくおの目に、やっと女の背中が映る。

 ぜいぜい、と呼吸を荒くしたままで座敷にへばりつくどくおを、はいんが見付けた。


从 ゚∀从「あ? 何してンだ手前」

(;'A`)「しゅう、花魁……お客……が……」

lw´‐ _‐ノv「!!」

(;'A`)「あ、ちょ、ま、ぐぇえっ!!」

(*゚∀゚)从 ゚∀从「「転ぶなよー」」


 畳に倒れるどくおの背中を踏みつけて、しゅうが慌てて階段を降りていった。
 階段の手摺に乗って滑り降りて行くしゅうの後ろ姿を眺めていたはいんとおつうが、ピクリともしない男、どくおの背中をつついておられた。


21 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:07:07.89 ID:PyzX3eiJO

 つうう、すたん。
 見事に手摺を使って階段を降りきったしゅうは華麗に着地。

 藤色の着物を翻して、己の部屋へとひた走る。


ばたばた、すぱん!


 階段から近い所に在る己の部屋、杉浦が待つ部屋の引き戸を勢い良ろしく開いたら
 寝台に腰かけた中年の男が、天井から下げられた提灯を見上げていて。


( ΦωΦ)「む、しゅう」

lw´‐ _‐ノv「杉浦殿……遅く、なり申した」

( ΦωΦ)「否、我輩は気にせぬ、何を汗をかいておるのか」

lw´‐ _‐ノv「いえ、いえ……わっちも花魁、客を待たせるのは忍びのう御座りまする」

( ΦωΦ)「ふむ……そう大人振らずとも良い良い、しゅう」


23 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:09:08.13 ID:PyzX3eiJO

 額に汗の玉を光らせて戻って来たしゅうの姿に、戸へ顔を向けた杉浦が少しだけ笑った。
 しゅうは手の甲で汗を拭って、杉浦の言い分に頬を膨らます。

 杉浦の足元に座って頬を膨らませたまま、背中まである髪を一つに纏めながら口を開いた


lw´‐ _‐ノv「わっちはもうお稚児ではありませぬ」

( ΦωΦ)「ほう、ほう……ふむ、まあ聞いておいてやろう」


lw#‐ _‐ノv


( ΦωΦ)「そう怒るで無い無い、お稚児や」

lw#‐ _‐ノv「わっちはお稚児では───」

( ΦωΦ)「我輩の中のしゅうは、何も出来ぬお稚児がままよ」


24 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:11:20.45 ID:PyzX3eiJO

 髪を三つ編みにしていたしゅうの手がぴたりと止まって、眉間に皺を寄せる。

 何時まで経っても大人扱いの一つもしてくれやしない杉浦を細い目で睨み上げ、髪を結い終わる。
 そしてゆらりと立ち上がり、杉浦の目元に手をやって。


lw#‐ _‐ノv「……雨でも止ませてみせようか」


 寝台に膝を乗せれば白い太股が着物を割ってちらりと覗き、胸をそらせて杉浦を見下ろす。

 両目に残る傷を指先で撫でるしゅうに、杉浦は子供をからかうように笑うばかり。
 そんな笑み一つにでも、しゅうの神経はざわりと逆撫でられるもの。

 眼前で揺れる大きな胸の膨らみを武骨な手で掴み、押し退けながらも杉浦は眉を寄せて笑うだけ。


( ΦωΦ)「ほうほう、ふむむ、ならばやってみるが良い」

 丸で自分を女として見ていない杉浦の行動に、しゅうは奥歯をぎりりと噛み締めた。


25 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:13:15.58 ID:PyzX3eiJO


 小雨に近かった雨の粒が、勢いを増して雨粒からただの水へと姿を変える丑三つ時。
 瓦を硝子を殴り付ける雨の音は、人々にその豪雨を知らしめていた。


 杉浦が寝台の足に背を預けて転た寝をする其の足元、投げ出された脚を枕に横たわっていた女がのそりと身を起こし、足音もさせずに部屋を出ていった。

 板張りの床を軋ませる事無く進み、階段を降りてはある部屋を目指す。
 遊女やお稚児、男達の寝息が耳を撫でる通路を抜けて、辿り着いたはある部屋の前。

 其処は着なくなった着物や紙やら墨やらが大量に置かれている、物置で。
 女しゅうは戸に手を掛けて、引いた。


がららら。


lw´‐ _‐ノv「……紙と布と、」

げしっ。

('A`)「んぇあ」


26 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:15:20.41 ID:PyzX3eiJO

 しゅうが暗い物置に足を踏み入れ目当ての物を探して周囲を見回していたらば、爪先に柔らかい何かが当たった。
 目を細くしたまま足元を見遣れば、其処には間抜けな声を上げて上体を起こした“どくお”の姿。


lw´‐ _‐ノv「? 何故に、どくおが此処に」

('A`)「ふぁ……しゅう花魁、何でござんすか、こんな時間に……」

lw´‐ _‐ノv「なに、紙を貰いに来ただけで……で、何故、此処に?」

('A`)「んぁー、俺の寝床が此処なんですよ……あぁ紙? ふぁああ……紙ならこの棚にどっさりと……」

lw´‐ _‐ノv「寝床……湿って死ぬぞ、どくおや」

(;'A`)「死ぬて……落ち着くんですよ此処、暗くて鬱々してて」

lw´‐ _‐ノv「…………あと白い布と糸を山ほど貰えるかや」

('A`)「端切れなら山ほど、どぞ」


28 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:18:05.26 ID:PyzX3eiJO

 せっせと寝惚け眼のどくおが求められた紙やら布やらを集め、しゅうに差し出す。
 この昼でも薄暗くじっとりとした物置の全てを把握しきっている動きを見ると、それは確かに“此処”に住んでいるかの様な行動で
 しゅうは細い目を丸くして、差し出されたそれらを受け取るのであった。


('A`)「ふぇああぁ……何するんですかい、しゅう花魁」

lw´‐ _‐ノv「なに、雨を止ませるだけ」

('A`)「なるほどぉ……んじゃあ御休みなさい……」

lw´‐ _‐ノv「うむ、起こしてすまぬ、よくお眠り」


 申し訳程度に敷かれた煎餅布団に横たわるどくおを見届け、しゅうは静かに物置を後にした。


29 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:20:57.32 ID:PyzX3eiJO

 部屋に戻ったしゅうは杉浦がちゃんと眠っている事を確認してから、持って帰って来た物をそっと床に置いて、着物の袖をぶわりと捲り上げる。

 よし、と唇を引き結び
 紙を二枚程くしゃくしゃと丸めて端切れでくるみ、赤い糸できっちり縛る。
 そして墨をちょいと付けた筆で丸い頭に目と口を描き、置く。

 それを黙々と繰り返し、出来た物を窓に吊って行くと
 二時間も経てば、窓や天蓋には様々な顔の照る照る坊主がぶら下がる。


 せっせせっせと作り続けて数時間、空が白んで窓の隙間から朝の光がじんわりといらっしゃる。
 紙に油を吸われてカサカサ滑る様になった指先を嘗めながら、しゅうは目を擦って横たわり、杉浦の脚に頭を乗せた。


 しゅうが睡魔に誘われて、眠りに落ちるのに時間は掛からなかった。


32 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:22:54.81 ID:PyzX3eiJO


 ちち、ちゅんちゅん。

 雀の囁く様な囀ずりに、杉浦が瞼を持ち上げる。
 目元を擦って小さく欠伸をした所で、部屋の状態に気付いて大きめの目を見開いた。


( ΦωΦ)「これは……照る照る坊主、か」


 部屋の至る所に下げられた照る照る坊主の山、山、山。
 窓や天蓋、衣紋掛けにまで下げられた照る照る坊主達に、杉浦は目を真ん丸にして
 ふと耳を澄ませれば、其の耳に雨音が届く事はなく。


( ΦωΦ)「ほう───雨が、上がっておる」


 自分の脚を枕に眠る女を見遣り、首を傾いで少ォしだけ笑った。


33 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:24:41.91 ID:PyzX3eiJO

 一頻りくつくつと笑って、しゅうの頭を何度も何度も撫でてやり
 何時もの様に、しゅうを抱き上げて寝台に寝かせる。
 黒い羽織を着て荷物を片手に部屋を出ようと伸ばした手を止め、戸の上に下げられた照る照る坊主を見て、また笑う。

 其処には二つの照る照る坊主が並んでいて、片方は杉浦、片方はしゅうの顔が描かれていた。

 少しばかり困った様に笑った杉浦だったが、ひょいと片方の照る照る坊主を盗んで懐に仕舞い、部屋を出て行った。


('A`)「あ、御早う御座いやす……お帰りで?」

( ΦωΦ)「うむ」

('A`)「……機嫌良いですね、旦那」

( ΦωΦ)「ふむ、そうか? ……雨が、上がったからだろう」

('A`)「ああ成る程ォ、良い天気ですよ。それじゃあ旦那、また御越しくださいませー」

( ΦωΦ)「うむ、うむ」


 起き出したどくおに見送られながら、杉浦は晴れた空の下、蛇の目に照る照る坊主を吊るして帰って行った。


34 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:26:11.90 ID:PyzX3eiJO


lw´‐ _‐ノv「ふぁ……ん、ん……杉浦殿…?」


 杉浦が武雲屋を出てから暫く経ち、しゅうがのそりと寝台から身を起こす。
 其処にはやはりと言うべきか、杉浦の姿は無く、ただ一人の空間が広がっているだけで。


lw#‐ _‐ノv


 乱れた三つ編みをほどきながら寝台を降りるしゅうは、全身に不愉快さを纏わせて頬を膨らます。
 毎度の事ながら、寝ているしゅうを置いて何も告げずに帰ってしまわれる杉浦に恨み言の一つでも言いたいが
 本人を前にすると、その嬉しさが勝って、つい先刻まで持っていた機嫌の悪さも吹き飛んでしまう。
 良い具合に避けられ、ある意味で弄ばれている。 それは理解しているのに。

 胃の辺りが、きゅう、としまる様な感覚に
 しゅうは眉を寄せて俯いた。


35 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:28:24.24 ID:PyzX3eiJO

 至る所にぶら下がる照る照る坊主を指先でつつく様に集めて歩き、部屋を出ようと出入り口の前に立った所で、異変に気付いた。

 戸の上から下げられていた照る照る坊主の片割れが、一つ消えている。


lw´‐ _‐ノv

lw*‐ _‐ノv


 先程までの不機嫌をどこかにすっ飛ばし、にんまり笑顔で腕いっぱいの照る照る坊主を持って部屋を出て行く。

 トントン、と軽い足取りで廊下を歩き階段を降りる。
 すれ違う遊女や男達に機嫌の良さそうな挨拶を投げ掛けては、少々いぶかしげな顔をされ。
 その足は昨晩訪れた場所、物置へと向かっていた。


38 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:30:13.88 ID:PyzX3eiJO

がらん。

 物置の戸を開け放ち、部屋の主が居ない事を確認してから、またもにんまり。
 物置のぶら下げられる場所全てに大量の照る照る坊主をぶら下げて、物置の中を飾って行く。

 ふ、と
 何かが耳を擽る。

 物置の奥の棚の影、そこから人の呻き声が聞こえ、しゅうはひょいと其処を覗き込む。

 其処には流石の兄者が全裸で尻を突き出す形で転がっており、殴られたのか顔を腫らせていて。 何故か尻には流石の弟者の扇が刺さっていた。


lw´‐ _‐ノv「……うへぇ」


 うわ、と微妙な顔をしたしゅうだったが、哀れむ様な生暖かい笑みを浮かべて、扇の先に照る照る坊主を引っ掛けた。
 そして、そっと兄者を“どくおの布団”に寝かせて“どくおの布団”を身体に掛けてやり、しゅうは生暖かい笑顔のまま物置を後にした。


  わっちは何も、見ていない……


39 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:32:34.29 ID:PyzX3eiJO


 殆んどの照る照る坊主を片付けた事もあり、すっきり部屋が心地好い。
 しゅうは寝台にごろりと転がって、未だ杉浦のかおりが仄かに残る部屋の空気を胸一杯に吸い込み、白い枕を抱き締めた。


lw*‐ _‐ノv「ふ、ふふ……」


 緩む頬の筋肉を叱咤する様にぴたぴたと白い手で叩いては、ほんのり紅色に染まる頬。
 それは頬を叩いたからか、はたまた別の理由なのか。
 白い足を着物の間から覗かせて、幼子の様に身体を丸めて枕にしがみ付く。

 きゅ、と目を閉じて、枕を抱き潰さん勢いで抱き締めていた腕をといて一つ息を吐き
 瞼をほんのり持ち上げれば、頬にさしていた紅を拭った様に凛とした顔をして。

 むっくと身体を起こして寝台に座り、部屋に一つだけ残った照る照る坊主に顔を向けた。


40 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:34:28.37 ID:PyzX3eiJO

 部屋の入り口にてぶら下がる杉浦の顔をした照る照る坊主。
 姿を消したは、しゅうの顔をした照る照る坊主。

 自分の顔をした照る照る坊主が何処に行ったのか、それを思って、しゅうはにんまりにんまり。


それ見た事か、
わっちとて、何時までもお稚児じゃあ、ありゃあせん


 しゅうは得意気に、ふふんと鼻を鳴らせて笑って
 その日いちにち、しゅうの機嫌は良いままだった。



lw´‐ _‐ノv「たまには雨も、よきかなよきかな……ふふん」



おしまい。






42 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/06/08(日) 20:36:27.22 ID:PyzX3eiJO
  おまけ。


 朝の仕事を粗方終えた冴えない顔の男、どくお。
 どくおは欠伸混じりに伸びをしながら己の部屋、あのジメジメとした薄暗い物置に戻って行く所であった。

 昨晩しゅうに蹴られた事もあり、あれから寝付けず寝ている様な起きている様な、中途半端な夜を過ごした。
 今朝の仕事はそれほど忙しくはなかったものの、眠気が強くて始終フラフラ。 それに、何だか一人足りない気もしたのだ。

('A`)「あ、そういや昨日から兄者見てねェな」

 夕方ぐらいに弟者が何かを引き摺って物置に入って行くのを見たが、後でちっと話しても弟者の様子はいつも通り。
 兄者が消えたのは心配じゃないのかね、と小さく呟きながら物置の前に立ち、がらがら戸を開くと。


 照る照る坊主だらけの物置に、どくおの布団で尻を突き出し倒れる兄者。


(;'A`)「うわあああああああああッ!!?」

( ^ω^)「おっ、どくおー昔の帳簿を…………うわぁ……」

(;'A`)「ヒッ! ぶーん、これはッ!!」

(;^ω^)「あ、うん……どくおは友達だお、うん……そう言う趣味でもぶーんは、気にしないお…………じゃ、じゃあまた……」

(;'A`)「違ぁああああああああああああああッ!!!!」


今度こそおしまい。

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