2 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 16:51:17.46 ID:NwBXBa7wO

 lw´‐ _‐ノv春の日々、のようです
  「赤毛の女」

にお付き合いくださいませ。

3 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 16:53:04.92 ID:NwBXBa7wO

 かん、こん、かん、こん。

 毎度お馴染み朱塗りの二枚歯、下駄を鳴かせて駆け抜ける。
 横兵庫に艶やかな飾り揺らしては、笑顔を振り撒く女が一人。

 女の名前は花魁「おつう」
 妓楼武雲屋のいっとううれっこ。

 麗しきかんばせもさることながら、その優しく強くさばさばとした気持ちの良い性格が人気の理由でござります。


 しかししかし、売れると言う事は誰かの客になりかねなかった男も持っていくと言う事で。
 さすがのおつうも、誰かに逆怨みをされる事だって、ありゃあ致します。

 ほらほらそこの、赤い髪をした女の眼。
 恐ろしきは女の怨みでございます。


4 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 16:55:11.25 ID:NwBXBa7wO

 板張りの床に真っ赤な座布団を一つ敷き、その上に小さな札をばらばらと。

 藤色の着物がよく似合う女、花魁しゅうは髪をマガレイト結いにして数枚の札を手にしていた。
 その向かいには桃の打ち掛け、髪を結った花魁おつうが片膝を立てて笑う。

 おつうが手を伸ばし、札の山から一枚、パシン!と小気味良い音をさせて手札に加えた。
 そしてそして、笑みを強くしてニヤニヤとしゅうを下から見やり、手札を見せ付ける様に座布団へと叩きつけた。


5 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 16:57:04.83 ID:NwBXBa7wO

(*゚∀゚)「あひゃひゃひゃァ! 猪鹿蝶だよ!」

lw´‐ _‐ノv「ぬ、」

(*゚∀゚)「さあさァ厳しくなって来たンじゃアないか?」

lw´‐ _‐ノv「ふむ、ふむむ、米の為なら」

 さあさあ、もう一戦。

(*゚∀゚)「ア?」

lw´‐ _‐ノv「四光」

(;*゚∀゚)「ンなぁあああ!?」

lw´‐ _‐ノv「未だ来るか、おつうよ」

 そしてそして、もう一戦。


7 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 16:59:04.27 ID:NwBXBa7wO

(;*゚∀゚)「ぐっ、うぐぐぐぐ……おッ! 青タン!」

更に一戦。

lw´‐ _‐ノv「五光」

(;*゚∀゚)「な゙ぁああああああああ!!」

lw´‐ _‐ノv「ほっほっ」

(;*゚∀゚)「お前ェ、イカサマしてんじゃァないだろうねッ!?」

lw´‐ _‐ノv「失敬な、全てはおつうの弱さである。ふむ、ふむ、私の勝ちか」

(;*゚∀゚)「うぐっ、ううう……あァ分かったよチクショウめ!! 何でもきいてやろうじゃアないか!?」


8 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:01:03.67 ID:NwBXBa7wO

 遡りますは数十分。
 “仕事”開始まで時間に余裕があり、暇をもてあましていたおつうとしゅう。
 そこでおつうは懐から花札を取り出して、渋るしゅうに「負けたら何でも言う事きいてやらァ」と押し切って、花札勝負を開始なさった。

 しかし最初こそ押されていたしゅうは、渋っていたにも関わらず後半から圧倒的な力の差を見せ付け。

 その結果が、先程の会話にござります。


(*゚∀゚)「ほら言いな! 何がお望みだァ!?」

lw´‐ _‐ノv「米」

(*゚∀゚)「……」


9 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:03:08.18 ID:NwBXBa7wO

 分かっていた筈なのに、どこか呆れてしまう返答であった。

lw´‐ _‐ノv「良い米が入ったらしい、ゆえに一俵」

(*゚∀゚)「……買えと」

lw´‐ _‐ノv「否、いな。買ってこいと」

 ひんやりとした沈黙。
 いくらおつうが其処らの女より腕っぷしがあるとは言え、米俵を持ち運ぶのは厳しい物が御座いましょう。

 それでもしゅうは黙ったまま、ただじぃっとおつうを見つめる。
 何かを訴える様に、脅す様に。


10 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:05:06.77 ID:NwBXBa7wO

(*゚∀゚)「……鬼?」

lw´‐ _‐ノv「喜助の流石の兄弟よ、おつうを縛り上げるがよいよい」

( ´_ゝ`)「うちはそう言うプレイはやってませんので」

(´<_` )「そう言う問題でも無いぞ兄者」

(*゚∀゚)「だって…一俵ってェ……」

 ちょっとォ…。等と渋るおつうを見つめる細い目。
 火のついた長い煙管を片手に、しゅうは煙を吐き出して微かに微笑んで見せた。

 そして熱せられた煙管の先端を、おつうの顔へと近付けて言った。


lw´‐ _‐ノv「腕の良い医者を紹介しようと思うのだ」

(*゚∀゚)「行ってきまァあす!!」


12 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:07:21.04 ID:NwBXBa7wO



 人間一人分ほどある重さの米俵。
 背中に背負って脂汗を垂らしながら、おつうは亀の歩みで武雲屋へと戻るところであった。

 決して安くはなく、軽くもない米の重みは百姓が丹誠込めて育てた命の重み。
 この米のお陰で何人もの人間が生きられる。
 それは食う人間でもあり、売る人間でもある。

 そんな重みを一身に背負って歩くおつうは、不安定な高下駄を履いてきた事を後悔していた。
 歯を食い縛る花魁を通行人が物珍しそうに眺めるが、それがおつうだと分かるや否や、皆は笑って「頑張れ」と声をかける。

 着崩れた着物に乱れたお髪。
 花魁とは思えない形相でも、皆は何時も通りの反応で。

 天下のおつうも、こればっかりは少し複雑な気分で御座います。


13 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:09:07.64 ID:NwBXBa7wO

(;*゚∀゚)「チクショウ…こんな事なら花札なんざァするんじゃなかったよォ……」

 汗をぽたぽた、文句をたらたら。
 それでも誰かに押し付ける事なく米を運ぶ辺り、おつうのバカ正直さが伺える。

 身体を引きずる様にして移動するおつう。
 その赤い二枚歯の前に、黒い三枚歯の高下駄が伸ばされた。


 がくん、

(;*゚∀゚)「いィッ!?」


 どさっ、ずしゃぁああ。

 足を何かに引っかけられたおつうの身体は、重力に従って地面に吸い寄せられる。
 ドッと音をさせて転んだ拍子に米俵の一部が破けてしまい、中の米が勢いよく辺りに溢れた。


14 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:11:10.04 ID:NwBXBa7wO

 おつうは痛そうに身を起こし、足首を擦って巻き散らかした米の姿に目を見張る。
 たいした量ではないものの、米を無駄にすると言うのは良くない。
 しかも転んだ時に膝と腕を擦りむいて、血がぽたぽたり、滴り落ちる。


(#*゚∀゚)「なッ……誰だァあたしの足ィ引っ掛けやがったカスはァアアアアアッ!!?」

 未だ地面に座り込んだまま怒鳴り散らし、散らかった米粒をぎゅっと握り締める。
 もうお髪も着物もどろどろに汚れて崩れ、見るも無惨な姿だ。


(   )「ッハハハ……良い姿じゃねェかァ…おつうさんよォ?」

(#*゚∀゚)「ァあ゙ッ!? 誰だ手前ッ!!」

(   )「おォおい、忘れちまッたってェのかい?


从 ゚∀从「この俺様をォよう…」


16 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:13:08.14 ID:NwBXBa7wO

 その女は建物と建物の隙間、狭い路地からぬぅっと姿を現した。
 赤い外跳ね髪に黒地に赤い蝶の打ち掛け、黒塗りの三枚歯を履いた女がおつうを見下ろし、厭らしくニヤニヤと笑う。

 その姿におつうは再び目を見開き、奥歯を噛み締めて膝を押さえながら立ち上がる。
 きっ、と赤毛の女を睨み付けて着物の埃を払うおつうには、苛立ちや憤りが隠れる事なく溢れ出しておられた。


(*゚∀゚)「……良い度胸じゃアないか、赤毛」

从 ゚∀从「名前で呼びなァクソガキが」

(*゚∀゚)「おォ年増は怖ァござんすね。────で、何の用さ赤毛」

从#゚∀从「手前は学習しねェなア、アァ!? これだからクソガキはよォッ!!」


19 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:15:09.82 ID:NwBXBa7wO

 パァンッ! とおつうの頬をひっぱたいたのが合図となり、二人の掴み合いの大喧嘩が始まった。

 互いが互いを汚い言葉で罵って、髪を引っ張る頬を引っ掻くの大騒動。
 もう俵な中身の米粒たちはぐしゃぐしゃに踏み潰されて、艶やかな着物もそこかしこが破れてしまう。

 おつうが女に馬乗りになって頬を殴り飛ばし、女もおつうに馬乗りになって頭を地面に叩きつける。
 そんな殴り合いの喧嘩の最中に、会話がちょいちょいと入り込む。


(#*゚∀゚)「手前は昔ッからあたしに喧嘩ばアッかり吹っ掛けやがってッ!!」

从#゚∀从「巫山戯やがってッ! 手前から喧嘩売ってきたンだろうがクソアマァッ!!」

(#*゚∀゚)「ハァッ!? 最初に手前があたしの饅頭を持ってッちまったからだろッ!?」

从#゚∀从「あの饅頭は俺様が貰う筈だったンだよッ! 手前さえ居なけりゃ俺様だってッ!!」

(#*゚∀゚)「あたしが居なくても変わンないねッ! このカス女ァアッ!!」


20 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:17:18.87 ID:NwBXBa7wO

 半ば子供の口喧嘩、しかし当の本人らは至って真面目に罵り合っている。
 ぎゃあぎゃあと捲し立てては殴り付ける拳に手のひら。
 口の端や鼻から血を流しながらも、その喧嘩は終わりそうにない。

 二人を囲む野次馬達は、やれ今だ、やれそこだ等と囃し立てる。
 そんな人の垣根を掻き分けて、女が一人と男が一人、二人の元へと向かっていた。


(;^ω^)「うちのおつうが喧嘩だなんて、どう言う事だお?」

川 ゚ -゚)「大方こちらの“はいん”が喧嘩を売ったのだろう、申し訳ない」

(;^ω^)「いや、喧嘩は娯楽と言えどもこんなとこで買う方も悪いお……ちょっとどいて下さいおー!」

川 ゚ -゚)「しかし、っと、あの二人は本当に仲が悪いな」

(;^ω^)「禿っ子の時から何かと喧嘩ばかりしてましたおね……おっ、居ましたお!」


24 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:19:13.52 ID:NwBXBa7wO

 遊郭一番の妓楼、武雲屋の主人ぶーん。
 その隣を歩く美貌の女は、遊郭二番の妓楼、九羽屋の主人“くー”。

 楼主二人の仲は悪くない、寧ろ仲は良いのだが。
 二人のところで身を鬻ぐ遊女、しかも妓楼の一番うれっこ同士の仲が非常に悪い。
 ただの商売敵と言う訳ではなく、根本から互いを嫌っている、そんな風である。
 基本的に性格が合わない、言わば犬猿の仲なのだ。

 顔を合わせれば罵り合い、袖が触れ合えば殴り合う。互いの顔が売り物である事も忘れて、殴り付ける拳が赤く染まろうとも、二人はその“喧嘩”を止めない。
 誰かに止められたとしても、簡単には止まらないのがこの二人だ。


 現に、楼主二人に止めろと叫ばれてもそしらぬ顔で罵り合っておられる。


26 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:21:04.75 ID:NwBXBa7wO

(;^ω^)「やめるお二人ともー!」

(#*゚∀゚)「喧しいピザがァッ!!」

川 ゚ -゚)「止めないと殴るぞ」

从#゚∀从「今さら殴られたって平気だッてェの!!」

 ほら、見ての通りでございます。

 己の所の楼主に対してあんまりな口の利き方ではあるが、咎めないと言う事は慣れっこなのだろう。
 寧ろ怒るどころか、ひたすら困った顔のぶーん。
 くーはくーで、無表情に腕を組みながら串団子を銜えていた。

 二人とも血塗れだと言うのに、喧嘩は全くおさまる事なく。
 ぶーんもそろそろ困るを通り越して感心してしまいそう。


30 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:23:03.55 ID:NwBXBa7wO

 しかし止めない訳にはいかないので、殴られるのを覚悟で意を決し、袖をまくって二人の間に入ろうと一歩踏み出した。

 が、羽織の裾をくーに掴まれる。


(;^ω^)「お?」

川 ゚ -゚)「上」

( ^ω^)「上…?」


 くーが指差すのは武雲屋の二階“てらす”。

 暗い人形の影が、てらすから飛び出して────


(;^ω^)「おおおおおおおっ!? 避けるおみんなっ!!」


 ずっだぁあんッ!!

(;*゚∀゚)「ぐェえッ!?」
从;゚∀从「うげェッ!?」


 重そうな音をさせて、二人の上へと何かが降ってきた。


32 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:25:04.12 ID:NwBXBa7wO

 もうもう、と立ち込める土煙の中から姿を現した何か。

 それは、



lw´‐ _‐ノv「ふむ、ふむ、ふむ───覚悟は良いな、女達」


 珍しく、怒りに満ちた花魁しゅう。

 ぶわり、と打ち掛けを脱いでぶーんに投げ付ける。
 その右手に握られているのは、鋭利も鋭利、昨晩研いだばかりの


 菜切り包丁。


33 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:26:06.83 ID:NwBXBa7wO

从;゚∀从「お、おォい……こいつ、相変わらず、かよ…」

(;*゚∀゚)「あ…あひゃ……しゅうがそう簡単に…変わるかィ…」


lw´‐ _‐ノv「そこへ直るがよかろうぞ、米の怨みを甘く見ると────」



lw´‐ _‐ノv「首がぽろりと、もぎ取れる」


 足元に散乱する割れた米を菜切り包丁で指しながら、しゅうは低い声で。


 笑った。



35 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:28:02.06 ID:NwBXBa7wO

(;*゚∀゚)「済みませんでしたァアアアアアアアッ!! 拾え、拾えはいんンッ!!」

从;゚∀从「合点承知よォッ!! 菜切り包丁を仕舞え、仕舞ってェッ!!」

(;*゚∀゚)「はいん踏んでる米粒踏んでるッてェッ!」

从;゚∀从「ギャアアアアアッ!!」

 大慌てで喧嘩を止め、ぎらりと光る菜切り包丁と笑うしゅうを前にした二人は、目尻に涙を浮かべた状態で踏み割りたくった米粒を集め出した。

 しゅうは地面に這いつくばって米を拾う二人を見下ろし、唇の端を持ち上げる。
 しめしめ、と言わんばかりに笑うしゅうに、打ち掛けを持ったぶーんは首を傾げる。


39 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:30:21.13 ID:NwBXBa7wO

( ^ω^)「わざとだったのかお?」

lw´‐ _‐ノv「ぬ?」

( ^ω^)「実は怒ってないけど、二人の喧嘩を止めるためにやったのかお?」

lw´‐ _‐ノv「……」

( ^ω^)「?」

lw´‐ _‐ノv「ほう、ほう、ふむむ、……そう言う事に、しておこう…」

( ^ω^)「え」

川 ゚ -゚)「余り気にしていたら胃に穴が空くぞ、ぶーんよ」

( ^ω^)「え、じゃあ、もしかして……」

川 ゚ -゚)「マジギレと言う奴だったんじゃないか?」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「……」

( ^ω^)「さて、帰るおー」

川 ゚ -゚)「そうだな。お前達、終わるまで帰ってくるなよ、しゅうが恐いからな」


43 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:32:05.03 ID:NwBXBa7wO

 野次馬達がぞろぞろと離れて行き、二人の楼主も己の店へと戻っていった。

 いつの間にか打ち掛けを羽織って裾を持ち上げ、菜切り包丁を懐に仕舞ったしゅう。
 せっせと米を拾い続ける二人の前にしゃがみこむ。


lw´‐ _‐ノv「すべて拾って持ってきなされ、さもなくば───ふむ、」

(;*゚∀゚)「ふむって何だイッ!?」

从;゚∀从「目が怖ェッたらありャしねェよッ!」

lw´‐ _‐ノv「まあまあ、さてさて、腹が空いた。禿を連れて昼の飯と洒落込もう」

(*゚∀゚)「……」
从 ゚∀从「……」


lw´‐ _‐ノv「もぎ取る」


(*;∀;)そ
从 ;∀从そ


47 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:34:03.79 ID:NwBXBa7wO

 かんこん、朱塗りの三枚歯がゆっくり遠退いて行く。

 後ろ姿からでも分かる美しさ、紫がかった長い髪には藤色の打ち掛けはよく映える。
 性格を知らねばおっとり美人。目は細いものの開けばつらり、艶かしきはその流し目。

 薄い唇の隙間からは赤ァい舌が見え隠れ。
 しかし舌と共に覗くのは甘い吐息だけではなく、時に辛辣な言の葉つらつら。

 何を考えているのか分かりづらい無表情、しかしそこからたまァに見える微笑みが、客を惹き付けるワケでござんす。


51 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:36:04.87 ID:NwBXBa7wO

lw´‐ _‐ノv「これこれ、そこな喜助よ」

 へいへい、何で御座いやしょうか。

lw´‐ _‐ノv「禿っ子は、いずこ」

 しゅうさんのお部屋で寝てるンじゃア御座いやせんか。

lw´‐ _‐ノv「そうかそうか、ふむ。礼を言おうね、“どくお”」

 有り難き幸せにござんす。


 階段をとことこ上って行く花魁しゅうを見送って、盥を小脇に抱えて店を出る。
 下駄をころんと鳴らして“俺”はあのお二人の元へ向かった。

 ほら、店のすぐそこで花魁が二人、涙目で米を拾い続けていらっしゃる。
 手のひらには一杯の米、地面にゃもっと一杯の米。

 二人のそばで立ち止まり、盥を差し出して米拾いに参加する。
 こいつは骨が折れそうだ。


53 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:38:03.73 ID:NwBXBa7wO

(*゚∀゚)「あ、“どくお”」

从 ゚∀从「ンだァ? 笑いに来たのか?」

(*゚∀゚)「手伝いに来たんだろ、すまないねェ…」

 いィえいえ、もう店が開く時間で御座います。はようせにゃア華の二人が居ないって大騒ぎになりますぜ。

从 ゚∀从「げ、もうそんな時間かイ……」

(*゚∀゚)「急ぐぞー! 手当てもしなきゃならンのだからねェ!」

从 ゚∀从「ッたァく何だってこんな事にッ!」

(*゚∀゚)「手前がしゅうの米持ってるあたしに喧嘩売ったからじゃアねェか」

从 ゚∀从「………うん」

 仲が良いやら悪いやら。


54 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2008/05/17(土) 17:40:10.79 ID:NwBXBa7wO

 いそいそちまちま、米を拾うが無くならない。
 時間になる前にお二人を店に届けて、一人ででもこの米を何とか集めなきゃアなりません。

 嗚呼やれやれ、まったく。



(;'A`)「しゅうさんは怒らせちゃアならんね…」


 最初ッから見ていた俺は溜め息を吐き、困った様に笑うのでした。



おしまい。

戻る inserted by FC2 system