9 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:02:00.33 ID:Q095CnA7O
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(´・ω・`)「ご苦労様だったね」
コロニーVIPへ向かってくる特攻兵器を迎撃すべく、ジョルジュ達が出撃してから数十分後。
コロニーVIPに帰還したジョルジュ達を出迎えたショボンは、いつも通りにそう言った。
11 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:03:10.03 ID:Q095CnA7O
ギコとモララーの訃報は、既に彼の元にも伝えられているはずだった。
(´・ω・`)「……あの馬鹿二人にも、言いたかったんだけどね」
ショボンが視線をジョルジュからブレストに移して言う。
その隣に並ぶはずの二機のACと、それを操る人間は、もう帰ってこない。
(´・ω・`)「惜しい奴らを失った」
ジョルジュも、ミセリも、ショボンの淡々とした言葉を黙って聞いていた。
15 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:06:33.94 ID:Q095CnA7O
(´・ω・`)「言わずもがなだが……企業の新手があちらこちらへ向かって侵攻を開始している。
恐らくは武装戦力を持つ全コロニーの壊滅が目的だろう。
企業は新兵器を投入して速やかに僕たちを排除する腹積もりらしい」
ショボンの口調とは裏腹に、事態の深刻さは生半可ではない。
企業側が本格的にコロニーへの進攻を行えば、特にコロニーVIPのような中小規模のコロニーなどは手も足も出ないだろう。
辛うじて保っていたコロニーの立場が、いかに脆いかを思い知らされる。
所詮、企業にとってコロニーなど都合が悪ければいつでも潰せる駒にしか過ぎなかったのだ。
16 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:07:11.95 ID:Q095CnA7O
……いや、そんなことは前から分かっていた。
自分やコロニーに住む人々がいかに弱小な存在で、いてもいなくても同じような力しかないなんて、
ずっと前から思い知らされてきたのだ。
ただ、目を逸らして見てみぬフリをしていただけで。
18 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:07:56.77 ID:Q095CnA7O
(´・ω・`)「……僕自身は最後までコロニーVIPの存続に全力を尽くすつもりだ。
企業の進攻が及ぶまでにやれるだけのことはやる」
黙り込んだままの二人に、ショボンは続けた。
(´・ω・`)「……とはいえ、君達のおかげで多少なりの時間は確保できた。
また過酷な状況がすぐにやってくるだろうけれど……
今はゆっくり休んでくれ」
そういってショボンは踵を返し、自身の為すべきことを為すべく去っていった。
20 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:09:01.41 ID:Q095CnA7O
茜色が、目に眩しかった。
ジョルジュはパイロットスーツのまま、コロニーに面する海岸を訪れていた。
ゲートが開いた先に広がる海は、沈みかけた太陽で朱く染め上げられ、ところどころが光の反射で煌めいている。
( ゚∀゚)「……」
鮮やかな色彩を放つ海原を眺めながら、ジョルジュはギコの言葉を思い出していた。
22 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:09:38.65 ID:Q095CnA7O
「こんなところに居たの」
振り返った先に、ミセリがこちらに向かってあるいて来るのが見えた。
髪留めが外され、セミロングの茶髪が風になびいている。
ミセ*゚ー゚)リ「何、してるの?」
ミセリがジョルジュの脇に立って尋ねる。
( ゚∀゚)「……もう逃げないって、誓いに来たんだ」
24 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:10:47.85 ID:Q095CnA7O
−−目を逸らすな。
−−お前しかいねぇんだ!
ギコの言葉が脳裏を過る。
その通りだと、ジョルジュは思った。
もはや共にコロニーVIPを守り続けてきたギコとモララーはこの世を去り、
残されたジョルジュに、コロニーVIPの明暗が託された。
もう逃げることなど出来やしない。
自身の臆病を自身で切り捨てて、目の前に立ちはだかる困難に立ち向かうしかない。
今まで目を逸らし続けてきたモノに、その目を向けなければ、
待っているのは終わりだ。
26 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:12:01.23 ID:Q095CnA7O
( ゚∀゚)「やれるだけやってみる。
でなけりゃ、アッチであの二人に散々馬鹿にされる」
ミセ*゚ー゚)リ「……私も付き合おうかな」
ミセリがそう呟いて、ジョルジュはその横顔を見た。
ミセ*゚ー゚)リ「この世界は確かに残酷で無慈悲で容赦がないけれど……。
結局生きられるかどうか、あるいは守れるかどうかは、自分に懸かってるのよ。
ギコさんやモララーさんは、多分それを知ってたと思う」
( ゚∀゚)「……そうだな」
ジョルジュは再び前を向く。
27 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:13:08.59 ID:Q095CnA7O
生き抜くための、守りぬくための行動と、それを為す覚悟。
コロニーVIPを託されると言うことは、それを背負うと同義だ。
あるいは、それを背負わなければコロニーVIPは愚か、自分の身さえ守れないのだろう。
覚悟は、背負った。
( ゚∀゚)「馬鹿二人、そこで指くわえて見てろ。
俺は、そっちへ行くつもりは当分ないからな」
ジョルジュは誰を見るでもなく、そう言った。
30 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:15:06.33 ID:Q095CnA7O
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ショボンから呼び出しが掛かったのは、コロニーVIP襲撃事件から一日が過ぎた時だった。
(´・ω・`)「敵の本拠地を叩く」
いつものように、ショボンの作戦説明は極端に要約された一言で切り出された。
32 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:16:00.95 ID:Q095CnA7O
ミセ*゚ー゚)リ「コラージュ社の本拠地……ってアームズフォート……ですか?」
ジョルジュと同様に呼び出されたミセリが、おずおずと尋ねる。
出来れば、そうであって欲しくないとでもいうように。
アームズフォート。
コラージュ社の本社と言うよりも、同社の最高戦力、超巨大移動要塞、と言った方が、イメージ出来る外見は本物に近くなるだろう。
全長4キロにも渡るその体格は、6本の屈強な脚部と、滑走路にミサイル発射口を兼ね備えた六枚の甲板、六門の巨大主砲を持つ、
本社とは思えない、正に企業の圧倒的な力の権化とも言える存在である。
(´・ω・`)「そうだ」
ショボンはミセリの問いに答え、さらなる説明を加え始めた。
34 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:16:55.32 ID:Q095CnA7O
(´・ω・`)「現在、二大企業の一つ、コラージュ社はコロニー及び企業に属さない独立戦力の排除に乗り出している。
それにそのアームズフォートまで駆り出す本気振りだ。
……まぁ、それ程までにコロニーやその他の力が強まってきているというわけだけれど、
僕らが付け入る隙はそのわざわざ出向いてくれる本社以外には無い。
アームズフォートを急襲し、これを撃破する」
( ゚∀゚)「どうやって?」
ジョルジュが切り返す。
その語気に恐れや不安は無い。
35 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:17:47.84 ID:Q095CnA7O
ミセ*゚ー゚)リ「アームズフォートはアームズフォート単体だけでこちらに侵攻してる訳じゃないですよね……。
大規模な護衛部隊を引きつれてるはず」
ミセリの指摘に、ショボンは指を鳴らして答えた。
(´・ω・`)「そう。問題はどうやって、だ。……これは全く持って偶然が生んだ奇跡と言わざるを得ないんだが、
僕らには切り札がまだ残ってる。ジョルジュ操るアーマードコアと、ミセリと共に来た手土産だ」
38 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:20:50.85 ID:Q095CnA7O
( ゚∀゚)「オサムがコラージュ社から持ち出した試作の新兵器ってやつか」
(´・ω・`)「そう。しかもそれが高出力ハイレーザーキャノンと、最新鋭の装着型ブースターときてる。」
ショボンが作戦として提示する行動が何なのか、ジョルジュは察した。
( ゚∀゚)「単機でアームズフォートに特攻しろってか」
40 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:21:33.21 ID:Q095CnA7O
(´・ω・`)「その通り。
……今さら隠し立てするつもりもないけれど、「普通なら」この作戦の成功率なんてないに等しい。
どれだけ高性能の兵器を持ってしても、単機でアームズフォートに真正面から立ち向かえば、
「普通なら」辿り着く前に護衛部隊から砲弾とミサイルの雨を食らって木っ端微塵だ。
耐え切れるわけがない」
(´・ω・`)「けれども、その兵器がその攻撃自体に対抗策を持っていたら?
極めて強力なジャミングを備えていたら?」
その仮定に対する解答権と共に、ショボンの視線がジョルジュの隣に立つ強化人間に向けられた。
41 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:22:47.41 ID:Q095CnA7O
ミセ*゚ー゚)リ「……私の出番、ですね」
ショボンが、オサムが持ち込んだものが何か、を話した時点で、ミセリには予想がついたらしい。
( ゚∀゚)「ミセリの力で敵を撹乱しながら高速で強襲、一発ブチかましてスタコラサッサ、か」
(´・ω・`)「そうだ。理論上でいえば、そのハイレーザーキャノンと装着型ブースターを装備したブラストの速度は時速2000キロ。
ロックオンもまともに出来ていない砲撃を当てることはまず不可能だ。
ミサイルに至ってはそもそも目標を設定できないんだからね」
そこまで一気に語ったところで、ショボンの表情が曇った。
(´・ω・`)「……ここまで言っておいてなんだが、正直な話、これだけカードを揃えても、
この作戦が成功するかどうか、僕にも自信がない。
さっき言った限りなく低い成功率が、あくまで成功出来るかもしれない程度にまで上がるだけだ。
君たちの命の保証は出来かねる。
……すまない」
そう言って頭を下げる。
45 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:24:59.52 ID:Q095CnA7O
( ゚∀゚)「どっちみち、やるしかないんだろ?」
ジョルジュが呆れたような、しかし本当に呆れてはいない顔で、飄々と言ってのけた。
( ゚∀゚)「ここまできて今さら、嫌です、なんて言うつもりもないしな」
ミセ*゚ー゚)リ「……右に同じ、かな」
ミセリがそれに同意する。
( ゚∀゚)「やるんだったら早いほうがいい。
勿論、準備は始めてるんだろう?」
顔を上げたところにジョルジュにそう問われたショボンは、苦笑いを浮かべて言った。
(´・ω・`)「ああ、君達に断られたら、僕がやるつもりだったからね」
47 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:26:58.95 ID:Q095CnA7O
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
電光がぼんやりと照らすコクピットの中に、ジョルジュはいた。
全ての計器を確認し、問題ないことを確認する。
48 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:27:21.99 ID:Q095CnA7O
後部座席に座るミセリに視線を投げ掛けると、彼女はしっかりと頷いた。
( ゚∀゚)「問題なし。
……いつでもいいぜ」
(´・ω・`)「把握した。幸運を祈ってるよ」
ショボンと短い無線のやり取りを交わすと、
ガレージの奥、幾度となくそこから外へと飛び出していった隔壁がゆっくりと開かれ、光が差し込んだ。
50 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:27:46.48 ID:Q095CnA7O
−−この光景も、見納めかもしれない。
眩しさに目を細めながら、
そんな思いが脳裏を過って、ジョルジュは頭を横に振った。
−−違う。帰ってくるんだ。もう一度。
53 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:31:01.71 ID:Q095CnA7O
『メインシステム 起動シマス』
ブラストのCPUが電子音声でブラストの起動を伝える。
機械の巨人は、そのモノアイを煌めかせて覚醒した。
その背中に「KRSW-3」と刻まれた二門のハイレーザーキャノンを背負い、バックパックには機体の半分ほどの大きさの装着型ブースターが備え付けられている。
「行くぜ……!」
ジョルジュはブラストを発進させるべく、装着型ブースターではなく、通常のブースターを起動させた。
55 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:32:54.02 ID:Q095CnA7O
まずは浮遊。
土埃を巻き上げて機体が宙に浮き上がる。
ブースターの出力を上げると共に、推進のベクトルが前に向けられる。
ブラストは一気にガレージから飛び出し、海の上スレスレに躍り出た。
57 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:34:16.22 ID:Q095CnA7O
目標の方向をモニターで確認する。
装着型ブースターを発動する前に進路を修正。
最終調整を全て済ませ、ジョルジュは大きく息を吐いた。
( ゚∀゚)「起動させっぞ、覚悟決めろよ」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。いつでもいいよ」
ジョルジュはコンソールを操作、装着型ブースターの発動を指示した。
59 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:35:52.80 ID:Q095CnA7O
背中から突き出る四基の高出力ブースターの先端のノズルが開かれる。
それぞれの噴射口が白い光を貯め、
ブースター発動直前の、独特の高音がジョルジュの耳に届く。
一瞬、それが止む。
途端。
ドン!という音と共に、今まで感じたことの無いような慣性力が、
シートにもたれ掛かるジョルジュの身体を押しつけた。
60 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:36:43.25 ID:Q095CnA7O
(;゚∀゚)「ッ……!」
強烈なGを受けながらも、ジョルジュは機体の状態を確認する。
懸念していた装着型ブースターの異常は認められない。
進路にも問題はない。
徐々に慣性力が和らいでいき、ジョルジュはブラストを上昇させた。
ミセ;゚ー゚)リ「中々にハードだったね……」
自身の無事を伝えることも兼ねて、ミセリが口を開く。
( ゚∀゚)「ひとまずは、第一関門突破だ」
ふぅ、と息を吐いて、ジョルジュは真下に映る海を見た。
63 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 20:38:13.06 ID:Q095CnA7O
海面の凸凹が分からないほどの速度。
それでも、まだ足らない。
アームズフォートに食らい付くには、その周りの護衛部隊を振り切ることが可能な時速2000キロ程までに加速しなければならない。
( ゚∀゚)「もういっちょ加速するぞ……!」
ミセ*゚ー゚)リ「うん」
装着型ブースターのノズルがさらに開き、そこから吐き出される白い噴射炎がその勢いを増す。
ブラストはジョルジュがまだ体験したこともない領域へ、足を踏み入れた。
75 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:45:05.85 ID:Q095CnA7O
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『…聞こえるかい』
ショボンからの通信が入ったのは、ジョルジュがコロニーVIPを発ってから十数分が経過した頃だった。
( ゚∀゚)「問題無しだ」
『何よりだね。
……アームズフォートまで百数キロを切った。
間もなく接敵するだろう』
( ゚∀゚)「……了解」
『ジョルジュ』
( ゚∀゚)「何だ」
一瞬の躊躇いがあって、ショボンは静かに、しかし感情を込めて言った。
(´・ω・`)「生きて、帰ってきてくれよ」
77 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:46:01.64 ID:Q095CnA7O
( ゚∀゚)「……モチロンだ」
そうでなければ、全てが無意味なのだから。
ミセ*゚ー゚)リ「レーダーに反応だよ」
ミセリがレーダーの範囲内に敵が入ったことを告げる。
( ゚∀゚)「分かった。
……切るぜ」
『……ああ』
ジョルジュは静かに無線を断った。
79 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:47:32.00 ID:Q095CnA7O
入れ替わるように、ミセリの驚愕して叫んだ。
ミセ;゚ー゚)リ「凄い数!……これが全部護衛部隊なの……!?」
企業に属していたミセリでさえ驚愕する、圧倒的な防衛網が、アームズフォートを取り巻いているのが、
レーダーが映し出す無数の点から理解できた。
(#゚∀゚)「関係ねぇ」
ジョルジュが力を込めて言う。
見据えるべきはただ一つ。
80 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:47:58.61 ID:Q095CnA7O
( ゚∀゚)「敵の迎撃を撹乱してくれ。
後はアームズフォート到達まで俺がやる」
ミセ*゚ー゚)リ「分かった」
83 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:50:10.07 ID:Q095CnA7O
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジョルジュは大きく息を吐く。
展開する敵の護衛部隊が視認出来る。
時速は1800キロ。
まだ足りない。
加速するんだ。
88 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:53:47.80 ID:Q095CnA7O
ブースターが唸りを上げてブレストを加速させていく。
音はとっくに置き去りにしている。
敵射程圏内に侵入する。
無数の兵器群がブレストに牙を剥く。
集中しろ。
神経を張り詰めろ。
地上から、或いは空中からの攻撃を、最小限の動きだけで振り切って、
ブレストはアームズフォートに向け、白煙で軌道を描き駆ける。
今まで逃げることに使ってきたその速度で、立ち向かうのだ。
89 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:54:05.87 ID:Q095CnA7O
その時。
一瞬、前方で光るモノが見えた。
(;゚∀゚)「!」
直感する。危険だと。
ジョルジュはブレストを横に無理矢理吹っ飛ばすようにしてスライドさせる。
その脇を、光の奔流が駆け抜けていった。
92 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:54:48.35 ID:Q095CnA7O
ーーアームズフォートの主砲か……!
まだ姿のはっきり見えない相手から、確実にブレストを狙って放たれた攻撃に、ゾッとする。
あれに関しては、ミセリの力も届かない。
食らえば形を残さず消し飛ばされる。
恐れるな!
自身に言い聞かせて、ジョルジュは前を睨み続けた。
95 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:57:36.52 ID:Q095CnA7O
また目の前で煌めき。二発。
右、上とブレストは立て続けに襲い掛かるそれらを回避する。
食われるか、辿り着くかのせめぎ合いの中で、ジョルジュは神経を極限まで研ぎ澄ます。
96 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 21:58:22.68 ID:Q095CnA7O
加速しろ。
速度を増して突き抜けろ。
ブッチぎるんだ。
何もかも。
誰にも捕まえられない位のスピードで。
106 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:22:15.64 ID:Q095CnA7O
下らない雑音は聞こえない。
ここには俺とミセリしかいない。
誰も追いつけやしない。
誰にもこの居場所は奪えない。
無音の世界で、俺は俺の生きる居場所を守り抜く。
時速2000キロ。
この機体で。
その壁を。
守り抜くために邪魔な障壁を。
突破する。
107 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:23:11.75 ID:Q095CnA7O
ミセリの電子介入が成功し、それによりAFを守護する無数の兵器軍は操作系統にエラーを生じ、
目測でブレスト目掛け攻撃を仕掛けるしかなくなっている。
当たるものか。
機体を極限まで研ぎ澄ました反射神経で操作して、
更に加速させながらジョルジュは呟く。
そんな闇雲の、手当たり次第の、苦し紛れの弾丸なんかに、俺達は掠りさえしない。
108 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:23:35.91 ID:Q095CnA7O
ーー見えた。
ジョルジュはそれを目にした。
アームズフォート。
ブレストに向け主砲を構え、荒野に君臨する力の王。
その姿は背筋に寒気が走るほどに圧倒的だ。
それに真っ向から対峙しながら、ブレストはその距離を詰めた。
111 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:25:17.88 ID:Q095CnA7O
射程圏内。
ブレストがAFを捉えるのと同時に、
ブレストを捉えたAFが牙を剥く。
主砲までならず、ありとあらゆる武装がブレストに狙いを付ける。
体中に暴力を纏わせた化け物。
世界を牛耳って、命を捨て駒扱いして生きている奴らの巣窟。
そんなもの。
真っ向から打ち砕く。
この一撃で、
その重厚で、堅固で、クソッタレなドテッ腹に風穴を開けてやる。
完膚無きまでに、屈服させてやる。
この一撃を、叩き込む。
114 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:27:09.05 ID:Q095CnA7O
アームズフォートから一斉に攻撃が放たれた。
構うものか。
ジョルジュは体中を駆け巡る衝動を抑えずに叫ぶ。
(#゚∀゚)「喰らいやがれッ!!!」
引き絞られるトリガー。
ブレストの両肩から突き出た、AFに向けられた二門のハイレーザーキャノンの砲門から、光の奔流が迸しった。
115 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:28:35.88 ID:Q095CnA7O
二本の光はブレストの面前で極太の一筋の光となる。
圧倒的な力をねじ伏せる、力。
全てを飲み込み駆け抜けるジョルジュの感情の化身は、
AFが繰り出すいかなる暴力も掻き消す。
その中心に食らいつく。
重厚で堅固な装甲を、笑ってしまう程に容易く吹き飛ばす。
そのまま勢いを弱める事なく貫通する。
光はアームズフォートのど真ん中を串刺しにして、空の彼方に消え去った。
116 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:29:10.64 ID:Q095CnA7O
開けられた風穴の向こう側の景色が見えたのは一瞬。
次の瞬間、爆炎でその隙間は満たされる。
道は、そこにしかない。
(#゚∀゚)「ウオオオッ!!」
ジョルジュは役目を終えたキャノンをブレストから切り離し、
爆炎を吐き出すその風穴に、迷う事なくブレストを突っ込ませた。
118 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:30:18.35 ID:Q095CnA7O
視界が真っ赤な炎に焼き尽くされる。
衝撃に機体がブレる。
けどだから何だ。
恐れなんかない。
この程度何でもない。
後ろの座席では、ミセリが全神経を集中して、
巨大な化け物の「電子回路」と言う名の「神経」をズタズタに引き裂いている。
二度とその凶悪な身体を振り回すことなんて出来ないように。
120 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:30:58.96 ID:Q095CnA7O
計算上では十秒にも満たないはずの僅かな時間は、極限まで引き延ばされて何分にも感じられる。
いつの間にか叫ぶのを止めていた。
ゆっくりと流れる時間の中で、心臓の鼓動だけが聞こえる。
他は何も聞こえない。
視界は依然、炎に覆い尽くされている。
けれども不安じゃない。
確固たる確信が、ジョルジュの中にはあった。
121 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:31:49.01 ID:Q095CnA7O
ーーー突き抜けろ!!
123 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:32:34.51 ID:Q095CnA7O
そして。
赤い炎が視界から消え去る。
青い空が、帰って来た。
124 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:33:21.14 ID:Q095CnA7O
風穴を通過しきったブレストの背後で、巨大移動要塞が体中を破綻させながら地に崩れ落ちる。
(;゚∀゚)「……!」
一瞬呆然としたジョルジュは、すぐに我に戻る。
(;゚∀゚)「ミセリ!」
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫!」
後ろの少女に声をかけると、やや興奮気味の返事が返って来た。
127 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:35:17.19 ID:Q095CnA7O
ブレストに異常がないか確認する。
あちこちの駆動系にガタが来ているが、気にするほどではない。
……勝ったのか。
ブレストが危険区域から脱出する。
装着型ブースターが使用限界に達し、自動的に機体から切り離され、バラバラに分裂しながら宙を舞い落ちていった。
129 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:36:57.85 ID:Q095CnA7O
同時に速度が落ちていく。
音が帰ってくる。
AFが崩れ落ちた時の轟音がようやく聞こえる。
ブレストが着地、摩擦で完全に停止。
振り返ると遥か後方に、
アームズフォートが黒煙を上げて地に臥していた。
130 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:37:45.33 ID:Q095CnA7O
震える手を握りしめ、ようやくやってきたその実感を噛み締める。
( ゚∀゚)「ふ、はは、は、」
身体の芯を震わされるような、そんな感覚の中で、ジョルジュの口から笑い声が漏れた。
と同時に、頬を伝う何かがあった。
( ∀ )「はは……、ふ……ッ……!」
その目から流れ落ちる一筋の涙が、ジョルジュのパイロットスーツを濡らした。
133 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:40:29.70 ID:Q095CnA7O
( ∀ )「ッ……、」
何故涙が流れるのか分からない。
ただ、自分がまだこの世界にいるのだという事実を噛み締めるたびに、視界が滲んだ。
−−生きているんだ。まだ。
砂埃の舞い上がる中、立ち尽くす一機のACの中で、後ろにミセリがいることも忘れ、ジョルジュは暫く涙を止めることが出来なかった。
134 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:40:51.58 ID:Q095CnA7O
ミセ*゚ー゚)リ「……やったね」
ジョルジュが涙を拭ったタイミングを見計らって、ミセリが言う。
( ゚∀゚)「……ああ」
最後に鼻を啜って、ジョルジュは泣くのを止めた。
「帰ろう。コロニーVIPに。」
136 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:43:14.59 ID:Q095CnA7O
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コラージュ本社、アームズフォートの撃破。
その事実は瞬く間に世界に知れ渡った。
突如現れアームズフォートを撃破した、一機のアーマードコアの姿と共に。
二大企業の一つが全く予想だにしなかった大打撃を受け、
世界は大きな変革の時を迎え、しかしその本質は変わることがない。
そして、彼らもーーーー
138 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:44:24.07 ID:Q095CnA7O
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「聞こえてる?」
「ああ、すこぶる良好だ」
薄暗い空間に、二人の人間の声が聞こえる。
「間もなく作戦領域です。
システムを戦闘モードに移行して」
「了解」
無線から聞こえる女性の指示に従って、男はコンソールを操作した。
142 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:45:43.05 ID:Q095CnA7O
「……システムの戦闘モード移行を確認。
ロック、解除します。
……必ず生きて還ってきてね」
「勿論だ。
今さら死んだらショボンに何言われるか分からねぇ」
「そうね……。
……じゃあ、幸運を」
落下を始めるのを感じ、男は鋭さが光る声で呟いた。
( ∀ )「行くぜ……!」
145 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/22(火) 22:51:02.94 ID:Q095CnA7O
後に、コロニーVIPは退廃してあく世界の中で、
「難攻不落のコロニー」としてその存在を世界に知らしめ、
コロニーVIPの唯一にして最高戦力である「彼」は、畏怖の念を込め「イレギュラー」と呼ばれることになる。
「彼」は、戦い続ける。
戦う理由を守るために。
( ゚∀゚)ジョルジュは突き抜けるようです おしまい
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