6 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:15:15.46 ID:nGddxB9OO
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ショボンからの通達から二日後。
ジョルジュはブレストに乗り、ギコ、モララーと共に、
指定された場所であるカコログ砂漠に向かっていた。
8 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:16:34.57 ID:nGddxB9OO
飛行中のブレストに、ギコからの無線が入る。
『相手が変な仕種を見せたら躊躇するなよ』
ギコの無線はモララーにも聞こえているはずだが、
この発言はジョルジュ宛の忠告だろう。
亡命の申し出が罠であり、敵がジョルジュ達を待ち受けている場合も考慮しておけと、そう言っているのだ。
( ゚∀゚)「分かってる」
ジョルジュは突っ返すように答えた。
9 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:18:43.07 ID:nGddxB9OO
( ・∀・)「そろそろ指定の地点だ」
モララーが落ち着いた口調で言う。
舞い上がる砂塵の中に、三機のACが舞い降りる。
時刻は待ち合わせ10分前を指していた。
早すぎても良いことはない。
待つ事、数分。
レーダーに機影が映った。
12 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:22:20.62 ID:nGddxB9OO
それを確認して前方の空を見遣ったジョルジュは、こちらに向かってくる輸送ヘリを視界に捉える。
『−−聞こえるか?』
無線にギコでもモララーでも無い別の男性の声が入った。
13 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:25:49.91 ID:nGddxB9OO
(,,゚Д゚)「聞こえている」
ギコが重圧感のある声でそれに答えた。
『……積み荷の確認を要求する』
(,,゚Д゚)「水とハムだ」
馬鹿げた内容の暗証を済ませると、無線の向こう側から安堵の溜め息が漏れたのが聞き取れた。
【+ 】ゞ゚)「……確認した。オサムだ。よろしく頼む」
14 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:28:04.09 ID:nGddxB9OO
オサムと名乗ったこの男が、VIPに亡命を希望したコラージュの研究員らしい。
やがてヘリはその外観を十分に視認出来るほどに近づいて来た。
(,,゚Д゚)「きちんと持って来る物は持って来たんだろうな」
【+ 】ゞ゚)「……その事で話がある」
無線の向こうで息を呑む声が聞こえる。
緊迫が走る。
ジョルジュはいつでもブレストを戦闘体制に動かせるように神経を張り詰めた。
16 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:29:51.28 ID:nGddxB9OO
【+ 】ゞ゚)「誤解しないでくれよ……
きちんと物は持って来たんだ。ただ……」
オサムは少し上擦った声で、明らかに警戒するジョルジュ達に弁明した。
【+ 】ゞ゚)「ただ、亡命する人数を一人増やしてほしい」
(,,゚Д゚)「……誰だ。ヘリの操縦者か」
ギコの詰問に、オサムは何処か落ち着きの無い口調で答える。
【+ 】ゞ゚)「いや、ヘリは私が運転している。
取り敢えず下降してか……」
オサムからの無線に不自然なノイズが走ったのをジョルジュが聞き取った時。
輸送ヘリを彼方から飛来したレーザーが掠めていた。
18 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:34:51.91 ID:nGddxB9OO
(;゚∀゚)「!?」
予想外の状況にジョルジュ達は一斉にACを戦闘モードに移行する。
レーザーはヘリの側面を抉って彼方に消え去った。
【+ ;】ゞ゚)「くそ……ッ!ここまできて……!」
オサムの唸るような呟きが聞こえた。
( ・∀・)「コラージュの連中だろう。
残念ながら計画が知られたらしいね」
モララーが冷静に状況を分析する。
【+ 】ゞ゚)「操縦が効かない……!」
ヘリは完全にバランスを失っている。
このまま行けばやがて本体が錐揉み回転の後、墜落だ。
19 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:40:01.85 ID:nGddxB9OO
【+ 】ゞ゚)「頼む!搭載しているコンテナだけでも回収してくれ!」
オサムは半ば叫びに近い声でそう懇願した。
本人はコクピットで操縦しているはずだ。
何故自身を投げうって、自身を匿ってもらうための取引の材料の回収を頼むのか、ジョルジュは奇妙に思った。
(#゚Д゚)「無事に着地してから言え!」
ギコが怒鳴り、リンクスがヘリの脇を通り抜け、両手の重火器を未だ姿のはっきりしない敵に向けて構え、レーザーの飛来した方向に立ち塞がる。
( ・∀・)「ACだ!戦闘ヘリも数機来るぞ!」
リンクスに続いて前に出つつ、レーダーからの情報を通達したモララーの乗るアンカーの後ろで、
オサムの絶叫と共にヘリが墜落した。
21 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:45:30.57 ID:nGddxB9OO
お世辞にも上手く不時着したとは言えなかった。
何しろコクピット部分から真っ逆さまだ。
恐らくオサムの命は無いだろう。
コンテナを載せている筈の後方部分は幸運にも原型を留めたが、
肝心のコンテナはヘリから放り出されて転がり、数メートル離れた場所で斜めに砂漠に突き刺さっていた。
( ・∀・)「ジョルジュ、回収出来るものを回収して後退しろ。
余計な事を考えるなよ」
モララーがアンカーをリンクスの隣に移動し、アサルトライフルを構えさせながらジョルジュに命じる。
(;゚∀゚)「了解……!」
ジョルジュは言われたままにコンテナにブレストを寄せた。
22 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:48:49.20 ID:nGddxB9OO
(;゚∀゚)「……!」
ヘリに視点を合わせ、モニターをズームさせ、すぐに後悔した。
盛大にひしゃげたコクピット部分とおぼしき部分から、赤い血が流れ出し、砂漠の砂を同じ赤に染めている。
まるで人間を雑巾のように絞らない限り、出ないような量であることが見て取れた。
(;ー∀゚)「クソ……」
今は気にしている場合ではないと自身に言い聞かせ、コンテナを慎重に持ち上げようとブレストの手を伸ばす。
衝撃でロックが外れたのか、コンテナの扉が半分ほど開いていた。
24 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:51:07.28 ID:nGddxB9OO
(;゚∀゚)「!」
ジョルジュはその中を見て目を疑った。
コンテナの中にビニルシーツを被って固定されている二つの何か……多分例の最新機器だ……の合間に、
真っ白な患者服のようなものを着た少女が横たわっていたのだから。
25 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:53:45.89 ID:nGddxB9OO
(#゚Д゚)「何してる!さっさと撤収しろ!」
ギコの怒鳴り声がジョルジュの鼓膜を震わせ、ジョルジュは負けじと叫んだ。
(;゚∀゚)「コンテナに人が乗ってんだよ!女だ!」
何ぃ!?、と意表を突かれたように驚いたギコと入れ代わりに、モララーから無線が入る。
( ・∀・)「オサムじゃないな。生きてる?」
(;゚∀゚)「分からない。外傷は無い」
参ったね、とモララーは呟いた。
27 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 20:57:39.84 ID:nGddxB9OO
( ・∀・)「彼が言いたかったのは多分彼女のことだったんだろう」
(,,゚Д゚)「んな事はどうでもいい!
こっちはとっくに敵の射程圏内!
おまけに相手のAC、ご大層に狙撃用のレーザー兵器積んでやがるぞ、このままじゃただの的だ!」
( ・∀・)「がなるなよ、分かってるさ」
しかしどうするのだ。
ジョルジュは混乱した。
このままではギコの言う通りだ。
だからと言って、この「ナマモノ」の入ったコンテナを持って戦闘や高速移動なんかしたら、
コンテナの中の彼女は揉みくちゃにされるか、
さもなければ固定されてないコンテナの扉から外に放り出されてしまう。
( ・∀・)「その女性をどうにかするしかないね」
ジョルジュの迷いを断ち切るようにモララーが言う。
というよりは、その女を見捨てるような命令を下しても、ジョルジュが従わないと見越したうえの発言だ。
31 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:01:47.86 ID:nGddxB9OO
(#゚Д゚)「……んとにツイてねぇなぁゴラァ!
予想外のバーゲンセールだぜ!」
ギコは観念したかのように開き直って言った。
( ・∀・)「ジョルジュ、お前は今のうちにその迷惑千万なレディをブレストのコクピットに乗せろ。
急げよ。乗せたら増援来る前にさっさと逃げる」
(;゚∀゚)「分かった」
32 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:03:40.97 ID:nGddxB9OO
ジョルジュはブレストを膝を突いた体制にして、素早くコクピットから抜け出す。
不安定な砂の上に着地してよろめきながら、コンテナに駆け寄り、そこから少女を背負い上げた。
ブレストに戻ろうと振り返った瞬間、レーザーが頭上を駆け抜け、
ブレストの数メートル横を通過する。
(;゚∀゚)「洒落にならねぇ……!」
冷や汗が頬を流れ落ちるのを感じながら、ジョルジュはブレストのコクピット目指して必死になった。
34 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:05:46.19 ID:nGddxB9OO
背後でけたたましい、連続する轟音。
恐らくリンクスが装備するガトリング砲だろう。
それは敵がリンクスの射程圏内に入った、つまり交戦を開始した証拠で、それがジョルジュをよりあくせくさせた。
コアの背面から突き出たコクピットから垂れるワイヤーを片手で掴み、片足をワイヤーの先端に付いているトライアングルに掛ける。
加重を感知したワイヤーがすぐに巻き上げを始めた。
急げ急げ急げ。
ジョルジュは心の中で繰り返し急かす。
どんなに軽量仕様のブレストと言えども、ワイヤーの巻き上げの速度まで速くはなかった。
35 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:07:12.84 ID:nGddxB9OO
それでも何とかコクピットに乗り込んで、少女を自分の膝に座らせるような恰好で座席に着く。
ベルトで少女ごと自分の身体を固定する。
( ゚∀゚)「狭いなクソッ……」
文句を言っている場合ではない。
( ゚∀゚)「OKだ!」
ジョルジュは叫び、ブレストを直立、ブースターを噴射させて舞い上がった。
36 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:09:48.92 ID:nGddxB9OO
(#゚Д゚)「遅せェよ馬鹿が!」
敵の攻撃を一手に受ける羽目に成っていたギコの叱責が飛ぶが、
ジョルジュとしても最速で事を運んだつもりなので、「無茶いってんじゃねぇ!」と怒鳴り返す。
( ・∀・)「……残念ながらレーダーに増援を確認した。
こりゃ今逃げたらコロニーにまで追っかけて来かねないな」
(#゚Д゚)「ホラ見ろこのノロマ!」
(#゚∀゚)「黙れよ!こっちも命懸けでやったんだ!」
ジョルジュがブレストを迎撃態勢にさせながら怒鳴り返す。
( ・∀・)「仲間割れは安全な場所でやって欲しいな……全く」
ギャアギャアと無線を行き交う二人の怒号に、モララーが愚痴を漏らした、その時だった。
39 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:12:47.94 ID:nGddxB9OO
(#゚∀゚)「だったらテメーがやればよかっ……!?」
ジョルジュの言葉が不自然に途切れた。
睨み付けていたモニターを遮るように、目の前に自分のものではない腕が、ぬっ、と現れていた。
ジョルジュが救い出した少女の腕が、何かを掴むようにしてやや上向きに伸ばされたのだった。
41 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:14:32.41 ID:nGddxB9OO
(;゚∀゚)「お、おい……!」
邪魔だと言おうとした瞬間、モニターにぼやけながらも反射して見えた少女の苦しそうな表情に、
ジョルジュは二の句を継げなかった。
ヘリが墜落したときにやはりどこかに重症を負っていたのだろうか。
何も出来ないジョルジュを尻目に、少女は腕を伸ばしたまま、ため息ともとれる、小さな苦悶の呻きを漏らした。
瞬間。
( ・∀・)「……?」
敵の増援の状況をレーダーで確認していたモララーが、異変に気付く。
42 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:19:21.54 ID:nGddxB9OO
( ・∀・)「どうした……?既に射程圏内に入った筈だ……」
増援として来たはずの敵から攻撃が全く仕掛けられないのだ。
果てには長距離射撃で威嚇していた敵ACさえ攻撃を加えてこなくなった。
(;・∀・)「傍観してるのか……? 訳が分からないな」
緊張感の漂ったまま、奇妙な時間が続く。
そして。
(,,゚Д゚)「オイオイ、何だ何だ?」
あろうことか敵部隊が撤退を始めた。
44 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:22:12.84 ID:nGddxB9OO
(;゚Д゚)「信じられん……おい、背後に神様が見える奴はいるか?」
( ・∀・)「見えないねぇ。しかしまさに神懸かり的な幸運だ。
俺達はツイてる。今のうちにこっちも撤退しよう」
予想外の事態に、しかしモララーがその事態に乗じて撤退を提案すると、
ギコが二つ返事で答えた。
46 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:24:26.16 ID:nGddxB9OO
(,,゚Д゚)「賛成だ。気味が悪い。俺がしんがりで行く。
……さっさと行けジョルジュ!」
(;゚∀゚)「ちょっと待てって……おい!……クソ……」
ブレストのコクピットでは、少女が再び気を失い、身体をジョルジュに預けるようにもたれ掛かり、
伸ばしていた腕は力なく垂れていた。
ジョルジュの呼び掛けにも応じない。
47 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:27:38.34 ID:nGddxB9OO
(,,゚Д゚)「何だ、神様が見えたか!」
それ以外の理由は認めないかのようにギコが聞く。
(#゚∀゚)「見えるか馬鹿野郎!」
(#゚Д゚)「だったらさっさと行けってんだよ!」
(#゚∀゚)「一々指図されなくてもやれたらやってんよ!
今コイツが……ああもう!まどろっこしい!」
やれやれ、君達には落ち着きってものがないの? とモララーが呟いた。
49 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:30:23.05 ID:nGddxB9OO
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「酷い目に遭ったぞゴラァ!」
とは、コンテナと正体不明の少女と共にジョルジュ達がVIPに帰還した後、
ギコがガレージで彼等を出迎えたショボンに対して吐いた第一声だ。
50 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:31:18.42 ID:nGddxB9OO
少女を抱えてブレストのコクピットから降りようとしていたジョルジュは、
怒鳴ってる暇があったら手伝えと言いたかった。
( ゚∀゚)「よっ、と……」
人を背負ってACから降りるのは中々の一苦労だ。
それでも何とか降りると、ギコの怒鳴りをスルーしたショボンが近寄って来た。
52 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:34:55.33 ID:nGddxB9OO
(´・ω・`)「話はモララーから聞いた。
……脈はあるようだね」
ジョルジュの肩から胸にだらん、と垂れている少女の腕を手にとり、手首に親指を当てたショボンが言った。
(´・ω・`)「悪いけれど医務室まで運んでくれないかな」
医務室があるのは地上だ。
ガレージから向かうには少なくともエレベーターに乗り、
少しとはいえこのまま少女を背負って歩かねばならない。
正直誰かに代わってほしかったが、ギコとモララーはいつの間にかガレージからいなくなっていた。
言いたいことはきっちり言っておきながら、面倒だと察して逃げたらしい。
(#゚∀゚)「あンの野郎ども……」
恨めしい愚痴は何の意味も持たず、結局ジョルジュは医務室まで彼女を運ばざるを得なかった。
54 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:35:50.50 ID:nGddxB9OO
エレベーターで地上に向かう時に、ジョルジュはようやく自分が背負っている少女に目を向けた。
ミセ )リ「……」
背はジョルジュよりも低く、セミロングのやや茶色がかった髪を後頭部でV字に折り曲げてピンで留めている。
顔立ちも調っていて、多分美人の部類なのだろう。
コロニーにはジョルジュと同じ年頃の女性はいない。
同年代の異性を見るのは久しぶりだった。
55 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:36:17.44 ID:nGddxB9OO
(´・ω・`)「中々可愛いじゃないか」
エレベーターに同乗していたショボンが彼女の顔を眺めて至って平然と言う。
(´・ω・`)「好み?」
(;゚∀゚)「何を……、馬鹿言ってんなよ」
つっけんどんに切り返したものの、別に嫌いな部類ではない。
(´・ω・`)「何だ、残念」
何が残念なのか聞きたかったが、タイミングが良いのか悪いのか、
エレベーターが地上に到着し、ドアが開いたのでその話題はうやむやになった。
56 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:37:36.46 ID:nGddxB9OO
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コロニーVIPの医務室は、ただの部屋に医療機器を置いただけの即席仕様で、
誰かが常駐しているわけでもない。
怪我人が出たと知らせが入れば、怪我人はそこに運ばれ、
コロニーにたった一人だけいる元看護婦が駆け付けて治療する。
少女を医務室に運び、駆け付けた元看護婦に事情を説明して、
少女がベットに寝かされて、ようやく一息つけたジョルジュがベット脇の椅子に座ると、
タイミングを見計らったかのように、既に着替えを済ませたギコとモララーが部屋に入って来た。
(,,^Д^)「ご苦労ご苦労」
ニヤニヤと笑いながらそう言ったギコをぶん殴ってやりたくなる。
57 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:38:44.85 ID:nGddxB9OO
( ・∀・)「で、どうなの」
同時に入ってきたモララーが尋ねる。
(´・ω・`)「どうやらドタバタの最中に頭を打って気を失ったらしいね。
タンコブは出来てるし、他には特に怪我もないからまぁ大丈夫、だそうだ」
ショボンが、現役時代のまま衰えを見せない措置を施した元看護婦の診断をそのままそっくり伝えた。
58 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:39:12.48 ID:nGddxB9OO
(,,゚Д゚)「しかし何者なんだろうな」
ギコが腕組みをして考え込むように呟く。
( ・∀・)「オサムの身内か……あるいはコラージュの人間かのどっちかでしょ」
それ以外にどんな可能性があるのかと言うかのように、モララーが返した。
59 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:40:41.17 ID:nGddxB9OO
( ・∀・)「どっちにしろ本人が目覚めるのを待つしかないだろうね」
(´・ω・`)「ふむ。じゃあ僕は部屋に戻るかな。仕事が有り余ってる」
ショボンは腕組みをしながら神妙な顔をする。
(,,゚Д゚)「頼むぜ、リーダーさんよ」
(´・ω・`)「都合の良いときだけリーダー呼ばわりだよね……まあ良いけどさ。
あ、誰か一人は残ってね。万が一って事もあるし」
そう言い残して、ショボンの姿は閉じるドアの向こうに消えた。
60 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:41:57.66 ID:nGddxB9OO
( ・∀・)「俺見張り役パ〜ス。眠くて仕方がないんでね」
ショボンが出ていくのを見るなり、モララーがあっさりと役決めから逃げ出す。
(,,゚Д゚)「ジョルジュに決定だな」
ギコが自分を棚に上げてさも当然とばかりに言い放った。
(;゚∀゚)「はぁ!?」
ジョルジュが不満の声を上げるが、二人はそそくさと医務室を後にする。
( ・∀・)「じゃ、そういうことで」
(,,゚Д゚)「逃げんなよー」
(;゚∀゚)「オイ待て!ふざけんな!」
ジョルジュの怒号を背に、二人は医務室を出ていった。
61 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:42:29.68 ID:nGddxB9OO
(#゚∀゚)「……毎回毎回いそいそと……」
やる方ない不満を丸椅子に乱暴に座ることで紛らわせる。
立場的に、いつも損な役回りを押し付けられるのはジョルジュだ。
それでも大きく息を吐いて気を取り直し、頭に包帯を巻かれてベットで静かに眠る身元不明の少女を眺めた。
63 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 21:44:41.92 ID:nGddxB9OO
部屋は静まり返って、彼女の心拍数を測定する医療機器の音が一定間隔に響いているだけだ。
( ゚∀゚)「……。」
オサムが自分の命を省みずにコンテナの回収を依頼したのは、
やっぱりコイツが理由なんだろうか。
オサムは急遽亡命する人数を増やしてほしいと頼んだが、
多分始めからそう言うつもりではなかったんだろうか。
勝手な想像が頭の中を巡る。
しかしながら結論が出る訳もなく、ジョルジュはその思考を頭から追い出した。
とにもかくにも、この目の前で静かに眠る謎の少女が目覚めるのを待つしかない。
早く目覚めてくれよ……。
見張りの交替が望めるものではないと理解しているジョルジュは、せめてその時間が早く終わるように願った。
70 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:02:12.37 ID:nGddxB9OO
ミセ* ー )リ「……?」
ぼんやりとした視界の中で、円い電灯の光が眼を刺した。
ハッキリとしない意識の中で、少女は自分の状況を思い出す。
−−私……は……
事の顛末を思い出し、頭の中の靄をゆっくりと晴らした少女は、横になっているらしい自身の身体を起こした。
71 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:04:48.52 ID:nGddxB9OO
上半身を起こすと、自分が寝かされていたらしいベッドの脇に座る青年が垂れていた頭をあげた。
( ゚∀゚)「!……起きたか」
身を起こしている少女に驚いたのち、青年は感情の薄い口調でそう言った。
少女には見覚えがある顔だった。
頭を強く打って、意識を手放しつつあった少女をコンテナの中から救い出し、アーマードコアのコクピットに乗せた、あの青年だ。
確か……無線ではジョルジュと呼ばれていた。
72 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:07:36.63 ID:nGddxB9OO
目が合った一瞬で思い出して、少女は少し落ち着きを取り戻した。
ミセ*゚ー゚)リ「ここは……?」
一方で気まずそうに平静を取り繕ったジョルジュが、少女の問いに答える。
( ゚∀゚)「ここはコロニーVIPだよ。
アンタ、気を失ってたからコロニーの医務室に運んだんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「そう……ありがとう」
少女は素直にジョルジュの好意に感謝する。
( ゚∀゚)「……コロニーの責任者を呼んでくるから待ってろ」
ジョルジュは、無愛想を装い、それを受け流して席を立とうとした。
ミセ;゚ー゚)リ「あの!」
ジョルジュを呼び止めて、一瞬躊躇してから、少女は聞いた。
ミセ*゚ー゚)リ「……オサムさんは……?」
73 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:07:59.25 ID:nGddxB9OO
( ゚∀゚)「……死んだよ」
苦い顔で、出来れば聞かれたくは無かったというように、ジョルジュが言った。
ミセ* ー )リ「……そう……ですか」
74 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:10:03.45 ID:nGddxB9OO
予想はしていた。
自分が何故ACのコクピットに載せられたのか。
それは、今まで自分が乗っていた乗り物が役に立たなくなったからだ。
そして、飛び交う無線の中に、彼の声は無かった。
75 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:10:58.17 ID:nGddxB9OO
( ゚∀゚)「……戻るまで変なマネすんなよ」
今度こそ立ち上がったジョルジュが、念を押すように言う。
その時。
「その必要はないよ」
背後から聞こえたちょっと高めの男声にジョルジュが振り向くと、
開いたドアの前にショボンが立っていた。
(´・ω・`)「ご苦労様、ジョルジュ」
77 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:13:51.78 ID:nGddxB9OO
後ろにはギコとモララーも控えていた。
ジョルジュは、少女をここまで運び、その容態を見守ることを全て自分に押し付けて、
そそくさと逃げた二人に何か言ってやりたかったが、
今はそんな状況じゃないと喉まで出かかった言葉を引っ込めた。
ショボンがミセリのベッドの前まで寄って、穏やかな口調で話し掛ける。
(´・ω・`)「まずは、ようこそコロニーVIPへ。
僕は一応ここの責任者のショボンだ。君は?」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、ミセリ……、です」
(´・ω・`)「ミセリ。うん。良い名前だね。さて、いきなりで申し訳ないが……。
君は一体何処の誰なんだい?」
立ち位置をベッドの脇に移動したショボンは単刀直入に切り出した。
78 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:14:28.81 ID:nGddxB9OO
ミセリが一瞬躊躇して、しかし口を開く。
ミセ*゚ー゚)リ「私は……コラージュの強化人間です」
強化人間、という単語に、ミセリを除く四人が驚きの表情を浮かべた。
79 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:16:52.45 ID:nGddxB9OO
強化人間。
企業が莫大な費用と多数の犠牲者をかけて作り出した、その名の通り「強化」された人間だ。
強化手術により並の人間では持ち得ない様々な力を手に入れた彼等は、
時折戦場にも現れ、その比類無き力を奮う。
特にACに特化し、それを駆る強化人間は、
それ一個体でどんなに不利な戦況をもひっくり返すと言われるほどである。
もっとも、今現在においては強化人間の研究は試作段階に止まっていて、
連続した実用に耐え得る強化人間はまずいない。
作り上げられた大半がその実用へのテスト中に何らかの支障をきたし、廃人と化すのが現状だ。
80 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:21:14.68 ID:nGddxB9OO
(´・ω・`)「成る程、強化人間とはね……」
ショボンが目の前の少女がその悪名高き人間兵器とは信じられないと言いたげに呟いた。
(,,゚Д゚)「証拠は?」
ギコが噛み付いた。
ミセ*゚ー゚)リ「……証拠、ですか」
(,,゚Д゚)「言葉だけで信用し合える間柄でもないだろう」
ミセ*゚ー゚)リ「……そうですね」
ミセリはどうしたものか、というように言うと、
しばしの間を置いた後に目を閉じ……。
次の瞬間、部屋の片隅に置いてあったLAN端末が勝手に起動した。
81 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:22:30.61 ID:nGddxB9OO
( ゚∀゚)「!」
呆気に取られている四人の前で、端末のディスプレイに勝手に多数のウィンドウが開き、
文字列が画面をすごい勢いで下から上に流れていく。
(,,゚Д゚)「おい……!お前……」
( ・∀・)「待った」
いきり立つギコをモララーが制する。
ミセ*゚ー゚)リ「……」
一分かそれにも満たない程度の短い時間それが続くと、
ディスプレイが今度は全てのウィンドウを閉じ、勝手に電源を落とした。
82 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:24:27.25 ID:nGddxB9OO
ミセ*゚ー゚)リ「……コロニーVIP……」
それと入れ代わるように口を開いたミセリが喋りだしたのは、コロニーVIPに関する情報だった。
人口、面積、構造、果ては最近ジョルジュ達が請けた任務の報酬額……。
ジョルジュすら正確には把握していない情報まで、彼女の口からは滑るように流れ出ていった。
83 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:25:29.95 ID:nGddxB9OO
ミセ*゚ー゚)リ「……このくらいじゃ、証拠にはなりませんか」
喋ることを止めたミセリが、ショボンを見て言った。
(;´・ω・`)「参ったね、これは」
ショボンが苦笑いを浮かべる。
彼女は恐らく、企業の重要機密に指定されていてもおかしくない。
「完成された」強化人間だ。
( ゚∀゚)「やっぱり、あの時は……」
ジョルジュが呟くように言った言葉に、ミセリは頷いて答えた。
ミセ*゚ー゚)リ「あの時は本当に意識が朦朧としていて、敵の火器官制システムに干渉するのが精一杯でしたが」
86 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:30:32.80 ID:nGddxB9OO
(,,゚Д゚)「何だ?一度目を覚ましてたのか」
(;゚∀゚)「そう言おうとしたろうが!」
(,,゚Д゚)「何時だ」
( ・∀・)「今はいがみ合う時間じゃないぞー、馬鹿二人組」
モララーが慣れた口調で二人を見ることすらなく、その口論を止めた。
87 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:31:36.22 ID:nGddxB9OO
(´・ω・`)「君は……何故亡命を?」
恐らくはミセリ以外の全員が抱く疑問を、ショボンが尋ねる。
ミセ*゚ー゚)リ「……自由になりたかったから」
(´・ω・`)「自由、かい?」
ミセ*゚ー゚)リ「企業の研究所の生活に、つくづく嫌気がさしたからと言った方が良いかも知れません」
亡命という大事に挑戦した理由を、ミセリは淡々と述べた。
(´・ω・`)「成る程」
( ゚∀゚)「……」
88 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:32:18.73 ID:nGddxB9OO
企業は目的の為なら手段は選ばない。
平和維持なんて建前の裏で、人の命を平気で弄ぶ。
彼女も、そんな被害者の一人だったのだろうと、二人の会話を聞いていたジョルジュは思った。
(´・ω・`)「それで、君はオサムと同じように、亡命先としてコロニーVIPを希望していたと解釈して構わないのかな」
ミセ*゚ー゚)リ「そういう話には私は触れていませんでしたが……文句を言える立場ではないですよね?」
(´・ω・`)「こちらとしてはやぶさかではないよ。
元々亡命自体は受け入れる用意があったのだから。
……ただ、一つだけ、要望がある」
ショボンが人差し指を立てて、そう宣言した上で、つまり本題だと暗に示した上で、聞いた。
90 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:35:12.24 ID:nGddxB9OO
(´・ω・`)「自由を求めて亡命してきた君には申し訳ないが、
今見せてもらった君の力は非常に危険で、同時に魅力的だ。
こちらとしては、君と信頼関係を築くという意味でも、君の力を借りたいんだが、どうかな?
勿論、こちらとしては君にはそれなりの対応をさせてもらう」
いけしゃあしゃあと言いやがる、と、ジョルジュは内緒毒づいた。
要するにショボンはミセリをコロニーの戦力にしようと考えているのだろう。
が、ショボンは自身がそれとない言葉で言った通り、彼女を完全には信頼していない。
企業の差し金かもしれないと疑っている。
だから試そうというのだ。
企業との戦いに彼女を巻き込もうとしている。
91 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:36:24.71 ID:nGddxB9OO
疑い過ぎだと思うけどなと、ジョルジュは内心思った。
ジョルジュには彼女を企業の差し金だとは思えない。
もし彼女が差し金だとして、その目的は限られる。
1番ポピュラーなのはこのコロニーVIPの壊滅だろう。
しかしそれなら方法はいくらでもある。
こんなまどろっこしい手段を使うメリットがない。
第一、壊滅が目的なら、ジョルジュがミセリをコクピットに乗せ、
ミセリが力を使ったあの時、何故ジョルジュ達に対して力を使わなかったのか。
ジョルジュ達さえ潰せば、コロニーVIPなどほぼ無力なのだから、
いちいち手間をかけて彼女をコロニーVIPに潜入させる意味が分からない。
コロニーVIPに潜入しないと不可能なことなど、
それこそミセリがやってのけた、コロニーの情報を得る程度だ。
そんなものの入手を企業が望んでいるとは考えにくい。
92 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2008/04/20(日) 22:38:12.35 ID:nGddxB9OO
そこまで考えて、結局ショボンがうたぐり深過ぎるのだという簡潔な結論に達し、
ジョルジュは意識を思考から現実に戻す。
目の前ではミセリがショボンの申し入れを承諾していた。
ミセ*゚ー゚)リ「……分かりました。出来る限りの事は協力します」
(´・ω・`)「そうか、ありがとう。これから宜しく頼むよ」
彼女の返答を聞いたショボンは爽やかな微笑みでそれに答えた。
握手ぐらい交わせよと、その二人のやり取りを眺めていたジョルジュは思った。
第3話
戻る