8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:04:00.09 ID:rrp/OMEOO



('A`)ドクオは流される天才のようです
―後編―



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:08:08.90 ID:rrp/OMEOO
 いつからこんな風になってしまったんだっけ。
 これでも、平々凡々の人生を送ってきたつもりだった。浮気した挙げ句出てってしまった母さんのことを除けば、ありふれた環境で、ありふれた愛情を貰ってきた。はず、だ。



(*゚ー゚)「もう、無理だよ」

 朝から雨が降り続く、暗鬱とした日だった。
 人がまばらな喫茶店。しぃと出会ったこの場所が、皮肉にも別れの場となった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:09:47.79 ID:rrp/OMEOO

(*゚ー゚)「浮気って、もうこれで何度目かな? どうして、しちゃうんだろうね」

('A`)「……ごめん」

 大学の情報網というのは案外個人と密接なのだ。次の日に、ばれるとは。それともあのこが意図的にばらしたのかな?
 疑えば、きりがない。

(*゚ー゚)「言い訳は、ないの?」

('A`)「……言い訳して許してくれるのか?」

(*゚ー゚)「そうだね。もう聞きあきた。それにそっちも言いあきたでしょ」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:12:12.60 ID:rrp/OMEOO
 何も言えずに、外に目をやった。ふと、目につくもの。
 傘を忘れてしまったのだろう、屋根の下で立ち尽くす少女の姿。黒髪がびっしょりと濡れて水滴が滴っている。それがひどく美しいものに見えて、俺は黙って目を逸らす。

(*゚ー゚)「……いつになったら、好きになってくれるの?」

 しぃの声は、雨音にかきけされてしまうくらい小さかった。

('A`)「……え?」

(*゚ー゚)「それは、もうないのかな。ずっと、ないんだろうな」

('A`)「俺は、俺はしぃが好きだよ? ほんと、優しくしたいって思うし。今回は、ちょっと迫られて断りきれなかっただけで……」

(*゚ー゚)「ドクオ君」

 空気が、ぴんとする声だった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:18:00.06 ID:rrp/OMEOO
(*゚ー゚)「それは、好きとは言わないよ」

 しぃは、目をつぶる。

(*゚ー゚)「それは、それはね」

それは――って、言うんだよ

 雨音と、嗚咽。



「あんた、さっきまでどんな夢見てたんだ?」

 ウィンナーを頬張りながら、ジョルジュが言う。まだ頭が覚醒しきっていない。俺は聞かれるまま答えてしまう。

('A`)「…昔の、しぃと別れた時の…夢見てた」

( ゚∀゚)o彡゜「へー、朝からヘビーなもん見ちゃったな」

('A`)「ほんとだよ……って!」

 ようやく、目が醒めてきたようだ。この状況、いろいろ突っ込みどころがありすぎる!

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:29:07.44 ID:rrp/OMEOO
('A`)「なんで、お前が、朝っぱらから、俺の家に、いるんだ!」

 ジョルジュは両手で耳をふさいで、黙ってウィンナーを飲み込んだ。いい年こいて、ちょっと引く動作だ。

( ゚∀゚)o彡゜「……そりゃ、アンタ。俺たち昨日夜まで……」

('A`)「ふざけんな! なんもやってねーだろ! 誤解を招くようないいかたすんな!」

( ゚∀゚)o彡゜「なんだか過剰反応しすぎじゃあねえの? 照れんなって」

('A`)「だーかーら、なにやったってんだよ!」

( ゚∀゚)o彡゜「キスたくさんしたじゃねえか」

 頬がかぁっと熱くなる。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:34:38.24 ID:rrp/OMEOO
('A`)「そ…れ……は」

 独里ドクオ、二十七歳。会社の違う課の後輩、長岡ジョルジュに弱味を握られ、おまけにゲイなこいつに体を狙われている可哀想な男だ。
 昨日も無理やり家に居座られ、共に朝ご飯をつついている。
 おいおい、これまずいんじゃあないか。常識的に考えて、いかんだろ。
 いくら流され上手だからといって、男に流されてどうするんだよ。

('A`)「それと、なんでお前がちゃっかり朝飯つくってんだよ! あとそこのスーツ一式はなんだ、なんなんだ!」

 だが現実というのは、流されればそれなりに適応するものである。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:44:53.71 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「そりゃあ、愛情たっぷりの朝飯でハートをゲット、みたいなよぉ」

('A`)「卵とウィンナー焼いただけじゃねえか」

 すごいものだ。最初は苦手だったこの男とも、なんだか馬があうことが判明したし、こうやってほぼ同棲みたいな生活もなんだかんだ楽しい。

( ゚∀゚)o彡゜「それとスーツ一式ってのは、先輩をかっこよく見せたいからよ。ワイシャツとネクタイ選びに苦労したっつーの」

('A`)「通い妻かよ……」

 かっこよく見せる。そのわりにはなんだかちぐはぐした組み合わせのように思える。
 着るのはやめておこう。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:48:33.79 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「そういえば、今日そっちの課に新しい子くるんだっけ?」

('A`)「そう、優秀な人材らしい」

 先に見た課長は、絶世の美女だ、なんて騒いでたな。まあなんにせよ社内の雰囲気が明るくなることは間違いないだろう。

( ゚∀゚)o彡゜「これでまたアンタ流されちゃうのかな。若い子に、かっこいいです係長、なんて言われてさ。ころっとホテルにゴーって」

('A`)「そんなことは…ないよ」

 はっきりと否定できないのが辛い。ああ、そうさ。俺は流される達人だ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:54:29.41 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「つか、早く支度しないと遅刻だぜ。急げよおっさん」

('A`)「おっさんで悪かったな。……なんなら先に行けよ」

 ジョルジュは黙ってネクタイをしめる。

('A`)「やっぱ一緒に行くつもりだったのかよ」

 俺は溜め息をして、残りのトーストを頬張った。



 会社に着くと、想像通り社内は浮かれモードだった。課長から噂をききつけた後輩は、いつもより早い出社で、ワックスも決まっている。

「もう、男共みーんなしてにやけっぱなしなんですよ!」

 女子社員がコーヒーと共にやってくる。礼を言って受けとる。

「係長はそんなことないですよねぇ? ぜーんぜん浮かれてないですよねぇ?」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 18:58:42.19 ID:rrp/OMEOO
 曖昧に苦笑いで返した。それを見た女子社員は、「もう!」とぷりぷり机に戻ってしまう。

('A`)「絶世の美女、ねえ」

 ひとりごちて、ノートパソコンを起動した。今日のスケジュール、夕方から歓迎会、だったっけか。おいおい、いきなりだな。

 今日はジョルジュと帰るのは無理そうだ。いや、まさかあいつ歓迎会に着いてきたり……。いやいやいや、それは俺の考えすぎだ。いくらあいつだからって。

('A`)「……」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 19:03:47.18 ID:rrp/OMEOO
 ちょっと、ぞっとした。
 ジョルジュのことをあれこれ考えすぎなんじゃないか。そりゃあ、あんだけ日常的にくっつかれたら嫌でも思い出すのはおかしくはないだろう。
 でもなぁ…。なんだろう、俺の常識がどんどん壊されていくような気がする。
 愛されている、というのを嫌というほど実感させられて、俺は今宙ぶらりんな状態だ。
 世間体と、受け入れる気持ち。
 あぁ、なんだかな。



「おーい、起きてるか?」

('A`)「え?」

 いつのまにか課長が横にいた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 19:10:29.04 ID:rrp/OMEOO
('A`)「あああ、おはようございます! 起きてますよ、そりゃばっちり!」

 課長はにやにやと笑う。完全に寝てたと思われた。
 こそっと、課長が耳元で話し出した。

「新人、きてるから迎えにいってくれるか? 会議室に待たせてるんだ。しばらくはドクオ君の下で働かせるから、あるていど先に話しておいたほうがいいと思ってね」

('A`)「了解です」

 俺も囁き声で返す。あいつらに聞かれたら、猛突進してきそうだ。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 19:23:19.10 ID:rrp/OMEOO
('A`)「須直、クーさんだったっけか」

 向かう途中、ふと窓を見た。いい天気だ。
 青空に、雲がほどほどに浮かんでいる。『雲ひとつない青空』より、こんなありきたりな空の方が好きだ。

 会議室の扉をノックして、そうっとドアノブに手を伸ばした。すると、自然に扉が開かれた。あっちが開けてくれたらしい。

('A`)「おはようござ――」

 俺は、息を飲んだ。

川 ゚ -゚)「おはようございま――」

 あっちも、そのまま、顔が固まった。

 覚えている。
 二ヶ月前、電車で、痴漢で、それで――

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 19:29:46.71 ID:rrp/OMEOO
('A`)「久しぶり、久しぶりだよな? 俺の思い違いかな、覚えてる、二ヶ月前……」

 興奮気味に話してしまったせいか、彼女は呆気にとられた顔をしている。
 おい、まさか俺の思い違いじゃあないよな。だとしたら、ものすごく不審者じゃないか。

('A`)「あの、その、すみません……人違いかも……」

 途端、彼女がにっこりと笑いだした。今度呆気にとられたのは、俺のほうだ。

川 ゚ -゚)「二ヶ月前前電車で助けてくださった方ですよね? お久しぶりです、本当に、あの時はどうもありがとうございました」

('A`)「いや、助けただなんて。それにしてもまさか期待の新人が君、須直さんだったなんて」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 19:36:55.41 ID:rrp/OMEOO
 純粋に嬉しさを感じていた。あの時、もう一度会えればと考えていたんっけ。絶対に有り得ないことだと笑ったが、まさかこんなかたちで実現するとは。

川 ゚ -゚)「私こそ、新しい職場にあなたがいて安心しました。これから宜しくお願いします」

 須直さんが、俺の前に名刺を差し出す。

川 ゚ -゚)「遅れました。須直クーと申します。これから、宜しくお願いします」

 こちらも名刺を取りだし、渡した。

('A`)「独里ドクオです。宜しく」

 そうして、どちらともなく握手を交わす。
 この人とは上手くやっていける。
 俺は、そう確信した。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 19:41:31.31 ID:rrp/OMEOO



****


('A`)「ただいま」

 返事がない。ああ、今日はあいついないのか。

('A`)「って、元々独り暮らしだろ。なにやってんだ俺は」

 『ただいま』の癖がついてしまった。そのぶん、返されない悲しさがある。

('A`)「メール、二件来てる」

 ソファーに寝そべって、携帯を開いた。スーツにしわがついてしまうかも、と頭の片隅で思ったが、酔っ払いの気だるさには勝てない。

('A`)「ジョルジュから、か」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 19:46:11.22 ID:rrp/OMEOO
('A`)「……今日はそっち行けません。寂しいでしょうが我慢してください。……ふざけんな」

 メール削除、削除と。あともう一件は――須直さんから、だ。
 思わず起き上がってメールを開いた。

('A`)「『今日は歓迎会ありがとうございました。一人前になるまでご迷惑をおかけすると思いますが、宜しくお願いします』」

 なぜだか、心臓が跳ねた。鼓動が大きく脈打つ。しばらくディスプレイを見つめてしまう。

('A`)「しっかりした子だった、やっぱ……」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 19:51:11.69 ID:rrp/OMEOO
 今日の歓迎会は、大成功だった。男性社員がはしゃぎすぎて早々に酔っ払うというハプニングがあったものの、しっかりものの女性社員がそれをフォローしたりと、課の団結が高まった。
 須直さんは最初、戸惑っているようにも思えた。だが最後には冷静な突っ込みを浴びせられるくらいの、素の一面を見せてくれた。

('A`)「来てくれて、良かったなぁ」

 まだ一日目とはいえ、飲み込みは早いし、要領もいい。
 彼女が来てくれたことが課のプラスになるのは、間違いないだろう。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:00:14.94 ID:rrp/OMEOO
('A`)「メール、早く返そう……」

 久々に気分が高揚している。酒のせいだろうか。ぽかぽかして、気持ちいい。

('A`)「須直、クー……」

 呟いて、目をつぶる。途端にぐらぐらと目が回りはじめた。
 なんだか、深く眠れそうだ。

 久々の一人の夜は、幸福だった。



****



川 ゚ -゚)「独里さん、今度の打ち合わせの件ですが」

('A`)「あー、そろそろ須直さん一人でも大丈夫かなって」

 月日が経つのは早い。あっという間にクーさんはすっかり会社になじみ、それに伴ってぐんぐんと信頼も増していく。

川 ゚ -゚)「ありがとうございました。ここまで早く仕事を任せてもらえるとは思いませんでした」

('A`)「須直さんが、優秀だからだよ」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:06:16.70 ID:rrp/OMEOO
 須直さんは、にっこりと微笑んだ。
('A`)「……」

 しばらく経ってから気づいたのだが、須直さんはあまり笑わない。だがらそのぶん、笑った時のギャップが、こう、非常にかわいく思える。

川 ゚ -゚)「では、失礼します」

('A`)「あ、あのさ」

 首を傾げたその姿も、可愛い。ああ、なんだかこの部屋暑くないか?

('A`)「今度、飲みにいかないか? 俺の驕りで」

川 ゚ -゚)「お断りします」

 即座の返事。

('A`)「あ、…そうだな、変なこと言ってすまなかった」

川 ゚ -゚)「いえ。………私の驕りなら、行かせて頂きます」

('A`)「え?」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:11:09.18 ID:rrp/OMEOO
川 ゚ -゚)「だって、前にタクシー代奢って頂いたし、しかもその時お釣たくさんだったし」

 須直さんは、頬を膨らませる。

川 ゚ -゚)「なので、今度こそ」

('A`)「ああ、……うん」

 俺が頷くと、にっこりと笑う。それだけの動作なのに、胸が高鳴る。

川 ゚ -゚)「では、来週で宜しいですか?」

('A`)「そうだね、今週はお互い忙しいし」

川 ゚ -゚)「では、今日帰ったらメールします」

 そう言って机に戻っていく。

('A`)「……」

 来週が、待ち遠しい。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:16:47.49 ID:rrp/OMEOO


 家に帰ると、ジョルジュがいた。しかも、なぜか膨れっ面だ。

( ゚∀゚)o彡゜「……おかえりなさい」

('A`)「ただいま……なんだよ、暗いな」

( ゚∀゚)o彡゜「いい感じだそうじゃないですか」

 どこから聞き付けてきたのか。

('A`)「もしかして、須直さんのこと?」

( ゚∀゚)o彡゜「他に誰がいるんだよ! もー、せっかく最近流されてないのに! まーた警戒しないと駄目なのかよ!」

('A`)「おいおい、須直さんとは別にそういうんじゃないって。迫ったりするような、そんな子じゃないよ」

 ジョルジュは納得できない、という顔だ。

( ゚∀゚)o彡゜「まーいいや」

('A`)「ん?」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:22:30.91 ID:rrp/OMEOO
 後ろから、抱きすくめられる。しかも強い力で。おい、嫌な予感がするぞ。

('A`)「おま、離せよ」

( ゚∀゚)o彡゜「既成事実、うん。大事だよなぁ」

('A`)「はぁ?…――あ」

 首筋に口づけられる。思わず身をすくめた。ジョルジュはそれでも、強く吸い続ける。

('A`)「馬鹿野郎、あとがつく……」

( ゚∀゚)o彡゜「……」

 腰を掴んでいた、ジョルジュの両手が少しずつ下がっていった。そして、気がつけばベルトを外す作業にとりかかっているではないか。

( ゚∀゚)o彡゜「かっちり締めやがって、とりにくい」

('A`)「とらなくていいんだよ、とらなくて!」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:26:29.29 ID:rrp/OMEOO
 そうこうしてる間にベルトが、ソファーに投げられた。瞬時にスラックスに手が突っ込まれる。

('A`)「触る…な…あほ」

 くにくにと揉まれる。遊んでいるような、稚拙な触り方。でも、そこは正直なのだ。男の、一番正直な場所なのだ。

( ゚∀゚)o彡゜「ちょっと固くなってる」

('A`)「ほら、ばか、もういいだろう、離せ!」

( ゚∀゚)o彡゜「これからが本番なんだよ、ばーか」

 スーツを脱がされ、ベッドへと引っ張られる。

( ゚∀゚)o彡゜「まあ、されるがままでいいだろ。流されときゃ」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:34:06.95 ID:rrp/OMEOO
('A`)「こら、はなせ!」

 聞く耳もたずのこいつは、黙ってスラックスを引き抜く。そのままボクサーパンツも膝辺りまで下げられた。

( ゚∀゚)o彡゜「得意分野だろ、こんなん」

('A`)「なにを…ひっ」

 温かいなにかが、竿を包み込む。

('A`)「あ、あ…おま…」

 ジョルジュは俺のペニスを口に含み、唾液で濡らした。口から出した時にはしっぽり状態。それを、今度は舌でタマから舐めだした。

('A`)「う、…あ、……あ」

 ぐらぐらと視界が回る。立っていられずに、ベッドにもたれかかった。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:39:43.63 ID:rrp/OMEOO
('A`)「あ、…そ…ん…ああ…」

 もう、口から抵抗の言葉なんて出なかった。
 気持ちが良かった。女にしてもらったときも、もちろん良かった。でも、こいつのとは違う。こいつは、本当に愛おしそうに舐める。

( ゚∀゚)o彡゜「……ん」

('A`)「ジョル…ジュ」

 陶酔しきったジョルジュの顔。それが殊更俺を煽る。

('A`)「だめだって、でる…から」

( ゚∀゚)o彡゜「ん、…」

('A`)「ジョルジュ、……ほんと、まずいって……もう……」

 あっけなく、決壊。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:44:10.56 ID:rrp/OMEOO



( ゚∀゚)o彡゜「なに小さくなってるんだよ」

 俺は、隅っこで体育座りをしていた。ごくごくとビールを飲みながら、そんな俺を、ジョルジュが笑った。

( ゚∀゚)o彡゜「女にやられたのとかわんねえだろ。そんな鬱になることねーだろ」

('A`)「お前は…飲んどいてよくそんな元気でいれるな…」

( ゚∀゚)o彡゜「ふろあがりのビールはうまい! おっぱいおっぱい!」

('A`)「……はあ」

 今までキスだけだったから。アメリカみたいなもんだと、キス自体を深く考えないようにした。
 でも、フェラは…フェラは一線を越えてしまっただろう。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:49:57.66 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「風呂はいんねーの? ビールうまいよ」

 風呂、風呂ね。入るよ。いつまでもこうしててもしょうがない。

( ゚∀゚)o彡゜「ヘルスみたいなもんだと考えろって、そんな考えずにさ」

('A`)「軽いぞ、なんか」

 ジョルジュは大声で笑い出した。

( ゚∀゚)o彡゜「平気で不倫しちゃう人の口から出た言葉とは思えねえなあ」

('A`)「うるさい、それとこれとは話が違うだろ」

 しかし…一理ある。これ以上突っ込まれても分が悪い。早く風呂に入ろう。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 20:55:38.25 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「……なあ」

('A`)「ああ?」

 真剣な顔で言われた。

( ゚∀゚)o彡゜「愛してる」

('A`)「……」

 俺は、俺はなんて返したらいいんだよ。



****



川 ゚ -゚)「お疲れ様です」

('A`)「お疲れ、今日も忙しかったな」

川 ゚ -゚)「この時のために頑張りました。今日はお酒飲ませて頂きます。一週間禁酒しましたので」

 須直と、約束した日がきた。この何日かで『須直さん』から『須直』になり、確実に距離は縮まっていた。
 須直はなにかあると俺を頼ってくれるし、笑う回数も増えた。
 それが、嬉しい。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 21:21:28.45 ID:rrp/OMEOO
('A`)「どこ行く? 酒なにが好き?」

川 ゚ -゚)「焼酎」

('A`)「ははっ、顔に似合わない」

川 ゚ -゚)「……まだ童顔だって言いたいんですか?」

('A`)「いえ、すみません…ん」

 着信音が響く。須直は私じゃない、とかぶりをふった。じゃあ俺か。
 公衆電話からだった。

('A`)「――もしもし」

( ゚∀゚)o彡゜「もしもし、俺です。長岡です」

('A`)「なんで公衆電話からなんだよ」

( ゚∀゚)o彡゜「充電切れちゃったんすよ」

 須直はホットペッパーをとってくると、ショッピングモールの中へと入っていった。
 俺は入口の壁にもたれる。

('A`)「で、どうしたんだよ」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 21:25:14.38 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「いや、今日家いるかなって。俺これから地元のやつと野球なんすよ」

('A`)「ふーん、いってこい。俺のことは気にすんな」

( ゚∀゚)o彡゜「つめてえ、つめてえよ。あ、さては女だな」

 なんでこんなに勘がいいんだ。

('A`)「それがなんだよ」

 視界の隅に、須直がこちらに向かっているのが見えた。

( ゚∀゚)o彡゜「否定しないのかよ。なんて最低なやつだ」

('A`)「はいはい、どうせ俺は最低な男ですよ」

( ゚∀゚)o彡゜「はぁー、また流されていっちゃうのか。まあしょうがねえ。あんた、ここ最近かっこいいし」

('A`)「…あほ、なにいってんだ」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 21:28:57.45 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「かっこいい。愛してる。大好き」

('A`)「……切るからな」

 有無を言わさず、電源ボタンを押してやった。
 須直はホットペッパーを見ながら、俺に聞く。

川 ゚ -゚)「彼女か?」

('A`)「ええ?」

 気づいたように、言い直した。

川 ゚ -゚)「彼女さんですか? …すみません、また素が出てしまいました」

('A`)「いや、二人の時は敬語はいいよ。年近いし、結構」

川 ゚ -゚)「……いいんですか?」

('A`)「ああ」

川 ゚ -゚)「じゃあ、遠慮なく。ドクオ、質問に答えろ」

 いきなりドクオかよ!

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 21:36:32.97 ID:rrp/OMEOO
 だけど、ちょっと嬉しいのでそのままにしとおこう。

('A`)「彼女…じゃないよ。ただの同僚」

 彼女じゃない。うん、彼女ではない。チンコついてるやつは彼女にはなれない。

川 ゚ -゚)「ふうん。なんか親密そうだったが」

('A`)「気になるのか?」

 須直が微かに身動ぎした。

川 ゚ -゚)「ドクオももう二十七らしいじゃないか。そろそろ結婚だろ? 相手がどんな人かは興味ある」

('A`)「……彼女は、いないから」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「ほんとだよ、クー」

 クーがはっと、こっちを見た。まさか、自分が俺のこと『ドクオ』って呼んでいたの気付いていなかったんじゃあないだろうな。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 21:47:57.86 ID:rrp/OMEOO
川 ゚ -゚)「そりゃあ、良かったよ」

('A`)「どういう意味だ」

川 ゚ -゚)「別に」

 クーが情報誌に視線を落とす。
 心なしか、声が上ずっていたように思うのは、俺の願望か?

('A`)「そもそも、結婚なんて」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「できるような男じゃないんだ」

川 ゚ -゚)「……おい」

('A`)「さて、さっさと店入るか。焼き鳥うまい店あるんだけど、どう?」

 慌てて話を切り替える。まずい、口がすべった。
 クーといると、なんでも話してしまいそうになる。変な感じだ。

川 ゚ -゚)「……カシラは、あるか?」

('A`)「カシラ? 多分あったような」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 21:55:33.39 ID:rrp/OMEOO
川 ゚ -゚)「じゃあ行こう」

('A`)「お、おう」

 不思議な子だ。
 だから、こんな奇妙な安堵をしてしまうのか。だから、こんなに、……こんなに?
 こんなに、なんだよ。



川 ゚ -゚)「焼き鳥ほんとにうまいな」

('A`)「焼酎と焼き鳥あう?」

川 ゚ -゚)「焼き鳥は焼き鳥。焼酎は焼酎」

('A`)「なるほど」

 テーブル席はどこも埋まっていて、にぎやかな雰囲気だ。クーも焼き鳥を気に入ってくれたようだ。
 焦って連れてきた店がジョルジュと……した場所だったことはさておき、喜んでもらえて良かった。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:02:16.16 ID:rrp/OMEOO
('A`)「クーはさぁ」

川 ゚ -゚)「んー」

 本当に美味しそうに食べている。酒より焼き鳥の消費の方が早い。

('A`)「彼氏とかいるのか?」

川 ゚ -゚)「いない」

 即答。

('A`)「あっそ、いないんだ」

川 ゚ -゚)「まあいなくたってねえ、人生どうにでもなる」

('A`)「だな」

 酒が、うまい。焼き鳥も、うまい。今日はいい夜だ。明日も頑張ろう。

「ジョルジュ、なにオウンゴールしてんだよ」

「すまんすまん、なんか方向感覚狂っちまってよ」

('A`)「…ん?」

 聞き覚えのある声だ、名前だ。しかし、なるべくなら聞きたくなかったものだ。
 こんなに人がたくさんいるんだ。もしかしたら聞き間違えかもしれない。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:07:56.89 ID:rrp/OMEOO
 聞き間違いであれ。ん、あの後ろ姿、見覚えがある。いや、気のせいだ。気のせいであれ。

川 ゚ -゚)「ドクオ、変な汗かいてるぞ」

 桃色のフリルつきのハンカチを手渡された。有難いが、今は俺の名前を出さないでほしい。

「ん、ドクオぉー?」

 ほら、感づかれた。

「どうしたの?」

「いや、知り合いの名前がさ」

「なんそれ」

「聞こえたんだよ。なかなかある名前じゃないし」

 どうか、見つかりませんように。
 ああ、どうせなら個室にしておけばよかった。でも初めての飲みで個室というのは、狙っていると受け取られないだろうか。
 いや、そんなことよりだ。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:13:30.55 ID:rrp/OMEOO
 早く、どこかに行ってくれ――

( ゚∀゚)o彡゜「おい」

 あいつの声が後ろから聞こえてきた。しかも、かなり近いところから。
 恐怖で背中が固まる。振り向けないままでいると、肩を掴まれる。

('A`)「ひぃっ…」

( ゚∀゚)o彡゜「よう、楽しそうだな。え?」

 見つかった。私服姿のジョルジュは、にたにたと嫌な笑いを浮かべながら、無理やり俺の隣に座った。

( ゚∀゚)o彡゜「席がないんで、ご一緒してもいいでしょうか? 困っていまして」

 すごい態度の変わりようだ。クーも微笑みながら「どうぞ」と言う。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:17:43.71 ID:rrp/OMEOO
(´・ω・`)「じゃあすみません。お言葉に甘えます」

 ジョルジュの友達らしい、控えめな顔をした男がクーの隣に座る。
 なんなんだこれは。

( ゚∀゚)o彡゜「こいつ、高校からの友達のショボン」

(´・ω・`)「宜しく」

 ショボンはにっこりと笑った。

( ゚∀゚)o彡゜「で、紹介はないのか? ああ?」

 俺はしぶしぶクーを紹介する。

('A`)「同じ企画課の須直さん。こいつは、営業課のジョルジュ」

川 ゚ -゚)「知っています。何度か擦れ違ってますよね」

( ゚∀゚)o彡゜「だよね。俺もそう思った。すごい美人がいるって話題になってたからさ。もしかしたらなって、ずっと思ってたんだ」

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:24:43.37 ID:rrp/OMEOO
川 ゚ -゚)「…口がお上手なんですね」

( ゚∀゚)o彡゜「いや、本気。本当にそう思ってるから」

('A`)「…」

 これはまずい、まずいぞ。
 下手になにか言われてみろ。事態は最悪だ。
 ここは、ジョルジュ一行に早くお引き取り願うしかない。空気を読んでもらおう。

川 ゚ -゚)「驚きだ、ドクオとジョルジュさんが友達だったなんて」

('A`)「そ、そうか?」

( ゚∀゚)o彡゜「俺も驚きだよ? こんな短い間で『ドクオ』呼び。よっぽど親しいんだなー」

 ジョルジュに肘で押される。俺は笑いながら梅酒を一口。ジョルジュ、足踏んでるんだけど。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:27:42.53 ID:rrp/OMEOO
川 ゚ -゚)「私も、ドクオとこんなに早く仲良くなれるとは思わなかった」

('A`)「あー、俺もだよ」

(´・ω・`)「よっぽど親しいんだね。もしかして恋人同士なの?」

 ジョルジュ、足をがんがん振り落としてくるのはやめてくれ。

川 ゚ -゚)「そっ、そんなんじゃ、ない」

 顔が赤いのは酒のせいだろうか。

( ゚∀゚)o彡゜「でもマンザラじゃなかったりしてなー」

 クーの顔がさらに赤くなる。ほんと、いい加減にしてくれ。あと足が痛いよ。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:30:59.98 ID:rrp/OMEOO
川 ゚ -゚)「ドクオは、いい人だよ。私を痴漢から助けてくれたし、課の人からは慕われてるし」

('A`)「はは、ありがとう」

 隣の男の目が、まるで猛禽類みたいに鋭くなった。いやな予感しかしない。

( ゚∀゚)o彡゜「いい人、確かにいい人だな。ドクオは」

(´・ω・`)「へえ、すごいね。部下がいるってどんな感じなんだろうなぁ」

 ナイスだ、ショボンさん。

('A`)「ショボンさんは何のお仕事されてるんです? 部下がいないってことは、自営業?」

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:34:58.01 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「バーテンダーやってんだよ。自分の家改造して開いたバーボンハウスで」

('A`)「へえ、すごいですね。お酒詳しいんですか」

(´・ω・`)「まあ人よりは詳しいと思うよ。でも、実のところ洋酒より焼酎のほうが詳しかったりするんだ」

川 ゚ -゚)「焼酎? 私、焼酎大好きなんだ。君の店には焼酎たくさんあるのか?」

(´・ω・`)「あるよ、是非きてくれ。サービスするから」

川 ゚ -゚)「本当か?」

 クーの目が輝いている。

( ゚∀゚)o彡゜「あー、じゃあ俺とドクオちょっとタバコ吸ってくるわ。ここの居酒屋、基本禁煙だからよ」

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:38:50.48 ID:rrp/OMEOO
('A`)「え、俺は」

( ゚∀゚)o彡゜「さー行こうぜ、ドクオ」

 肩を組まれて連れられる。ああ、この後が怖いよ。


 喫煙所は出口に近いスペースにあった。幸いというべきか不幸にもというべきか、客は一人もいない。
 ジッポーで煙草に火をつけ、ジョルジュは大きく息を吐いた。

( ゚∀゚)o彡゜「で、説明してもらおうか」

('A`)「説明って、なんのだよ」

 ずいぶん前に煙草をやめた俺は、今では煙が少し苦手だ。

( ゚∀゚)o彡゜「女をよりにもよって俺とあんたの記念すべき場所に連れてきた理由だよ!」

 嫉妬深いのか、案外。

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:43:17.05 ID:rrp/OMEOO
('A`)「理由なんか、ないよ。ちょっと慌ててたらここが思い浮かんだだけだ」

( ゚∀゚)o彡゜「なんだよそりゃ、バカ、最低だ」

('A`)「そんなに怒ることないだろうよ」

 煙が揺らぐ。一本の道のようになる。

( ゚∀゚)o彡゜「あんた、最近女と寝ないから安心してたのに」

('A`)「言っとくけど毎日やってたわけじゃないからな、元々」

( ゚∀゚)o彡゜「それでも、嬉しかったのによ。俺の気持ちを少しは理解してくれたのかなって」

('A`)「理解もなにも…ゲイじゃないし…」

( ゚∀゚)o彡゜「フェラで感じてたくせに」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:47:29.35 ID:rrp/OMEOO
('A`)「そりゃ…自然反応っていうかさ」

( ゚∀゚)o彡゜「はいはいそりゃ触られりゃ勃起しますよ」

('A`)「声が大きいんだよばか!」

 いくら席から離れているからといって、でかい声でしゃべったら注目される。世間様にばれたらどうすんだよ。

( ゚∀゚)o彡゜「傷ついた」

('A`)「はあ? うるせーいいから戻るぞ」

( ゚∀゚)o彡゜「キスしてください」

 時間が一瞬止まる。

('A`)「お前、頭、大丈夫?」

( ゚∀゚)o彡゜「大丈夫じゃねえ。嫉妬で狂いそうだ。キスでもしてくれないとあっちでなに喋るかわからない」

('A`)「……最低なのはお前だろ」

 ゆすりじゃないか、こんなの。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:51:58.02 ID:rrp/OMEOO
( ゚∀゚)o彡゜「な、いいじゃん。ほっぺほっぺ。ちょっとだけ」

 酔ってる。こいつ絶対酔ってる。

( ゚∀゚)o彡゜「減るもんじゃねえだろ。な、早くしねえと不信に思われるぜ」

 最低だ、本当にこいつ。くそ、くそ。こんなの強制みたいなものじゃないか。

 周りを見る。よし、誰もいない。
 確認して、すぐさま頬にくちづけた。

('A`)「…ほら、戻るぞ」

( ゚∀゚)o彡゜「はい、先輩」

('A`)「くそ」

 胃が痛いよ。あっちに戻ったって、安らいで酒を飲めるとは到底思えない。

('A`)「はあ」

 ため息しか、俺の気を紛らわしくれるものはなかった。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 22:57:17.18 ID:rrp/OMEOO



(´・ω・`)「うい〜、あはは、空がぐるぐるしてる〜。ちょうちょが〜ちょうちょが〜」

 あれから三時間。結局最後までメンバーの変わらぬまま、大いに酒を飲んだ。
 そのなかでもショボンさんはうんちくを語りながらたくさん飲んだせいか、トリップしてしまっている。でも、俺も同じくらい飲んだんだよなあ。

川 ゚ -゚)「バーテンダーが酒に弱いって大丈夫なのか?」

 それは俺も思っていた。

 居酒屋を出た後の夜風は、本当に気持ちがいい。外灯と明るい看板が夜の街を彩る。人もまばらになっていた。

(´・ω・`)「あ〜、掘りたい。掘りたいよう」

( ゚∀゚)o彡゜「だめだ、こいつ完全に酔ってるわ。俺送っていきます」

 二人はもたれるように歩き出した。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 23:02:30.63 ID:rrp/OMEOO
('A`)「気をつけて帰れよ」

 ジョルジュはひらひらと手をふった。

('A`)「じゃあ、俺たちも帰るか。終電間に合うかもしれないし」

川 ゚ -゚)「そうだな、歩こう」

 クーはすっかり上機嫌のようだ。バーテンダーと約束が取れたからだろうか。

('A`)「良かったな、これから焼酎たくさん飲めるじゃないか」

川 ゚ -゚)「ああ。楽しみた。居酒屋というのはいいな。いろんな輪が広がっていく」

('A`)「だなあ」

 クーは、あの男が気に入ったのだろうか。仕切りに話題に出してくる。
 俺たちが喫煙所に行っていた間、たくさん話したんだそうだ。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 23:09:43.44 ID:rrp/OMEOO
('A`)「いいな、クーはお気に入りの店を見つけられそうで。俺はどうしようかな」

川 ゚ -゚)「なに言ってんだ。一緒に行くんだよ」

('A`)「え?」

川 ゚ -゚)「いや、一緒に行こう。約束だ。また飲みにいこう」

 小指が差し出される。おずおずと、それに絡めた。

川 ゚ -゚)「約束だからな」

('A`)「ああ」

 酔ってるんだな、二人とも。子供じみたこんな行動が、とても楽しい。

川 ゚ -゚)「はは、楽しみだ」

 もっと仲良くなれたらいい。心からそう思うよ。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 23:31:12.37 ID:rrp/OMEOO



***


 初夏だ。初夏といえど、蝉はなくわアスファルトは揺らいで見えるわ、すっかり猛暑だ。

川 ゚ -゚)「明日六時、会社玄関で」

('A`)「了解」

 あれから、ショボンさんのバーの常連になった。ショボンさんの店は、これぞまさしくバーという感じの雰囲気だ。ジャズ音楽が別世界を感じさせ、人々はリラックスする。
 バーは現実逃避の場、なんて言うがまさしくその通りだと思う。
 ゆったりとした空間は自然と気持ちを前向きにしてくれる。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 23:37:18.91 ID:rrp/OMEOO



('A`)「なー、ジョルジュ」

 クーラーと扇風機のダブルコンボアタックを浴びているジョルジュは、なぜか毛布にくるまっていた。本人いわく、この背徳感が良いのだそうだ。

( ゚∀゚)o彡゜「なんだ?」

 ごろごろと床を転げている。すっかりとこの家に居着いてしまった。毎日、ほぼ泊まっているという具合だ。

('A`)「一つ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

( ゚∀゚)o彡゜「なんだよ、さっさと言え」

 口に出すのが恥ずかしいのだが、勇気を振り絞って聞いてみる。

('A`)「なあ、人を愛するってどんな気持ちだ?」

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 23:42:47.93 ID:rrp/OMEOO
 ゆっくりとジョルジュが起き上がった。そのままぎゅっと抱き締められる。

( ゚∀゚)o彡゜「愛するってのは、こんな感じ」

 そのまま頭を撫でられる。

( ゚∀゚)o彡゜「ずっとそばにいたい。セックスしたい。抱き締めたい。――欲求と衝動の塊が愛だよ、ドクオ」

('A`)「愛は、辛くないのか?」

( ゚∀゚)o彡゜「ドクオは、人を愛したことがないのか?」

 考える。
 俺は、ジョルジュが今言ったような気持ちになったことがない。
 求められれば応える。好きだと言われれば優しくしたくなる。
 けどそれば受動の結果で、衝動的なものはなにひとつなかった。

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 23:47:06.55 ID:rrp/OMEOO
('A`)「お前が言う定義が愛だとしたら、ないな」

( ゚∀゚)o彡゜「そっか」

 さらに強く抱き締められた。

( ゚∀゚)o彡゜「でもよ、愛は、同時に耐え難いくらい寂しいんだ。悲しくて、飢えてしまう。愛は、怖いよ。俺にとっては」

('A`)「…ん」

 そのままキスされる。触れ合うだけの、子供の口づけ。

('A`)「珍しい」

( ゚∀゚)o彡゜「たまにはこんな気分になんの」

 ジョルジュは、そっと声のトーンを落とした。

( ゚∀゚)o彡゜「あんたを、俺はずっと愛すよ。理由は俺が作る。愛してるよ、ドクオ」

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/23(月) 23:52:01.78 ID:rrp/OMEOO
('A`)「……」

 返事はできない。
 お前が俺にくれて、そして求めてくれているものはとても大きい。俺には、大きすぎる。
 けれど、そばにいることならできるかもしれない。

 中途半端かな。でも、お前なら許してくれそうな気がするんだ。

 クー。
 クーはいま、なにを考えているんだろう。同じ時間軸を過ごしている君は、なにをしているんだろう。
 彼女は、人を愛したことがあるのだろうか。彼女もまた、辛い思いをしてきたのだろうか。

 俺は、俺はなんなんだろう。

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:06:47.45 ID:5nh3UR3mO



****


 待ち合わせは、会社のロビーだ。会議が長引いてしまって、少し時間が過ぎてしまった。

川 ゚ -゚)「こっちだ、こっち」

 相変わらず黒のスーツが似合う。夏なのに、頑張って毎日着ているのだという。夏だからこそ負けたくないのだそうだ。

('A`)「遅くなってごめん。長引いちゃって」

川 ゚ -゚)「いいんだ。お疲れ。ショボンさんからとっておきの芋焼酎が入ったと連絡が入った。さあ、行こう」

 微笑みながら頷く。
 芋焼酎は、実のところ好きではない。けれど彼女が勧める酒は驚くほどに美味しい。
 彼女と一緒だから、といいう理由が一番の原因かもしれないが。

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:11:40.48 ID:5nh3UR3mO
 二人並んで歩きだす。ショボンさんの店は会社から歩いて十五分ほどの場所にある。だからこうして、歩いていくのが決まりだった。

川 ゚ -゚)「そういえば少し髪を切ったんだ」

 まったく気づかなかった、なんて言ったら怒るだろう。

('A`)「そういえば、雰囲気変わったかも」

川 ゚ -゚)「すいただけなんだけどな。雰囲気、変わるか?」

('A`)「引っ掛けたな」

川 ゚ -゚)「別に、まあ男が気づいてくれる確率なんてごく僅かだ。気にしてないよ」

 その時、俺は見覚えのある後ろ姿を見た。茶色のふわふわした髪。小柄な体。
 その人が、こちらに振り向いた。

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:18:15.42 ID:5nh3UR3mO
('A`)「ツン、さん」

 気の強そうな瞳が、俺と、クーを見た。

ξ゚听)ξ「久しぶり。ずいぶん可愛い子連れてるのね」

 クーは、目線で説明を求めた。だけど、なんて言えば良いのかわからない。この人は昔不倫していて、俺が間男です。そんなこと、言えるわけない。

ξ゚听)ξ「あら、紹介しなさいよ。あたしのこと」

 それに従うしかなかった。

('A`)「この人は、取引先の奥さんの、内藤ツンさんだ」

 クーが会釈をした。

川 ゚ -゚)「今晩は。私、部下の須直クーです。宜しくお願いします」

 途端、ツンが笑いだした。

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:22:42.57 ID:5nh3UR3mO
ξ゚听)ξ「やだ、なによそれ。ちゃんと言いなさいよ。あんたが言わないなら、あたしが言ってあげる」

('A`)「やめてください、内藤さん。こんなところで…」

 俺の言葉なんかツンさんは聞いてくれなかった。俺が一番恐れていたことを、口にする。

ξ゚听)ξ「あたし、この人とセックスしたの」

 クーが、目を丸く見開いた。

ξ゚听)ξ「旦那とレスの時期にね、寂しくなってドクオ君にお願いしたの。抱いてって、そしたら抱いてくれたわ」

('A`)「やめろ…」

ξ゚听)ξ「でも、二回目のときに何故だかあっさり捨てられた。不倫だったからかな、彼には重かったのかも」

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:27:19.96 ID:5nh3UR3mO
('A`)「…やめ…」

ξ゚听)ξ「それで今、偶然再会したってわけ。ねえねえ、クーちゃん、あんたドクオ君の彼女?」

 クーは何も答えない。俺を見ようともしない。
 崩壊していく。崩れて、消えていく。

ξ゚听)ξ「気をつけなさいよ。こいつ浮気癖激しいって有名だったんだから。ちょっと誘惑されればすぐそっちに流されるの」

ξ゚听)ξ「何人泣かされたんでしょうね? 数えきれないんじゃないかしら? ともかく、ちゃんと首に縄しとかないとふらふらどっかいっちゃうわよ?」

ξ゚听)ξ「だってドクオ君、風みたいなものだもん。ふらふらふらふら。自分がないの。だから――」


川 ゚ -゚)「黙れ」

 クーは、静かに怒っていた。

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:31:51.97 ID:5nh3UR3mO
ξ゚听)ξ「あたしが言ったこと、本当よ」

川 ゚ -゚)「初対面のやつと、ずっと一緒にいるドクオ。どっちを信用すると思う? 無論、ドクオだ」

ξ゚听)ξ「あんた何も知らないのね、かわいそう」

川 ゚ -゚)「私にとってドクオは、私が知っているすべてだ。伝聞程度で、それは揺らぎなどしない」

 クー。
 クーは、どうして。

川 ゚ -゚)「私はいま、大切な人を侮辱されて怒っているんだ。早く帰ったらどうだ? 旦那が待っているぞ」

 ツンの顔がさっと赤くなる。痛い点を突かれたのだ。

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:36:27.77 ID:5nh3UR3mO
ξ゚听)ξ「あんた、すごくバカ。今に泣くはめになる」

川 ゚ -゚)「仮にそうなったとして、あなたにバカと言われる筋合いはない。さようなら、とっとと失せてくれ」

 反論の言葉を失ったらしい。ツンは、憎々しげに俺に吐き捨てた。

ξ゚听)ξ「この、最低男」

 ツンは踵を返した。やがて、雑踏にまぎれて見えなくなる。
 俺も、クーも、それまでずっと立ちすくんでいた。
 クーは、こっちを見てくれない。ずっとツンがいた方向を睨み付けている。

川 ゚ -゚)「……なんだったんだ、あの女」

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:41:28.40 ID:5nh3UR3mO
 気分が悪い、とクーは頭をかいた。

川 ゚ -゚)「ドクオ、ほら行くぞ。変なのに絡まれて大変だったな」

('A`)「…クー」

 クーは信じてくれているのだ。俺を、俺を信頼して、俺のために怒ってくれている。
 クーは強い子だ。
 そう思ったのは何度目だろう。
 クーはきっと、真っ直ぐに歩いてきたんだ。だから、人を信じれる。

 けれど、俺は?
 先ほどのことがすべて真実だと、肯定する勇気なんかない。
 けれど、嘘をつくのか。さっきのは女の妄言だったと嘘をつくのか。
 俺が、クーに、嘘を?
 そんなことはできない、じゃあどうする。俺は、どうする。

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:46:21.66 ID:5nh3UR3mO
('A`)「…クー、…俺は……」

川 ゚ -゚)「…ドクオ?」

('A`)「俺は……そんなんじゃない、俺は……」

川 ゚ -゚)「ドクオッ!」

 気がついたら、走っていた。クーから逃げるため、走っていた。

 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。けれど、それに答えることはできない。

―俺はまた逃げるんだな―

 走って、走って走って。クーの視界から消える。消えたい、消えない。誰か消してくれ。

―ドクオ君、それって―

―逃避っていうんだよ―

 そう、すべてから逃げてきたんだ。面倒なことから逃げて、逃げてここまできた。

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:52:33.71 ID:5nh3UR3mO
―あたしと別れることも、彼女たちを断るのも、全部面倒だったんでしょ?―

 すべてがそうだった。

―だから、ドクオ君は簡単に流されるの―

―現実からふわふわ逃げて、厄介ごとからも逃げて、面倒なことを避けて―

―ねえ?―

―わかる?―

―これが、逃げた先だよ―

―これが、逃げた結果なの―



 求めて欲しかった。俺を心から愛して欲しかった。
 可能性を際限なく求めて、また、逃げていた。
 そんな人はいるはずないと。
 けれども頭の片隅には希求する自分がいた。どうしようもなく欲深い自分は、面倒なことから逃げようと必死だった。

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 00:56:26.13 ID:5nh3UR3mO
 種をたくさん蒔いて、そのつど芽をとる。育てる煩わしさを疎み、破滅的な行為を繰り返していった。
 そして、結果が、これなんだ。

('A`)「ああ、あ、…あ」

 愛など知る必要はなかったんだ。
 それがあって、なんになる。なんにもならない。どうせ自分が摘み取ってしまう。

 明日が土曜日で良かった。その次の日が日曜日でよかった。
 ほら、逃避する。自分を追い詰めることから逃避して、現実からも逃避するんだ。

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:03:32.46 ID:5nh3UR3mO
 公園のベンチに、座る。ぼうっと星を眺めた。

 俺はこうしているのが一番似合う。逃避の先に、何も考えないですむ。
 

 なのに、どうして涙が止まらないんだ。どうして、悔しいんだ。

 理解して欲しかった。
 あの人にだけは、理解して欲しい。

 自分が情けないんだ。意思があるのに、それが惰性で流されていく。

 きっと明日から、俺はへらへら笑う自信がある。

 だって、さっきの痛みでさえもう薄れているんだ。
 明日には、きっとない。

―クーにはうまいこと言えばいい、それで大丈夫―


 大丈夫。

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:11:47.46 ID:5nh3UR3mO



****



 へらへらとは、笑えなかった。



川 ゚ -゚)「ドクオ、心配したんだぞ! 昨日は一体どうしたんだ」

('A`)「本当にすまなかった。今日、そのこと話すから。それよりすまん、休日潰してまで呼び出しちゃって」

川 ゚ -゚)「何のための休日だ。こういう時のために、使うものだ」

 ああ、クー。お前の強さを分けて欲しい。真っ直ぐさを、ください。

 今日、ここでもし許しをもらえたら、そういうこともあるさと笑ってくれたら。
 俺は辿り着ける気がするんだ。君の真っ直ぐさに。

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:16:30.39 ID:5nh3UR3mO
 俺は、酒の勢いもあって、クーに話した。
 最初は真面目に話していた。でも、後から怖くなった。そうしたら、笑えた。俺は笑いながら話した。


('A`)「でさ、ずっと昔から俺は流される天才だったんだ。女からの誘いを拒んだことはないし、かといって持ちかけるわけでもない」

('A`)「臆病なんだ。もし、拒否したらどんなことが待っているんだろうと考えたら怖くってさ。こんなやつ、他にいるかな。見たことないんだけど」

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:22:14.18 ID:5nh3UR3mO
('A`)「昨日ツンがいったことも全部本当なんだ。不倫だとわかっていても、まあいいかって。俺を求めてくれるならいいかなって。セックスだって避妊さえすれば後腐れもなくなるし、気持ちもいいし」

('A`)「しかもさ、俺、最近また流されたんだ。相手は男。もう、ありえないだろ? そいつは俺のこと好きだって言うんだよ。今までないくらいの、うん、愛、を感じるんだ」

('A`)「でもさ、俺、わからないんだよ。愛してもらっても、返せない。一緒にいることはできる。でも、気持ちだけはどうしてもわからなかった」

('A`)「好きになってくれるから、好きになるのか? 違うよな、俺はもうわからないんだよ」

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:27:17.45 ID:5nh3UR3mO
('A`)「こんな、男にまで流されて、不倫まで経験して。なあ、クー。お前には関係ないよな、でも、どう思うかな?」

 ずっと喋ったから喉がからからだ。梅酒を一口。

('A`)「関係ないとは、わかってるよ。でも、教えてくれ。俺がこんなんで、どう思った?」

 ようやく俺の口は閉まった。

 クーは、ゆっくりとこっちを見た。俺は息をのむ。全身から、クーの怒りが、伝わる。

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:30:20.99 ID:5nh3UR3mO
川 ゚ -゚)「関係ない、んだろう?」

 吐き捨てるように、クーは言う。

川 ゚ -゚)「そもそも、本当に関係ない話じゃないか。お前が誰と付き合っていようと、それが男だろうと、私には関係ない。なんの影響もない」

('A`)「……その、通りだよ」

 そうして、俺はまた酒をあおいだ。腹に落ちる熱い刺激。これがあるから、俺は今理性を保っていられる。まぎらわすことができている。

川 ゚ -゚)「私には理解出来ないね。どうしてわざわざこんな場を設けてまで、私にカミングアウトしたんだ? お前が抱える不誠実な問題を、私が肯定してくれるとでも思ったのか?」

241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:33:50.99 ID:5nh3UR3mO
('A`)「……違う」

 違わないだろう。さっきまで、何を考えていた。何を期待していた。クーの言っていることに少しでも間違っているところがあるか、ないだろう。
 そうだ。結局、自分で向き合うことが怖かった。また、逃げた。
 クーならわかってくれる、クーなら肯定してくれる。
 歴然としているじゃないか、

 俺のプライドと、虚栄心。それが口から嘘を吐かせた。

川 ゚ -゚)「…気に入らない、ドクオ。そのへらへらしたしゃべり方も、なにもかも」

('A`)「クー…」

川 ゚ -゚)「私は……私は結局、『関係ない』で済まされる存在なんだ! お前は、お前は私だって信じてなかったんだ!」

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:36:03.79 ID:5nh3UR3mO
川 ゚ -゚)「予防を張ってからじゃないと何も喋れないんだな。今のだって、本心はあったか? ほんのちょっとでも、あったか?」

('A`)「……」


川 ゚ -゚)「もう、帰ろう」

 クーが席を立つ。俺はそこから動けない。

川 ゚ -゚)「後で一緒に払っておいてくれ」

 そんな俺を察してくれたのだろう。
 伝票に一万円札をはさんで、ハイヒールの音と共に行ってしまう。どんどん音が遠くなり、やがて耳に心地のよいジャズ音楽が空間を支配する。

('A`)「なにやってんだ、俺は」


244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:39:13.26 ID:5nh3UR3mO

 クーは、俺のことをちゃんと信じていたんだ。俺がクーに打ち明けてくれると疑わなかったんだ。この馬鹿が、お前の弱さはまた人を傷付けた、その挙げ句にこのざまだ。軽蔑されただろう。呆れられただろう。

('A`)「クー」

 もう手に入らない。あれは、あの人は俺をもう必要とはしていない。
 けれど、けれど?
 欲しい、クーが、紛れもない、彼女だけが、欲しい。こんな感情今更気付いたってしょうがない。それでも、 ああ。

('A`)「好きなんだ」

 それは虚栄だらけの俺の心の中で、たったひとつの、真実。

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:40:39.91 ID:5nh3UR3mO


****



( ゚∀゚)o彡゜「おかえり、随分遅かったじゃねえか」

 ドアを開けて驚いた。スウェット姿の長岡がいたからだ。
 てっきり、誰もいないと思っていた。ちょっとびっくりして、しかし、俺は心から有り難いと思った。変わらずに俺を必要としてくれているこいつは、気が付いたら心の支えになっていたんだ。

( ゚∀゚)o彡゜「すげえ酒の臭い、あんた飲み過ぎ!」

249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:41:55.73 ID:5nh3UR3mO
('A`)「んー…」

 スーツを脱がしてくれている長岡にお礼を言おうと口を開く。しかしなんだか面倒で、曖昧な言葉しか出なかった。酔っ払いだ、完全なる。

( ゚∀゚)o彡゜「おいおい千鳥足じゃねえか。よく帰ってこれたなぁ。メールくれりゃ迎えに行ったのに」

 長岡は楽しげに文句を言う。その動作ひとつひとつが、俺を好きなんだなぁって、実感できる。

 俺はしばらくぼうっとし、やがて口を開いた。

('A`)「……どうして、こんなに俺に構ってくれるんだ?」

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:45:17.23 ID:5nh3UR3mO
 それは、単純な疑問だった。今まで何となく聞くのが怖かった。もし明確な理由がないことを知れば、俺は拠り所を失ってしまうんだと思っていた。

('A`)「俺のどこがいいんだ?」

 スーツを畳む長岡の手が止まる。

('A`)「俺はこんな不誠実な野郎だし、今日だってクーと会ってきて、クーは俺を信じてくれてるって。なのに、信じてなかったのは俺だったんだ。好きなのに、俺はクーが好きなのに」

( ゚∀゚)o彡゜「……好き、って、言ったか?」

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:47:28.42 ID:5nh3UR3mO
('A`)「そうだよ。欲しくて欲しくて、自分のものにしたくて、だけどだめだった。俺が最初からだめにしたんだ。そもそもこんな最低な奴が、恋をするのだっておこがましい」

( ゚∀゚)o彡゜「そうか……あんたが……」

 長岡の声は震えていた。好きな人のそんな話を聞くのは嫌だったのか。けれど、ふられて
いるんだ。笑い話にでもしてくれるかと思ったのに。

 スーツをしまい、長岡はベッドに腰かけた。ならって、俺も横に座る。


256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:49:50.53 ID:5nh3UR3mO
( ゚∀゚)o彡゜「……キス、してい…いか?」

 へんなやつ。
 いつもはそんなこと聞かずに、自分のしたいときにやりたいようにしてたじゃないか。

('A`)「……いいよ」

 返事をした途端に押し倒された。舌を入れられ、掻き回される。吸い付くようなキスに、次第に息もあがっていく。
 まるで別れを惜しむかのように、丹念に舐めとられる。舌をすりつけて、まるで味わうかのように、深い。

('A`)「……ん…」

 唐突に唇が離され、不思議に思って長岡を見上げた。
 長岡は、泣いていた。

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:52:08.50 ID:5nh3UR3mO
('A`)「なが…おか?」

( ゚∀゚)o彡゜「……俺はあんたに、自分のもつ愛情すべてをぶつけてきた。そうすれば、いつか俺のものになってくれるって、そう思ったからだ」

 ぽた、ぽたと涙が頬を伝い、落ちてくる。泣き顔が恐ろしいくらい、悲しい。

( ゚∀゚)o彡゜「あんた前言ってたよな。自分を求めてくれれば、応えてあげたいって。理由が欲しいって」

( ゚∀゚)o彡゜「理由なんか、俺がたくさん作ってやるって思ったんだ。俺は誰よりもあんたを愛してる。際限がないくらい、ずっと愛してやれる自信がある」

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 01:54:26.60 ID:5nh3UR3mO

( ゚∀゚)o彡゜「あんたが流されないよう、あんたの碇となって、それで、それで―――」

 最後は、声になっていなかった。絶え間なく響く嗚咽。こいつは、こんなに弱かったのか。

('A`)「……実際、お前はずっと俺を離さないでいてくれたな」

( ゚∀゚)o彡゜「……」

('A`)「こんなに、人に愛される実感をもらったのは、初めてだったんだ。このまま、お前と一緒にいれば…幸せになれるかも、って……思うよ。いつかお前を、愛せるんじゃないかって」

270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:00:05.55 ID:5nh3UR3mO
( ゚∀゚)o彡゜「ドクオ……それは…」

('A`)「もう俺にはお前しかいないんだよ。お前言ったよな、ずっと愛し続けるって……俺の、クーの前では出せなかった、嘘も、虚栄も、本当の俺も、お前の前なら、出せる気がするよ」

 うつむくジョルジュをだきよせた。震える唇に、そうっとキスをする。
 ああ、きっとそうだ。こいつなら、きっと大丈夫。

('A`)「なあ、ジョルジュ、はいと言ってくれよ。俺がどこにも行けないくらい、捕まえておいてくれよ。そうしたら、きっと幸せになれるよ。俺は……俺はずっとそんな人を探してたんだから」

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:05:23.44 ID:5nh3UR3mO
('A`)「なあ、頼むから……」

( ゚∀゚)o彡゜「言えないよ…」

 俺はさらに抱き締める。やめてくれ、お前まで、やめてくれ。

( ゚∀゚)o彡゜「なあ、ドクオ。どうして…どうしてクーに言えないのか、わかるよ」

('A`)「ジョルジュ…っ」

( ゚∀゚)o彡゜「あんたと俺が、まるで一緒だからだ……欲しいのに、欲しいのに、くだらないものが邪魔をして、悲しくて、辛くなる」

( ゚∀゚)o彡゜「俺は…あんたがもし、このままそれを知らなければ、ずっとずっと抱き締めていられるって、確信したんだ。俺は、それをカバーできるくらい、心を覆うくらい、あんたを愛す自信があったから」

276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:10:04.00 ID:5nh3UR3mO
( ゚∀゚)o彡゜「でも、もうだめなんだ」

( ゚∀゚)o彡゜「仮に、仮にこのままずっと一緒にいたって…最後にはだめになる。簡単だと思うだろう、けれど俺が先に壊れるよ」

( ゚∀゚)o彡゜「ドクオ、お前はもう、知ったんだ」

( ゚∀゚)o彡゜「人を、愛したんだ。クーを、愛したんだよ」

('A`)「あい…した」

( ゚∀゚)o彡゜「そう。だから、こんなにこんがらがったんだな。俺は、俺のことは気にするな……友達でいい。このまま、友達でいい」

('A`)「俺は…俺はどうしたらいいんだ」

279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:13:41.72 ID:5nh3UR3mO
('A`)「わかんねえ、ジョルジュを失って、クーだって、きっと俺は呆れつくしている」

('A`)「俺は自分が変われたなんて思ってない。かつて流されていた時と同じだ。なにひとつ真っ向から受けれてない、逃げっぱなしじゃないか……!」

( ゚∀゚)o彡゜「逃げてない。あんたは、精一杯やっている。それで、いいんだ。だからクーさんはあんたを信じてくれていたんだ」

( ゚∀゚)o彡゜「あんたの向き合いたいっていう、たとえ僅かな気持ちでも、クーさんには分かっていたんだよ」

280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:18:48.00 ID:5nh3UR3mO
('A`)「……」

 ジョルジュの言葉が、不安定だった心に、柱を作ってくれた。
 わからないことだらけで、逃げていたものに、答えをくれた。

('A`)「どうしたらいい……? どうやって、愛すんだ…わからないよ」

( ゚∀゚)o彡゜「俺は、お前を愛した」

('A`)「…あ」

( ゚∀゚)o彡゜「だから、大丈夫だよ。あんたはもう、知っているだろう?」

 ジョルジュは、俺の手を握った。

( ゚∀゚)o彡゜「これからは、友達だ」

( ゚∀゚)o彡゜「よろしくな」

 俺はうなずく。声が出なかったから。涙が止まらないくらいに出て、けれどあの時のように絶望しているわけでもない。

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:20:20.48 ID:5nh3UR3mO
 あたたかかった。すべてがあたたかかった。



****



 

287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:23:16.01 ID:5nh3UR3mO
 俺は探していた。いろんなところを行って、さっぱり見つからなかったので階段を昇ってみることにした。
 そうしたら、いた。

 手すりにもたれて、彼女は空を見ていた。

('A`)「クー」

 彼女の名を呼ぶ。心臓が痛い。こんなのは生まれて初めてのことだ。

川 ゚ -゚)「なんだ」

 こっちを見ようとしない、クーの背中。強さと、弱さ。どちらも内包した背中を今すぐにでも抱き締めたい。

('A`)「いろいろ考えたんだ、あれから」

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:24:46.81 ID:5nh3UR3mO
 長岡、お前が俺に教えてくれたものがたくさんあるよ。一緒にいてくれたあの時間の中、お前は俺を愛してくれた。
 今では、お前の辛さが理解できる。衝動と、不安がぎりぎりの均衡を保って愛を作る。爆発しそうになる。涙が出る。
 愛は辛い。悲しい。けれど、欲しい。

('A`)「あの時、俺に御託なんかはいらなかった。今ならわかるよ。俺は、これだけでよかった」

 まだこっちを向いてはくれない。でも、それでいい。
 背中向きのまま、始めるんだ。

 言葉は、いつでも言える。でも、今しか伝わらない想いがある。

('A`)「クー、好きだ」

 やっと、辿り着いた。
 ありがとう。
 いてくれて、ありがとう。

川 ゚ -゚)「なんて馬鹿野郎なんだ、お前は」

 そう言って振り向いた君を、笑顔と一緒に、抱き締める。
 まるで何も知らない少年のように、衝動に、立ちすくんだ。

294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/24(火) 02:29:25.69 ID:5nh3UR3mO



('A`)ドクオは流される天才のようです



おしまい

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