- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:58:14.17 ID:M0BI5SzD0
- モララーが言葉にならない叫び声を上げた。
窓に張り付くようにして外を見ている。
爆発は思っていたよりも大きなもので、
カローラは無事だろうか、と僕は頭の一部で考えた。
内藤ホライゾンは静かに首を振っている。
(´・ω・`)「車には細工がなされている。
僕たちは完全に閉じ込められてるってわけだ」
ショボンは、呟くように状況を説明した。
その冷静な物言いが気に障った様子で、モララーが彼につっかかる。
( ・∀・)「お前、クーが死んだんだぞ。ハローもだ。
なんでそんなに冷静でいられるんだよ」
冷静なわけないだろ、とショボンは言った。
(´・ω・`)「ただ、動揺してても状況は変わらない。
僕たちはこれからの数日間を生き延びないといけないんだ」
( ・∀・)「それがむかつくって言ってんだよ。
お前、不自然だぞ。お前が犯人なんじゃあないのか?」
(´・ω・`)「その考えは馬鹿げている。
それを言うなら、そうやって人をやたらと犯人呼ばわりするところは
とても不自然だ。君こそ犯人なんじゃあないのか?」
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:00:25.88 ID:M0BI5SzD0
- なんだと、とモララーがショボンを睨みつける。
なんだよ、とショボンはそれを真正面から受け止める。
役回りとしては僕が止めるべきなんだろうな、と僕は思った。
しかし僕の体は動かない。
僕の目は原型をとどめていないベンツを窓越しにいつまでも見つめ、
頭の中では様々な思考が同時にループを繰り返している。
ξ゚听)ξ「ちょっと、あんたたち、やめなさいよ!」
いつまでも動こうとしない僕に業を煮やしたのか、
ツンが2人の間に割り込んだ。
僕はツンの姿を目に捕らえ、
彼女の巻き巻きになっている金髪はグザイに似て見えるな、とふと思った。
ξ゚听)ξ「落ち着きなさいって。
ショボン、さっき落ち着けって言ってたのあんたでしょ」
(´・ω・`)「僕は落ち着いてるさ」
ショボンはツンにそう言った。
モララーに掴まれた上着の乱れを整え、大きくひとつ息を吐く。
モララーはひどく興奮して見えた。
( ・∀・)「くそ、なんだよお前ら。共犯なんじゃねーのか。
そういえば、ツン、お前の髪型はあの記号に似ているな!」
モララーは、ツバも吐かんばかりにそう言った。
- 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:02:07.16 ID:M0BI5SzD0
- 言った瞬間我に返ったようで、モララーは、
しまった、という表情を顔に浮かべた。
ショボンが心配そうにそれを見つめる。
僕も内心息を呑んだ。
その推理は、僕たちに許されたものではないかもしれないのだ。
しかし、ツンや内藤ホライゾンに動揺は見られなかった。
ξ゚听)ξ「なによ! あたしがやったって言うの!?」
仲裁に入ったはずのツンがモララーにつっかかる。
それでモララーとショボンは安心を得たのか、演技を再開した。
モララーとツンが喧嘩腰になり、ショボンがそれを食い止める。
内藤ホライゾンの様子を伺うと、彼は僕を見つめていた。
('A`)「お前が2人を殺したのか?」
内藤ホライゾンと合った目を逸らさず、僕は心の中で呟いた。
彼はそれに答えない。
何か言ったらどうなんだ、と僕は思った。
('A`)「それとも、何も言えないだけなのか?」
『答えられない』はひとつの答えになり得るのである。
煙草を吸いたいな、と僕は思った。
- 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:05:02.64 ID:M0BI5SzD0
- 大きくひとつ息を吐き、僕はリビングルームを出ることにした。
( ・∀・)「おい、どこ行くんだよ」
背後から声がかけられる。
便所だよ、と僕は答えた。
(´・ω・`)「一人になるのは危険だって」
('A`)「犯人はこの中にいるんだろ?
それなら、お前らが一箇所にいる限り、それほど危険なことではない」
一緒に行こうか、と提案するショボンを手で制す。
('A`)「お前が犯人だった場合のことを考えろよ。
僕は便所では死にたくない」
危険なことはわかっている。
ひょっとしたら僕は、一人になった瞬間殺されてしまうかもしれない。
しかし、僕は一人になりたかった。
誰もいないところで考えを整理する必要があったのだ。
('A`)「それに、僕はおそらく殺されない」
僕はそう考えていた。
なぜなら、この殺人事件の犯人は、僕であると思われるからだ。
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:06:35.54 ID:M0BI5SzD0
- 僕は小便器に向かって放尿しながら、頭の中でアルファベットを並べた。
中学校でアルファベットを習った際、教師はブロック体で書くよう勧めたが、
僕が気に入ったのは筆記体の方だった。
筆記体で書かれた文章はとても英語っぽく見えて、
僕はそれが好きだったのだ。
受験の英作文で筆記体を書くのは不利になり得るぞ、と
忠告されはしたけれど、僕は依然として筆記体を貫いた。
そんな部分で僕を不適格だと見なすような学校なら
こっちの方から願い下げだ、と当時の僕は思っていた。
('A`)「"ve"と筆記体で綴ると、90度回転させたとき、
ちょうどグザイのように見えるに違いない」
僕はそう思った。
そして、僕は"ve"に関する記憶がある。
ハローとの思い出だ。
ラドウィンプスの話をツンがハローとしていたときに漏れたのかもしれない。
ハハ ロ -ロ)ハ「This makes "ve" sound again.
(こうすると、『ve』の音が繰り返されるでしょ)」
『おとぎ』を聴いたとき、ハローは僕にそう言ったのだ。
"gave"を"give"の過去分詞として使うのはアメリカ英語にある使い方で、
私たちイングランド人はこんな使い方はしないけど、と
彼女は僕に英国人らしいプライドの高さを垣間見せた。
- 174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:08:25.40 ID:M0BI5SzD0
- 第一の殺人事件があったとき、僕が到着したのは最後だった。
これも僕が犯人役となったとき、トリックの成立を容易にする。
たとえばハローを殺害した後窓から外に出、
そのまま自分の部屋の窓から入って顔を見せたことにすれば良い。
('A`)「思えば、この面子で実際殺人事件があった場合、
一番動機を用意しやすいのが僕なんだ」
僕は小便器に水を流しながらそう思った。
今まで死んだのはハローとクーだ。
ハローに対する動機はでっちあげるより他にないけれど、
クーは僕の元恋人で、僕は彼女に振られている。
これから誰が殺されるかはわからない。
しかし、僕からクーを奪っていったのはモララーであり、
ショボンは僕の所属していた劇団の代表者だったのだ。
それらしい動機はいくらでも挙げられる。
内藤ホライゾンとツンは探偵役とその身内であり、殺される必要はない。
('A`)「第一、実際に殺人が起きているのだとしたら、
彼らのどちらかが犯人なんだ」
あるいは彼らの両方だ、と僕は思った。
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:10:13.76 ID:M0BI5SzD0
- この一連の出来事は、思えば最初からおかしかった。
30秒で爆発する車のこともそうだけれど、
金も人脈もあるテレビ局がクーやツンのような素人を出演させる必要がない。
山荘も僕が地図で確認した場所より山深くにあるし、
ハローの部屋は見取り図で見たよりも僕たちの部屋から離れていた。
僕が考えつくだけでこれだけの事実が挙げられる。
('A`)「あれは、あの部屋に入った者に抵抗されたとき、
声が漏れないようにするためだったのではないだろうか」
僕はそう考えた。
考えれば考えるほど、ハローとクーは死んでいる方が自然なように思われる。
それはとてもおそろしいことであるに違いないのにもかかわらず、
ハンドソープを泡立てる僕の手が震えることはなかったし、
鏡に映る僕の目は爛々と輝いているように見えた。
簡潔に言うならば、現実味がないのだ。
まるで何かゲームでもしているかのように思えてくる。
('A`)「その上、僕は、ひょっとしたらモララーを殺せるのかもしれない」
鏡の向こうにいる僕に向かって、僕はそう呟いた。
その言葉が耳に届いた瞬間、彼の口の両端がキュッと持ち上がるのが見えた。
僕の心臓は激しく鼓動し、こめかみを血が駆け上っているのがわかる。
煙草が吸いたいな、と僕は思った。
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:12:09.02 ID:M0BI5SzD0
- 僕はサリンジャーの代表作を思い出していた。
ライ麦畑で子どもたちが遊びまわっている。
そのライ麦畑は、少し行った先が崖になっていて、
子どもたちはそれに気づかない。
彼は少し離れたところからそれを眺め、
やがて子どもたちの中のひとりが崖に落ちそうになると、
彼はそっとそれを止めてやる。
そんな人間になりたいと彼は言っていた。
確か、そんな話だ。
僕は主人公の名前さえ覚えていないが、
その1パラグラフほどの長さの彼の台詞は、強く印象に残っている。
('A`)「この山荘は、ライ麦畑だ」
少し行った先は崖になっている。
皆はそれに気づかないのだ。
('A`)「あるいは、崖などないのかもしれない」
僕はそれでも構わなかった。
それならクーとハローは生きている。
僕の馬鹿げた妄想が妄想のままで終わってくれるなら、
きっとそれが一番望ましいことなのだ。
- 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:14:09.22 ID:M0BI5SzD0
- ('A`)「僕はキャッチャー・イン・ザ・ライになる必要はない」
それをもじって考えるなら、僕がなるのはウォッチャー・イン・ザ・ライだ。
ライ麦畑の傍観者。僕は彼らを助けない。
('A`)「ただし、僕は彼らを殺さない。
僕は殺人事件の犯人になるかもしれないが、殺人者ではない」
ただ見ているだけだ。
僕のどこに罪があるというのだろう。
そこに崖があることを僕が知っているかどうか、確かめる術はないのである。
('A`)「だから、僕は、ハローの死を確認してはならない」
僕はトイレを出ると、まっすぐリビングルームに戻ることにした。
そこには4人の男女がいた。
僕たち5人は、この山荘のルールに支配されている。
それは、ミステリであるというルールだ。
死ぬ流れになった者は、死ぬ。殺される。
その流れは僕たちによって作られているのである。
すっかり太陽は沈んでしまい、駐車場は窓から見えなくなっていた。
- 188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:16:42.81 ID:M0BI5SzD0
- (´・ω・`)「暗くなってしまったな。これからどうしよう」
僕たちは、発言したショボンに注目した。
彼は大きくひとつ息を吐き、ゆっくりと台詞を繋げていく。
(´・ω・`)「正直なところ、
僕はまだこの中に犯人がいるなんて信じられないんだ。
用心はしなければならないけれど、
ガチガチに緊張する必要を感じない。
全員ここで過ごすことを前提に、行動は自由にして良いと思う」
誰か反対する人いる、とショボンは僕たちを大きく見渡す。
誰も反論したりはしなかった。
( ^ω^)「それで良いと思いますお。
こうして一箇所にいる以上、犯人もうかつには動けませんお」
殺人をこれ以上重ねさせないことは可能ですお、と内藤ホライゾンは言った。
さほど考えることなく、モララーはそれに頷いた。反対意見はでてこない。
かなりの時間を緊張下で過ごした様子のショボンが大きく背伸びをすると、
良い音で関節が数箇所鳴り、モララーを除く僕たちの表情を少し和ませた。
- 191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:19:25.50 ID:M0BI5SzD0
- ( ・∀・)「反対はしないが、俺は実際この中に犯人がいると思っている。
吹雪が収まったら必ず警察に引き渡してやるんだからな!
犯人は、それまで、せいぜい覚悟でもしてろ」
彼は全員を一通り睨みつけ、そう言った。
僕はそれに頷いた。
('A`)「それで良いんだ。
僕たちは素人なんだし、あまりでしゃばらない方が良い。
僕たちにできるのは、用心し、吹雪が収まるのを待つことだけだ」
自分の命は自分で注意して守るしかないんだ、と僕は言った。
多分、モララーはこの発言を伏線のように感じ取ってくれることだろう。
彼の優秀さに疑いの余地はなく、僕は信頼を置いていた。
選択肢は無数にあるのだ。
選択肢の数を減らし、彼がひとつの選択をする流れにもっていく。
僕にできるのはそのくらいのことであり、また、そのくらいがちょうど良かった。
よくよく考えると、僕にそれほど強烈な殺意があるわけではないのである。
かつてもそうであったように、僕はそれほど大きな憤りを抱いてはいない。
全ては、この、VIP山荘の状況なのである。それが、僕にそうさせるのだ。
- 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 19:22:59.81 ID:M0BI5SzD0
- ('A`)「乱暴な言い方をするならば――」
死のうが死ぬまいが、僕にとってはどちらでも良いのである。
死ぬかどうかを僕が自由にできるのならば、どうぞ彼には死んでいただきたい。
その程度の殺意に過ぎない。
('A`)「僕はライ麦畑でつかまえない。
といって突き落とすわけでもない。
少し誘導はするけれど、落ちるかどうかは彼が選択することだ」
できれば落ちて欲しいけどな、と僕は思った。
あるいは、モララーが落ちなかった場合、僕は激しく後悔するかもしれない。
あるいは、僕は、彼を突き落としたくてしょうがないのかもしれない。
('A`)「しかし、僕はこの程度の殺意しか抱けない種類の人間なんだ。
取るべき行動を知っていても、思うように取ることはできない。
がむしゃらというのが苦手なんだ」
それで構わないさ、と僕は小さく呟いた。
もうじき夕食の時間となるだろう。
辺りをぼんやり眺めていると、僕はツンと目が合った。
彼女はそのまま目を逸らさず、僕に小さく微笑んだ。
お
わ
り
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