- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:30:11.20 ID:M0BI5SzD0
- やり直そうか、という話になった。
あまりに間抜けな場面になってしまったからである。
撮影の中断はないと言っていたけれど、
放送時に編集することは可能なはずだ。
ツンをドアの前まで移動させ、
僕たちはそれぞれの部屋の前あたりまで戻ることにした。
やがてツンの悲鳴が上がる。
さっき現場に出てきた順番で、僕たちはツンのところへ顔を出した。
僕は当然最後となる。
僕が人の輪に加わると、
厳しい表情でこちらを見ている内藤ホライゾンと目が合った。
床に座り込んでいるツンに、ショボンがやさしく声をかける。
(´・ω・`)「どうしたんだ?」
ξ゚听)ξ「あれ……あれ……」
ツンは小さく震えながら、部屋の中を指さしている。
ハローの部屋に目をやると、
ぶちまけられた赤色の中に、人のようなものが横たわっていた。
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:31:37.88 ID:M0BI5SzD0
- 悲鳴要員が足りないな、と僕は思った。
僕たち6人の中に女は、ツンとクーだけである。
ツンは第一発見者となっているし、
クーはこういう場面に直面したとき息を呑む種類の人間だ。
ここは女性の悲鳴で事件を盛り上げるべき場面なのだけれど、
人選がなっていない。
僕がショボンの顔色を伺うと、彼は僕と目が合い小さく苦笑した。
( ^ω^)「全員動かないでくださいお。
これから僕が部屋に入り、中の様子を調べますお」
内藤ホライゾンは僕たちにそう宣言し、
コロンボコートのポケットからハンカチを取り出した。
( ・∀・)「死んでいるのか?」
しゃがみこみ、ハンカチ越しに
人のようなものに触れている内藤ホライゾンに声がかけられる。
どうやら人のようなものはマネキンか何かのようで、
男女兼用にしようと思ったのか、ハローより軽くひとまわりは大きかった。
( ^ω^)「残念ながら、亡くなっておられますお」
立ち上がり、内藤ホライゾンはそう言った。
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:33:20.76 ID:M0BI5SzD0
- 嘘だろ、と独り言にしては大きな声で、僕たちはそれぞれ呟いた。
内藤ホライゾンはハンカチをポケットに収め、
僕たちの様子をゆっくりと見回した。
( ^ω^)「嘘ではありませんお」
彼は丁寧な口調でそう言った。
警察に電話するようツンに頼み、
あまり現場に触れるな、と僕たちに命令する。
これは、あれがなされるな、と僕は思った。
本格ミステリにはなくてはならない要素であり、
これがなくては第一の殺人が意味をなさない。
僕は人のようなものの傍に立つ内藤ホライゾンを見守った。
誰もが彼に注目し、あれがなされるのを待っている。
あれは、探偵役にのみなせる業である。
彼はこのためにいると言っても良い。
なかなか実行しない内藤ホライゾンに疑問を抱き、
僕は彼の全身をくまなく眺めてみた。
内藤ホライゾンは、明らかに勃起していた。
( ^ω^)「これは、殺人ですお!」
そして彼は、ここに殺人宣言をなした。
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:35:47.48 ID:M0BI5SzD0
- 電話に走っていたツンが戻ってきた。
彼女の息は乱れ、前髪が額に貼りついている。
ξ;゚听)ξ「電話が、通じないの!」
彼女は叫ぶようにそう言った。
僕たちはにわかにざわめきだつ。
どういうことだよ、とモララーが言った。
( ・∀・)「どこの電話を使ったんだ?」
ξ;゚听)ξ「あたしの部屋の電話とリビングルームの電話、
そして玄関ホールの電話よ。
どれも通じないの!」
ツンが早口にまくしたてる。
モララーは小さく舌打ちし、
なんなんだよ、と爪を噛みながら小さく何度も呟いた。
落ち着こう、と自分にもそう言い聞かせるようにショボンが言った。
(´・ω・`)「この吹雪だ、ひょっとしたら積もった雪の重さか何かで
電話線が切れてしまっただけかもしれない。
ブーンさんはああ言ったけど、
ハローも他殺だったと決まったわけじゃあない。
慌てても何も状況は改善されない。落ち着くんだ」
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:37:07.50 ID:M0BI5SzD0
- 血の臭いが充満したハローの部屋に入ると、
人のようなものはうつぶせになっていることがわかった。
マネキンと呼ぶにはあまりに造りが大雑把である。
内藤ホライゾンは部屋の中をくまなく観察し、
僕たちもなるべくものに触れないようにしながら辺りを見回した。
ベッドの脇に置いてあるくず入れに、
ビニール製のパックのようなものが多数放り込まれているのが目に付いた。
('A`)「『輸血用血液』、ね」
僕はその表面に書かれた文字を黙読する。
一応本物の血にしたということなのだろう。
人のようなものは傷つけられていないので
ハローの死因は不明だけれど、
これだけ血が出ているということは、斬り殺されたか何かであるに違いない。
人のようなものを観察していると、
右手が指さすような形になっていることに気がついた。
その先には、血と思われる赤で、文字のようなものが書かれている。
http://boonpict.run.buttobi.net/cgi-bin/up/src/boonpic_1303.jpg
ダイイングメッセージだ、と僕は皆に聞こえるように呟いた。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:38:54.49 ID:M0BI5SzD0
- グザイかな、とダイイングメッセージを見たショボンが呟いた。
(´・ω・`)「力学で、応力やたわみを求めるときなんかに
計算上使われる記号だね。
僕にはそんな風に見て取れる」
('A`)「ハローはそれで何を伝えようとしているんだ?」
僕がショボンにそう訊くと、
そこまではわからないよ、と彼は答えた。
( ^ω^)「しかし、角度で見え方が異なりますお。
確かに縦に見ればグザイに見えるけど、
横に眺めれば筆記体で何か単語を書き殴ったようにも見えますお」
内藤ホライゾンが、僕たちに割り込むようにそう言った。
そんなのはどうでも良いよ、とモララーが声を上げる。
( ・∀・)「今大事なことは、ハローが死んで、
俺たちは生きているってことだ。
素人はしゃしゃり出ずに、
警察を呼んで捜査してもらうべきだ」
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:40:26.93 ID:M0BI5SzD0
- 僕たちは一旦、リビングルームに戻ることにした。
モララーが電話機を乱暴に扱っている。
( ・∀・)「くそ、なんなんだこれ。
全然繋がらないじゃあないか!」
だからそう言ったでしょ、と呟くツンにモララーは構わない。
彼は受話器を電話機に叩きつけたり電話機自体を叩いたりしながら
なんとか電話を繋げようとする。
彼が電話機を持ち上げたところで、
切断されたコードがぶら下がっていることに気がついた。
( ・∀・)「なんだこれ。切られてるじゃあないか!」
モララーはコードの切断面を皆に見せながらそう言った。
鬼気迫る表情で僕たちを睨みまわす。
('A`)「やめろ、モララー。
僕たちがやったわけじゃあないだろ」
モララーとのテンションの差を生むように、
努めて平易な口調で僕は言った。
モララーが僕に歩み寄ってくる。
( ・∀・)「なんだと、ドクオ。じゃあ誰がやったっていうんだ。
ひょっとして、お前なんじゃあないのか」
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:42:19.54 ID:M0BI5SzD0
- なんだと、と僕はモララーを睨み返した。
僕たちは無言で睨み合う。
しばらく経った後、
その張り詰めた空気に仲裁を入れてくれたのはショボンだった。
(´・ω・`)「やめろよ、喧嘩してる場合じゃないだろ」
ショボンは僕たちの間に体を入れるようにしながらそう言った。
モララーが大きく舌打ちし、踵を返して僕と距離を取る。
彼はどっかりとソファに座り、大きくひとつ息を吐いた。
(´・ω・`)「犯人は、きっと外部の人間に違いない。
この山荘に忍び込み、ハローを殺して電話線を切ったんだ」
さすがにあの状況からハロー自殺説を展開することは
無謀だと思ったのか、ショボンは僕たちにそう言った。
モララーが動く気配がなかったので、僕が代わりに反論する。
('A`)「でもさ、それならそいつは今どこにいるんだ?
山荘の外か? それは無理だ。
この吹雪の中外にいたら、そいつはそれで死んでしまう」
この山荘の中か、とモララーが呟いた。
探偵役でない僕たちに許された意見はこの程度のものである。
内藤ホライゾンが口を開いた。
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:44:18.79 ID:M0BI5SzD0
- ( ^ω^)「犯人は、外部の者ではありませんお」
内藤ホライゾンはゆっくりとそう言った。
何故だ、と僕たちから声が上がる。
彼はそれに取り合わずにパイプを口に運び、深く呼吸をした。
僕はまた煙草が吸いたくなった。
( ^ω^)「外部の者の犯行なら、
犯人は僕たちの目を逃れるために
山荘内を逃げ回っている筈ですお」
内藤ホライゾンはそう言った。
彼はパイプを持っていない左手を大きく広げ、
勃起しながら演説を続ける。
降る雪のせいで、僕たちの足音は残ってしまいますお、と彼は言った。
( ^ω^)「僕たちに見られなかった以上、
犯人はハローさんを殺害した後一旦窓から外に出、
再び山荘内に入り込んだと想像できますお。
足跡を見ればわかる通り、
逃げ回った形跡はありませんお」
そう言うと内藤ホライゾンは大きくひとつ息を吐き、
続けざまにパイプを吸った。
僕はこのときはじめて気づいたのだが、彼の吐く息は透明だった。
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:46:33.19 ID:M0BI5SzD0
- 本物じゃないのか、と僕は思った。
そういえば、内藤ホライゾンは幾度となくパイプを吸ってはいるけれど、
一度として僕たちの前でパイプに火をつけていない。
そして、煙草の葉のようなものをパイプに仕込む様子も見せていないのだ。
僕はパイプを吸ったことがないので、その仕組みは正確には知らないけれど、
まさか使い捨てということはないだろう。
ホームズの帽子にコロンボのコート。
そして手にはニセモノのパイプを握り、
吹雪や足跡はCGのようなもので後付けするのかもしれないが、
根拠の薄い推理で勃起しながら演説をする。
('A`)「こいつ、頭でもおかしいんじゃないのか」
僕は心の中でそんな疑問を呟いた。
無意識に右手がジャケットの内ポケットに伸びていたことに気づき、
そこに煙草はないよと苦笑する。
内藤ホライゾンはなおも演説を続けていたようで、
僕は苦笑を表情からしまい込むと、彼の話に耳を傾けた。
( ^ω^)「犯人は、この中にいますお!」
彼はそう言っていた。
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:49:12.88 ID:M0BI5SzD0
- なんだって、と僕たちは声を上げた。
(´・ω・`)「そんな、めちゃくちゃだ!」
首を振りながらショボンがそう言った。
内藤ホライゾンはショボンを見つめる。
( ^ω^)「少なくとも、その確率は高いですお。
数日経てば吹雪も止むと思われますお、
それまでお互いに見張って安全を確保しましょうお」
内藤ホライゾンがそう言ったきり、沈黙が僕たちを支配した。
僕がクーに視線をやると、彼女は僕を見つめていた。
川 ゚ -゚)「そろそろ良いかな」
彼女の目はそう訊いている。
僕がクーに小さく頷いてやると、
もう嫌だ、と彼女は大きく声を上げた。
川 ゚ -゚)「わたしは今から車で麓まで降りて助けを呼んでくる!」
待てよ、とモララーに声をかけられる。
( ・∀・)「お前の車はチェーン履いていないだろ。
こんな天候の山道をそれで降りるなんて自殺行為だ」
- 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:52:02.88 ID:M0BI5SzD0
- 川 ゚ -゚)「それじゃあモララーは、
このまま殺人犯とひとつ屋根の下にいることは
自殺行為じゃないと言うのか?」
( ・∀・)「危ないって言ってんだよ」
劇中でも恋人同士という設定なのか、
彼らはありふれた言い争いをしばらく続けた。
('A`)「ここでクーが死ぬと、バランスが悪くなるな」
それを右から左に聞き流しながら、僕はそんなことを考えた。
クーが首尾よく死んだ場合、残されるのは男4人に女1人いうことになる。
それほどミステリの知識が豊富なわけではないけれど、
犯人候補の中に女が1人しかいなくなるという事態は
僕にはイレギュラーなものに思われる。
川 ゚ -゚)「もういい、わたしは行くって決めたんだ。
止めないでくれ!」
僕がクーに意識を戻すと、彼女は山荘を飛び出すところだった。
待て、と声を上げながら、モララーはクーを追ってはいかない。
僕たちは、クーが駐車場に走っていくのを窓越しに眺めた。
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:54:14.18 ID:M0BI5SzD0
- 駐車場に走り込むクーを視界に収めながら、
なぜ30秒後なのだろう、と僕は疑問をもった。
('A`)「その間にトンネルを通って逃げるなら、
トンネルを抜けた先に起爆スイッチのようなものを置けば良い筈だ」
もしそれに30秒以上かかるというのなら、
30秒後に爆発するのは極めて危険だ。
そして30秒かからないなら、そうした方がタイムラグが少なく済む。
考えれば考えるほど、僕には合理的な説明がつかなくなっていく。
僕の視線の先ではクーがベンツに乗り込んでいた。
('A`)「スタントマンを使うわけでもない。
僕たち出演者に大きな怪我を負わせたらあちらも大変だろうし、
万一死なせでもしたら放送はできなくなってしまう」
なぜ30秒後なんだ、と僕は小さく呟いた。
僕たちの位置からは、車内の様子は見て取れない。
トンネルの様子もわからない。
('A`)「本当に、クーは逃げられるのか?」
僕はマンホールのような穴の存在を確認したわけではないし、
助手席に備え付けられた扉のようなものが開くのかどうかもわからないのだ。
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:56:39.43 ID:M0BI5SzD0
- クーは既にキーを回したのだろうか。
爆発するまでの30秒間、彼女は何を思うのだろう。
僕は際限なく思考の海に沈んでいった。
('A`)「そもそも、ハローは本当に生きているのか?」
僕はそんなことさえ考えていた。
ハローの部屋に横たわる人のようなものは、
彼女より軽く一回りは大きな大雑把な作りのものだった。
('A`)「軽く一回りは大きいということは、
ちょうど彼女を中に閉じ込めておける大きさだ」
ぞくり、と僕の背筋を何かが走りぬけた。
僕が内藤ホライゾンに目をやると、
彼は僕たちの様子を真剣な表情で観察していた。
僕がツンに目をやると、
彼女は内藤ホライゾンをうっとりと見つめている。
モララーとショボンは窓越しに駐車場を眺めている。
馬鹿な考えだ、考えすぎだと僕は判断するけれど、
僕の本能的な部分が恐怖を感じずにいられない。
駐車場で、ベンツが爆発した。
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