- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:59:19.64 ID:M0BI5SzD0
- 内藤ホライゾンは、探偵帽を頭に被り口にパイプを咥える
ステレオタイプな格好をしていた。
ホームズを意識しているのだろうが、
そのコートは明らかにコロンボを模したもので、整合性が取れていない。
それが『名探偵ブーン』の服装だった。
( ^ω^)「いやーまいった。外はひどい吹雪ですお。
すみませんが、しばらくここにいさせてもらえませんかお?」
僕は反射的に窓の外に目をやった。
相変わらず、雪さえ降っていない。
そもそも、この季節に吹雪になることなどありえないのだ。
そのまま誰も反応できずにいると、ツンが飛び出すように口を開いた。
ξ゚听)ξ「ブーン! あんた、こんなところで何してんのよ」
( ^ω^)「ツンかお。いや、僕はただ散歩をしていただけで、
吹雪いてきたから避難したんだお」
ξ゚听)ξ「なにそれ、馬鹿じゃないの。
もう、しょうがないから天候が安定するまでここにいなさい。
この人たちはあたしの友達だから、
失礼したら承知しないわよ」
内藤ホライゾンは僕たちをぐるりと見渡すと、
よろしくお願いしますお、とおじぎをした。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:01:21.09 ID:M0BI5SzD0
- 僕たちは戸惑いながらも内藤ホライゾンに挨拶を返した。
山荘の中は暖房が効いていて十分温かいにもかかわらず、
彼はコロンボ風のコートを脱ごうとしない。
ホームズ風の帽子も脱がず、左手にパイプをくゆらせている。
('A`)「煙草が吸いたいな」
パイプを吸う内藤ホライゾンを見、僕は思った。
右手が無意識にジャケットの内ポケットへと伸びるかけるが、
そこに何も入っていないことはわかりきっている。
大きくひとつ息を吐くと、内藤ホライゾンと目が合った。
彼は僕に歩み寄り、右手を出して握手を求めてきた。
('A`)「よろしく。ドクオです」
僕はそう言い、内藤ホライゾンの手を握った。
彼の手はふっくらと温かい。
内藤ホライゾンは僕の目を見ながら、にっこりと微笑んだ。
( ^ω^)「ドクオさんは、バイニンですお?」
('A`)「は?」
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:03:32.39 ID:M0BI5SzD0
- この男は何を言っているんだ。
僕はまずそう思った。
続いて『バイニン』が『売人』へと脳内変換される。
('A`)「僕は、麻薬に関わったことなんかない」
僕は単純にそう思った。
違う、と否定しようとしていると、
内藤ホライゾン越しにツンが僕を睨みつけているのに気がついた。
ξ゚听)ξ「あんた、わかってんでしょうね」
彼女の目は僕にそう言っている。
これは本格ミステリだったな、と僕は思い出した。
内藤ホライゾンは、なかなか返事をしない僕を
不思議そうに見つめている。
ひょっとしたら、返事をするまで、僕は手を離してもらえないのかもしれない。
('A`)「……そうですよ。しかし、何故それを?」
僕がそう訊くと、内藤ホライゾンは満足そうに大きく頷き、
僕の手首を掴んで右手を開かせた。
( ^ω^)「この中指の麻雀ダコ、そして指輪。
それほど難しい推理ではありませんお」
そっちのバイニンかよ、と僕は思った。
麻雀放浪記的な発想だ。
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:06:16.06 ID:M0BI5SzD0
- 確かに僕の中指には麻雀ダコができている。
真面目な学生たちの中指に作られているべき場所から
1センチほど回り込むと、麻雀ダコに到達する。
そして、僕の中指には指輪が光っている。
この指輪を買った当時、僕はまだ麻雀狂いで、
麻雀小説で指輪を嵌めたイカサマ職人の話を読んでいたので
本当に可能なのかと買ってみたのだ。
結果は悲惨なものだった。
麻雀牌は僕の予想以上に重く、またツルツルとしていて、
とてもじゃないが挟んで持ち上げたりはできなかった。
その後僕は演劇と出会い、麻雀からは足を洗うわけだけれど、
まさかこのような取り上げられ方をするとは思わなかった。
僕の設定は、プロの麻雀打ちというわけだ。
僕の雀力はプロレベルには程遠いものだけれど、
どちらかというと演じやすいものであるように思われた。
ハローなんか、日本語が喋れないのに通訳にされてしまったのだ。
('A`)「しかし、めちゃくちゃだな」
そう呟くと、僕はまた煙草が吸いたくなった。
ショボンと握手を交わした内藤ホライゾンが、改めて名を訊かれている。
( ^ω^)「僕はブーン。探偵ですお!」
彼はそう言っていた。
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:08:11.85 ID:M0BI5SzD0
- 部屋割りを決めよう、という話になった。
(´・ω・`)「吹雪は当分止みそうにないからね。
僕たちは、何日間かここに留まることになるかもしれない。
夜になってからゴタゴタするよりも、
今のうちに決めておいた方が良いんじゃないかな」
ショボンがそんなことを言ったからだ。
当然、僕たちの中に反対する者はいなかった。
どこからか、ツンが山荘の見取り図のようなものを持ってきた。
ξ゚听)ξ「部屋は人数分あるわ。
本来あんたみたいなやつに部屋を貸す筋合いはないんだから、
皆の寛大さに感謝しなさいよね」
ツンは内藤ホライゾンを睨み、そう言った。
部屋の数は7つで、ちょうど人数分ということになる。
( ・∀・)「1部屋だけ、少し離れたところにあるんだな」
見取り図を覗き込んだモララーはそう言った。
そうね、とツンが頷く。
その瞬間、この部屋に入った者が1人目の被害者になるな、と僕は感じた。
ξ゚听)ξ「うーん、どうやって決めよっか」
希望ある人いる、とツンが皆を見回しながら訊く。
声を上げる者はいなかった。
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:10:34.88 ID:M0BI5SzD0
- 僕は素早くクーの表情を伺った。
彼女は部屋割りの重要性に気づいていないのか、
手持ち無沙汰に窓の外を眺めている。
('A`)「変な知恵をつけさせるんじゃなかったかな」
僕は小さく舌打ちをした。
クーの頭の中には、いかに車で死ぬ展開にもっていこうかと
いうことしかなくなってしまっているのだろう。
クーは僕の視線に気づかない。
声を上げて知らせるわけにもいかず、僕は歯がゆい思いをした。
(´・ω・`)「じゃ、早い者勝ちで良いんじゃないかな。
部屋の設備に違いはあるの?」
ないわ、とツンが答える。
モララーが素早く見取り図を指さした。
( ・∀・)「それなら俺はここにしよう。
なかなか眺めが良さそうだ」
その指の先にあるのは、離れた部屋ではなかった。
それを皮切りに、次々と泊まる部屋が決められていく。
僕は祈るような気持ちで成り行きを見守ったが、
離れた部屋を選択したのはハローだった。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:12:35.56 ID:M0BI5SzD0
- 見取り図では通路を一本隔てた程度の離れ方だったのだが、
実際見てみると、ハローの部屋は
僕たちの部屋からずいぶんと遠いところに位置していた。
ハハ ロ -ロ)ハ「See you later, Dokuo.」
じゃあまたね、と別れ際にハローは言った。
自分が1人目の被害者になるであろうことに気づいていないのか、
彼女の足取りや口調に動揺は見られない。
僕は彼女に小さく手を振った。
殺されるタイミングによっては、
僕は二度と彼女の顔を見られなくなるかもしれない。
それは少し寂しいな、と僕は思った。
僕は自分にあてがわれた部屋に入ると、
ベッドに腰掛け、大きくひとつ息を吐いた。
そして、再び煙草が吸いたくなった。
クーのことを思い出したからだ。
じゃあまたな、と僕はあの時も言われたのだ。
('A`)「クーに言われたのは日本語だったけどな」
僕の部屋の窓からは、駐車場が見えていた。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:14:12.52 ID:M0BI5SzD0
- モララーは才能に溢れる独善的な人間だった。
モララーにとっての演劇は、自分の才能を誇示し、目立つためのものである。
そのため、自分が主役でなければ
著しくモチベーションが下がるという欠点が彼にはあった。
僕は再三その欠点を直せと彼に言った。
しかし、そのすべては徒労に終わった。
僕たちの劇団を成り立たせていたものは僕とモララー、ショボンの力量であり、
その内2人が仲違いした以上、劇団の解散は必然的なものだったのだろう。
僕たちの仲違いの直接的な原因は、クーを巡っての三角関係にあった。
モララーはとても頭が良く、また、
欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れようとする種類の人間である。
そんなモララーにクーを狙われた時点で、
僕たちの別れは、劇団の解散と同様、必然的なものとなったのかもしれない。
巧妙な情報操作によって、僕は浮気の事実を作り上げられた。
そのことについて僕がクーに弁明することはなく、
ほどなく僕は、クーに別れを告げられることとなる。
川 ゚ -゚)「何か言ったらどうなんだ。
それとも、何も言えないだけなのか?」
クーに詰め寄られた僕は、しかし何も言わなかった。
面倒くさくなってしまったのだ。
何を言っても無駄な気がしたし、何かを言う自分というものを想像すると、
それはとても間抜けなように思われた。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:16:17.73 ID:M0BI5SzD0
- クーと別れた僕は部屋を掃除し、
リセットされた部屋で煙草を一本ゆっくりと吸った。
不思議なことに、そのとき
クーに対する怒りやモララーに対する憤りはほとんど生じはしなかった。
稽古や舞台で顔を合わせる頻度は変わらなかったが、
僕が自分からクーに話しかけることはなくなった。
ある日、本屋で立ち読みをしていると、背後から声をかけられた。
振り向くと、そこにはクーが立っていた。
読んでいたハードカバーを棚に戻し、僕は彼女に挨拶をした。
川 ゚ -゚)「ずっとドクオに謝りたかった」
クーは僕にそう言った。
周りの人が、何事かと僕たちに注目する。
本屋を出るよう彼女を促し、
僕たちは街を歩きながら話すことにした。
クーは本屋の向かいに建っているコーヒーショップに入ろうと
言ったのだが、僕はそれを断った。
断ってから気づいたのだけれど、
僕がクーからの申し出を断ったのは、これがはじめてのことだった。
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:18:46.52 ID:M0BI5SzD0
- 君の浮気はわたしの誤解だった、とクーは僕に謝った。
川 ゚ -゚)「申し訳ない。今思えば、わたしは軽率な行動をとってしまった」
僕は何も言わずに頷くと、クーと並んでしばらく歩いた。
やがて公園が見えてきた。
そこには人の姿が見当たらなかったため、僕はベンチに座ることにした。
僕は胸ポケットから煙草の箱をライターと一緒に取り出すと、
1本の煙草を咥えて丁寧に火をつけた。
肺を煙草の煙で満たし、僕は大きくひとつ息を吐いた。
クーは、何も言わない僕を、立ったままで見つめている。
('A`)「なんだよ。僕は別に怒ってないぜ」
僕は少し笑ってそう言った。
それにつられたのか、クーの口の端がわずかに歪む。
とても笑顔とは言えない表情で、クーはかすかに首を振った。
川 ゚ -゚)「わたしは今、どうすれば良いのかわからないんだ」
なんでだよ、と僕は言った。
('A`)「お前は、お前の好きにすれば良いじゃあないか」
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:20:57.72 ID:M0BI5SzD0
- クーは大きくひとつ息を吐き、その場に座り込んで僕を見上げた。
川 ゚ -゚)「それならこう言い換えよう。
わたしは今、自分がどうしたいのかがわからない。
様々な選択肢がわたしの前に転がっているのはわかっているが、
そのどれを選んでも後悔する気がするんだ」
なるほどね、と僕は頷く。
('A`)「でもさ、そういう相談を当事者である僕にするのは、
ちょっとズルいんじゃあないか?」
ズボンのベルト留めに引っ掛けている携帯灰皿で
煙草の火をもみ消しながら、僕はクーにそう言った。
そうかもしれない、とクーは小さく笑った。
川 ゚ -゚)「しかし、わたしは元々ズルいんだ。
だからこの相談は取り下げないよ。
わたしはどうするべきだと思う?」
('A`)「そうだな。もちろん僕は、
クーは今すぐこの胸に飛び込んでくるべきだと思っている。
でも、クーがそういうことをできない人間だということもわかっているよ」
それは答えになってない、とクーは首を横に振る。
そうだね、と僕は言った。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:23:10.82 ID:M0BI5SzD0
- ('A`)「結局のところ、なるようにしかならないんじゃあないかな。
そのときの気分次第で決めてしまえば良いんだと思う。
僕はその選択に文句をつけることはしないよ」
つもりとしてはね、と僕は言った。
川 ゚ -゚)「このような相談にそういう答え方をするのは、
とてもズルいとわたしは思う」
('A`)「うん。僕は、元々ズルいんだ」
僕はそう言い、小さく笑った。
おそらく僕は、このとき強引にクーを抱きしめてやれば良かったのだろう。
彼女も、少なくとも心の一部では、そのような展開を期待していた筈である。
しかし、僕はそうした行動を取れない種類の人間だった。
そのことは僕が一番良く知っている。
そのことを二番目に良く知っているのかもしれないクーは、
大きくひとつ息を吐き、立ち上がって尻に付着した砂を払った。
川 ゚ -゚)「わたしたちは似ているな。
取るべき行動を知っていて、それでも思うように取ることができない。
がむしゃらというのが苦手なんだな」
そうかもしれない、と僕は目を閉じ頷いた。
- 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:25:07.26 ID:M0BI5SzD0
- もう行くよ、とクーは言った。
僕はそれに頷いた。
('A`)「決めたら、教えてくれ」
川 ゚ -゚)「わかった」
行きかけるクーを、しかし僕は呼び止めた。
('A`)「やっぱり言い直そう。
僕のところに戻ってくることがあるのなら、そのときは僕に教えてくれ」
クーは苦笑いを浮かべ、小さく頷いた。
再び彼女は歩きだし、思い出したようにこちらに振り向く。
川 ゚ -゚)「ドクオはそれで満足なのか?」
どうだろう、と僕は肩をすくめる。
('A`)「僕はクーのことが好きだから、
きっと、何をされても嫌いにはなれない。
だから、クーは好きにすれば良いんだ。
僕にとって何が悲劇かというと、それは、
クーが自分の意志以外の理由で僕の傍にいることだ」
僕たちは、そのまましばらく見つめ合っていた。
やがてクーは諦めたように小さく笑みを浮かべると、
じゃあまたな、と僕に言った。
クーが去った後も僕はベンチに腰掛け、そこで何本かの煙草を吸った。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 18:27:02.61 ID:M0BI5SzD0
- 僕の部屋の窓からは、駐車場が見えている。
僕を現実に引き戻したのは女の人の悲鳴だった。
僕には聞き覚えのない種類の声だった。
つまり、クーのものではない。
英語圏の人の発するものには聞こえなかったので、
ハローのものでもないのだろう。
ツンのものということだ。僕は最初の殺人を予感した。
部屋から出て辺りを伺うと、僕の他全員が既に廊下に集まっていた。
ツンが地べたに座り込んでいる。
(´・ω・`)「どうしたんだ?」
ショボンが声をかけるが、ツンは小刻みに震えるばかりで答えられない。
彼女にできるのは指さすことくらいで、その先には、
ずいぶん離れたところにハローの部屋に通じるドアが開かれていた。
あまりに離れているので、その中の様子は僕たちにはわからない。
( ・∀・)「……いや、遠いよ」
モララーが呟くようにそう言った。
ツンはモララーを睨みつける。
ξ#゚听)ξ「一回あそこで悲鳴をあげたんだけど、
誰も出てきてくれなかったのよ」
ま、遠いからな、とドアを眺めながら僕は思った。
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