61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:29:18.56 ID:M0BI5SzD0
 概要は話されてると思うけど、とツンは言った。

ξ゚听)ξ「これはテレビの収録です。
      といっても、カメラマンはいません。
      この山荘には至るところに隠しカメラが設置されていて、
      それによって撮影が行われます」

( ・∀・)「ふーん。
      でも、それじゃ、あまり撮影っぽくありませんね」

 燃えないな、とモララーが言う。
そうですね、とツンは答えた。

ξ゚听)ξ「燃える必要はありません。
      というか、あまり迫真の演技をされても困ります」

 モララーが身を乗り出した。
なんでですか、とツンに訊く。

 モララーはかなりやる気になっているようだった。
僕もそうである筈なのに、彼のやる気満々な様子をみると、
しおしおとやる気が萎えていくのが自分でわかる。

('A`)「ひょっとして、あなたも参加するんですか?」

 僕が控えめにそう訊くと、
そうです、とツンは小さく頷いた。

ξ゚听)ξ「あたしとクーさんは役者ではありません。
      演技力に差がありすぎると興ざめになるかもしれないのです」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:32:27.13 ID:M0BI5SzD0
 ちょっと待て、とクーが声を上げた。

川 ゚ -゚)「わたしも参加するのか?」

ξ゚听)ξ「そうですよ。そう説明しませんでしたっけ」

川 ゚ -゚)「わたしは、ここに同行しろとしか言われていない」

ξ゚听)ξ「では手違いですね」

 あなたにも参加してもらいます、とツンは言った。

 彼女の事務的な口調はクーの反論を許さない。
クーは何か言いたそうにしながらも口をつぐみ、
助けを求めるようにモララーを見た。

 モララーは、クーの視線に構わず
部屋中を眺め回し隠しカメラを探している。
おそらく、自分の最も映えるアングルで振舞えるように、
位置を把握しておきたいのだろう。

 やがてモララーを諦めると、クーは僕に視線を向けた。
僕はそれを受け止め、しかし何も言わずにソファに深く腰掛ける。

ξ゚听)ξ「クーさん、構いませんね?」

 ツンはクーにそう言った。
クーは僕から目を逸らすと、力なく頷いた。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:35:51.44 ID:M0BI5SzD0
(´・ω・`)「ミステリ的なものを撮るとのことでしたよね」

 僕たちを包む気まずい空気を吹き飛ばそうと思ったのか、
ショボンが発言して話題を変えた。
そうですよ、とツンは頷く。

(´・ω・`)「つまり、僕たちは何人か殺され、
     誰かが犯人になるというわけだ」

 ショボンは全員の顔を見渡しながらそう言った。
モララーが思い出したように声を上げる。

( ・∀・)「探偵役もいるってことだ。
      探偵役は、主役だ。
      それは誰がやるんですか?」

 もちろん俺でしょ、といわんばかりの口調でモララーはそう言った。
モララーが期待一杯にツンを見ていると、ツンは首を横に振る。

ξ゚听)ξ「探偵役はこの後来ます。
      主役は彼で、あなたたちは流れにまかせて動いてもらいます」

 なんだよ、とモララーは足を放るようにしてソファに身を沈めた。

(´・ω・`)「流れにまかせて、とはどういう意味なのでしょう」

 ショボンはツンにそう訊いた。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:39:07.96 ID:M0BI5SzD0
ξ゚听)ξ「そのままの意味です。
      あなたたちに台本はありません。
      役作りのようなものも、あなたたちに任せます」

(´・ω・`)「それは、無責任ではありませんか」

ξ゚听)ξ「そうは思いませんね。
      そのために、
      あなたたちのような経験豊富な劇団員を選んだのですから」

 ツンは突き放すような口調でそう言った。
言いたいことは山ほどあるだろうが、ショボンはそれきり口を開かない。

 僕はショボンの代わりに質問をすることにした。

('A`)「じゃあ、どうやってストーリーは進んでいくんだ?」

ξ゚听)ξ「それはもちろん、人の死によってです」

 ミステリですから、とツンが言う。
僕たちはそれぞれ曖昧に頷いた。
なんとなく理解はできるけれど、
こんな説明で納得できる人間はこの世にいない。

('A`)「それは、誰に殺されるのかな」

ξ゚听)ξ「それも流れで決まります。
      探偵が推理して、犯人だと思った人が犯人です」

 ミステリですから、とツンは言った。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:41:28.68 ID:M0BI5SzD0
( ・∀・)「なんだよ、
      テレビってのはこんなにいい加減なもんなのかよ」

 どっちらけだな、とモララーが毒づいた。
ツンはモララーに構わない。

ξ゚听)ξ「探偵役は、内藤ホライゾンです」

 ツンは僕たちにそう言った。
ほう、と僕の口から声が漏れる。
内藤ホライゾンは知名度のある俳優だ。

('A`)「『名探偵ブーン』の?」

ξ゚听)ξ「そうです」

 ふーん、と僕は曖昧な声を出した。
様々な感想が生まれているのだけれど、
それらはうまく言葉にならない。

(´・ω・`)「『名探偵ブーン』シリーズは打ち切られましたよね?」

 ショボンは訊きにくいことをあっさり訊いた。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:43:21.25 ID:M0BI5SzD0
 そうですね、とツンは簡単に頷いた。

ξ゚听)ξ「『名探偵ブーン』シリーズは打ち切られました。
      視聴率の低下が原因です」

( ・∀・)「本格ミステリなんて、今日び流行りませんからね」

 ツンはわずかに感情のこもった目でモララーを睨みつけた。

ξ゚听)ξ「そうですね。だから、今回は特別編のようなものです。
      本格ミステリは古い題材ですが、
      その古い題材をネタにすることはできます」

 あまり趣味の良い話ではないな、と僕は思った。

 ツンの説明はあらかた終わったようで、
僕たちはそのまま内藤ホライゾンの到着を待つことになった。

 ツンはハローと英語で話しあっている。
今の説明をやり直しているのだろう。
ツンの英語は、僕のなんちゃってイングリッシュとは
比べ物にならないほど流暢で、
僕は近くに座っていながらほとんど聞き取ることができなかった。

 途切れ途切れにしか聞き取れない英語の中で
僕の興味をそそったのは、"RADWIMPS"という単語だった。
彼女たちの話はそれなりに盛り上がっているようで、
ツンも彼らが好きなのかな、と僕は少し親しみを感じた。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:46:32.15 ID:M0BI5SzD0
 僕はツンに断り、キッチンに入った。
コーヒーを飲みたかったのだ。
VIP山荘のキッチンには、豆挽きのコーヒーメーカーが備え付けられていた。

 コーヒーメーカーには電動ミルが付属している。
それとは別に、レトロな手動ミルが脇に置かれていた。
僕は手動ミルとコーヒー豆を手に取ると、
椅子のひとつに腰掛けてコーヒー豆を挽くことにした。

 様々なことをぼんやり考えながらハンドルを回していると、
キッチンにクーが入ってきた。

川 ゚ -゚)「座っても良いかな」

 自分から声をかけない僕にそう言って、
クーは僕の傍に腰掛けた。

('A`)「そういうのは、普通、返事がくるまで待つもんだ」

 そうだな、とクーは言った。
僕は豆挽き作業に集中する。

 やがて豆を挽き終わると、僕はコーヒーメーカーにフィルタをセットし、
その上に挽いた豆ををばらまいた。
ミネラルウォーターを求めて冷蔵庫を開けると、
そこには飲み物以外何もはいっていなかった。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:48:12.76 ID:M0BI5SzD0
('A`)「不自然だろ」

 僕はそう呟いた。
クーはその呟きを聞きつけたのか、
椅子に座ったまま身をねじって僕の方に向いてきた。

川 ゚ -゚)「いや、自然だろう。
     山荘モノでは立派なキッチンでレトルトスープというのが定番だ」

 確かにそうだな、と僕は頷いた。

('A`)「に、してもさ。別にあっても良い筈だ」

 僕はコーヒーメーカーにミネラルウォーターを注ぎ込んだ。

 お前も飲むかと訊いたら飲むと返ってきたので、
僕はコーヒーカップを2つ食器棚から持ってきた。
僕たちは1つのテーブルにつき、
お互い黙々とコーヒーカップを口に運んでいる。

 おそらくクーは、僕が彼女を助けなかったことに対する
文句でも言いに来たのだろう。
しかし、クーは、自分からそのような話をはじめられない種類の人間だ。

 僕がクーの恋人であったならば、
うまく彼女の不満を吐き出させてやったことだろう。
実際はそうでないので、僕はそうしようとしなかった。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:51:43.15 ID:M0BI5SzD0
 しばらく時間が経った後、
どうすれば良いんだ、とクーは言葉を吐き出した。
何が、と僕は訊き返す。

川 ゚ -゚)「わたしは演技なんかできないよ。
     しかし、収録には参加しなければならない。
     どうすれば良いのかわからない」

 僕は大きくひとつ息を吐いた。
ひとたび余計なことを言い始めたら、
きっと僕は止まらなくなってしまうことだろう。

('A`)「じゃあ、さっさと死ねば良い」

 だから、僕はシンプルにそう言った。

川 ゚ -゚)「なんだって?」

('A`)「ああ、別に喧嘩を売ってるわけじゃない。
   お話的に、ってことだよ。
   ストーリーは僕たちの行動で変わるみたいだし、
   さっさとフェードアウトしてしまえば良いだろ」

 なるほど、とクーは頷いた。

川 ゚ -゚)「でも、どうやって?」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:54:14.67 ID:M0BI5SzD0
('A`)「この話には、僕たちの予想できないことが多すぎる」

 僕はクーにそう言った。
クーは真剣に僕の話を聞いている。
それは僕にとって快感で、
きっとまだこの女が好きなんだろうな、と僕は少し苦笑した。

('A`)「殺害方法もわからない以上、
   僕たちにストーリーを先回りした行動を取ることは現状不可能だ」

川 ゚ -゚)「そんなことは、わたしにもわかる。
     どうすればわたしは死ねるのだ?」

('A`)「ひとつだけ、明らかになっている殺害方法がある」

 僕がクーにそう言うと、車か、と彼女は呟いた。

('A`)「そうだよ、爆発するベンツだ。
   最初の殺人がいつ、どのように起こるかはわからないが、
   2番目の殺人はわかる」

 あの車だ、と僕は言った。
クーは小さく頷いた。

('A`)「ストーリーを流れで決める以上、
   どの役割になるかは早い者勝ちだ。
   お前はあの車の持ち主になり、キーを回して死ねば良い」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:57:00.23 ID:M0BI5SzD0
 大きくひとつ息を吐いた後コーヒーを飲み干し、
ありがとう、とクーは言った。

川 ゚ -゚)「なるべく早く死ぬようにするよ」

('A`)「そうしろ。車に乗った後どうすれば良いのか知ってるか?」

 知っている、とクーは答えた。
お節介だったかな、と僕は小さく苦笑する。

 コーヒーを飲み終えた僕たちがリビングルームに戻ると、
ドアの前にツンが立っていた。
僕はひどく驚いた。

ξ゚听)ξ「今、呼びに行くところでした。
      もうじき内藤ホライゾンが到着します」

 ツンは僕たちにそう言った。
リビングルームには全員が揃っている。
ツンは5人を見渡すと、大きくひとつ息を吐いた。

ξ゚听)ξ「内藤ホライゾンが入ると共に撮影は開始します。
      NGなどによる撮影の中断はありません。
      すべてはあなたたちにかかっています。
      良いものを撮りましょう」

 ではよろしくお願いします、とツンは早口でまくしたてる。
心なしか、皆の表情に緊張のようなものが生じている。

 山荘の扉が開かれた。

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