21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:49:41.56 ID:M0BI5SzD0
 普段着で行き着替えのようなものはもってくるな、
とのことだったので、僕はそれに従った。
携帯電話も持っていない。
何故か煙草も持ってくるなと言われたので、
僕は出発前にたっぷりと吸い溜めしておいた。

 僕はカローラと合唱しながら、VIP山荘へ向かっている。

 VIP山荘は、その名の通り山の中にある。
しかし、地図で見たところ、それほど人里離れてはいなかった。
吹雪になったとしても、隔離されはしないだろう。

('A`)「ま、どっちにしろ、この季節じゃまだ雪には早いけどな」

 僕は曲の合間にそんなことを考えた。
国道を離れ、山道に入る。
しばらく走ったところで自動販売機が見えたので、
僕は急にコーラが飲みたくなって、停まることにした。

 2台並んだ自動販売機の脇には、赤いビートルが停まっていた。
僕はその後ろにカローラを停め、
ハンドル脇の小銭入れからコーラ代を用意する。
顔を上げると、ドアのすぐ向こうに女の人が立っていた。

 彼女はすらりと背が高く、黒のセーターが大きく前にせりだしていた。
ストレートの長髪は見事なブロンドで、おそらく外国人なのだろう。
黒ぶちの眼鏡の奥では緑色の瞳が僕を見つめている。

 僕が車から出ると、彼女は声をかけてきた。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:52:50.20 ID:M0BI5SzD0
ハハ ロ -ロ)ハ「Hi.」

 彼女は綺麗な発音で僕に挨拶をした。
英語だ。
外国人は積極的だな、と僕は思った。

 ハイ、と僕が返事をすると、彼女は早口で何かをまくしたててきた。
僕は小さく舌打ちし、ヘイ、とそれを遮った。

('A`)「Speak Japanese or more slowly.
   You're in Japan.」

 日本語で喋らないならゆっくり喋れ、ここは日本だ、と
僕は彼女に言ってやる。
彼女は小さく息を呑み、眼鏡の奥からすがるような目を向けてきた。

ハハ ロ -ロ)ハ「The key is in my locked car.
       What shall I do ?
       (鍵を車に閉じ込めちゃったの。
        私、どうすれば良いのかわからないわ)」

('A`)「Call JAF. Do you have a cellphone ?
   (JAF呼べよ。携帯持ってねーの?)」

 ノー、と彼女は答えた。
すがるような視線はどこへやら、眉間に皺が寄っている。

ハハ ロ -ロ)ハ「But I do know JAF. Don't you have a cellphone ?
       (でもJAFは知ってるわ。あんたこそ、携帯くらいもってないの?)」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:55:15.53 ID:M0BI5SzD0
 余裕がないからなのだろうが、彼女の態度は妙に刺々しかった。
それに伴い、僕の応対も刺々しいものになる。
ノー、アイ、ドント、と僕が突き放すように答えると、
オーウ、と彼女は両手で頭を抱えて天を仰いだ。

('A`)「そういうリアクションって、誇張表現じゃないんだな」

 僕はそう思っただけだった。

 がっくりと肩を落とした彼女をよそに、僕は自動販売機でコーラを買った。
やはりコーラは缶に限る。
ペットボトルは邪道なのであり、
僕はペットボトルでしかコーラを売らない種類のコンビニを憎悪している。

 僕がカローラに戻ろうとすると、
外国人の女がドアを塞ぐように立っていた。

('A`)「Get out of my way.(どけよ、邪魔だ)」

ハハ ロ -ロ)ハ「Come on. Don't tease me.
       Your mom must've told you to give a hand to the miserable.
       (ねえ、いじわるしないでよ。
        かわいそうな人は助けてやれってお母さんに言われなかった?)」

('A`)「She's gone.」

 かーちゃんなら死んだよ、と僕は言った。
彼女を手で押しのけると、僕はカローラに乗り込んだ。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:57:12.45 ID:M0BI5SzD0
 僕がカローラに挿入したところで、助手席側のドアが開き、
外国人の女が乗り込んできた。

('A`)「What fuck are you doing ?」

 何乗ってんだ、と僕は彼女を睨みつける。
たくましいもので、彼女は僕に笑顔を見せてきた。

ハハ ロ -ロ)ハ「Would you mind bringing me to somewhere ?
       (お願いよ。どこか乗せてって)」

 僕は大きくひとつ息を吐いた。
コーラを開け、一口飲み、ドリンクホルダーに立てかける。
僕は面倒事が嫌いなのだ。

('A`)「Where is somewhere ?(お前さ、どこかってどこだよ)」

ハハ ロ -ロ)ハ「Hm, central city or somewhere with a phone at it.
       (だから、街中とかさ、電話があるとこよ)」

('A`)「戻んのかよ」

 面倒くせーな、と僕が呟くと、
オア、と彼女は言った。

ハハ ロ -ロ)ハ「Vip cottage, my goal.
       (それか、VIP山荘ね。私、そこに向かってるの)」

 お前もかよ、と僕は呟いた。同業者なのかもしれない。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:00:23.96 ID:M0BI5SzD0
 同じ仕事に関わる以上、
少しは親しくなっておいた方が何かと良いのかもしれない。
そう思った僕は、車を発進させながら彼女に話しかけることにした。

('A`)「I'm Dokuo, going to the cottage too.
   (僕はドクオ。行き先は一緒だ)」

ハハ ロ -ロ)ハ「Wow. I'm Hallow. Let's come together.
       (マジで。私はハロー、よろしくね)」

 『私はおはようございます』と脳内変換された後、
そんなわけないな、と僕は考え直した。

('A`)「Your name is Hello ?(ヘローってあんたの名前?)」

ハハ ロ -ロ)ハ「Yeah, but not "HELLO," "HALLOW."
       (そうよ、でもその発音だと『おはよう』になっちゃう。
        私はハロー、HALLOWさん)」

('A`)「Halloween?(ハロウィンのハロー?)」

 イエース、とハローは親指を立ててみせる。
一瞬、ぶん殴ってやりたくなった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:03:28.89 ID:M0BI5SzD0
 僕のようなろくに異文化交流をしたことのない人間にとって、
外国人といえばアメリカ人に決まっている。
しかし、ハローは英国人だった。

ハハ ロ -ロ)ハ「I'm from England, Liverpool.」

 ハローは僕にそう言った。
リバポー、と彼女の口から発せられるのを訊いた瞬間、
僕は脊髄反射で飛びついた。

('A`)「Steven Gerrard ?(ジェラードの?)」

ハハ ロ -ロ)ハ「Yeah ! Michael Owen !(そうそう、オーウェンの)」

 このやりとりを境に、僕の彼女に対する印象はがらりと変わった。
オーウェンはもはやリバプールにいないけれど、そんなことはどうでも良い。

 マージーサイドダービーってどんな雰囲気なの、と
僕のサッカーに関する情熱をぶつけると、
ハローは母国の誇りをもってそれに対応する。
僕たちの話は弾み、
ドリンクホルダーに立てかけられたコーラがなくなる頃には
すっかり旧知の仲のようになっていた。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:06:39.41 ID:M0BI5SzD0
 僕たちを乗せたカローラは、意外なほど山中深くまで進むことになった。
地図で見た限りではそれほど遠くないと思っていたのだが、
どうやら僕の思い違いだったようだ。

 カローラは僕の好きなバンドの歌を歌っている。
帰国子女がボーカルで、主に彼が作詞を行うバンドだ。
彼の英語は帰国子女らしいフランクな文法で構成されていて、
歌詞を見れば、僕レベルの英語力でも容易に間違いが発見できる。

ハハ ロ -ロ)ハ「There's something wrong.
       (歌詞、間違ってるわね)」

 だから、ハローにそう言われたときも、僕はそれほど意外ではなかった。

 僕のカローラはそのとき『おとぎ』を歌っていた。
その英語の歌詞の1部分を拾い、
ハローは得意げになって僕に文法的な誤りを指摘する。

ハハ ロ -ロ)ハ「They said "we've gave from birthday,"
       which should be "we've given from birthday."
       (たとえば"we've gave from birthday"って歌われてるけど、
        ちゃんと書くなら"we've given from birthday"にしないとね)」

 日本人であるせいか、僕には英語における文法的な誤りが
どの程度重要なものなのかわからない。
意味が通じるのだからそれで良いとも思えるし、
僕の母国語である日本語にしても『ら』抜き言葉が深く浸透している。

 言葉はそれ自体が生きているものなのだ。
文法や語法などというものは、僕たちが勝手に考えているに過ぎない。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 17:09:07.23 ID:M0BI5SzD0
('A`)「That's not wrong, exceptional.
   (それは間違いとはいわない。破格っていうんだよ)」

 僕はハローにそう言った。
マシンガンのような反論が襲いかかってくるかと思っていたのだが、
意外にもハローは僕に笑いかけてきただけだった。

ハハ ロ -ロ)ハ「That's right. I just tried teasing you.
       (それで良いのよ。ちょっとからかってみたくなっただけ)」

 ハローはそう言い、
その歌詞の狙いであろうポイントなどを色々と説明してくれた。
僕の英語は十分なものではないので、
ちょっと専門的な内容になっただけで単語がわからなくなってしまう。

ハハ ロ -ロ)ハ「You got it ?(わかった?)」

 だから、ハローにそう訊かれたときも、
僕は曖昧に頷くことしかできなかった。
なんとなく気恥ずかしくなって、僕は話題を変えることにした。

('A`)「I thought foreign actresses had their secretaries with them.
   (つーかさ、マネージャーとかって付いてくるもんじゃねーのかよ)」

ハハ ロ -ロ)ハ「Not necessary.」

 別に決まってるわけじゃないし、と彼女は笑う。

 僕たちを乗せたカローラはVIP山荘に到着した。

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