1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:25:24.20 ID:M0BI5SzD0
 5人の男女が食卓につき、
思い思いの量のレトルトスープをパンと一緒に食べていた。

ξ゚听)ξ「せっかくあんなに立派なキッチンがあるというのに、
      なんだってあたしたちはこんなものを食べないといけないのかしら」

 金髪の女が、不満そうにそう言った。
4人の視線が彼女に集まる。

(´・ω・`)「しょうがないよ、こんな状況なんだ。
     ご飯が食べられるだけ幸運だと思わないと」

 大柄な男がなだめるようにそう言うと、
金髪の女はそれで納得したのか、文句を続けようとはしなかった。
彼らの会話が弾むことはなく、
スプーンやバターナイフが食器と当たる音だけがカチャカチャと鳴っている。

 やがて、痩せた男が口を開いた。

('A`)「これから僕たちは寝るわけだけれど、一人になるのはいかにも危険だ。
   リビングルームで全員一緒に寝ることにしないか?」

 そうだな、と大柄な男が賛意を示す。
しかし、5人全員が賛成したわけではなかった。

( ・∀・)「ふざけるな! 人殺しと一緒になんか寝られるか!
      俺は自分の部屋に戻るんだからな!」

 彼らは山荘に閉じ込められていた。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:27:56.25 ID:M0BI5SzD0
 『('A`)はライ麦畑でつかまえないようです』





 僕が死のうと思ったのは、煙草がなくなったからだった。

 僕は部屋を掃除していた。
僕のそれまで所属していた劇団が解散することになったからだ。
人はそれぞれ気分転換の方法が異なるが、
とても嫌なことがあって気分転換をしなければならない場合、
僕は決まって部屋の掃除をすることにしていた。

('A`)「綺麗な部屋は、再出発を考えるのにふさわしいんだ」

 その気分転換の方法を馬鹿にされるたび、僕はそう言ってきた。

 僕を女手ひとつで育ててくれたかーちゃんが死んだときもそうしたし、
先日、それまで恋人であったクーに別れを告げられたときも、
僕は自分の部屋を入居時の状態同然になるまで掃除した。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:30:05.23 ID:M0BI5SzD0
('A`)「絶望したときは、部屋をまっさらな状態にするべきだ。
   リセットするんだよ。
   頭の中もリセットし、また1からがんばるんだ」

 そして、すべてをリセットするために、
僕はリセットされた部屋でゆっくりと煙草を1本吸うのである。
僕はこれまでそうやって数々の苦難を乗り越えてきたし、
これからもそうする筈だった。

 フロアリングの床にワックスをほどこした僕は、大きくひとつ息を吐いた。
壁にかけられたジャケットの内ポケットを探り、
煙草の箱をそこから取り出す。

 しかし、そこには1本の煙草も入っていなかった。

 嫌いになるにはもう少しだった僕の人生に見切りをつけるには、
それは十分すぎる理由だったわけである。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:32:27.44 ID:M0BI5SzD0
 死のうと思った僕がまずやったのは、
部屋を整理して出たゴミを丁寧に分別して捨てに行くことだった。

('A`)「死ぬのは僕の勝手だけれど、
   それで人に迷惑をかけるのはなんとなく嫌だ」

 死に心地が悪いだろうな、と思ったのだ。
そんなものがあるかどうかは知らないけれど、
あった場合に困るのは、他ならぬ僕なのである。

 何種類かのビニール袋にいらないものを放り入れながら、
電気と水道を止めてもらって今のうちに入金しておこう、と考えた。

 家具も処分しておくべきである。
僕の生活は豊かなものとはいえないが、
それでも人が一人生きていけるだけのものは持っている。

 何人かの友人に報告を入れる必要があるかもしれない。
死ぬのも意外と手間がかかるな、と僕は思った。

 そして、唐突に思いついた。

('A`)「最後にドライブをしておこう」

 僕は幼い頃から車のことが好きだった。
学生時代にアルバイトをして貯めた金でまずやったことは、
中古車の購入である。

 そのとき買ったカローラにすっかり愛着をもっていて、
それから10年近く経った今でも僕はそれに乗っていた。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:35:26.90 ID:M0BI5SzD0
 知り合いの工場の隅を借りて、定期的に手入れをしているのが良いのだろう。
製造されてから15年ほど経っているにもかかわらず、
僕のカローラは、まったく故障する素振りを見せようとしない。

 今日もカローラはご機嫌だった。
僕が奥まで入れてかき回してやると、彼女は嬉しそうに声を上げた。

 僕は国道に出ると、道なりにひた走ることにした。
しばらく走ると海が見えてくる予定の道だ。
目的なしにドライブをするとき、僕は、
決まってこの道を通ることにしている。

 僕は車が好きだけれど、車を改造するのが好きなわけではない。
構造を知り、手入れをし、
あとは好きな道をそれなりの速度で走ることができれば
僕はその他に1つのことしか望まない。

 それは、音楽だ。

 僕のカローラには、一人前にCDチェンジャーがついていた。
スピーカーも、まだ僕の恋人だったころのクーが
誕生日に買ってくれた、BOSE製の良品だ。

 僕のカローラは美しい声色で僕に歌を聞かせてくれる。
やがて海沿いを走るようになると、
僕はアクセルを深く踏んで彼女と合唱した。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:39:28.21 ID:M0BI5SzD0
 僕とカローラの合唱に割り込んでくるものがいた。
携帯電話だった。
僕の携帯電話は、機械特有の空気の読めなさで
僕たちの『傘拍子』に『ヒキコモリロリン』で割り込んできた。

('A`)「もうちょっとさ、曲調合わせるとかなんとかしろよな」

 僕は、そうこぼしながらも携帯電話を手に取った。
着信元は、僕の元恋人で、
僕の所属していた劇団のマネージャー業みたいなことを
やっていたクーだった。

 僕は高鳴りそうになる心臓を落ち着かせようと
大きくひとつ息を吐き、携帯電話の通話ボタンを押した。

川 ゚ -゚)「よかった。繋がった。
     無視されたらどうしようかと思っていたよ」

 今どこにいるんだ、とクーは訊いてきた。
僕は車を路肩に停めた。左手に海が見えている。

('A`)「海だ。僕は、海にいる」

川 ゚ -゚)「泳いでいるのか?」

('A`)「そうだね。最近の携帯電話は便利なもんで、
   泳ぎながら話す機能もついている」

 クーが小さく笑うのが携帯電話から伝わってくる。
何の用だ、と僕は訊いた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:41:32.68 ID:M0BI5SzD0
 仕事の話だ、とクーは言った。

川 ゚ -゚)「残念か?」

('A`)「残念だね。
   ある感想ブログが大好きで、
   それに取り上げられたくて短編をひとつこしらえたら
   華麗にスルーされたときと同じくらい残念だ」

 何の話だ、とクーは訊く。
こっちの話だ、と僕は答えた。

('A`)「で、仕事って?」

 僕の記憶が正しければ
劇団はめでたく解散になった筈だけど、と僕は言った。

川 ゚ -゚)「劇団にではない」

('A`)「僕個人になのか?」

川 ゚ -゚)「それも正確ではないな」

 元劇団員の何人かへの依頼だ、とクーは言う。

川 ゚ -゚)「君とモララー、ショボンにだ」

 挙げられた名前の中にはひっかかるところがあるけれど、
3人選ぶとすれば妥当なところだな、と僕は思った。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:44:15.74 ID:M0BI5SzD0
('A`)「依頼主は?」

川 ゚ -゚)「VIPテレビだ」

 なんだって、と僕は声を上げる。

('A`)「テレビに出られるのか?」

川 ゚ -゚)「もちろんだ」

 これで出られなかったら驚くな、とクーは言った。

 マジかよ、と僕は呟いた。
興奮によって体温が急上昇している。
車の窓を開けると入ってきた冷たい風は、僕の頬に心地良かった。

('A`)「でも、なんで僕たちが?」

 思い出したように僕は訊く。

川 ゚ -゚)「なんでも、本格ミステリ風のコントのようなものを撮りたいらしい。
     古典的なシチュエーションのものを大真面目にやることで、
     逆に笑えるものを作りたいとのことだった」

 知名度のない役者を使った方が
面白いと思ったのかもな、とクーは言った。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿日:2007/12/07(金) 16:47:07.08 ID:M0BI5SzD0
 ひょっとしたら、プロデューサーか何かが
僕たちの劇団を見て気に入ってくれたのかもしれないな、と僕は思った。
人選が的確だったからだ。

 道は閉ざされたわけではないのかもしれない。

('A`)「まだ死んでなくて良かった」

 僕はそう呟いた。

川 ゚ -゚)「なんだって?」

('A`)「死ぬのは、意外と面倒なんだ。
   面倒くささに乾杯だ」

川 ゚ -゚)「どういう意味だ?
     何を言っているのかわからない」

 僕もだ、と僕は言った。
クーは小さく笑っている。

川 ゚ -゚)「じゃ、受けるんだな?」

 もちろんだ、と僕は答える。
ジャケットの内ポケットから煙草の箱を取り出した。

 箱の中は、空だった。

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